第二十五話 理解できないK
とうとう結果が廊下に張り出される。
私の名前…
「全教科 第一位 田畑颯太 立花小春」
うそ…颯太と並んでしまった。
人ごみをかき分けて颯太がこちらに向かってくる。
「だから言っただろ、お前は頭がいいんだよ」
「そうなの…?」
「だからもう勉強はいらないってこと」
…そうなの、か…
「ごめん颯太、私多分受験前日眠れないかもしれないから、勉強するわ。」
颯太が少し険しい顔をした。なんでなんだろう…
*
結果発表後、佐紀ちゃんと楓がワッと駈け寄ってくれた。
「春ちゃん、1位おめでとー!」
「小春頑張ったじゃん!」
「ありがとー楓、佐紀ちゃん!」
「ねえ二人とも頑張って頭いいところ入って演劇してみない?一緒に演劇やってみない?」
「それ私もずっと考えてた」
「演劇やりたいねー!」
京子ちゃんもきっと頭いい学校で演劇やるはず…!
伝説への前夜祭が今始まろうとしてる…!!!
テストも終わったことだし、イベントに行きたくなってしまった。
もちろんKの。
コンビニで買ってもらった肉まんを食べながらお母さんと雑談。
「お母さんーKのイベント行きたい」
「あんた、Kのことばっかりやね、高校まで我慢して、バイトでもして行かれ!そんな高いお金お母さん払う余裕ないよ!!」
…辛いお金さえあれば行けるのに…
そういえばもうすぐでクリスマスだな…
外はちらほら雪が降り始めていた。
「お母さん」
「…ん、どうしたん」
「高校入ったら、お金返すから、プレゼント渡したい…颯太に」
「…お金返さんくていいよ!それぐらいお母さんだしてあげる!!」
「ありがと~お母さん」
「お母さん、颯太何が欲しいかな…」
「マフラーとかいいんじゃない?黒いの」
「確かにいいかも!あいつ暑がりで寒がりなんよ!」
「あんたもそうやろ、というより、みんな暑いのも寒いのも苦手なんよ!あんたら二人が特に苦手なだけやわ」
確かにという蟹…私は夏は好きだけどなあ。
冬は…体が弱いから仕方ない。すぐに風邪ひくし。
とりあえず、明日はやすみだからお母さんとアウトレットモールでも行こうかな。
*
翌日。アウトレットモールは割と混雑していた。
私も自分用の服を何着か買ってもらったあと、ようやくマフラー探しだ。
「お母さん、これ良くない?黒いのに☆柄のマークのやつ。
「…あんた、男子が☆柄のマフラーなんて欲しいと思う?」
そうか、男子と女子じゃ欲しいもの違うよね…
「お母さんに、任せとかれ、颯太君に似合いそうなマフラー探して買ってあげる」
お母さん…頼もしいよ
お母さんがいなかったら、生きていける気がしない…
「お母さん、今までの本代もマフラー代も全部働いて返すからね」
お母さんが笑う。
「バカやね、あんたは」
「え?」
「お母さんはあんたが生きてくれとるだけで幸せなんよ」
お母さん…お母さんのために私生きるよ…
*
今日は三限目に体育がある。
憂鬱だなと思いながら着替える。
男子は別部屋で着替えるから、その時だけは女子高にみたいな雰囲気で楽しい。
体育服に着替えが終わってから、みなに話しかけた。
「ねえーみな」
「どうしたん、春ちゃん」
「創作ダンスが面倒くさい」
「およよ…私も面倒くさいよー、誰とグループなるのかねえ」
創作ダンスのチームはどうでもいいけど、これやる意味あるのか分からない授業は苦手だ。
でも楽しみな気持ちも無きにしも非ずだ。
体育の若王子先生は人気な体育の先生だ。
先生は過去に、卒業生の前で門出を祈ってA☆RA☆SHIのダンスをキレッキレの動きで披露したらしい。
私は風邪をひいて寝込んでいたのでまた披露してほしい。
ちなみに颯太は必ず体育の授業は欠席している。
体育館に生徒が集合する。
「全員そろったな、じゃ好きな人とチームを組んでソーラン節を始めよう」
私はゆうちゃんとさきちゃんとチームを組むことに決めた。
「たちばなぁ、私たちの足ひっぱらないでよ」
「ええ…ゆうちゃん、うちどんくさいから…足引っ張るよ…」
さきちゃんが笑う。
「明日にでもようつべでソーラン節の動画見て練習しよう、やればできるちゃ」
さきちゃんはやっぱり天才。
ソーラン節がよく分からないから、ようつべで見るしかない。
先生がラジカセを持ってくる。
ああ、恥ずかしいなこれ
「やーれんそーらんそーらんそーらんそーらんそーらんはいっはいっどっこいしょっどっっこいっしょ」
先生が見本を見せてくれる。
ソーラン節まであんなにキレッキレな動きができるなんて、さすが先生だ。
その日の夜、私はソーラン節の動画を見まくっていた。
なるほど…みんなプロだな…
私ダンスととか本当に無理。
動きを覚えるのが無理すぎる。
あれ…でもそれじゃ演劇部に入れないじゃん!?
頑張ろう、ソーラン節を乗り越えて高校は演劇部に入ろう!
*
今日もソーラン節で体力を使ったので体はヘトヘトだ…
今日は勉強を休もう
根を詰めすぎないようにと親からきつく言われているし。
今日はいよいよKの聖書を読むとき…!
お母さんに散々お願いした神々しい聖書、保存用、自習用、布教用etcなどお金があれば何冊でも買いたいレベルだ。
え、なにこれ、やばい…
今までKで出された派生話が全部載ってるじゃん!?
私と颯太で手探りで集めたKでもまだ見ぬKがあるなんて…
しかも今年はいろんなKが来るらしい…!
ラスベガス、KMK、聖書のイベント、マック、薄い本、ロック
一体これからKはどんな展開をしていくのだろう…
絶対に終わってほしくない。
聖書を読み進める、巻末をみて私はびっくりした。
こんなにモブキャラまで意味があったのか…!
私眼鏡のキャラとスケボーのキャラのことで頭がいっぱいだった。
聖書を読みふけると、今までの勉強を忘れそうになる。
私やっぱり小説家になるなんて無理…
こんなにたくさん文字を書くなんて無理だ…
颯太にラインを入れる
「颯太ー、Kの聖書が分からないよ…」
「ごめん小春、俺は聖書持ってないからそこらへんはよく分からない…」
「じゃあ明日持って颯太の家行ってもいい?」
「いいよ」
やっぱり颯太はいい奴だ…
翌日。こっそりKの聖書を持ち出し、颯太の家に到着。
ロフトの上にいそいそと登り、颯太に聖書を渡す。
ドキドキ…颯太なら分かるかな…
パラパラとめくって颯太がため息をつく。
「ごめん、小春。これは俺にも分からない…」
これは神話の観点からも調べなければ…いや原作者の書籍も調べるべきか…とぶつぶつ言っている。
そんな…颯太にすら分からないなんて…
颯太がスクバから付箋を取り出して、私でも分かりやすいと所だけ付箋をつけてくれた。
「とりあえず、小春でも分かる所だけ付箋を付けておいたから、ゆっくり読めばいいよ」
「ありがとう颯太!!」
思わずぎゅうっと抱き着いてしまった。
あれ、これはまずい。すぐに体から離れる。
「あの、これは嬉しいのハグであって好きとか恋愛じゃないから…」
颯太は笑う。
「そうだな、…俺たちは、友達だからな」
その笑みはどこか寂しそうな残念そうな笑みだった。
どうしてだろう…
*
今日はソーラン節の発表会。
「立花ちゃんとできるがけ?」
「大丈夫だよゆうちゃん多分」
「春ちゃんどんくさくても大丈夫、それらしき動きしてればオールOKやわ」
さきちゃんの口癖のオールOKって一体なんなんだろう…
「では立花のチーム、ソーラン節開始!!」
先生の掛け声と同時にソーラン節を開始する。
やーれんそーらんそーらんそーらんそーらんそーらんはいっはいっ!
何か来たときゃ?かもめにとえばわたしゃたつあいつに聞け?
チョイエンヤサーノドッコイショハードッコイショドッッコイショ
終わった後パチパチとみんなが手を叩いてくれた。
これ絶対そんないいものじゃない…
ふと拍手をしてる中で見かけてしまった。
颯太…見てたなんて。
「それじゃ次は男子なー」
男子の番が来ると同時に颯太は風のように消えた。
ソーラン節後、私は真っ先に颯太に詰め寄った。
「颯太、体育サボってたくせになんで私のソーラン節見てたの?」
「いや…マジで面白すぎて腹筋崩壊するかと思った」
「体育サボるなんて駄目だよ」
「いや大丈夫、金の力で何とかなる」
…そんな、それでも世界は金で廻っている…それ町的な…
勉強に不安がある人はみんな冬期講習を受けるらしい。
あとは、保護者会と終業式が終わったので二学期は終了。
冬休みが2週間。
早く終わらせて高校行きたいなー…。
『お前は頭いいから勉強する必要ないよ』
颯太の言った言葉で大分不安がなくなった。
そうだ、根を詰めて勉強する必要なんてない。
公立にこだわる必要なんてない、落ちたら私立に行けばいいだけだ。
よく分からないけど、私は頭がいいらしい。
無理して高校の化学も物理も数学も根を詰めなくていい。
0点でも、颯太からお金を借りてなんとかしてもらおう…
みんなが冬期講習で会えなくなったから、私はしょっちゅう颯太の家に遊びに行っていた。
颯太の部屋は暖房が効いていていつも暖かい。
私は暇なので颯太の部屋の掃除をしたり、着替えを洗ったりしてあげた。
これ…なんか、結婚してるみたいだけど大丈夫なのか…
「それにしてもさー名探偵の漫画って難しいよ」
「小春、名探偵の人物相関図分かる?」
「いや全然、Kですらよくわからないのに名探偵100巻超えは堪忍しておくれやす」
「俺はアニメで全話見たけど面白いぞあれ」
「そうなの…私黒づくめなのしか分からないよー」
「あれはな警視庁、FBI、RUM候補が絡んでくるから小春にはまだ早いぞ」
え…そんな難しい漫画だったの…
「俺はアニメストアで全話見た、映画も」
「すごすぎるよ颯太、でもオリジナル回は寝てたやろ」
「……オリジナル回はまあ」
やっぱり…
「あと、こちとら亀有も面白いな…」
「国民的大人気漫画やんそれー」
「いやこれはアニメ見たほうが面白い、キャストが神」
確かに。この人の声はこの人じゃなきゃいけないっていうのあるよねー
「あと笑うるっせええまんと美味しんだもんも神、全話見た」
なにそのアニメ…
颯太がリモコンを素早く動かし、笑うるっせええまんを見せてくれる。
いや…これ全話見る必要があるのか…
そして美味しんだもんのOPとEDをみせられる。
「これ見てたらさ、なんか腹の奥がずきずきするんだよな…」
なんでだかよく分からない…
でも確かに美味しんだもんに出てくる料理よく分からないけど主人公はプロの仕事人だ。
*
今日も私は颯太の家に遊びに行った。インターフォンを押してから合鍵を使って中へと入る。
「颯太…あの、さ」
「なに?」
スクバから思い切って冬休み前に買った包みを渡す。
喜んでもらえるだろうか…
「これあげる…クリスマスプレゼント!」
「俺に…?」
颯太は呆然とした顔をしていた。
「…開けてもいい?」
「いいよ」
そっと丁寧に颯太は包み紙を開ける。先日お母さんに買ってもらったマフラー。
喜んでくれるかな。
「……ありがとう」
颯太は手に持ったまま呆然としている。
「ほら、巻いてみて!」
ぐるぐる巻きにすると、颯太はむせてしまう。
ぐるぐる巻きはやめてちゃんと巻きなおす。
「うん、良かった、すごく似合ってるよ」
その時偶然にもチャイムが鳴った。
「あー…ゾンアマからの荷物だ」
とってくると言って颯太が席を外す。
届いたのは大きな柴犬と小さな柴犬のぬいぐるみ。
「これ…小春にあげようと思ってた」
うそ…すごい偶然…
「ありがとう颯太!大事にするね!ところでなんで二体なの?」
「…つがいがいたほうがいいかなと思っただけだよ」
確かに…マギータでも聞いたことある…独りぼっちは寂しいもんな…
「じゃあさ、私大きいほうのぬいぐるみだけもらうね!小さいほうは颯太が持ってて」
「え…?」
「そのほうが安心しない?」
颯太が優しく笑った。
「それも、そうだな…」
「マフラーちゃんと使ってよ!」
「分かってるって」
*
その日は颯太とアニメを見ながらあーでもないこーでもないと笑いあっていた。
楽しいなあ、受験シーズンなのにこんなに楽しくていいのだろうか。
私はKについて調べようかと携帯を開いた。
その時達也君からラインが来た。
最近よく達也くんからラインが来るなあ…
「小春…すげえ夢小説見つけた、瞳★ロゼリエッタ」
え…どういうことなん…




