第二十四話 中華料理店 再来
受験受かるかな…心配になってきた。
佐紀ちゃんと京子ちゃんと楓と一緒な学校行きたい。
違う、寂しいからみんな頭の一番いい学校に来てほしい。
「ねえ颯太」
「なに?」
「覚えること多すぎて頭がフットーしそうだよう」
「俺ずっと寝てたわ、ずっと自習でいいのにな、授業なんて聞く意味がないから」
そんな…
私なんていまだに真剣のゼミやって、配られた答案用紙の復習、分厚すぎるドリルの復習毎日やってるのにこいつどんだけ頭がいいの…?
とりあえず頭がおかしくなりそうなので、国語の教科書を開いた。
楽しい話、腹が立つ話、ほのぼのする話、切なくなる話、愛おしくなる話、のんびり読める話、爽やかな話、人が死んでしまう話、人が生き返る話…ごんぎつねは何回よんでも泣いてしまう。
とにかく私は読書が好き。道徳も好き。
社会の先生の言ってたお前は小説家に向いてるよって助言は案外間違ってはいなかったのかもしれない。
いつか誰かに楽しかったよ、最高だねって言われる小説書いてみたいな…
中学でデビューした作家さんもいるらしいし…
小説家になれば将来安泰だ…
でも今は中学生のうちにやれることやっておきたい。
高校に入ったらカラオケに行きたい、友達と温泉にも入ってみたい、演劇サークル入りたい、ウィンドウショッピングしたい、誰かとデートもしてみたいな、颯太ともうしてるのかなよく分からないけど。
お金ないからアルバイトでもしようかな…
うちの家の近くに、中華料理店あるからそこでこっそりバレないように働くのもありかもしれない。
*
その日はお父さんにカレーを食べさせ、お母さんと二人だけでお店に行った。
お父さんには内緒だけれど、実は常連なのだ。
中華料理店 再来
そこの店長をやっているのは巻貝秀樹さん。
年は私と15歳違う。
みんなは巻貝だから、親しみを込めて『ガイさん』と呼んでいる。
「ガイさんー食べにきたよー」
「おお!小春!と母上殿!」
顔つきはキリッと男らしい。
意志の強そうな目、そして漆黒の髪に映えるもみあげ。
おそらく私はもみあげがこんなに似合う人を今まで見たことがないだろう。
「ガイさん、私中学卒業したらここの厨房で働けるようになりますかね?」
「いや………小春はびっくりするドンキほ~てがあってると思うぞ」
…え、あんな激しくハンバーグ出さなきゃいけないところで働けるかな…
お客様がご馳走様ーとお会計を済ませて立ち去っていく。
「再見再見!」
ガイさんは生粋の日本人だが一時期、中国で暮らしていたことがあるのでたまに中国語が混じったりする。
「何食べるー?お母さん?」
「そうね…まずは小籠包と青椒肉絲から頂こっか」
店内は賑やかでたくさんの人がお酒を飲んだり賑わっている。
私の家の近くにこんないいスポットがあるなんてお父さんは一生知らないだろうなぁ。
お腹いっぱいになったところでお母さんと次はどこに行こうか話しあう。
「やっぱり次は8番のラーメンかテムジンの肉食べたいー」
「そだね、大ちゃんにまたおごってもらおうか」
大ちゃんは公務員で、お金をたくさん持ってるから、いつもたくさん御馳走してくれる。
こんなにおごってもらって申し訳なくなるレベル。
「お母さん、私大学生になったら東京に行きたい」
「…そうなの」
「うん、東京で知らない世界をみてみたい、美味しいものたくさん食べたい、いろんな仲間に出会いたい」
「きっと…小春ならできるちゃ」
「颯太はどこの大学に行くのかなー」
「あの子はきっと東大かもしれないね」
まじか…大学でお別れなんて寂しいな…
でも…私諦めたくないな!
みんな頭のいい高校に行きたいわけじゃなくてそれぞれの事情があるのはわかってる。
でもみんな優しいから、きっと溜まり場に遊びに来てくれるはず…!
高校生活…勉強さえ乗り越えれば楽しいはず…!!
さっそく家に帰って勉強だ!!
*
勉強しながらふと、一番好きな小説って何だろうな…と空想にふける。
一番好きな漫画は忍者のやつなんだけど。それぞれに持ち味があってとてもじゃないけど選べない。
みんな違ってみんないいってやつだ。
私は今日本文学にドはまりしてる。
太宰治と夏目漱石はいい。
太宰は桜の森の満開の下、夏目漱石は夢十夜が綺麗だな…
太宰治はなんで自殺なんてしちゃったんだろう。
こんなに素敵な小説が書けるのに…
分からないな…
颯太に聞いてみようかな。
早速ラインを開く
「颯太、なんで太宰治は自殺しちゃったの?」
「……メンタルの病気だったからだよ」
「メンタルの病気って何?」
「心の病ってやつ、全部完璧にこなしたいとか、周囲に評価されたいと思えば思うほどそうなる」
「そうなんだね…」
なかには自殺した人もいる…
辛い病気だ。
最近有名人の自殺が多い…悲しい世の中だ…
でも私は絶対負けない。
どこまでも生きたい。
親孝行がしたいから
*
「みんなおはっ」
挨拶をするとみんながワッと駈け寄ってくる。
いつも通り真っ先にみなが泣きついてくる。
「春ちゃん、テスト嫌だよー」
「私も無理…復習はしたんだけど、数学と理科もうダメかもしれない」
「ねー…一年の時からしっかり勉強しときゃ良かった…」
みなは家から一番近い普通科に行きたいらしい。私は電車で通わななければいけない、偏差値が一番高いところだ。勉強したいし、演劇もしたいから。
「でも暗殺の教室見てすごく気が楽になったよー」
「それなら良かったー」
そう、勉強なんて体の力を抜いて、自分の好きな教科に集中すればなんとなく分かるものなのだ。
HRのあと、先生が二学期末のテストを配り始める。
二学期末のテストが始まる。
あ、ここ真剣のゼミでやったとこ!
颯太に教えてもらっとこ!
友達に教えたところ!
解ける!!できる!
颯太に今度こそ勝てるかもしれない。
結果発表は3日後、すでにテストを解き終えて、みんなが書きなぐってるところを高みの見物だ。もちろん颯太も。
先生にバレないように隣で二人で笑いあっていた。




