第二話 世界で一番嫌いだからだよ
「世界で一番…嫌い」
「だから帰れよ……」
ドアがゆっくりと閉じていく。
駄目、田畑君がこのままじゃ危ないと本能で感じ取った。
立花さん、と呼んで押し留める先生の手を振り切って、田畑君をぶっ飛ばして、一目散に部屋に駆け上がった。
そこには机と財布と携帯だけがあった。
そしてお弁当の空が乱雑に入っているゴミ袋だけ。
どうしてゴミ箱がないの!?
テレビもない、なんで、なんで…
「なんにもないんだよこの部屋」
田畑君は立ち尽くしたままハハッと自虐的に笑った。
その顔はどこか虚しいような、寂しげな表情に見えた。
*
どうやって家まで帰ってきたのか覚えてない。
「せんせい、今日はありがとうございました」
先生は笑って「また明日学校でね、休みたかったら休んでいいからね」と言ってくれた。
車が去っていく音がする。
ドアを開けるとお母さんは心配そうに待っててくれた。
思わず抱き着いて私は縋った。
「っおかあさん、たばたくんって、おかあさんいなくて、おとうさんもいないの、分かんない」
お母さんが泣くのを堪えてる気がする。
「明日学校休む?」
「…休む」
「じゃあ今日はお母さんと一緒に寝ようか?」
その慈愛に満ちた表情に涙が溢れた。
「いやだああぁ!!!!、お母さん、死なないで、逝かんといて、置いてかいかんといてええええええええ!!」
お母さんの表情が厳しくなる。
「今、お母さんは生きとる!!!」
「生きてる…」
「生きとるから、殺さんといて」
「生きて」
「生きてるから、もう殺さんといて」
「うん…」
「あんたを置いて死なれんわ…」
泣き叫んだせいか頭がぼーっとする。
「お母さん」
「何?」
「仕事って、…大変?」
「…大変だけど、頭の九割は小春のこと考えてるよ、あんたは私の宝物、一人娘なんだから」
「そっか…」
「もう寝られ」
「うん、もう寝る」
「着替えんでもいい?」
「いい、もう寝る」
部屋に戻ると意識がなくなった。
*
目が覚めると妙に頭がすっきりしていた。
昨日お母さんに散々泣きついたからかな。
田畑君のこと、ひどいこと、言われたけど。
……なんでかな。放っておけない…。
だってまだ、中学生なんだよ!?
どこにでも行ける、なんにだってなれるじゃん!!
デニーズィランドに行きたい。動物園、水族館、博物館なんかもいいよね。
日本中旅をしてみたいな、たくさん数えきれないほどの本や漫画を全部読みたい。
友達と親と旅行に行きたい。ミュージカルも見てみたいし、香水とかヘアアレンジとかメイクにネイルに挑戦したい。山登り、スカイダイビングも、日本中の絶景すら見てないんだから見たいよね、テレビでよくやってるあれ珍獣ハントとかさ、私早智子ちゃんがピアノ弾いてるからエレクトーン弾いてみたい、飛行機に乗ってみたい、恋人ができて、デートして…結婚して…。もちろん友達の結婚式にも出席して…
楽しいことだらけだよ!人生!!
やばいやばい!!
私どこまででも生きてみたい。
私漫画が一番大好きだからこの世の漫画を全部読んでみたい!!
想像しただけでニヤニヤが止まらなくなる。
なんで田畑君はお金を持ってるのにどこにも行かないのかな…。
田畑君は動物園とか、興味ないかな…。
明日、田畑君に一緒に動物園に行かないか聞いてみようかなあ。
*
翌朝。
教室のドアを開けると数学が得意で私にいつも正論をくれる頼れる友達、野上友子ちゃん通称『ゆうちゃん』がこっちへ向かってきた。髪型はショートボブで雰囲気はぽわんとしているが、厳しいときもある。
「ねえ、…たちばなぁ~」
いつも通りぽわんとした表情と声。ゆうちゃんは本当にほのぼの癒し系だ、厳しい時は怖いけど。
「なに?ゆうちゃん??」
「田畑一切無視して、二度と関わらんほうがいいから」
すごく真剣な目だった。
え、…今日動物園誘おうと思ってたのに。
「ごめん、ゆうちゃん、明日学校休みやから田畑君に動物園行かんか誘ってみる」
ゆうちゃんはぽかんとした後、爆笑した。
「…立花やっぱり頭狂ってるわ…もう、好きにすればええやん」
なんでこんなに笑われたんだろう。
田畑君、発見。あれ今日は眼鏡が新しくなってる。相変わらず頭が目元まで髪に覆われてぼさぼさだけど…。
「田畑君おはよう」
「こっち来るなよ」
「なんで、…?」
「話したくないから」
困ったなあ、動物園に誘いたいのに。
「じゃあさ、話だけ聞いて!明日の休みの日私と動物園行こ!」
田畑君が呆然とする。
「あんな動物の置物見て何が楽しいのか分からないんだけど」
動物の置物って表現すごいな。
動物は生きて動いてるからすっごく可愛いのに。
私の家の室内で飼ってる柴犬クッキーはちょっと凶暴で苦手だけど…。
「置物じゃないよ、動物だよ、可愛いよ」
「あんなの檻に囚われた可哀そうな置物だから」
檻に囚われた可哀そうな置物ってどういうこと?
うちの家では玄関にたくさん置物が置いてある、来るもの拒まずの家だから友達のたまり場になってるし。
「田畑君、…明日の休日、動物園行かない?」
田畑君のイライラしてる雰囲気が伝わる。田畑君の足は貧乏ゆすりがとまらない。
あと、白髪が一本だけ入ってるのを見つけてしまった…。まだ中学生なのに、なんでなの…。
「動物園不愉快だから、行かない」
前を向かないと授業が始まってしまう。
でもぎりぎりまで粘った。
「田畑君、白髪だけ抜かせて」
「バカ…ッ、やめろっつってんだろうが!!!」
制止する声すら聞かないまま白髪をぶち抜いてしまった。
チャイムが鳴る。
今日もまた数学の授業か、気が滅入る。
田畑君は後ろで呆然としている感じ?
まあ、いいか。
これですっきりしたし。
白髪はそこらへんの床に落とした。クラスの雰囲気がざわついた。
もうどうでもいい。それよりも数学勉強してお母さんに褒められよう。
先生の話は難しい。
私は国語が一番好きだから。
あったかい文章を読むと幸せな気持ちになるから。
………まって、田畑君は国語1位だから、つまり、愛情に飢えてるってこと…だよね?
そうか、分かった。私が田畑君を幸せにしてあげよう!
*
ようやく学校が休みだー。
今日はみなと、ゆうちゃんと、まゆちゃんと、さきちゃんと楓と騒ごうっと。
私の家は去る者は追わず来る者は拒まずだから。
いわゆるアメリカンスタイルな家だ。
お父さんも土足で家の中歩いてるし意味が分からないけど。
お母さんがいつも汚いと腹を立てている。
友達はみんな田舎の長い道のりを自転車をこいで私の家まで来てくれる。
みなに至っては田舎の道は景色が変わらな過ぎて頭がおかしくなりそうって言ってた。
でもそこまでしても私に会いたがってくれるのがすごく嬉しい。
チャリは家の前の空いてる道路のはじにみんな止めている。
「お邪魔しまーす!」
お母さんがバタバタと駆け足で出て
「どうぞいらっしゃいー!!」と明るい笑顔でみんなを出迎える。
みんなでギャーギャー騒ぎながら、階段をあがっていく。
そして溜まり場に集まってあーでもないこーでもないと話し合う時間が楽しくて仕方ない。
「まじ田畑やばい、関わらんほうがいいよ小春」
と嫌悪感を感じながら言ったのは長谷川楓、通称『楓』は髪はショートヘア、顔立ちは凛とした雰囲気で目元がキリッとしている。生徒会長を務めている姉御肌だ。
「ま、たちばなの好きにすればええんやないのー」
ゆうちゃんもマイペースすぎてウケる。
「それより春ちゃんが心配だよ」とみなが言う。
とりあえずみんな落ち着いて欲しい。
私田畑君別に嫌いじゃないんだけどな。
まゆちゃんに至ってはそこらへんの布団で寝ている。
自転車漕ぎすぎたのか疲れたのかなあ…。
いつも通りのカオスの中でなんだか異変を感じた…。
おしゃべりなさきちゃんが沈黙してる。
大岡紗季、通称『さきちゃん』は髪が長くてストレートヘアーのよく似合う明るい子だ。
顔立ちは某有名ソングライターあいこに似ている。
「さきちゃん、どうしたん…」
私は恐る恐るさきちゃんに話しかけた。
「ねえ、みんな、…私、田中とこの間路上でセックスしちゃった。」
……セックスって、え、つまり……どういうことなの…
「さきちゃん…赤ちゃん産むの?まだ中学生なんに…」
私がが再度問いかけてもさきちゃんは黙り込んだままだ。
周りの空気がしんとなる。
さきちゃんは「ゴム付けたからだいじょうぶやと思う」と言う。
ゴムってなに…輪ゴムのこと…?
海の王のゴム…?
分からないよさきちゃん…
みなが深刻そうに言う「男のちんこはさ、ペットボトルくらいあるんじゃないの?」と不安になっている。
ゆうちゃんは笑って
「心配ゴム用」とか言ってるんだけど大丈夫じゃないそんな…
さきちゃんは笑う。
「春ちゃんなんも心配せんでいいよ、オールOKやわ」と笑う。
そうか…さきちゃんがそういうなら大丈夫やわ。
まゆちゃんはずっと寝たままだし…。
ま、いっか…。オールオッケー???
*
今日は念願の日曜日。
なにして遊ぼっかなー
そうだ、お母さんに買ってもらった少女漫画の雑誌読もうっと。
私の一番気になってる怪盗してる女の子の漫画だ。
ドキドキしながら開くと、びっくりした…。
表紙ですごくカッコいい男が背後から女の子の胸をもんでるんだけど大丈夫なの…?と心配になる。
そしてサブタイトルは君に狂った薔薇になる…すごいネーミングセンス。
真剣になって読み続ける。集中力のいる漫画だ。
私は絵が描くの下手すぎるけどみなは絵の天才だ。
漫画家になりたいからその才能を分けてほしいくらいだ。
黙々と読み進める。怪盗ものなだけあって次々と繰り出される衝撃の展開に目が離せない。
ストーリーを読み終えてほうっと息をついた。感動した。
君は、大切な女の子だって。
いい話だった。
田畑君はこういうの好きかな。
明日学校で聞いてみよう!
*
今日も暑いなあ。
私は先生に内緒でカバンの中に雑誌を隠してる。
田畑君はどんな反応するかなあ。
いつも通り友達に挨拶して真っ先に田畑君に向かっていく。
「田畑君、おはよっ」
「……はよ」
田畑君が返事を返してくれた!?
奇跡が起きてしまった。
鞄の中を漁って先生にばれないように見せなきゃ…
「これ!!読んで見て、絶対面白いと思う」
「ふーん…」
田畑君が表紙だけ見て笑った。
「どう?面白いと思う??」
「全然面白くない」
そうか…面白くないか…
田畑君ボソッと小声で言った。
「少年漫画なら、知ってる…」
え!?
「忍者のやつ…友達にでも聞いてみれば?」
私は真っ先にみなのもとに向かう。
「みな、面白い少年漫画、忍者のやつ、分かる!?」
みなとはオタク仲間だ。
漫画を貸したり借りたりしている。
「ああ、それなら…分かるから明日持ってくっちゃ」
「ありがとうみな~」
「いいってことよ」
さすがみな。面白い漫画を見極める力がある。
田畑君は読んでくれるかな、ワクワクしてきた。
忍者の漫画ってなんだろう、楽しみすぎる。
*
みなが貸してくれた漫画を読んだ。
衝撃的だった。
これ田畑君じゃん!?
田畑君はなんか黒髪の目に力を持っている人に似ている。
そうか、分かった。
田畑君は忍者だったんだ。
忍者とは耐え忍ぶもの。
そう、お母さんもお父さんも居ないから、ずっと耐えてたんだ…。
可哀想…。
漫画を読み終えてから涙がこぼれた。
これは傑作だ。
さっそく田畑君に報告しないと、忍者読んだって、そしたらきっと田畑君も楽しくなれる。
幸せだな…人間に生まれてきてよかった。
*
翌日。さっそく田畑君に報告。
「田畑君おはよっ漫画読んだよ、めちゃ面白かった!やばいこれ私のバイブルやわ」
「ふーん、よかったな」
クラスの雰囲気が変わる。
田畑ってもしかして立花好きなんじゃ…
とかなんとか聞こえるけどなんだか今はどうでもいい。田畑君と話すのが楽しい。
「昔、テレビ持ってた」
「…え?」
「それで見ただけ」
テレビは売ったの!?
田畑君の様子がおかしい。
ニヤニヤ笑って田畑君が言った。
「俺の家来いよ」
「え!?前入るなって言ったのに」
「気が変わっただけ」
「そうなん!!??」
「…そうだよ」
分かった!部活動終わったら遊びに行くね!!
*
放課後は部活動に行かないとな…吹奏楽部めんどうくさいけどフルートは小さい音やし適当に吹いて田畑の家行こう。
男友達の内山達也君、通称『達也君』が野球部まじかったるいわ小春~と泣きついてきた。
内山君はみなと双子の兄弟だ。顔は全然似てないけど。
達也君はストレートヘアーでくせ毛がない。
「うちも吹奏楽面倒や~達也君がんば」
と適当に返す。達也君は話が面白くていつも私を笑わせてくれる。
そんな達也君が好きなのは早智子ちゃんらしい、今後どうなってくか気になるところだ。
田畑君は帰宅部だ。
何だろう、後ろから舌打ちする音が聞こえてくる。
何々怖い、田畑君どうしたの!?
「立花、部活速攻で終わらせて俺の家来い」
*
部活に全然集中できなかった。
でも田畑君の家遠いから帰るの遅くなっちゃうなあ。
田畑君は夕焼けを眺めながらぼんやりとしていた。
「田畑君、終わったよー」
「じゃ帰るか」
と言って田畑はスクバを持って立ち上がった。
「待って田畑くん、家まで遠いからまた今度、」
「立花の家から徒歩で行ける」
徒歩で行ける…?
どういうこと…
私の家まで行ける距離に引っ越したの?
田畑君はチャリをこぐスピードが速い。待ってといっても全然待ってくれないから必死で追いかけた。田畑君は私の家の近くの少し庶民向けのアパートの前でチャリを止めた。
「ここに引っ越したから」
え、なんでこんなところに引っ越したの…?
入り口は手前で、すぐ中に入れた。
「お、おじゃましまーす…」
そっと入ると私はまた驚いた。
ゴミが散乱してる。
ゴミ袋にはまた弁当箱の空ごみ、とりあえずゴミが散乱しててとにかく汚い。
大量のサプリメント…青汁?
例えるならここは…無法地帯。
前見たときの田畑君の部屋どんなんだっけ。思い出せない…。
「一度しか言わないから聞けよ」
「え、」
「俺の母親は死んだ。俺の種はどこに行ったかしらねえ。
中学は正直惰性で行ってるだけ。俺は自作アプリ作って金稼いでる
あんたが面白いと思ったから近くに引っ越してきたってわけオーケー?」
いや、ちょっと意味が分からない…。
「つまり、大人になれってこと」
「なんで、私たちまだちゅうがくせいなのになんで」
やばい、なんかトイレに行きたくなってきた。
「ごめん、ちょっとトイレ借りるね」
そこでも私はびっくりしてしまう。
トイレの中が…トイレットペーパーの芯が放置…。
あとユニットバスのお風呂場に髪の毛が入ってる。
とりあえずトイレを済ませて田畑君に言う。
なんかこの部屋においがきついな。換気がしたい。
「今日はここまでにしとくか」
トイレを済ませると田畑君はニヤニヤ笑う。
ごめん、気持ち悪い…
田畑君はスクバから鍵を取り出してくるくる回した後私に投げてきた。
「俺の部屋の合鍵」
「…え?」
「クラスの連中は多分知ってる俺たちのこと」
「なにを」
田畑君が近づいてくる。
嫌だ、怖い。
耳元でそっと囁かれた。
「……俺たちが、公然の、秘密の関係ってこと」
*
公然の秘密の意味が分からない…
お母さんに聞いても分からないし、ネットで調べても難しすぎる。
教室ではクラスの女子からいつもキャーキャー騒がれてる男の子がいる。
めっちゃカッコいいのに優しいから、谷口一聖くん、通称『一聖君』に頼ろう。
一聖君の髪は少しくウェーブがかっている。目元も口調もやわらかく優しい。女の子を無下にしないからモテる。
周りの女子が群がる中で少し大きな声で呼ぶ。
「い、一聖くん」
「ど、どうしたん?春ちゃん」
「昨日田畑君に俺たちは公然の秘密の仲だっていわれた」
「…………」
「公然の秘密ってどういう意味?」
一聖君は首をかしげてる。
分かりやすく教えてくれるかな…。
一聖君がやさしく笑って田畑には分からないように小声で教えてくれる。
「つまりさ、クラスのみんなは田畑くんが春ちゃんのこと好きだって知ってるってことだと思うよ」
え、そんな、私とうとう田畑君に愛されてしまったん…?
自分の席に戻る。
「ねえ…田畑君って私のこと好きなん?」
「……いや、面白いだけだよ」
ショック…。
面白いだけだって。
「あいつ、三下だよ、一聖より俺のほうがカッコいいから」
「そうかな…?」
「分からないのかよ」
「ねえ、田畑君椅子蹴るの怖いからやめてほしい」
「…ごめん」
え、謝ってくれた。
良かった、田畑君はちゃんと人の心を持っている。
「ねえ、田畑君、自分で自分の髪切ってるでしょ、美容院行かない?そっちのほうがカッコいいと思うよ」
「いらない」
「え…?」
「他人に俺の髪触らせたくないから」
「私くせ毛強いから、美容院行ってるよ」
「俺は、三下モブにモテたくねえんだよ」
ネットで調べてみたけどやっぱり分からない…
クラスメイトの皆は優しいし三下?でもモブでもないと思うんだけど…
今日のテストは国語だから嬉しい。
国語だけは私は得意。いつか田畑君を負かせてみせる。
「それでは、鉛筆消しゴムをもって始めてください」
あ、これ通販でやった真剣のやつだ!
さすがゼミなだけある。
真剣ならゼミで100点とれるって広告を信じてよかった。
これで田畑君を負かせられるはず多分。
後ろから真剣にがりがり書きなぐる音が聞こえる。
*
「結果発表くばるぞー」
国語の先生がテストの答案用紙を配る。
私は、98点!
「ね、田畑君何点だった。」
「100点」
え、負けてしまった…
「立花さあ、真剣のゼミやってたろ?」
どうして分かるの?
「筆箱もいつも新品だし親がお前の頭のためにどれだけ投資したか考えたほうがいいよ」
投資…?
私お母さんに迷惑かけてたのかな?
お母さん、笑いながらいつも欲しいものなんでも買ってくれたのに悲しい…。
「田畑君は、どうしてそんなに頭がいいの?」
「世の中の全員が頭悪いなって思ってるだけだよ」
世の中のみんなが頭が悪いわけでもないと思うんだけど…
でも、なんだか………
うまく言えないけど、…
「すごいね!!田畑君!」
「………は?」
「自作でアプリ作って親にも頼らずに生きてるじゃん、そんなこと誰もできないよ、すごい!」
田畑君は鳩が豆鉄砲でも食らったみたいな顔で呆然としていた。
あれ、なんか間違えたかな?
「……立花、アプリ見たい?」
「見たい見たい!!」
「じゃあ今日家に来たら見せてやるよ」
「うん、行くね!!」
ワクワクしてきた、アプリを作るってどうやるんだろう、早く見たいなーと思いながら英語の授業の教科書とノートを取り出していた。
放課後部活も終えて、自転車を走らせて田畑君の家に到着。
いつの間にか物が増えてる。
テレビとあと、ゲーム機。
「まずはこれで対戦な」
「え、アプリ見せてくれるんじゃないの?」
「それはまた今度」
田畑君がテレビの電源を入れる。
え、待ってという間もなくコントローラーを持たされる。
Lady, Fight!
の音にあわせて、ゲームがあっという間に始まって、コントローラーを持つ手がもたついた。
驚いた。
田畑君は滅茶苦茶ゲームがうまい。
もちろん、田畑君が圧勝。
「やっぱり俺の圧勝だな」
「負けたわ、田畑君…」
沈黙の後に、田畑君が言う。
「ピザとコーラ頼むか、おごってやるよ」
「え、でも今日お母さんのご飯食べないと…」
「食欲ない、とでも言っておけば」
うーん、食欲ないというとお母さん心配するからなあ。
でも田畑君はピザが食べたいらしい。
「じゃ注文して、田畑君」
「…ん」
素早い速さで携帯を動かして、注文が完了される。
チャイムの音が鳴る。
「ちはーピザでーす」
「おつかれさまーっす」
とかいう声が聞こえたらあっという間にピザが届く。
「これ机置いて」
「うん」
ピザはあまり具が乗っていないやつだ。
これなら四分の一ぐらいなら食べれる。
「ロフトの上でピザ、食べようぜ」
ロフト?…ああ、引っ越したからか…ロフトが見えた。
「その上でピザとコーラ飲みながら映画見よう」
え、映画…?
なんの映画だろう。
田畑君がレンタルショップで借りてきたDVDをだす。
「なんの映画なの」
「いいから…これめっちゃ面白いから」
ドキドキしながら待つ。
田畑君もロフトの上に上がってくる。
テレビ画面に集中する。
え、これアメリカのホラー映画じゃん!!?
「これ怖いからやめたいんだけど…」
「まあまあいいから、俺が解説するから」
田畑君に解説してもらいながらホラー映画を見る。
……………やばい、これめっちゃ楽しい!!
「やばいね、田畑君、ホラーってめっちゃ楽しいね!!」
「そうだろ、暇があったら家まで見に来ればいいよ」
「クラスの友達も呼んでみんなで一緒に見ない?」
「………」
なんで無言!?
「…立花とだけ見たい」
うーんそうなのか。分かった。
「クラスの連中、家族には俺と映画見てるって内緒にしとけよ」
「……なるほど、分かった」
「何が分かった」
「公然の秘密の意味」
「それはどういう意味か分かる?」
「家族にもクラスメイトにも田畑君と映画見たって言わないこと」
田畑君がフッと笑う。
「正解、そういうこと」
*
みなが忍者の漫画の続きを貸してくれた。
これはやばい、先生と遊ぼう。
大野和幸君。通称『大野先生』
大野先生は三国志にハマっているらしくて頭がいい。左目の下には泣きボクロがあり、体型は少し小柄だ。
みんなからは大野先生、勉強教えてくださいと、ご慈悲をくださいと崇められている。
「大野先生ー!!」
「お、春ちゃんどないしたん?」
「あの忍者の漫画の印結べる?」
大野先生は素早い動きで手を回転させて印を結ぶ。
最後はドンッで決める。
「さすが大野先生なだけあるわー私こんな早く印結べん」
「何事も練習あるのみや、それが忍者になるということなんや」
なるほど…忍者の道は果てしない。
あれ先生の雰囲気がおかしい。
「春ちゃんごめん、なんか後ろからおぞましいオーラを感じるから、解散や」
え、どういうこと…?
チャイムが鳴る。
とりあえず後ろからおぞましいオーラ?を出しているらしき田畑君は放置。
社会の先生の授業は人気だ。
なんだか全てを達観してるようなそんなオーラだ。
生生は老子を調べなさいとよく言う。
老子はよく分からないけど偉大な人物になれということだ。
先生は苦笑しながら田畑に向かっていく。
「田畑、いつも寝てるな、おい」
「すいませんせんせー」
これもよくある日常だ。
それでも100点取れるから、先生も田畑君もすごい。
杉山君が手を挙げる。
「せんせー、質問です、老子が分かりません」
先生は苦笑しながら言った。
「老子はなあ、偉大な人物になれという意味なんだ、俺はこのクラスのみんなに偉大な人になってほしいんだ分かるか?」
「……なんとなく、分かりました」
頭の悪い杉山君は納得したようだ。
みんなに聞こえないように後ろを振り返って言う。
「田畑君、先生の授業のとき寝るの駄目だよ」
「いや、授業聞かなくても分かるから」
田畑君はやはり…天才だったのか。
うちの後ろの席には天才がいる。これからも田畑君に分からんことは聞こう。
つまり田畑君はグーグル…。
「ね、田畑君、今日こそアプリ見せてくれん?」
「いいけど」
え、いいんだ。
「早く部活動終わらせて家に来いよ」
「うん、分かった」
「…自転車」
「え、」
「相乗りしたらすぐ行けると思うけど…」
相乗りはちょっと恥ずかしいからいいかな…。
「いや、普通に別々に乗るのでいいや」
田畑は面白くなさそうな顔であっそと言う。
そういえば最近友達と遊んでないな…
「ごめん、今日はやめとく…友達と遊ぶわ」
「…ふーん」
田畑は机を肘に乗せて面白くなさそうな顔で窓を見つめていた。
自転車をゆっくりこぎながら、風を感じる。
暑いけど、夏は割と好きな季節だ。汗をかくのもたまには気持ちいい。
「春ちゃん最近田畑といい感じやね~」
小学校からの友達、智美ちゃんが笑う。
智美ちゃんの将来の夢は看護師らしい。
その夢は絶対叶うと私は思っている。
「えー田畑君とは、そんな、感じじゃないよ~」
「嘘やー、田畑絶対春ちゃんのこと好きやと思う、つきあっちゃえー!」
真衣ちゃんが冷やかしてくる。真衣ちゃんも小学校からの友達。
二人ともデニーズィランドが好きで、いつか一緒に行こうと約束してる。
お母さんは仕事でいない。
みんなでクーラーをきかせながらアイスを食べる。そして他愛の無い会話をする。
放課後田畑君の家に行くのも割と嫌いじゃないけど、やっぱりこういう穏やかな時間が好きだな。
*
今日も平和だ。給食が美味しい。
先生は職員室で会議があるから、席を外しているからこっそりお菓子を食べたり羽目を外している。
そこでガラガラと戸の開く音が聞こえた。
やばい、これは先生!?
と思いきや吹奏楽の同期、『野田さん』だった。
体型はかなり大きめ。そして筋金入りのオタクだ。
骨の髄までオタクと言っても過言ではない。
最近は百合にハマってるらしい。
「小春氏ー今度また漫画貸しておくれやす。薄い本でも可」
そんな大きな声で私の趣味を暴露しないでほしい…。
「小春ちゃん、あの人誰?」
みなが心配そうに言う。
「いや。同じ吹奏楽部の人だよ」
野田さんはバリトンを吹いてて先生からたびたび、バリトンがうるさいと怒られている。
「じゃあ、今度先輩の家に持っていきますね、薄い本を」
「よろしこー!!!!」
クラス全員が爆笑の渦に巻き込まれる。
そういって先輩は月光仮面のごとく去って行った。
なんだったの、あの人…。
「立花」
田畑君が手招きする。
「お前って腐女子なのな」
田畑君がニヤニヤした顔でこっちを見つめてくる。趣味がばれてしまった。全てはそう…月光仮面のせい。
「今日うち来る?」
また誘われる。もう正直田畑君はお腹いっぱいだよ…
「いーよ…田畑君、またホラー映画見せて」
もはや、やけくそ状態。田畑君は機嫌がよさそうだ。
何考えてるんだろう…。
もう怖いけどどうでもいいや……
「自転車相乗りする?」
「いや…しない」
「なんで?」
「クラスの人にバレる」
「何を?」
「田畑君と私が仲いいってこと」
田畑君が堪えたように口元に手を当てて笑ってる。
*
田畑君は相変わらず自転車に乗るスピードが速い。
なんかもう自転車競技にでればいいんじゃないかな…。
マンションのドアを田畑君があけて待っている。
「入って、…小春」
え、いま名前で呼んだ?
混乱して頭が追い付かない。
玄関で靴を脱ぐのにもたつく。
まってまってどういうこと…
「なんでなんで名前呼んだの?もしかしてうちのことす」
玄関の壁に田畑君が手を激しく手を付ける、いわゆる壁ドンってやつだ。
続きの言葉を言う前に唇がふさがれた。
あ、これキスだ。
しかも舌をねじ込んでこられて息が苦しいやつ。
「ん、っあ…田畑君やめて!!!」
必死に田畑君の体から自分を引き離した。
どうしよう…田畑君にファーストキスを奪われてしまうなんて…
「ファーストキスだろ小春」
「下の名前で呼ばないで」
「クラスの連中の前では呼ばないから」
「なにがしたいの?」
「キスしたかっただけ」
「なんで?」
「……俺も分からない」
長い沈黙。
「田畑君に…汚されてしまった…」
「大げさだなキスぐらいで」
「もう、家族や、クラスの皆の前で平常心保てる自信ないんだけど…」
「演技すればいいよ」
「……演技?」
「何事もなかったようにやりすごせばいい。」
そう、なんだ…。
でも私はちゃんと好きって言われてからしてみたかったな。
「俺の家でだけなら、呼んでもいいよ」
「なんて?」
「颯太って、俺の名前、苗字のないやつ」
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
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