第四話 得体の知れない感情
どうやって家まで帰ったかよく覚えてない。
とりあえず休日だ。
良く寝たし、念願の田畑君家に遊びに行こうかな。
「お母さんちょっと友達の家遊びに行ってくるね」
「……誰の家?」
まずい。
お母さん心配症だから田畑君の家に行きたいなんて行ったら絶対止められてしまう。
「えーと…みなの家!久々に行きたくて」
「お母さん、車だそうか?」
「いい、いい、みなの家自転車ですぐだし」
「そう…それなら気を付けて行かれ」
何事もなかったように過ごせばいいといった田畑君の言葉がリフレインする。
私のお父さんはとにかくキレイ好きでたびたび私の部屋に入っては勝手に物を捨てたりするから正直苦手だ…。
合鍵はスクバの中にある。それに大好きなキーティちゃんのキーホルダーをかけて笑う。
掃除しがいのある部屋だ。お年玉がたまってる財布を持って、いざ田畑君の家に行こう!
携帯を持ってるけど、連絡番号教えてないから突撃リポートだ。
インターフォンを押す。
ドアを開けたら田畑君が驚いた顔をして出てくる。
「来たんだ、小春」
「来たよ田畑君、掃除しに」
「…え…」
「だって田畑君の家汚いし掃除したくて」
「まあ、いいか…どうぞ」
快くではないけど迎え入れてくれた。
ガチャリとドアに鍵をかけられる。
「小春」
「何?田畑君」
「下の名前で呼んでくれねーの?」
…あ、そーか、田畑君の家では呼んでいいって言ってたよね。
「そうた、掃除に来たよ」
そうたが笑いをこらえている。
「小春の発音が、…下手」
「えー、難しいよ、まあいいから掃除掃除」
「掃除しにきたの?」
「そうだよ、田畑君の家めっちゃ汚かったから」
家の中に入る、驚いた。
めちゃくちゃきれいになってる。
トイレを覗いても髪の毛なんて落ちてもいない。
テレビとゲーム機はある。
「掃除しに来たのに残念だ…」
そう言うと颯太君が笑う。
「ぐちゃぐちゃのときもあれば綺麗なときもあるよ、引っ越しに最低限の物だけ持っていくから」
なるほど…だから漫画もないのか。
田畑君を家に呼びたいほどだ。私の家は本屋といってもいいくらいに漫画がそろっている。
「それより、ご飯作ってくれねえ?腹減った」
「ご飯は作れないんよ、いつもお母さんに頼んでるから」
「じゃあ仕方ないな、一緒にカップラーメンでも食べよう」
そう言って狭い台所からカップラーメンが二つ出てくる。
これなら出来る。
お湯を入れて三分まつだけ。
田畑君は味噌ラーメン、私は醤油ラーメン派だ。
テーブルで向かい合わせで、ラーメンを食べる。
この後何しようか考えてる感じがどうにも怖い。
「ねえ颯太くん、アプリの作り方教えて」
「あー…もうあれ必要なくなったから」
「え、どういうこと!?」
「…ラーメン食べてから教えてやるよ」
確かに先走りすぎた。
私は親にも友達にも全員から先走りすぎと言われて、たびたびじっとしてろと怒られる。
占いによると射手座はじっとしてろという意味があるらしい。
颯太君は何座なんだろう。
「ねえ颯太君って何座、生年月日は?」
「……天秤座、10月10日」
「天秤座って得体がしれないって意味あるんだよ!そのまんまかもしれないね!」
「…確かに、自分でも、自分がなんなのか分からなくなると時、ある…小春は何座?」
「私11月24日、射手座だよ!じっとしてろって意味があるらしいんだけど、当たってるかな?」
「…いや、めっちゃ当たってる、小春は、落ち着いたら…将来仕事でも評価されると思う」
喋りながら、ラーメンを食べてるとあっという間に時間が過ぎていく。
「颯太、アプリの作り方、見せて!!」
「いや……それはもう見なくていいよ」
「えー…なんでなん?」
「もうお金溜まりきったから」
田畑君が押し入れから通帳を取り出す。
000000000円?、…0がたくさん見える。
え、どうしよ、超お金持ち…中学校なんて行かなくていいレベル…
「颯太君、…将来安定だね」
「そうだな、将来は…どうなるか分からないけど」
…いやいや将来めちゃ安定してるよ…私働きたくないなあ…
ラーメンも食べ終わったあと、ロフトの上に上った颯太が手招きする。
なんだか嫌な予感がする。
さきちゃん、田中とセックスしちゃったし…
怖い。
私も処女喪失してしまうかもしれない。
「何もしないから来いよ」
「き、キスも駄目だから」
「分かってるよ」
慎重に上る。
颯太君は寝転がってる。
私も横に寝転がる。
「小春…いいにおいするのな」
「え!?…そうなのかな」
「ちょっと抱きしめていい?」
「…そ、それ以上はしないで…くれるなら」
颯太君にぎゅうっと抱きしめられた。
なんだろう、洗濯したてのいいにおいがする、どうしよう。
「すげ…ムラムラしてきた」
これはヤバい。
颯太君に犯されてしまう。
颯太君から体を無理やり引っぺがしてロフトから降りた。
「小春は…処女なんだな」
「当たり前じゃん!まだ中学生なんだよ!」
さきちゃん助けて、田中とゴム付けてセックスしたのってどういうことなの!?
「俺はもう童貞捨てたから……顔もよく覚えてない女と」
え…なんで初セックスの顔を覚えてないってどういうこと…?
「やっぱり、合鍵返す、もう来ない颯太君の家!」
「…なんでだよ、処女奪わないって言ってるのに」
「でも、キスはするじゃん怖いよ」
「合鍵はとっておけば、いつか来たくなるかもしれないし」
…そんな日は来ない…怖いもん、やっぱり颯太じゃない、田畑だ、こいつ。
「明日、美容院行ってきて田畑君、そしたらまた家に来るから」
*
日曜日。
さきちゃんにセックスした話を聞きたくなってさきちゃんの家にお邪魔した。
さきちゃんは小学校からの友達で運動神経がめちゃくちゃいい。
一緒にホットケーキを作りながら流行の女性歌手の歌をCDで聞きながらホットケーキを食べるのが幸せな時間だ。
「……春ちゃんが、家に来たわけ分かるよ」
フフッとさきちゃんが笑った。さきちゃんにはやっぱり分かってしまったか。
「うち、昨日……田畑君にセックスされそうになって怖かったん」
さきちゃんが目を見開いて爆笑する。
いや、笑いごとじゃないんだけどな…。
「…田中とセックスしたんは大した意味はないよ、ただしてみたいと思っただけやわ、お金ないからラブホもいけんし路上でするしかないんやわ」
「ゴム…あれば平気なん?」
「そうそう、ゴムしっかりつければ大丈夫なんやわ、妊娠もしとらんし田中とはもうセックスもせんわ、…ほかに好きな人おるから」
…そうなのか、やっぱりゴムしたら大丈夫なのか。
家帰ったらゴムのこと調べよう。
「ホットケーキでも食べながら落ち着かれ、田畑?と一度ヤッてもいいんじゃないゴムつけて」
「いや、やるなら高校生がいいせめて。中学生のうちは大事にとっとく」
さきちゃんがまた爆笑する。
なんかおかしいこと言ってるのかな私…。
*
翌朝。
教室が愕然としてる。
「なになに、どうしたん!!?」
みなが教えてくれる。
「は、春ちゃん、田畑君さ…っめっちゃカッコいかったんやね…」
群がる女子達の隙間から田畑君を見つけた。
髪がストレートで顔を見ると、眼鏡を着けてない…コンタクト入れたのかな?
真っ黒な目と端正な顔立ち…ヤバい…
どうしよう、…一聖君や達也君より格好いいかもしれない…
田畑君が群がる女子を押しのけてこっちに向かってくる。
「約束どおり切った…」
「そ、そうなんや…めちゃ、似合ってるよ」
駄目だ、目線を逸らしてしまう。
全部見透かされてしまいそう。
「田畑君、…と話してみたい」
と明子ちゃんがぶつぶつ呟いてる。
「カッコいいって言えば?」
「いや、………かっこいい、です」
「惚れた?」
「いや、なんかムカつく……女子が群がってるから、一聖くんと達也くんよりカッコいい…かもしれない…」
「…合鍵いる?いらない?」
「……いる」
颯太がニヤニヤ笑う。あれ違う、田畑君…もう、よく分からない…
*
チャイムが鳴る。
みんながそれぞれの席に戻っていく。
どうしよう、田畑君がこんなにカッコいいとは思わなかった。
社会の担任の先生が田畑くんをちらりと見つめてフッと笑う。
HRを終えてから先生が言う。
「今日は、また席替えするぞーまた先生が決めるからな」
周りからは横暴教師ーくじ引きにしろとヤジがとぶ。
「まず立花と田畑は真後ろで隣同士な」
……は?
ようやく離れられると思ってたのに…。
「よろしくな、立花」
振り返ると、真後ろで田畑君が楽しそうに笑う。
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