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第三十話 たつのぶ…?

「…めて」

「決戦は二日後♪楽しみだねぇ!」

「止めてお願い!!」


叫ぶと身体中が痛かった。


これは現実なのだと感じた。


それからの記憶はない。

頭に一撃くらって気絶したら、もう彼の部屋だった。

アンディを見るたびに止めるよう懇願して、死ぬほど殴られた。


もともと1日1回しか食事を与えられていなかったが、

それからは内臓の痛みが酷くて食事はまったく喉を通らなくなった。


もう一生ここから出ることはないんだと感じた。


土屋君たちの思い出が薄れていく気がして怖かった。


朦朧とした頭の中で




私は昔の夢をみていた…

なつかしい


遠い日の記憶


あの日ほど後悔をした日はない

絵理子…

竜信…


「瞳ダメだ!すぐにアンディと別れろ、そうしないと、じきに取り返しのつかないことになる…」

「別れたの。…でも、彼は許してくれない。…このままじゃ絵理子達にだって危害が…」

「馬鹿!!そんなのどうだっていいよ!あたし達はあんたが心配なんだよ」


絵理子に抱きしめられた。

肩が少し震えていた。


「…ありがとう。きっとアンディも、話せば分かってくれると思うの。あれでも、昔はすごく優しかったんだよ。…寂しい人なの。だから…」

「嘘付くなよ」


え…?


「ホントは…怖いんだろ?」

たつのぶがあたしの頬に触れた。

「…無理しなくて良い。俺がお前を守る。必ず、守るから」

「たつ…のぶ」


たつのぶの体温を感じ、涙があふれた。

「…怖いの。彼が分からなくて…。何されるか…わからなくて」

なきじゃくるあたしを、たつのぶは優しく抱きしめてくれた。

「たつのぶ。でもこれ以上は限界だ。あいつはやばい。」

「ああ分かってる。俺が奴に話をつけてやる、瞳にこれ以上手を出すようなら、俺が許さない。」


どうして


あのとき私は

竜信を止めなかったのだろう…



そして今も

また同じことが繰り返されようとしているのに…


やっぱりあたしは無力だ。

伝えなくちゃ、土屋君達に…

アンディ…………


【ひとみ…さん、たつのぶ…さん】


傘下の族にも協力を要請して瞳の捜索を開始し、二日が経った。

一度情報を確認するために全員倉庫に戻った。

風神総長が幹部部屋のドアを開けると、かたかたという音がせわしなく響いていた。

「かずゆき、どうだ?」

この二日間ずっとパソコンと向き合っているかずゆきに声をかけた。

「ダメだね。どうしても場所までは特定できない。色んな妨害電波を出してやがる。

…どうやらそっちもみたいだね。」

かずゆきの目には眼鏡ごしにくまが見えた。

「…悪いな。お前、寝てないだろ?」

「徹夜はなれてる。こんなのどってことないよ。あ、N03はちゃんと大人しくしてる?」

NO3は自分も瞳を探すと言って聞かなかった。

一応病院に見張りは置いているが、NO3ならすぐに突破してしまうだろう。

「ああ。抜け出したら族も抜けてもらうって言ったらわめいてはいたが言うこと聞いた」

「ふっ。さすが。扱いなれてるねぇ。…ん?」

「…どした?」

「JOKERのサイトに新しいログイン履歴が残ってる。しかもこれは…たぶんハッキング目当てだ。」

「…どういうことだ?」

突如かずゆきがにやっと笑った。

「…前にうちにもハッキング仕掛けてきたやつだな。こりゃ。」

「あ?」

「さすが総長。よく分かったね。」


後ろから声がした。

幹部部屋の扉が開いている。

そこには懐かしい顔があった。

「…宇宙!」

宇宙はいつものポーカーフェイスでこちらを見ていた。


*


「ま、風神にハッキング仕掛けるのなんて、宇宙くらいだからな。」

「うんまぁ。かずゆきに阻止されたけどね。」

当たり前、とだけ答え、かずゆきは再びパソコンに向かった。


「…なんだよ久しぶりだな。今日はなに調べに来たんだ?」

「んー?」


あっけにとられた総長が問うと気のない返事をしながらソファにどかっと座った。

宇宙はやはり族の偵察のため以前、風神に訪れたことがあった。

総長とは珍しく早くうち解け、それ以来たまに情報交換をおこなったりする。



「伝言。」

「…松岡さんから?」

「いや。黒井瞳」

「「!!!」」


宇宙の思いがけない発言に二人は目を見開いた。

「…どういうことだ?瞳に会ったのか?」

「うん。2日前までJOKERにいてね。ぃやーあいつらマジでやばいよ?」

深刻さのかけらもない言い方だ。

宇宙はいつも飄々としていてとらえどころがない。


「やはり伏見のところにいったのか…」

かずゆきは苦い表情でつぶやいた。

「あの子元カノらしいね。アンディの。ま、族に入る前の話しだけど。」

「!!そうなのか?」

てっきり族にいるときからかと思っていた。

「あれ?知らなかった?んーたぶんアンディがキチガイになったのと彼女は関係があると思うんだよねー。」

「どういうこと?」

「アンディが黒井瞳と別れたのと、族に入ったのはほぼ同時期だ」

「「!!!」」

「あ、そうだ伝言。」

新たな事実に考えを巡らせていた二人は宇宙の言葉で我に返った。

「元気だから心配すんなってさ。」

宇宙は持っていたマンガを読み出した。

「…元気?」

あんなに怯えていたのに?

泣いていたのに?

…いや、でも瞳は自分から行ったのだ。

もしかしたら、本当に望んで伏見の元に…?

「うん。そりゃもう元気だったよ。体中傷だらけで。」

「!!!」

「どういうことだ!?」

「あの様子だと、飯もろくに食べてないんじゃないかなぁ~。…早く助けに行ってあげた方がいいんじゃない?」

相変わらずの口調に、総長は思わず宇宙につかみかかった。

「てめぇそれ見といてなんで助けねぇ!!」

ここで初めて宇宙はマンガから視線をはずした。

冷ややかな目で土屋を見る。

「取り乱すなんてらしくないね。総長」

「!!」

「お前が守るって約束したんだろ?他人にあたってんじゃねぇよ。」

総長は力なく腕を下ろした。

「俺は自分の任務があるんだ。よそ見はしねぇ。助けてぇんならてめぇで助けな。」

「ま、用件はそれだけ。そろそろ行くわ。」

宇宙はソファから立ち上がり、扉に向かってのたのたと歩き出した。

と、その扉が突然勢いよく開いた。


「おい!JOKERのアジトが分かったぞ!さっきメールで宇宙に…」

入ってきたのは愛理だ。

宇宙と目が合う。

「おっ愛理じゃん」

「え…宇宙。なんでいんの?」

さほど驚かない宇宙に対して愛理はぽかんと目の前の男を見つめた。

その様子を見ていたかずゆきはいぶかしげに口を開いた。

「なに?二人知り合いだったの?」

宇宙がのろっと振り向く。

「ん?彼女」

「…………え?」

「あれ?言ってなかったっけ?あたしも松岡さんの部下なんだ。」

「ぃや…ていうか…え?」

さすがの総長とかずゆきも動揺が隠せないようだ。

口をぱくぱくさせる

「ま、そういうことなんだ。じゃ行くわ。頑張ってね」

宇宙は何事もなかったように再び歩き出した。


「あ…宇宙!」

その背中を総長は呼び止める。

「…さんきゅな」

その声は落ち着いていた。


力強く、宇宙に届く。

宇宙は一度振り向いてふっと笑った。


「やっぱかっこいいなー土屋」


それだけ言うとひらひらと手を振って出て行った。

残された三人にしばしの沈黙が訪れたあと、かずゆきが感慨深げに口を開いた。

「へー。てっきりNO3に興味があるのかと思ってたわ。俺の勘がはずれるとはねー。」

「冗談!!ありえないし」

愛理は苦虫をかみつぶしたような顔になった。

「ま、だよな。にしても宇宙を捕まえるなんてすげぇ女」

「まぁね。でもあたしが一番愛してるのはいつだって松岡さんだよ」

「…いいのかそれ」

「いいんだよ。宇宙だってそうだしあ!バカ!そんなことより。JOKERの居場所を掴んだんだよ!」


空気が変わった。


「どこだ?」

「上井戸町。バイクならここからすぐだ。いくか?」

かずゆきと愛理は総長を見た。

「…当たり前。行くぞ、かず」

不敵に笑った後、凍るようなオーラを出して部屋を出た。

「あー…ちょー肩こってる。」

いいながらもかずゆきは非常に楽しそうだ。

部屋を出た総長は目の前にいる100人近いメンバーに向かって話し始める。

メンバーもただならぬ総長のオーラに気を張りつめる。

「JOKERのアジトを掴んだ。いくぞ。準備しろ。…いいか。手加減はいらねぇ。ひねり潰せ。」

「おっしゃあぁ!!」


全員興奮した様子で倉庫を出た。


「かずゆき」

「ん?」



一度幹部部屋に戻り、奥にかけてある布を取る。

ひらりと一瞬空を舞わせて、特攻服に袖を通した。

漆黒の特攻服の背中には金色の文字で「八代目風神総長」と縫われている。

隣でかずゆきも群青の特攻服を着た。



「いくぞ」

「うん」

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