第二十六話 瞳★ロゼリエッタ
【よく分からないけど瞳★ロゼリエッタで検索。あったこれは夢小説…?とりあえず読んで見よう】
えーと…
恋愛#泣ける#スリル!!衝撃!!☆
過去から逃れるため転校した瞳は、全国トップの暴走族『風神』の総長、土屋流に出会う。
心に闇を抱えた超無自覚美少女 黒井瞳
「あたしに…触らないで」
孤高の超イケメン俺様総長 土屋流
「俺に全てを預けてみろ」
【なにこれ…今流行の東、リベ的なやつ?超無自覚美少女…孤高の超イケメン俺様総長…すごいネーミングセンス】
私に光を与えてくれたのは
―――――彼だった。
二人の出会いは、
運命の歯車を狂わせる。
*
このクラスは何?
転校そうそう、私は身の毛のよだつ思いでいっぱいになった。
金髪…
タバコ…
ちゃらちゃらしたアクセサリー…
下品なくらい大きな笑い声…
…まぁいい。
こんなあたしには、きっとピッタリの学校だ。
「えー、今日からこのクラスに転校してきた黒井瞳さんだ。みんな仲良くするように」
先生の話を誰一人として聞こうとしていない。
くすくす…くすくす
周りから聞こえ出した笑い声に、吐き気がした。
足ががくがく震える。
崩れ落ちそうになる体をどうにか持ちこたえ、指定された席へと進む。
…怖くない
…怖くなんか…
「ひゅーひゅー可愛いね瞳ちゃん」
「瞳ちゃん、こっち向いてよー」
絡みつくような視線があの日の記憶をフラッシュバックさせる。
そんななかで
一人だけ
私を見ていない人がいた。
一番後ろの窓際の席で、ぼーっと外を見ている
その人の目は、まるで生きている人間とは思えないものだった。
感情がまるで見当たらないのだ。
色に例えると無色透明。
驚くほどの漆黒の髪が、その透明を際立たせる。
まるで今生まれたばかりの赤子のような…
こんな目を見たのは初めてだ。
「黒井ー。ほら早く席につけー。」
先生の声で我に帰り、新しい自分の席についた。
窓際の前から2番目…
まぁ悪くはない。
まだ聞こえる煩わしい声に目をつむって耐えていると、後ろから制服の裾をひっぱられた。
とっさに体をこわばらせて振り向く。
目の前で男の子がにっこり笑っていた。
明るい茶髪にピンクのメッシュという奇抜な髪の割に、とても人のよさそうな笑顔だ。
「…なんですか?」
抑揚のない声で問うと、そいつは目を輝かせた。
「オレ、風神のNo.3(ナンバースリー)!あんたは!?」
………ぃや、さっき先生から紹介あったじゃん。
風神?No3?
「…黒井…瞳です…けど」
「へー!かわいいね!!」
「なんでNo3なの?本名で読んじゃいけないの?」
「まあー…いろいろ家庭の事情があってさ」
…なんだこいつ…。
ちゃら。
…でもどことなく、周りのいやらしい男たちとは違う気がした。
「よろしく!」
手が伸びてきた。
「…よろしく。」
握手しようとして手が触れた瞬間、あの感覚が蘇り、とっさに手をひっこめた。
「…どしたの?」
「…あ…ごめん。」
震える手をぎゅっと握りしめる。
「あ!ごめん。いきなりはやだよね。オレそゆのホント鈍くて…」
No3君は慌てて謝った。
「うぅん違うの!大丈夫。」
…いけない。
ここでやり直すって決めたんだ。
思い出すな。
…あんな過去、忘れろ。
「このクラス、ひどいでしょ?クズ組って呼ばれてるんだ。」
ふいにNo3君が言った。
頬杖をついてクラスを見ている。
まだホームルームは終わっていないのに、ゲラゲラゲラゲラ…下品な笑いはまだ飛び交っている。
寝ているもの
先生にヤジを飛ばすもの
いやらしい雑誌やマンガを読むもの
ゲームするもの…
例えるならここは…
無法地帯。
…確かにこの学校はレベルも評価も高くはないが…こんなに酷いのか?
「…クズ組?」
「そ。クズが集まるクズ学級♪頭悪いやつとか問題児は全員ここに収容される。
うちの学校は1組から順にレベル分けされてて、ここが最低クラスってわけ。」
なるほど。
まだそんな学校あったのか。
「でも転校生がいきなりここってのは普通ないけど。…瞳ちゃんてもしかして…」
No3君の目が鋭く光る。
心臓が跳ねた。
…転校の理由は…知られたくない。
「瞳ちゃんてもしかして…すっごいバカ!?」
言った瞬間No3君は後ろから叩かれていた。
「バカはあんた。いきなり転校生にからんでんじゃねーよ。」
漆黒の髪、肩ほどの長さの髪の毛に青いメッシュの入った女の子が立っていた。
「いってーなぁ!あいりちゃんひどーい!」
「キメェ!死ね!!」
おぉ…すご。
「ごめんね。こいつ女の子大好きなの。バカだけど悪いやつじゃないから。バカだけど。」
「バカって言い過ぎだろ!」
二人のやり取りを見ると、たつのぶと絵理子の姿が重なった。
…なんか懐かしい。
―クスッ―
思った時には笑っていた。
ふと見ると、No3君の顔がほんのり赤くなっていた。
…どうしたんだろ。
まだ赤い顔をしながらも、No3君はぱっと笑顔になった。
「やっと笑った!やっぱ笑顔もかわいー♪」
また叩かれた。
「もーお前は!
でも確かに。あんた笑ってた方がかわいいよ。
あたしは西田愛理。あいりでいいよ。」
「…ありがと。No3君もありがと。
頭をさすっていたNo3君は目を細めて笑った。
この人の笑顔は、なんだか心を温かくしてくれる。
「よろしく。瞳。」
…久しぶりに笑ったな。
まだ怖いけど
過去を捨てきれないけど。
たつのぶ。
あたし、ここでまた頑張るよ。
…見てて。
*
「瞳ちゃんマジうけるねー。授業全部寝てたじゃん!」
ホームルームが終わったあとは、ずっと突っ伏して寝ていた。
授業もつまらないし、
人と喋るのもめんどくさい。
「あーうん。…前の学校でやったとこばっかだし。」
「へー。あ、瞳ちゃんこの後暇!?俺とデーt…」
―バコッ―
「またお前はそうやって!だいたいあんたは集会があるでしょ!」
愛理のカバンは綺麗にNo3君の顔面を襲った。
「いってー!…だーかーら~!いちいち殴んなよ!」
また言い合いが始まりそうだ。
んじゃとっとと帰ろうかな。
「じゃぁ、あたし帰るね。」
「え?一緒に帰ろうよ。家どこ?」
「電車なの。それに今日は…寄るところがあるから。また明日。」
今日は一人で帰らなければならない
大切なあの人…
たつのぶの
命日だから。
「ばぁーいばぁーい!まぁたあぁしたぁー!!」
NO3君は無邪気に手を振って叫ぶ。
少し振り返って笑顔で手を振り返した。
人気のない墓場は、まるでこの世の終わりの地のように思えた。
そのまま足を進め、目的の場所へたどり着く。
そこに、人影が見えた。
先客?背が大きい人だなあ
…あれ、もしかして
ああやっぱり、今朝の彼だ
彼の隣に立ってみても、一向に気づいてくれる気配がないので
おそるおそる声をかけてみることにした。
「あのー…同じクラスの人だよね?」
「……」
「ねえ」
「……」
「ねえってば!!!」
「うお…びっくりした」
「あの…今日転校してきた黒井って覚えてる?」
「あんた今日初めて見た」
うつろな目
こいつ大丈夫なの!?
「覚えてないってひどくない!?」
「ああ、そのとき寝てたから」
うそだ!!あんたは目を開けて寝るのか!!
彼はそのままよっこらせと墓石の前に座り込む
どんだけマイペースなのこいつ!?
そのまま黙り込むので
なんともいたたまれない気持ちでいっぱいになる。
うう…なんか、しゃべってよ
「あんたさ」
「はいい!?」
いきなり話しかけられて変な声が出てしまった。
は、恥ずかしい…
「誰亡くしたの?」
何こいつ!?普通聞くか?そんなこと
「大切な人だよ」
「ふーん…どれくらい?」
「すごく大切だった…いや今でもずっと大切で、かけがえのない…」
はっ!
なんで今日初めて会ったやつにこんなこと話してんだろ!
「ふーん…」
彼は墓石を見つめたまま切なそうに呟く。
初めてこいつを見たときもそうだった。
こいつは今ある世界じゃなくて
どこか、ずっと、遠くを見ている…
そのまま彼は何も言わずに立ち去った。
彼と私は、なんだか似ているのかもしれない…
明日…クラスでしゃべれたらいいな
柄にもなくそんなことを思った。
「あ、そういえば、あいつの名前聞いてなかった」
*
「…久しぶり」
たつのぶの墓の前にしゃがんだ。
…早いな。
もうあれから1年もたつのか。
今でも目を閉じれば
彼の笑顔も、仕草も、声も…全てが鮮明に浮かんでくる。
「たつのぶ。今日学校行ったよ。新しい。」
『逃げるな。』
たつのぶによく言われた。
「すごいクラスだったけど、No3君と愛理ちゃんって人がけっこういい人でね。」
『逃げちゃだめだ。瞳。』
いつもあたしの傍にいてくれた。
「…なんかやりとりが、たつのぶと絵理子に似てるんだ、すごく懐かしい感じなの…すごく…」
『俺が守ってやるから』
…でも彼は死んだ。
あたしの目の前で。
あたしをかばって。
「……ごめんね。逃げて。」
転校したのは逃げるため。
過去から
罪から
あいつから
「でもどうしようもなかったの。」
今でも目を閉じれば…
たつのぶ…
「…だって……守るって…言ってくれたじゃん」
あなたの笑顔が浮かぶの。
…あなたの最期さえ…鮮明に。
冷たい墓石にはたはたと涙が散る。
「…なんで死んじゃったの…?」
1年たった今でも、涙は枯れることなく、同じ墓石に散り続ける。
「…いかないで。たつのぶ。」
わかってる。
彼が死んだのはまぎれもなく、あたしのせい。
…わかってる。
明日からはもう泣かない。
だから。今だけは許して。
気が着くと、もう日が暮れていた。
10月…まだ夏の暑さを残しつつも、やはり夕方には涼しくなる。
「じゃね。たつのぶ。また来る。」
たつのぶに別れをつげ、もと来た道を歩き始めた。
少し歩いて、足を止める。
…そういえば、あのおっきい人はここらへんにいたな。
『お前、誰を亡くした?』
うつろな、切ない目…
…あの人も、大切な人を失ったのかな。
あたしもあんな目をしていたのだろうか…
たつのぶの墓を振り返り、また歩き出した。
10月14日。
たつのぶを失ったこの日に
あたしはあなたと出会った。
*
朝から学校へ行くなんていつぶりだろう。
校門をくぐり、ぼんやりとそんなことを思う。
転校2日目…さすがにまだ遅刻するわけにはいかないだろう。
「あー…だるいなぁ」
周りの人間のざわめきが不快感を増幅させる。
「…あ!瞳ちゃぁーん!おっはよー!」
背後から朝とは思えない大声で呼ばれた。
振り返ると、10人ほどの集団が目についた。
赤…青…金…紫…
色とりどりの頭に目がちかちかする…。
そのカラフルな集団からNo3君が駆けてきた。
「おはよ!」
「…おはよ。」
No3君はあたしの隣を歩き始めた。
「…いいの?友達…」
「え?あぁあいつら?いいのいいの!むさくるしい男より、瞳ちゃんとのが全然楽しいし♪」
カラフル集団は大騒ぎしながら校舎へ消えていった。
「…あ。」
カラフルの中心に、ぼっこりと頭が一つ飛び出していた。
…漆黒。
「どしたの瞳ちゃん?」
No3君が顔を覗きこんできた。
「…ううん。なんでもない」
あたしたちも校舎に入った。
「あ、瞳じゃん。おはよー。」
教室に行くと愛理がいた。
挨拶を返して席に着く。
なんとなく、窓際の一番後ろの席を見た。
……いない。
すこしがっかりしている自分がいた。
…ていうか、昨日なんであんなに彼に話しかけられたんだろ。
普段のあたしなら絶対ありえないよね…。
「あれ?総長は?」
No3君が呟いた。
総長…?
「え?たぶんまだ来てないけど。」
「一緒に登校したんだけど…。またふけてんのかー。つまんねー。俺もふけようかなー。」
No3君は心底しょんぼりしているようだ。
「あんたはダメ。」
「なんでだよー」
「どうせそのまま倉庫に行って戻ってこないつもりでしょ?」
「ちげーよー。総長に会いたいだけだよー。どうせ屋上だろー?」
総長…。
だれだろ。
「わーん瞳ちゃーん!愛理がいぢめるぅー!」
―ビクッ―
いきなりNo3君が抱きついてきた。
思わず肩が跳ねる。
「…と、そうだった。ごめん。」
「ううん。ちょっとびっくりしただけ。」
「瞳ちゃんかわいいー♪」
また抱きつこうとするNO3君を愛理がけとばす。
「てめーいい加減にしやがれ。」
…なんかホント、こんなの久しぶり。
…楽しいな。
自然と笑顔になれる。
二人のおかげだな。
…あたしでも、友達になれるのかな…。
「瞳ちゃん?なーに暗い顔してんの?☆」
No3君はしょっちゅう顔を覗きこんでくるな。
気づくと目の前にひょっこり現れる。
「ううん。そんなことないよ。」
微笑むと、No3君もやわらかい笑顔になった。
「なんかあったら言ってな。俺らせっかく友達になれたんだから。」
隣で愛理も笑っていた。
そっか。
ここがあたしの、新しい居場所なんだ。
ここが。
*
だるい授業も終わり、やっと下校時間。
「瞳ちゃーん!今日こそ一緒に帰ろー♪」
NO3君が抱きつく体制になったのをするりとよけた。
「うん。」
「…え。いいの?」
自分から言い出したくせに、ぽかんとした顔をする。
「お。じゃあたしもー♪
つかNo3、あんた集会は?」
「瞳ちゃん駅まで送ったらいくー♪」
「あたしちょっとトイレ行ってくる。ちょっと待ってて。」
「俺、ついてこっか?」
「気持ちだけで結構です」
教室を走って出た。
用を済ませて廊下に出ると、3人くらいの男がいた。
どれもガラが悪そうだ…。
足早に横を通り過ぎようとすると、乱暴に肩を掴まれ、壁に押し付けられた。
「…っ!」
目の前にいやらしい顔がせまる。
後ろは壁…。
逃げ場はない。
震える手にぐっと力を入れてまっすぐに見据える。
「…どいて。」
「ぎゃははは!かわいーねー♪転校生の瞳ちゃんだよね?」
…あ。
こいつ同じクラス…?
後ろにいる金髪とスキンもたぶんそうだ。
…タバコくさ…。
気持ち悪い…。
「…なんか用?」
震えないように声を張り、キッと睨んだ。
「おーおー♪怒った顔もそそるねー。
…瞳ちゃんさぁ、No3と仲良さげだよねー…」
…男たちの目付きが変わった。
…やばい。
こいつらやばい…!
「…だったら?」
いきなり髪を掴まれた。
「ちょっと一緒に来てもらおーか。」
「痛っ…!ちょ…やめ…」
「ぎゃはははは!総長んとこまで来てもらうぜ!」
総長?
こいつら…族?
「…っ!放して!…放せ!」
男3人に懸命に抵抗する。
しかしたかが女一人の力じゃ敵うわけがなかった。
あたしの体はどんどん引きずられていく。
恐怖で足が震え、踏ん張りがきかなくなってきた。
自分の無力さを思い知る。
あたしは今まで
どれだけたつのぶに守られていたんだろう。
「なにしてんの?」
え?
振り返るとそこに立っていたのは
あの…漆黒…
男たちの手も止まる。
髪やら身体を掴まれているあたしと彼の目があった。
一瞬眉が歪んだようにも見えた。
「…!土屋っ!」
へー。この人土屋って言うんだ。
危機的状況にも関わらず、呑気な考えが浮かんだ。
「……せ」
「あ?」
「その手を放せ。」
土屋の声は低く、心臓に響いた。
彼の目は相変わらずうつろだが、その奥には鋭く光るものがあった。
「うるせー!やっぱこの女は『風神』に関係してんだな!」
「状況わかってるか?この女どうなってもいいわけ?」
3人の男は口々に対抗しているが、怯えているのが目に見えてわかる。
態度がさっきまでとはまるでちがう。
…やっぱこの人、ただ者じゃないんだ。
土屋は突然ふっと笑った。
「それはこっちのセリフ。てめーら3人束になってかかったって、俺には勝てねぇの、分かってんだろ?」
3人はたじろぎ、一歩あとずさる。
完全に土屋に圧倒されてる。
土屋はくいと顎をあげ、さらに見下すように笑みを深めた。
思わずあたしもゾクリとした。
あまりにも不敵で、冷たい笑い…。
【なんという…名前どおりのドヤ顔…】
「聞こえてんだろ?ほら。放せよ。」
男たちの手がふとほどけた。
「ちっ。覚えてろよ!」
…今どきこんなセリフ言う人いるのか。
土屋君と二人きりになる。
「…あ、ありがと」
彼に答える気配はなかった。
あたしを見つめ、そして突然近づいてきた。
心臓が大きく跳ね、そのまま鼓動を刻む。
うつろな目にはさっきの光は見えない。
「…あの…え…と。きゃっ!」
話しかける間もなく、無言で手を引かれる。
「えっ!あの、ちょっ…。え!?」
そのまま有無を言わさぬオーラで歩き出した。
歩いているはずなのに、そのスピードは走ってやっとついていけるものだった。
周りの生徒たちは驚愕の眼差しで見つめている。
教室に入るとすぐ、No3君が目に入った。
土屋を確認すると、瞬時に目を輝かせた。
「総長ー!!…と、あれ?瞳ちゃん?」
目を丸くするNO3君の隣で愛理も立ち上がる。
「なに?あんたたち知り合いだったの?」
その質問には答えずに、土屋君はやっとあたしの手を放した。
「荷物持て。」
…いきなり命令。
「早く。」
「ぅあっはいはい!」
慌てて鞄を持った。
「No3。倉庫行くぞ。お前も支度しろ。」
「準備万端だよ☆」
なに?
いったいなんなわけ!?
急すぎてついていけないんですけど…
…つか総長って、この人だったんだ。
「いいな。行くぞ。」
「ぅわっ!」
また有無を言わさず腕を引かれる。
「ちょっと待って!いったいどこ行くつもり!?」
「倉庫。」
…???
「瞳ちゃん。きっと理由はあっちで教えてくれるから。総長を信じて。」
いつの間にか横を歩いていたNo3君がふわっと微笑んだ。
「…わかっ…た」
No3君は嬉しそうにくしゃくしゃとあたしの頭を撫でた。
乱暴な割に、前を行く土屋の手はあたたかかった。
昇降口を出て、駐車場へ向かう。
ずらりと自転車やバイクが並ぶなかに、いくつか明らかに異様なバイクがある。
バイクのことはよく分からないが、たぶん…暴走族…的な感じなんだと思う。
漆のように黒く光るバイクの前に、茶髪の男の子が立っていた。
気弱そうな感じだが、土屋を見るとぱっと表情が変わり、気をつけの姿勢がさらにピンと張った。
「総長!ちわす!」
「おう諒。乗れるか?」
漆黒のバイクを顎で指す。
…これはきっと彼のバイクなんだろうな。
…ぴったり。
「うす!完璧に整備してあります!」
土屋はさんきゅと短く礼を言うと、あたしの手を放してバイクを出した。
諒?の顔にさらに星が散った。
「うす!!!」
「後ろ。」
バイクに跨るとあたしに言う。
「…へ?」
「後ろ。乗れ。」
「あ…はい。」
なんとなく従ってしまった…。
「…落ちんぞ。腰に手回せ」
「…はい」
…まぁバイクの後ろはしょっちゅう乗ってたけど。
いきなりって。
てかこの人ホントマイペースだな。
おそるおそる手を回すと、すごい音を立ててバイクは発進した。
10分ほど走り、バイクが辿り着いたのは、もう使われていない大きな倉庫だった。
倉庫といっても、いくつか部屋もあるようで、剥き出しのコンクリートの壁はむしろおしゃれなインテリアマンションのような印象を与える。
バイクを降りて倉庫の中へ連れていかれた。
中へ入ると、一斉に太い挨拶が響く。
思わず飛びはねてしまった…。
「ちわーす総長!」
「土屋さんちわーす!」
「お疲れ様っす!」
あまりの光景に唖然とする。
手を引く彼はというとうつろな無表情のまま「おう」とだけ返してのしのしと歩いていく。
…えっと。
つまりここは倉庫で、おそらくこの人たちの溜り場。
で、態度から見るに土屋君はかなりえらい人…。
…さっき総長って呼ばれてた…。
てことは…
この集団は…やっぱり暴走族?
…あたしなんでこんなことになってるんだろう。
「総長、この女はなんすか!?」
「もしかして新しい彼女とかっすか!?」
挨拶の終えた舎弟?たちが
わっと土屋君の前に群がった。
「落ち着け、お前ら」
土屋君がきわめて冷静な声でなだめる。
なんか、ほんと、落ち着いた人だなあ…
そのまま土屋は一番奥の部屋に入った。
倉庫というと間違いなんじゃないかというくらいの部屋だ。
真ん中には黒いソファ、冷蔵庫やテレビ、パソコンもある。
土屋は入るなりソファにどかっと腰を下ろした。
「…おいNo3」
「なになに?そうちょー♪」
後ろから着いてきていたよっちが、ドアを閉めながら言う。
「お前、なに不用意に一般人に関わってんだ」
「………!あ…」
…?どういうこと?
「いい加減、自分の立場に自覚を持て。
こいつを危険に晒したのは、おまえだ。」
No3君は見るからにしゅんとしている。
状況を理解出来ないでいると、くるっとあたしに振り返る。
「瞳ちゃん、ごめん!」
勢いよく頭をさげるNo3君。
「へ!?」
「巻き込んだ。」
「は!?」
「だって瞳ちゃんかわいかったんだもん!!」
はぁ!??
「ちょ、ちょっと、待って、どういうこと!?」
「やったあ♪これから毎日放課後、瞳ちゃんに会えるんだねー」
陽気なNo3君の声。
お前いっつもさぼって帰ってるくせに、と土屋君が呟く。
いや、だから、なんで私が巻き込まれるのか教えてってば!!
そのとき突然、扉が開いた。
この場にまったくそぐわない
小柄な可愛い女の子が立っている。
同じ制服を着ているから、どうやらここの高校の生徒らしい
「お兄ちゃーん、お弁当持ってきたよー!!」
「おーサンキュー海咲♪」
弁当!?
もう放課後なのに??
「今日も会合、長引くんでしょー
もーたまには家でご飯食べなよね!」
お兄ちゃんってことは
妹??No3君の!?
こんなところまで来るか、普通!?
物珍しそうに見つめた視線に気づかれたのか、ふいに妹さん?と目があった。
「総長の…新しい彼女?」
「彼女じゃねえよ」
「真紀さんは大丈夫なんですか?」
「…だれそれ」
「あはは♪そうちょうー相変わらず♪」
なにこれ…。
「要するに、あたしが完全に不良達に楓神の一員と勘違いされてるわけね?」
「そうだ、誤解を解くのも面倒くさいし、一般人のあんたを巻き込むのも面倒くさいから
いっそのこと俺らと行動を共にしてもらおうってわけ」
「もうすでにめちゃくちゃ巻き込まれてるんですけど!!??」
つうか
どんだけ面倒くさがりだこいつ!!
まあまあ落ち着いて瞳ちゃん、とNo3君が言う。
落ち着いていられるわけがない
暴走族の一員なんて冗談じゃないっつーの!!
「帰ります」
そのまま踵を返して帰ろうとしたところを
がしっと腕をつかまれた。
「…これから先、またあの手の輩が襲ってくるかもしれない。
おまえを守るのは、勝手に巻き込んだ俺らの責任だ。」
…確かに身の安全は確保したい
でもこの倉庫で、不良達に睨まれ続ける状況もちょっと…
「…いいです。帰ります」
言って、ふたたび帰ろうとしたが腕が外れない。
「おい、No3」
「なんだい?そうちょー」
「こいつ、縛っとけ」
「はいよー…ごめんね、瞳ちゃん、俺そうちょーの言うことには逆らえないんだ」
「え、ちょ、ちょええええ!??」
そのまま、不良どもに囲まれて無理やり柱にくくりつけられた。
この状況は一体…
「ちょ、これ、解いてってば、ねえ!?」
そのままあたしを完全放置で謎の会合が厳かに行われる。
「そうか…JOKERがとうとう…」
「どうします?そろそろうちの団もヤバいっすよ」
「そうだな…しかし下手にあいつらを刺激すると…」
JOKER?
なに?
わけわかんない…
そのまま意識がゆっくりと遠のいていった
「瞳ちゃーん。おきてー」
「…う」
細く目をあけると、すぐ目の前にNo3君の顔があった。
「…ちかい」
「へへー♪起きないからキスしちゃおうかと思った☆」
「あそ。」
「わー反応うすー」
No3君をどけて起き上がる。
…いつの間にかソファに寝かされていた。
「体痛くないー?ごめんねー」
「…ううん。ありがと。」
No3君は嬉しそうに微笑むと立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。
「なんか飲む?」
「あ、うん。」
ミルクティーを取り出すNo3君の背中が見える。
「…ねぇNo3君」
「んー?」
「No3君達って…暴走族なの?」
「え?うん♪」
…………。
ぃや、そんなあっさり…。
「総長とー、かーくんが副でー、俺は3番目!」
なぜかるんるんで話すNo3君。
ソファまで来るとあたしにグラスを渡して隣に座った。
「かーくん?」
また新しい名前が…!
No3君はぎょっとして周りを見回した。
「あれ?かーくん今日いない?」
いや知らないし。
「そうちょー!!今日かーくんはぁ?」
No3君がソファの背もたれごしに後ろへ問うと黒い影がむくっと起き上がった。
「…バイト」
土屋君がパソコンの置いてある机にうつぶせになって寝ていた。
…いたのかっ!
それだけ言ってまた寝たし!
「あーそっか。かーくん大変だもんな。瞳ちゃん残念だったねー」
「はぁ…」
「ま、No3君がいるからいいでしょ♪」
「…………」
「わーつめたーい」
No3君は楽しそうにケタケタと笑う。
「ねぇNo3君。結局あたしがここにいる理由分からないままなんだけど。」
そうだ。
あたしはなぜいきなり襲われ、いきなりここに連れてこられた上に縛られたのか。
No3君が「これから毎日会える」と言った意味も気になるし…。
「あぁ。」
No3君は思い出したようにグラスをテーブルに置いて話しだした。
「俺たちは風神って族なんだ。たぶんここらへんの不良で知らないやつはいないと思う。族に抗争はつきものだけど、そのぶんうちはよく狙われる。おれらを倒して、全国トップの座を奪おうと画策してるわけ。」
…え。
え!?
「ち…ちょっと待って!No3君達の族って、日本で1番強いってこと!?」
「?うん。」
…いやだからそんなあっさりと…。
だめだ…。なんか価値観違いすぎてついていけないかも…。
No3君は続けた。
「JOKERもそのうちの一つ。しかも同じ地域内っつうこともあってやたらとやりあう仲なんだよ。」
No3君は真面目な顔で話している。
彼のそんな表情は珍しい気がして、まじまじと見てしまう。
わけわかんない話をされると、他のことに意識がいってしまうものだ。
…よく見ると、やはりNo3君はキレイな顔をしていた。
二重の大きな目に長いまつ毛、切り揃えられた眉…。
普段があまりにバカっぽいから気づきにくいけど。
「でね、瞳ちゃん。」
「ふぇっ!」
…しまった。間抜けな声を…。
「別に普通の族ならいいんだ。傘下に入れたり、同盟組んだり色々出来るから。
だけど、JOKERはヤバイ。あいつらは相当危険だ。」
No3君の表情が一層険しくなった。
「危険…て?」
「あいつらはキチガイだよ。俺らの仲間だと知れば、何するか分からない。実際被害もたくさん出てる。…死人が出てないのが不思議なくらい。」
死人て…
「そんなに?」
「あぁ。とにかくヤバイやつらだ。
…なのに俺の不注意で、瞳ちゃんが目付けられちまった…。
…ホント…ごめん」
顔を歪めてまたうなだれる。
「いいよそんな。たしはNo3君や愛理ちゃんと仲良くなれて、ホントに嬉しいんだから。ありがとう」微笑むと、No3君も安心したように僅かに微笑み、また真剣な顔になった。
「だからこそ、瞳ちゃんを守りたいんだ。こんなとこいきなり連れてこられて、まだ整理つかないと思う。でも頼む。俺たちに、瞳ちゃんを守らせてくれ。」
心臓が跳ねる。
その真剣な眼差しが胸を打つ。
…こんなにも真剣に…思いを伝えてもらったのは
いつぶりだろう。
気づくと自然と笑顔になっていた。
「No3君、ありがとう」
No3君の黒目がちな瞳も弧を描く。
「…ま、そういう訳だ。理解できたか?」
後ろから声がして振り向くと、土屋君がすぐそばに立っていた。
…いつの間に起きたんだこの人…。
つかあんたが説明不足だからこんなことに…
「じゃ、帰るぞ」
―グイッ―
えっ!!?
「ちょっと待って何処に…」
「ここら辺は危険なんだよ。送る。」
なんか…乱暴なんだか優しいんだか、分からない人だな。
とにかくマイペースだ。
あたしはこれからもこの人に振り回される。
そんな気がした。
*
倉庫の外へ出ると、もう夕闇が広がっていた。
明かりの少ない場所なこともあって、一層暗く沈んでいた。
バイクまで行き、ヘルメットを渡される。
「後ろ」とか言われなかったが、自分で空気を読んでバイクに乗り込んだ。
「どこ?家」
エンジンをかけながら土屋が言う。
「あー…、下井戸町。」
「ふーん。じゃぁ近くなったら道教えて」
「…はい」
しんと静まりかえった真っ暗な倉庫に爆音を轟かせてバイクは発車した。
漆黒のバイクは夜闇に溶け込む。
乗っている間、二人は無言だった。
下井戸町に入るとあたしがナビゲートした。
彼は特に言葉は発せず、無言でハンドルを切った。
「あ、ここでいい…です」
20分ほど走り、バイクはコーヒー店の前で止まった。
「…お前んちはコーヒー店なのか?」
バイクを降りて土屋は呟いた。
「いや、違うけど…もうすぐそこだから。ここでヘーキです。」
「家まで送る。」
「いいの!…ホント、ありがとう。それじゃ。」
行こうとすると、手を掴まれる。とっさに振り払う。
「あ…ごめんなさい」
またやってしまった…。
「…お前の顔、きにくわない。」
「…は?」
コーヒー店から漏れる光が土屋の顔を映し出した。
No3君とは対照的に切長の目…相変わらずうつろだけど。、細い輪郭、すっとした鼻筋、漆黒の…髪
No3君も相当だと思ったけど、この人はもっとキレイだ。
ふとそんなことを思う。
「なんで無理して笑う」
「……!…そんなこと…」
…なんで。
たつのぶにしか分かる人はいなかったのに…。
あたしのはりぼての笑顔。
「笑いたくないなら、笑うな。」
うつろな目は、まっすぐにあたしを見下ろす。
…どたばたしてて意識してなかったけど…この人本当に大きい。
…180はあるかな。
答えることが出来なくなる。
「…余計なお世話」
声が無様に震える。
…だめ。
もう守ってくれる人はいない。
あたしは…弱みをみせてはいけない。
…今糸が切れたら、私はバラバラに崩れてしまいそうで…そうしてもう、立ち上がることが出来なくなってしまうような気がした。
「あと手。ずっと震えてた。」
「余計な…お世話。」
こんどは力を込め、はっきりと言った。
「…ま、どうでもいいけど。」
ふっと息を吐いて、土屋はバイクに跨った。
「…悪かったな。怖い思いさせて。」
よっちとはまた対照的に、ホントに思ってるのかというほどにさらっと言う。
「今度は家まで送らせろ」
…思わずあっと声が出そうになった。
彼が笑った。
あたしを襲ったやつらに見せたような冷たいものではなく、
風のように…自然に。
それだけ言って、土屋はバイクを走らせた。
遠くなっていく彼の後ろ姿をぼうっと見つめたあと、あたしも帰路に着いた。
コーヒー店の角を曲がり、10分ほど直進すればあたしの住むマンションに着く。
10階の一番端の部屋があたしの家だ。
鍵をあけ、部屋の電気をつける。
相変わらずのつまらない風景が出迎えてくれた。
必要最低限のものしかもってこなかったので、女の部屋とは思えないほど殺風景だ。
でもあの家から持って行きたいものなんてなかった。
戻るつもりも、未練もないし。
「…女子高生が一人暮らしだなんて、きっと怪しまれるだろうなぁ。」
部屋を見回して呟く。
『明日は送らせろ』
なんで土屋君はあんなこと言ったんだろ…。
そりゃ、危険なのは分かるけど。
…なんか、あたしの向こうに、誰か他の人を見てるみたいだった。
…一人暮らしのことは、No3君や彼には知られたくない…。
知られてはいけない。
あたしの過去も…。
カバンを床に投げ、服を脱ぎ捨てた。
タオルをもって浴室へ向かう。
このマンションはけっこう気に入っているが、ただ一つ気にくわないのが、浴室の全身鏡だ。
鏡は嘘偽りなくあたしの身体を写し出す。
服で隠すことの出来ない場所で。
「…汚い身体」
鏡に写る自分の身体を嘲り笑う。
いたるところに克明に刻まれた痣や傷は何年立とうと消えようとしない。
シャワーを浴びるたびにその存在を主張してくる。
まるで、忘れることを許さないとでも言うように。
あたしは一生、この傷を背負って生きていくんだ。
『…瞳』
…だれ?
『瞳…』
…こないで
『俺から逃げられると思ったの?』
こないで…!
『バカだね。お前を愛してくれるのなんて俺だけなのに。』
やめて…。
銀の刃が迫る…。
…あぁ。あたしはとうとう死ぬんだ…。
『……………』
衝撃とともに、あたしに覆い被さる影がくずおれた。
『…たつ…のぶ』
とめどなく溢れる血はあたしの両手を真っ赤に染める。
『…瞳』
『…いや』
『ひと…み。』
『やだ…』
『瞳…。俺…が…』
たつ…のぶ
たつのぶ…!
たつのぶ!!
いや!いかないで!
おいてかないで!
一人にしないで…!!!
「たつのぶ!!!!!」
叫んだ自分の声で目が覚めた。
不快な汗で身体中が湿っている。
閉めたカーテンごしに、強い朝日が部屋を照らす。
ベッドから半身を起こした。
上がった息を整え、顔に張り付いた髪を拭い取る。
手が震えていた。
部屋はほの明るいのに、さっきまでの闇があたしを包みこむ。
「…夢」
もうこの夢を見たのは何度目か…。
何度も何度も夢の中で
あたしはたつのぶを殺す。
何度でも何度でも
たつのぶはあたしの前で死ぬ。
ガクガクと震え続ける冷たい手で、顔を覆った。
「…あたしが…殺した」
昨日までの、No3君や愛理たちの笑顔が、闇に消えていく。
どこへ行っても逃げることは出来ない。
許されないんだ。
彼の影がつきまとう。
震えが収まるまで、ずっと自分の肩を抱き続けた。
*
「瞳ちゃん!」
コーヒー店の前にNo3君がいた。
背後にはピンクのバイク…。
土屋君にひけをとらないでかさだ。
「…なんで」
「おはよ!今日から俺らが送り迎えするから。はいメット。」
あたしがヘルメットを被ったのを確認すると、手をさしのべてきた。
バイクの後ろへ乗せるためだろう。
…手が…伸びる。
夢が蘇る。
「…どしたの?瞳ちゃん」
No3君がきょとんと首を傾げた。
「…あ。や、やだなー!学校くらい一人で行けるのに。」
口角をぐいっとあげた。
「だめだよ。いつJOKERのやつらが襲ってくるかわかんねーんだから。」
ぐいっと手を引かれてバイクに乗せられる。
…あったかい…。
「んじゃ、いこっか!」
にかっと笑うNo3君。
…太陽みたいだ。
…あたしとは大違い。
「…ありがと。No3君」
お礼を言いNo3君の学ランの裾につかまった。
学校の前でバイクを降りる。
ふと顔を上げると目の前にガラの悪い集団が。
JOKER!?
しかし集団はぱっと笑顔になった。
「No3さんちわーす!」
「No3さんちわす!」
「…さん!ちわす!」
「今名前で呼んだ奴殺す」
…どうやら風神のメンバーらしい…。
紛らわしいな。
明らか浮いてるし。
「…あ!そうちょー!!」
No3君が突然走り出した。
No3君のバイクは手下が駐車場へ運ぶらしい。走る方向にはあの長身が見えた。
そのままがばっと抱きつくNo3君。
「そうちょーおはよ!」
土屋君はべりっとNo3君を剥がした。
「…ん。」
…相変わらず眠そうだ。
「あ、瞳ちゃんちゃんと連れてきたよ♪」
「…ん。」
ちらっとあたしを見るとまた歩き出した。
教室に着くと、土屋君はすぐに机に突っ伏して寝てしまった。
眺めながらNo3君に問う。
「ねぇ、土屋君て総長なんでしょ?」
「そだよー♪」
「…何考えてるかわかんなくない?」
「あはは!まあそうかもねー。でもいいやつだよー。めちゃくちゃいいやつだよー。」
No3君はハートを飛ばしながら語る。
「まぁあんなだけど、下には相当慕われてるよ。傘下の族とか、そこらへんの不良にも人気だし。」
気づくと愛理ちゃんがいた。
「へぇー…」
まぁ確かに昨日倉庫で相当なつかれてたな。
あの諒って人にも。
「そうちょーは、頼りになる男だよ。」
No3君はにっと笑った。
力強く。
「そのうち分かる。あいつは、ぜってー守ってくれるぜ。」
その顔は自信に満ちていて、思わずかっこいいと思ってしまった。
それから3日、本当に毎日倉庫へ通わされた。
倉庫では奥の幹部部屋でNo3君とお喋りしたり、パソコンいじったり…まぁ何をするわけでもなく時間を潰す。
…特にやることもないし、全然いいけど。
22時を過ぎると、土屋君は立ち上がる。
これは「帰るぞ」の合図。
学校から倉庫に行く時は、No3君とか他の人のバイクでも向かうけど、帰りだけは何故かいつも土屋君だった。
…でも毎日特に何か話すわけでも…というかまったく話さない。
コーヒー店の前で
「ありがとう」
「…ん。」
くらい。
最初は家まで送らせろ的なオーラ出してたけど、特に執着はしないみたいで。
…ま、ありがたいけど。
3日も経つけど、やっぱり土屋君はよくわからないままだ。
今日も22時過ぎ、土屋君はソファから立ち上がった。
あたしも何も言わずに準備する。
No3君に挨拶をして、前を歩く土屋君に続いた。
コーヒー店の前でいつも通り降りる。
「ありがと」
「…………。」
…あれ。
今日は「ん」もないのか。
相変わらずのうつろな目で、あたしを見下ろす。
土屋君て、全然教室で話さないんだよね。
手下が来た時たまに相手するくらいで(No3君は大抵無視)あとはずっと寝てるし。
周りを見る目はうつろな上に、なんの感情もない。ただ、No3君たちを見る目は、どことなく優しい気がしたんだ。
No3君たちも、そうちょーがいると安心してるみたいだ。
信頼っていうのかな。
まだ3日だけど、そんな倉庫の雰囲気は、なんだか心地よかった。
…んだけど、いったいなんだろう…。
…機嫌悪い?
「…なに?」
「…お前さ、ちゃんと寝てる?」
「……え」
土屋君はまっすぐにあたしを見つめてくる。
「…なんで?」
「顔みればわかるけど」
…なんか最近、この人の顔どや顔に見えてきた。
初めて会った日も、あたしの笑顔を見抜いてきた。
「…ま、どうでもいいけど」
お決まりの文句を行ってバイクへ向かう土屋君。
ぼーっとしてるように見えてこの人、
「…よく見てるんだね。」
土屋君の動きが止まる。
「…あ?」
「No3君とかメンバーのことも。よく見てる。」
それは、この3日間で唯一分かった彼のこと。
「…別に」
目をそらす土屋君。
「…前、あたしの顔気に食わないって言ったよね」
土屋君は乗りかかったバイクから離れた。
「…で?」
…ほら。なんかどや顔。
うつろにあたしを見下ろす彼に対抗して、あたしも彼をまっすぐ見つめた。
「たぶん、土屋君と同じ顔だよ。あたし」
言い切ると、土屋君は目を見開いた。
「土屋君、あたしと同じ目してる。」
初めて会った時から思っていたこと。
違うのは、彼には守るものがあること。
「ま、嘘笑いしないだけ土屋君のがマシだね」
顔を歪めて笑い、カバンを持ち直した。
「送ってくれてありがと。また明日」
後ろを振り向くと、土屋君の顔が目に入った。
彼も顔を歪めて笑っていた。
「…面白ぇ女。」
【今時面白ぇ女って…】
久しぶりに、なんだかくすぐったいような笑いがこみあげた。
理由はよくわからない。
いつもは重くのしかかる夜の闇も、今日は優しくあたしを包む。
最近いつもあの夢で眠れていなかった。
目を瞑ると闇に心を囚われてしまうようで、怖かった。
どんなにNo3君達が光をくれても、闇はあたしを逃してはくれないんだ。
今日もベッドに潜るとやはりあいつは現れる。
…闇が…蘇る。
たつのぶの…血。
ふとんを頭まで被り、身を固くする。
闇はとどまることを知らず、あたしの心を侵食し続ける。
ケータイが鳴った。
メール?
名前を確認する。
…土屋…。
倉庫へ通うようになってすぐ、連絡出来なきゃ困るということで、勝手にNo3君と土屋君とメール交換をさせられたのだ。
From 土屋
――――――――
ちゃんと寝ろよ
…これだけ?
ぶっ…………
うける。
なんか優しいじゃん。
To 土屋
―――――――――
大丈夫。
メールなんか久しぶりにしたな。
いつの間にか、あたしは優しい闇の中に沈んでいた。
倉庫に通い初めて5日がたった。
数学の小テストで0点を叩き出したNo3君は居残り補習だ。
他のメンバーもだいたい補習なようだ。
…みんなアホかよ。
てなわけで今日は土屋君のバイクで倉庫に向かう。
「土屋君は補習ないんだ?」
土屋君はちらっと横目であたしを見た。
「あいつらと一緒にすんな」
あの日以来、彼とはほんのちょっとは会話できるようになった…気がする。
それともう一つ。
あれから夜メールが来る。
「寝ろよ」
とだけ書かれたメール。
それだけでもなんだか安心して、前よりは眠ることが出来るようになった。
顔を合わせれば、お互いそのことは口にしないけど。
倉庫に着くと、土屋君のケータイが鳴った。
「お前先に入ってろ」
土屋君はそれだけ言うとあたしに背を向けて通話を始めた。
しょうがないので、一人で倉庫の扉を開けた。
「あっちわす瞳さん!」
「瞳さんちゃす!」
最近は何故かあたしも挨拶されるようになり…若干気まずい。
まっすぐに奥まで歩き、幹部部屋に入った。
…No3君は補習。
土屋君は外で電話…。
幹部部屋は誰もいないはずだ。
しかし扉を開けた瞬間、小さな影が目に入った。
パソコンデスクの前に誰か座っている。
ものすごい速さでキーボードを叩く。
土屋君に負けないくらい真っ黒な髪に、右側に一掴み青いメッシュが入っている。
黒縁メガネの奥で、切長の細いつり目があたしに一瞥をくれ、すぐにパソコンへと戻った。
「…だれあんた。」
そのまま問いかけられる。…すごく興味がなさそうだ。
一応5日はここに通って、だいたい族の全員を把握したつもりだ。
それが、幹部の部屋にいるくらいの人をわからないはずが…
「…えと、土屋君に…」
連れて来られてと言おうとしたところで言葉を切った。
止まることなく動いていたキーボードを叩く細い指がきっと停止したのだ。
「…そうちょ、う?」
鋭い眼光が、今度こそしっかりとあたしを捉えた。
青メッシュの男はゆらりとデスクから立ち上がった。
流れるようにメガネを外し、あたしに向き直る。
左目の下には泣きボクロがあり、大人びた顔をさらにセクシーに見せた。
「何の用?用件によっちゃ容赦しないよ」
顎をあげ、下目遣いで睨まれる。
…なんて冷たい目だ。
そのまま彼はあたしに近づいてきた。
…びっくりするほど小柄だ。
おそらく、163センチのあたしと同じくらいの背丈だ。
【あれ…この人大野和幸先生に、似てる…気のせいだよね…】
でもそれを感じさせないほどの鋭い目、冷たいオーラ。
「…え、あの…」
返答に困っていると、後ろから聞きなれた低い声がした。
「あ、かずゆき」
その声に反応して、一瞬目の前の男の表情に光がさした。
「総長。この人誰?」
「え?ああ、話すとめんどくさいんだけど」
「え…」
「ん。つかバイトはもういいの?」
「ああ。一段落着いた。もうとうぶん10連勤はねえ。」
「そうか。よかった。JOKERのことで話しておきたいことが…」
二人は話しながら奥のソファまで進む。
10連勤!?
よく体が持つ…じゃなくて!
「…えっと、土屋くん?その人は…?」
「え?あぁ、こいつここの副総長。」
…副…。
初めて来た日のよっちの言葉を思い出す。
『No2のー』
「かーくん!?」
言った瞬間背筋に悪寒が走った。
副総長の目が恐ろしいほど冷たい空気を生んでいる。
隣で土屋は笑いを堪えていた。
「あんた次それ言ったらひねり潰すよ。」
………………………。
全国トップの楓神副総長は見た目からは想像できない恐ろしく低い声で呟いた。
…なんか今、ここが危ない所だって実感が湧いた。
「あー!かーくん久しぶり!!」
No3君があたしの横を駆け抜けて行った。
どうやら補習が終わったらしい。
そのままいつも総長にやるように飛び付く体勢に入った。
…鈍い音が幹部部屋に響いた。
次の瞬間No3君はあたしの横に戻っていた。
…なぐられた…。
しかも思いっきり…。
「No3てめーか。それに変な呼び方吹き込んだのは」
つり目がかっと見開かれていた。
さげすむようにNo3君を見下ろす。
…てゆーかそれって…。
一応人間なんですけど。
「えっちょっと…何も殴ること…」
もしかしてこの人仲悪いの!?
「いってー!!かーくんマジで殴るんだもんよー!」
「たりめーだ。お前は本気で殴んなきゃ効かねぇだろ。手加減なしだ。」
「そんなかーくんが好き!!」
「だからその呼び方はやめろ」
…………………………。
…なんか、じゃれてるように見えるのは気のせい?
「いつものことだ。気にすんな。」
土屋君に座るように促される。
「あいつが楓神の副総長。遊佐和幸だ。」
…この人が…副総長。
「あ、瞳ちゃんかーくんに会うの初めてかぁ!かーくんも?」
「知らね」
すごく殴られたはずなのにNo3君はけろっとして遊佐に抱きついた。
遊佐はもうめんどくさくなったようだ。
「黒井瞳ちゃん!かわいいでしょ!?」
遊佐はじっとあたしを睨むと、口の端だけ吊り上げて笑った。あの下目遣いで。
「…たいしたことねーな」
これがかずゆきとの出会いだった。
「…ふーん。それでここにいるわけ。」
「そゆこと♪」
No3君から事情説明がなされたが、かーくんことかずゆきはすごく興味なさそうだ。
パソコンをいじったまま目線を外さない。
「…あった。JOKERのサイトだ。」
遊佐が小さく口に出した。
「!!ホントか?」
「マジで!?ハッキング成功?」
土屋君とNo3君は食い付く。
「あぁ。どうやらやつらはこのサイトで情報を入手したり操作したりしてる。おそらくこれでこれからのやつらの行動も掴める。」
遊佐君がにやっと笑った。
「…でかした。かずゆき」
土屋君も口の端を上げた。
「どゆこと?」
「JOKERの本部サイトを突き止めたんだ。やつらはあまり集まらない。その代わりにこのサイトで情報のやりとりをしていたってわけ。」
NO3君が説明してくれた。
なぜか表情が輝いている。
「どうするそうちょー!?さっそく乗り込む!?」
…あぁ。そういうことか。
次に出た遊佐君の否定の言葉でNo3君は一気にしゅんとした。
「まだ早い。JOKERの組織形態、総長についてもっと把握してからだ。」
…話が難しくてついていけなくなってきた。
「かずゆき、お前の意見は?」
土屋君が先を促した。
「…とりあえず、ハッキングがバレる前に潰す必要がある。情報は今日中に入手するから、明日本格的に始動かな。」
遊佐君は冷静に告げる。
…すごい。
「かーくんはね、風神で唯一の1組の生徒なんだ♪」
No3君が自慢げに言った。
…1組って…
「あのトップクラス?」
「そ♪楓神の頭脳だよ!」
なるほど。だからこんなに…。
それに、教室も遠いから今まで会ったこともないわけだ。
「…それともう一つ」
うちらのことは完全無視で遊佐は続ける。
「その女はまず真っ先に狙われる。どーにかした方がいいんじゃね?」
鋭い視線があたしを貫く。
「…え」
「わかるだろ?俺らが巻き込んだにしたって、やつらにとってかっこうの餌食のお前は、ただの足手まといだ。何が起きても覚悟できてるなら別だが。」
試すように
遊佐はあたしを見つめる。
拳を握り締めた。
「…覚悟するよ。」
土屋君とNo3君が驚いたように振り向く。
「迷惑にはなりたくない。あたしのことは気にしなくていいから。そのJOKERを潰すことだけ考えて」
ホントは怖い。
でも、今まであたしは守られることしか知らなかった。
考えてなかった。
No3君たちや…たつのぶに。
でも、それじゃダメなんだ。
守ると言ってくれたみんなのためにも、あたしは覚悟しなければならない。
…強く…ならなきゃ
遊佐君を見つめ返すと、どことなく意地悪く笑う。
「ふーん。上等」
あたしの心の中の甘えをみすかされてる気がした。
*
いつも通り、土屋君に送ってもらい、コーヒー店の前で別れを告げる。
あのあと遊佐君はひたすらパソコンを睨んだままだった。
手だけがものすごい速さで動くのだ。
まだ作業があるからと、あたしたちは先に帰された。
『あ、黒井瞳。』
…帰り際、遊佐はあたしをよびとめた。
つもりなら、その「遊佐君」てやめて。気色わりぃ』
『これからここに入り浸る
…あの人ホント口悪い。
『…じゃぁなんて呼べばいいの?』
問うと遊佐は、またパソコンに向き直り、そっけなく言った。
『…苗字君付け以外なら何でもいい。』
なんでだろ。
意外だったなー…。
よく分からないけど、とりあえずかーくんは怒られそうだからかずゆきにしておこうかと思う。
暗い道を歩いていると、前からゆらりと人影が道を塞いだ。
「……!!」
雰囲気で分かる…。
あの感覚に似てる。
こいつらはヤバい。
逃げようとする間もなく口と手を抑えられ、路地裏に引きずられる。
「んー!んー!」
叫ぼうとすると容赦なく殴られる。
封印したはずの感覚が這上がってくる。
『逃げられると…思ったの?瞳』
…あいつの声がした気がした。
力が抜けた。
思考能力が低下する。
ボヤけた視界の中に漆黒が見えた。
色と音が戻ってくる。
―ガッ―
さっきまであたしを抑えつけていた男たちがふっとんでいた。
「て…めっ…土屋!」
つち…や?
目の前で男達を殴り続けているこの人は…土屋君なの?
いつか見たあの目だ。
うつろなくせに、その奥では危険な光がギラギラと放たれている。
男達は反撃する隙すら与えられず、ひたすらうめいていた。
男達はもう立ち上がる気力さえない状態なのに、土屋は拳を振るい続ける。
その拳を後ろから誰かが掴んだ。
「それ以上やったら死ぬ。」
…かずゆき…。
土屋君は表情一つ崩さずに、男達の屍を蹴り上げた。
「…クズが。次はねえぞ」
冷たい…感情のない声。
「ほら、行くぞ」
土屋君に腕をつかまれて
立ち上がろうとするが、足が震えてうまく立てない
「ご、ごめん…ちょっと待って」
「待ってたら、奴らが意識を取り戻すかもしれねえ」
そういうなり土屋くんはあたしを
小脇にひょいっと抱えて歩き出した
「ちょ、ちょええええ!!おろしてええ!!」
「うるせえ」
その光景をかずゆきが呆れた顔で見ている
そこへ前から人影が走ってくるのが見えた
また…敵!?
「そうちょー!!大丈夫か…って瞳ちゃん!?」
「No3君!?なんでここに…」
「かーくんから連絡があって…ってそれより瞳ちゃん、怪我…」
「え?ああ…」
言われて改めて、奴らに頬を強く殴られていた事実に気づく
こんな傷…
今まで受けてきた傷よりずっと軽い
「かずゆき…やっぱり奴らはJOKERの手下の奴らか…」
「その可能性は高いね…とりあえず、立ち話だとまずいだろうから一旦学校に戻ろうか」
「いや、その必要はない」
土屋君は私を指差して言う
「おい、お前の部屋を貸せ。こいつらとお前に話がある」
「え、ええええええ!?」
「わーい、瞳ちゃんの部屋だ♪って…なんか何も置いてないね…」
「ごめん、殺風景な部屋で…」
「なんでもいい、とりあえず喉が渇いた。なんか出せ」
土屋くんの言葉に、しぶしぶ麦茶を取り出す
…優しいのか俺様なのか…
よく分からない人だ
「俺は明日から、他校に偵察に行こうと思う
しばらく学校へは来れない
だからお前らがこいつを守れ」
「かずゆきには情報収集に徹底してもらう
だから、No3。お前がこいつを毎日送り迎えするんだ」
かずゆきは納得いかない、といった表情を浮かべていて
No3君は…なんかすごい嬉しそうだ…
「分かったよ総長ー!!瞳ちゃん、俺がついてるからもう大丈夫♪
あんな奴らこてんぱんにしてやるよ!!」
「…お前に任せて大丈夫なのか?」
「ひでえなあ、みっちー…俺やるときにはやる男だよ?」
「まあ、いい…とりあえずそういうことだ…じゃあ俺は帰る」
総長が立ち上がると、かずゆきもそれにつづく
つくづくマイペースな男だ
しかし
No3君は、じっとあたしを見つめているままだ
「えと、No3君…帰らないの?」
「え、ああ…ごめん、その傷痛そうだなって、思って…」
「たいした事ないよ…」
「俺、今日出遅れちゃったことすげー後悔してんだ
もう明日からは瞳ちゃんにこんな傷負わせたりしない」
真剣なまなざし
No3君はたまにこういう顔をする
ふざけてヘラヘラ笑ってる顔とは大違いで
綺麗だ、と思った
「じゃね瞳ちゃん。また明日!」
マンションの玄関まで総長達を送る。
外に出ると壁に寄りかかり土屋君が立っていた。
「かずゆき、No3、先に行ってろ。」
かずゆきは目を細めた。
「…分かった」
少し笑うとやはり大きな紺色のバイクに跨り去って行った。
土屋君と二人きりになってしまった…。
「…なに?」
気まずくて先に口を開く。
「…手、震えてるぞ」
「…!」
自分の手を握る。
「…寒いから。もう中入るね。今日はホント…ありがとう」
「お前、一人暮らしなのな」
マンションへ入ろうとすると、後ろから声がかかる。
…あぁ。ばれてしまった。
「そう。自立したかったの」
「そんなに弱いくせに?」
「…!」
振り向くと、土屋君と目があう。
彼の瞳の奥の光があたしを射抜く。
「なんでそんなに強がる」
「強がってなんか…!」
「いつもお前の目は何かに怯えてる」
…全てを見抜かれている気がして怖くなる。
…逃げたくなる。
「目そらしてんじゃねぇよ」
腕を掴まれた。
「…やっ」
悪寒が這上がる。
あいつの影がちらつく。
「ごめん…今、ちょっと触らないで」
言い終わる前に、あたしは土屋君の腕の中にいた。
「…もう大丈夫だから。」
頭の上で、彼の声が聞こえる。
彼の身体からそれが振動となって響いてくる。
「…泣けよ」
「…え?」
「そんな泣きそうな顔するくらいなら、泣いちまえ」
土屋君の低い声が彼の胸から振動となって響く。
「強がるなよ」
なんでか分からない。
ただ、涙が溢れてきた。
圧し殺していた恐怖が形を取り戻し、安心感とともに押し寄せてくる。
どのくらいその状態だったのだろう。
少し落ち着いたらとたんに恥ずかしくなってきた。
マンションの前で何をやってるんだ!?
「あ、ごめん!なんか…。ありがとう。それじゃ!」
足早に立ち去ろうとすると、また声がかかった。
「覚悟するって言ったな」
「え?」
倉庫で言ったこと?
「そんな覚悟いらねぇ」
…どういうこと?
だってあたしが強くあらないと…
「そんな覚悟いらねぇから。俺に守られる覚悟決めろ」
…守られる…覚悟?
「過去に何があったか知らねぇが、今は俺がお前を守る。」
うつろなはずの彼の瞳は、まっすぐに、強くあたしを見つめていた。
…と思うと、すぐにいつも通りに戻る。
「そんだけ。それじゃ」
土屋君は漆黒のバイクへ跨り、エンジンをかけた。
そして初めて会った日のように風のように笑った。
そのままバイクは走り去って行った。
頬が温かくなるのを感じ、部屋に戻った。
*
「んじゃあ、帰ろうかー瞳ちゃん」
授業も終わり、日がゆっくりと沈みかけた頃、No3君に声をかけられた
外に出てみると辺り一面が、オレンジ色に輝いて
街中を照らしていた
すごく綺麗だ
こんなふうに景色を楽しむ余裕なんてできたのは
本当に久しぶりだ
「ねえNo3君、土屋くんはいつ帰ってくるんだろうね」
「んーどうだろ、てか瞳ちゃん」
「え?」
「それ前にも聞かれたよ?」
「あれ、うそ??」
「ちぇーなんか妬けちゃうなー」
「いや、別に、そんなんじゃなくて、えと、あの」
その時突然、物陰から4、5人ほどの男が現れた
もしかして、またJOKER…!?




