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第二十九話 風神さん…瞳さんを助けて…

結局JOKERのメンバーは彼女しか現れなかった。

散々いちゃいちゃしていたが、視線はずっとあたしを捉えていた。

アンディが分からない。

ただあたしを自分の物にしたいだけ?

おもちゃが欲しいだけ?

怒りをぶつける対象が欲しいだけ?

あたしを…壊したいだけ?

かといって、何の感情も湧いてこなかった。

考えたってこの状況は変わらない。

あたしはただ彼らを無感情に傍観していた。


しばらくして、アンディは立ち上がった。


「帰るよ。瞳。」

すぐに分かった。

帰ったら起こること。


アンディは笑っていたが、目は冷たく凍っていたから。


「アンディ?どういうこと?その女と…どこに帰るの?」

詩織と呼ばれた女がアンディの裾を掴んだ。


「…なんでお前に言わなきゃならないんだよ」

詩織の肩が震えた。

もうアンディは口さえ笑ってはいなかった。

ほろほろと涙を流す詩織の横をアンディは無表情のまま通りすぎた。

腕を掴まれ、あたしも後に続く。


「…殺してやる」


詩織の横を通り過ぎる瞬間、囁くようなうめきが聞こえた。



…いっそ、本当に殺してくれればいいのに。


*


部屋に帰ると、アンディは床にあたしを押し倒した。

上から見下しながらアンディは口を開く。

「何だよその顔。」

「…………」

アンディは綺麗な唇を吊り上げて、にぃっと笑った。

「俺、彼女いるんだよ。瞳の他にも」

「………」

あたしの前にしゃがみ込み、倒れたままのあたしを、髪を掴んで座らせる。

「お前と別れてすぐ付き合った」

「………」

「したことだってあるよ」

「……………」

…不気味な笑顔が一瞬で消えた。

壁に向かって投げつけられる。


「なんでだよ!!」

アンディの叫び声が身体中の傷に響くようだ。


床を見るとポタポタと赤い斑点ができた。


…あ、血…。


ぼーっとそれだけを考えた。


吐き気がこみあげる。

…たぶんみずおちを蹴り上げられた。

アンディは狂ったように暴行し続ける。


【瞳さん、どれだけ業の深い人生を送ってるの…?

私が最近ドはまりしてるライトノベル、業の多い姫だよ…】


30分くらい殴り、アンディの手は止まった。




そのまま抱きしめられた。

強く、強く。


「瞳愛してる」


骨が軋むほどの力でアンディはあたしを抱きしめる。


「瞳愛してる。愛してる愛してる愛してる」


爪が肩に食い込み始めた。

「い…た。アンディ…痛い。」

さらに、さらに。力を込める。

「俺の瞳。俺だけの瞳。愛してる愛してる愛してる愛してる」

「く…るし…アン…ディ」

首が絞まり、目が霞んだ。


『俺に守られる覚悟決めろ』


あぁ…

なんでこんな時に

彼の顔が浮かぶんだろう。

「……土屋君」


アンディの力が抜けた。


見開かれた目は狂気をはらむ。

綺麗な顔は心底おかしそうに笑い、そして唐突に無表情になった。

「なんでだよ!!」

アンディの叫び声が部屋中にこだまする。

彼の手はあたしの首にかかり、そのままあたしは意識を手放した。


光は閉ざされていく…。

あんなに鮮やかだったのに。

こんなにも容易く…。

風神のみんなに、会いたいよ。


*


意識を取り戻したと思ったら

会合へ行くからと再び外へ連れ出された。

身体中が痛くて、もう歩くのも辛かった。

しかし昨日の今日で逆らったら…何をされるか分からない。

倉庫の中は閑散としていた。

まだ会合の時間ではないらしい。


JOKERはサイトでやりとりをすると聞いたけど…。

倉庫でも会合が行われるのか。

中に一人、誰かがいた


…漫画を読んでいる?

黒い短髪をつんつんと立たせている色黒の男…

およそ暴走族とは思えない

ごくごく一般的な男子高生だ


「宇宙!久しぶりだな!」

宇…宇宙?

変わった名前だな。

【え…宇宙君ってこの間、カラオケ行った人…!?】

宇宙はあたし達に気がつきマンガから目を離した。

「お、おお…久しぶり…言っとくけど俺忙しいから会合とか出ないからな」

じゃぁなんでココにいるんだろ…

「ああ瞳、こいつは宇宙。こっちは瞳、俺の彼女だ」

「いや別にそういうのいいから」

「お前は信頼してるから、何でも話しておきたいんだ」

「いやいやそんな簡単に人信頼すんなよ」

「いいや、お前は入ったばかりだけど、信頼できる…副総長にしてもいいくらいの器だ」

「人の話し聞こうぜ」


宇宙って人が居るからかアンディの機嫌はなんだかいい

そんなにすごい人なんだろうか、この人…

入り口で物音がした。


「メンバーが集まってきたな。宇宙、ゆっくりしていって!」


そう言ってアンディは部屋から出て行った。

少し気が楽になり息をつく。

宇宙はにっこりと笑ってこちらに向き直った。


「瞳ちゃんて、風神にいた子だよね?」

「え…え!?何で知ってるの?」

「いや俺スパイだから。」

「は?」

「本当はJOKERにも入ってないんだよ。


情報収集のためにいろんなところうろついてるだけ」

今ここに知っているひとがいる。それだけでもとても心強かった。

風神のみんなを…

「うそ…」

「あいつ、アンディだっけか?意外とバカなんだよな。飢え死にしそうなんて嘘、簡単に信じてほいほい仲間に入れちゃってさあ」

「じゃあ、アンディの仲間じゃないんですか!?」

「もちろん…俺のボスは松岡さん、ただ一人だからな。誰の味方でもない。」

「松岡さんって一体…?」

「もっと熱くなれよ!!ってな」

宇宙は力強くにっと笑った。


松岡さんて人のこと…相当信頼してるんだなぁ。


それから私の傷痕をじろじろ見つめて、やれやれといった表情になる。


「てかあんたのそれも、アンディっしょ?あいつそういうの好きそうだからな~早いとこ警察突き出したほうがいいよ」

「え、あ、確かに、そうですよね…」


【今更気づく瞳さん】




一息ついて宇宙は立ち上がった。

「ま、その前にどうにかするかもだけど。」

「え?」

「じゃあ俺めんどうなのがこないうちに帰るわ。まあ今日以降二度と来ないつもりなんだけど」

マンガを持ち、ひらひらと手を振ると宇宙は歩き出した。

「あ…宇宙さん!!」

「ん?」

「もし風神のみんなに会うことがあった伝えてください!黒井瞳は元気でやってるから心配ないと!」


「…分かった、伝える」

ふっと笑い、宇宙は風のように颯爽と去っていった。


*


「あの女とJOKERのボスは過去に付き合ってたことがあるんだ」

「…瞳ちゃん…なんでよりにもよってあのクソ男と…」

かずゆきが淡々と告げる

「まあ、あいつが怯えてたんだとすればJOKERのボスがDV男だったとかそんな感じだろうね」

「くそ…俺の瞳ちゃんになんてことを…許さねえ…!」

「いや別にお前のじゃねーよ」

すっかり血が上ったNO3に

かずゆきが的確な突っ込みを入れる

「それより…まずいよ総長」


そう言って、かずゆきはらしくもなく深刻な表情を見せる


「何がだ」

「調べてみたら、JOKERのメンバー数がこっちの3倍はある、頭数じゃ圧倒的にこっちが不利だ」


「……」

「あと、もう一つ、JOKERのボスにはこんな噂が立っている」

「なんだ?」

「あいつは一人で20人もの相手を一度に倒せる、あいつを怒らせるな…奴は一度走り出したら、止まらない」

「知るかよそんなの」

緊迫した雰囲気の中、総長が口を開いた。

いつも通りの声だ。

「風神なめんな。だてにここら一帯をしめてるわけじゃねー」

NO3がにっと笑う。


「後悔させてやろーぜ。関わったことを」

「当然でしょ。」

「諒!いるか?」

総長が廊下に向かって叫んだ。

「うす!総長!!」

ガララッと無駄に大きな音をたてて病室のドアが開き、真島諒まじまりょうが入ってきた。

「今すぐ全員に伝令を出せ。JOKERを潰す。」

「うす!」

諒は総長の久しぶりのただならぬオーラに気合いを入れた。

「やつらにもアジトはあるみたいだ。俺もパソから調べあげる。てめーらもなんとしてでも探し出せ。」



かずゆきが眼鏡をかけた。

ハッキングの本気モードだ。

「それから瞳ちゃんについて。少しでも多く情報を集めろ。」

「うす!!あ、そろそろだと思ったので、必要な物は一通り買い揃えておきました!」

気をつけの姿勢で一生懸命話す諒に3人はふっと笑った。

「さすが。」

「真島君よく働くねぇ♪」

【総長…かずゆき…カッコいい…】


大好きな風神幹部に誉められて顔を赤くする諒に近づき、総長は頭をぽんとたたいた。

「頼んだぞ。諒」

「…うす!!」

嬉しさに震え上がると、諒は駆け出した。

「病院は走っちゃだめだよー♪」

完全に3人だけになり、改めてかずゆきは口を開いた。

「…それともう一つ。気になることがある」

二人はかずゆきに注目した。

「…何だ?」

「伏見アンディ。あいつ…前科持ちだ」


パソコン画面を睨みながらかずゆきが言う。

No3が聞く。

「…ぜんか?」

「1年前、毛呂村竜信もろむらたつのぶという男を殺している。」

「…!殺し…!」

「あぁ。ただ俺らとタメだからな。未成年のあいつは年少(少年院)止まりだったんだ。」

「マジかよ…」

「瞳ちゃん…!」


重い空気が漂う。

伏見アンディ…どこまでもヤバイやつだ。



「その毛呂村とかいうやつは、上水町一帯をしめてたやつらしい。」

ここまで聞いて、総長がはっとした。

「…毛呂村?」

「なに?総長さん」


「瞳が転校して来た日、寺で会ったんだ。…あいつがいた墓は確か、『毛呂村家』だった」

「…!!」


二人の顔つきが変わった。


「どゆこと?」

「黒井は、伏見とも、死んだ毛呂村とも関係してるってことか?」


衝撃の事実に、3人は混乱した。

瞳はいったい…心に何を抱えているのか。

あの華奢な身体に、何を背負っているのか。

「…ぐだぐだ考えてもしょうがねぇ。伏見ぶっ殺して、あいつ助けるしかねぇだろ。」

3人の表情は決意と殺気に満ちていた。

「やるぞ。」

「当然っしょ!」

「あぁ。」

「…あ、お前はNO3の三下だから寝てて…」

「やだ!!!」


「…………。」



瞳。

待ってろ。

ぜってー助けてやるから。


【風神頑張って…!瞳さんを助けてあげて…!!】


*


宇宙に会った日から、あたしはもうアンディの部屋から出ていない。

もうそんな気力すら残っていないのも理由の一つだけど、彼が絶対にそれを許さなくなった。

宇宙が帰ったあと、JOKERの集会が開かれた。

ガラが悪そうな男たちの中心で、あたしはアンディに肩を抱かれていた。


「みんな集まったね」


アンディはご機嫌だ。

にたにたと笑いながら部下を見回した。


「それじゃぁ始めようか」

愉快そうに立ち上がると一言。

「風神を潰す」


目の前が真っ白になった。

一瞬何を言ったのかすらわからなかった。

「全員、ぶっ殺してやるんだ」

あはははははははは…

アンディや周りのやつらの笑い声に吐き気がした。

「…まって」

やっとのことで声を絞り出し、アンディにしがみついた。

「待ってアンディ!約束が違う!」

「…約束?」

アンディはあたしを冷たく見下ろした。

「あたしが戻れば、もう風神には手を出さないって…」

そこまで言ったところで、頬に電流が流れた。

コンクリートの床に倒れる。

JOKERのメンバーさえ息を飲んだ。

目の前にこの間の詩織さんが見えた。

前とはうってかわって、綺麗なほどの無表情だ。


「あはは…バカじゃないの?」


あたしの前に立ち、アンディは狂気に満ちた目で笑う。

その長い足を掴む。

「…お願い!もうどこにも行かない。アンディの言うことずっと聞く!だから土屋君たちには…」

「あーーーーー!!!!」


アンディの叫びが耳をつんざいた。

次の瞬間、今までとは比べものにならない力で殴り飛ばされる。

そのまま何発か殴られ、最後にみずおちを蹴られて咳き込んだ。


「土屋土屋土屋土屋!うるさいなぁ!」


アンディはあたしに近づくと髪を引っ張って起き上がらせ、耳元で囁く。

「あいつら全員いなくなれば、瞳には俺しかいなくなるだろ?」


ぞっとした。


身体中の血液が凍った気がした。

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