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第三話 楽しいことしよう

翌朝。


昨日の夜はどうにかやり過ごせた。


平常心…平常心…


呪文のごとく唱える。



みなが心配そうに前の席に座る。

「春ちゃん最近ほんま大丈夫け?うち心配なんだけど…」


みな、ありがとう。


でも私は大丈夫。忍び耐える忍者の心得を履修済みだから。


「大丈夫だよ!それより修学旅行楽しみやねー」

「おお!京都と大阪と広島行くもんね、広島焼き食べたいわー」

みなとどこに回るか楽しく話す。

みなとは同じグループで行きたいけど田畑君とは別グループがいいな…。


「グループは先生が決めるぞー」

社会の先生のゆるやかな声がする。

ドキドキしながら結果を待つ。

「まずは内山と立花と長谷川」


やったー!みなと楓と一緒だ!めっちゃラッキー!!


これは楽しい修学旅行になりそう。


「それから、あー…谷口と内山と、…田畑な」


クラス1モテる一聖君と2番目にモテる達也君、そして田畑君。

あ、これ最悪なパターンのやつだ。


「田畑君、修学旅行ではああいうことしないで」

後ろを向いて田畑君に言う。

田畑君は言った。

「家以外ならしないよ、なんでそんな落ち込んでんの」

「いや、田畑君と修学旅行同じ班面倒くさい」

「俺は楽しみだけど」

一体なにが楽しみなんだろう。


*


新幹線が京都に向かって発車する。

田畑君はみんなの輪には絶対入ろうとせず後ろの席ですわっている。


なんで修学旅行来たんだろう…

家で寝てれば楽なのに…


「小春、京都どこ行きたいー?」

楓が笑う。

「どこにしよう、京都初めてだから楽しみすぎるわ」


ちなみにみなと達也君は双子で生まれたらしい。

最初から外見は似てなくて、みなは可愛い感じで達也君は昔からカッコいい。

いいな…私もカッコいいお兄ちゃん欲しいよ…


女子たちは達也君か一聖君と同じ班が良かったと騒いでたらしいが、田畑君がいるのはちょっといらなっかったらしいからオールオッケー。


新幹線のを向かい合わせにしてみんなで雑談をする。

「暇だからトランプでもしようぜ」

と達也君が笑う。


「いいねー」

「やろやろ!!」

みんなが盛り上がってる。


「田畑君もやらないか聞いてみようかな」


周りの空気がすっと静かになる。

え、私また間違えた…。


「田畑君は参加したくないらしいから放置でいいと思う」

とみなが言う。

みんながうなづく。


「分かった…じゃトランプやろ!」

カードをばらまいてまずはババ抜き。

「いっちーまたジョーカーでウケる!」

楓が爆笑する。

一聖君はババ抜きに弱い。

なぜか分からないけど、いつもジョーカーを引く。


ふと後ろを見ると、田畑君の様子がおかしい。


もしかして車酔い…?


「ごめん、みんなちょっと田畑君、の様子見てくる!」


と言って席を立った。


「田畑君、大丈夫!?」

田畑は後ろを向いて吐き気を堪えている。

「先生に言って、ゴミ袋持ってきてもらおうか」

「いらねえから、トイレ付き合って」


え…?混乱する中、無理やりトイレに連れ出された。


田畑君がトイレでゲロを吐いているのをなぜか見せつけられてしまう。


京都に行く前にこんな光景見たくなかった…。


「あーすっきりした」

一通りゲロを吐き終えた後、田畑君がケロッとした声で息を吐いた。

そうか、良かったね…私は京都を前になんだか食欲失ってしまったけれど。

「立花、薬もってるだろ、酔い止め」

「あるから、それ飲んで大人しくしてて」


ポケットから酔い止めを取り出して田畑に投げる。


…なんだか、波瀾万丈な修学旅行になりそう。


*


あっという間に京都に到着。

京都の外観は寺らしきものがたくさん並んでてワクワクする。

あー生八つ橋食べたいな。

担任の先生がくれぐれもはぐれないように、と言って「では解散」と言われた。


みなが言う。


「まず京都といえば清水寺だよー」


みんながいいねー行こう行こうと京都マップを広げて歩き出す。

田畑君は周りの景色をぼーっと眺めながら後ろからついてくる。


とりあえず放置しておこう。

それよりお土産買いたい!


「合格祈願」

「学業成就」

「恋愛成就」

「縁結び」

「家内安全」

「金運上昇」

「無病息災」

「厄除け祈願」

「開運祈願」

「旅行安全」

「成功成就」

「長寿祈願」

ってところかなっ


お土産いっぱい買いたいと楓に言うと、まだお土産買うの早すぎ、観光しなさいと言われてしまった。


*


あっという間に清水寺到着。


みんながキャーとかワーとか騒いでる。

一聖君は別クラスの人にモテはやされて、達也君も面倒くさそうに女子の対応をしてる。

みなと楓も友達多いから、取り残されてしまった。


ぼーっと景色を眺めながらため息をつく。


そういえば、清水寺から飛び降りるって言葉があったけど怖い。

死にたくないよ…。


「清水寺から飛び降りても85%生存、死亡者は34人だって」


田畑君が学ランのポケットに手を突っ込みながら後ろから声をかけてきた。


「そんな怖いこと言わないでよー怖い怖い」

「なんで?」

「なんでって怖いから」

「俺は死にたいときあるよ」


え…どうして


「眠るように安楽死するのが一番楽じゃね?生まれてきたのって結局は親のエゴなんだよ、ざけんじゃねえよって思う」

「…私は楽しいよ、田畑君も一緒に楽しいことしようよ」

「誰かと一緒にすることで、楽しいことってなにか分からない…」

清水寺の手すりに掴まりながら田畑君が呟く。

そして深い闇の底を見つめていた。

困った。田畑君は人と関わることで、なにが楽しいのかが分からないらしい。

「今は、少し楽しい、一緒に心中でもする?」


それだけは嫌だ!!!巻き込まれたくない…


「ね、田畑君はお土産何買う?」

「いや、何にもいらない」

「私ね、「合格祈願」「学業成就」「恋愛成就」「縁結び」「家内安全」「金運上昇」「無病息災」「厄除け祈願」「開運祈願」「旅行安全」「成功成就」「長寿祈願」のお守りが欲しい」


田畑君は呆然としてる。


私が欲張りすぎてるせい…?


「……俺は何も要らない」

そうなのか、何か買えばいいのになあ。


みなが次行こうーと観光案内のごとく次の目的地に出発する。


さっきより心なしか田畑君の足取りが軽い。

なんだか田畑君が嬉しそうなのが嬉しい。


次どこにしようかーと楓が楽しそうに笑う。次は金閣寺かな?銀閣寺?

ワクワクが止まらない。


田畑君が隣でボソッと呟く。


「立花…二人で抜け出してどこか行かない?」

「え…絶対やだ」


舌打ちして、また機嫌が悪くなっちゃった。二人で抜け出すなんて無理だよ…。


*


次は扇子づくり。

みんなはきれいなお花を書いててすごいなと感心した。

私は最近男祭りが流行っているから思い切って書きなぐっていた。


「「男祭り」」出来たー。

田畑君はなにも書かないらしい。


なにか書けば楽しいのになあ。


男祭りの扇子を田畑君に向けて扇いであげる。


「いや…ちょっと、マジでやめてくれ」


そうか…男祭りは引いちゃったか。


次の観光地はなぜか三十三間堂。


仏さまがたくさん並んでて怖すぎる


一聖君は素足で上ったせいで足が冷たいと笑っている

田畑君はここに至るまで一切写真を撮らない。

なんでだろ…思い出いらないのかな。

「ね、田畑君一緒に撮らない?」

「いらない」


「自分の写真撮りたくない、汚いから」


*


「じゃ一緒に撮ろうよ二人だけで」

「いや…髪の毛切ってからのほうがいい」


確かに。


この髪型で写真撮ったらホラーに近い。


「じゃあ今度美容院行ってきて!」

「なんで…?」

「写真が撮りたいから田畑君と!」

「いらない」

「そっか…でもさ、美容院行って綺麗にしてもらえば絶対綺麗な写真撮れるよ」

「だから、いらない」

「どういうこと?」

「女にモテたくないから」


…ちょっとよく分からないかから放置しておこう。


次は広島、頭の中はもう広島焼きのことで頭がいっぱいだ。

みなと楓が「あー早く広島焼き食べたい」と新幹線の中でぼやいている。


私も早く広島焼き食べたい。

歩き疲れてお腹もペコペコだ。


あーでも、原爆ドームはちょっと怖いかもしれない。


新幹線の後ろからまた呼び声がする。

行かないと面倒くさいことになるので仕方なく席を立った。


「……なに田畑君」

「原爆ドーム、楽しみだな」

「私は…怖いよ」

「なんで?ああいう凄惨な事件見ないの?楽しいことばかり考えてていいの?」

「…いや、だってまだ中学生なんだよ!?怖いに決まってるじゃん!田畑君はなんでいつもいつも大人になれって言うの?」

「確かに、まだ中学生だよな…じゃあ調べなくていいか」

「そうだよー!もっと楽しいことしよう」

「じゃあいつか撮ろう、美容院は今度な、今は修学旅行中だから」

「うん!そーしよ!!」

良かった、田畑君絶対ストレートにしてさっぱりしたほうがカッコいいから良かった。


広島得着。

みんなで広島焼きをうまいうまいと絶賛しながら食べてる。

田畑君はあんまり美味しくなさそうだけど、まあいいか。


そして誘導されて辿り着いたのが原爆ドーム。


みなと楓と怖いねーどうしようと言いながら施設に入る。

田畑は怪しい笑みを浮かべながら施設に入った。


同じグループのなかでもあいつヤバい放置放置、と内緒で話す。


田畑君は私達が群れてるところを、後ろからついてくる。


「うわーめっちゃ怖い」

「はるちゃん大丈夫?」


みなと楓がしんぱいしてくれる。

怖いけど、でもなんだか不思議な感覚だった。

災害なんていつ起こるか分からない。


こうして今は仲間や家族と楽しく笑ってられるけどいつかはもしかしたら離れていくかもしれないと思ってしまったから。


振り返ると田畑君がゆっくりと歩きながら、地獄のような絵に見入っていた。

田畑君から見える世界は私達とはどこか別世界なのかもしれない。

田畑君の目から見える世界を見てみたいと私は思っていた。


*


広島焼きも食べたし、次は念願の大坂UJSだー!

京都に広島に大阪に強行スケジュールにもほどがある。

早くたこ焼き食べたいなと楓に言うとまた我慢しなさいと言われてしまった…。

UJSは映画を実際の映画を元にしたファンタジーランドらしい。

なに乗る?なに乗る?

とみんな大騒ぎだ。


まずはジュラシックなパークに乗るらしい。

5~6は人乗れるから出来れば達也君か一聖君が隣だったらよかったんだけど残念ながら私は田畑君と隣にされてしまった…。


怪獣が迫ってくる。

「うわーめっちゃ怖い、なにこれ田畑君」

「こんな作り物にビビってるのかよ」

必死に支えに掴まってたらすっと田畑君が私の左手を下ろさせた。

「え、手すり掴まってないと、こ、怖い、田畑君」

「いいから静かにしてろ」


怪獣が迫ってくる中で、皆に見えないように私は左手で田畑君は右手で手を繋いでいた。

田畑君も怖がりなのかな…もしかして。


…握る手が痛い。


*


ようやくお土産も買って新幹線にたどり着いた。

強行スケジュールに疲れ果てたのか、みんな寝てしまってる。


私はまだまだ、旅の余韻に浸って眠れない。

田畑君は何してるんだろう、と覗いてみる。


「田畑君、寝てる…?」

「いや、起きてる」

「ね、修学旅行楽しかった?」

「…割と」

「広島焼きとたこ焼きやばいね美味しかったね」

「…それはあんまり」


そうだ、田畑君この後自転車で家まで帰るんだ。

親がいないから。

「ね、田畑君、うちのお母さんに頼んで車で家まで帰らない?」

「いいのかよ…そんなこと頼んで」

「全然大丈夫だと思う!お母さんに頼んでみよ!」


田畑君は少し考えてる。


「いや、…やっぱり自転車で帰る」

「そうなん?疲れはててない?」

「へーき…だから」


すこし疲れた顔を見せている田畑君。


「寝れないなら、目を閉じて横になるだけでも楽になるよ」

「…確かにな」

「じゃあおやすみ」


席に戻るとかすかに寝息が聞こえる。

これならきっと自転車でも家に帰れるか。

あ、先生が送り迎えしてくれるよねきっと。


よかったと思いながら私も目をつぶっていたら意識を失っていた。

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 修学旅行、楽しんでますねぇ。  田畑君は中二病発症中?(笑)
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