第十九話 体育祭①
帰宅。
とりあえず部活は片付いたから良しとしよう。
しかし達也君の言ってたスペシャルあざーす気になるな…。
夕飯後私はお父さんに聞いてみることにした。
「ねえお父さん、みなのお兄ちゃんってスペシャルあざーす好きらしいけどよく分からん」
お父さんがため息をつく。
「あのなあ達也君は天才なんやぞ、俺の時代はブラクコンテンポラリーみたいなソウルミュージックばかりレコードで聞いてたんやぞ」
「ブラクコンテンポラリーって何け?」
すかさずお母さんが止めに入る。
「あんたそのへんにしとかれ!春ちゃんが混乱するやろ!はい下がって下がって」
お父さんが慌てて退散した。
「春ちゃんブラクコンテンポラリー調べんでいいが!ジジは洋楽ばっかり聞いてたのよ…でも歌うのがクッソ下手なんだからね」
お母さんはいつもお父さんをジジ呼ばわり…ジブリのキキ的な意味か…よく分からんけど。
「お母さんはねえードラマではロン化けが一番好きなん」
「あ、分かる!OPだけ見たことあるよ」
「あの頃のキムラカッコいいよねー」
二人してスマッポのライブに行けばよかったねと後悔する。
「あとさ、バスストッピングもいいよね」
「あれは名作やね…歌はねえ、お母さんは、もどかしい唇が一番好きなのよ」
「あ、いつも車で送り迎えしてくれる時に流れてたやつかぁ、あれもなかなかいいね」
「でも、一番はカーペンターズかな…」
カーペンターズはよく分からんな。
滅の刃でも転生知しっちゃたスライムでもやってた、輪廻転生なんてあるのかな…
「ねえお母さん、おばあちゃんはどんな歌が好きだったの?」
「二人は二輪層だよ…」
すかさず携帯でりんそうを聴く。
「あ、……いい歌だね」
「またおばあちゃん家行くけ?」
「うん、おばあちゃんのにりんそう聞きたい」
「おばあちゃんにお正月福袋買ってあげんなんね」
「おばあちゃん福袋大好きだからね…」
正月は恒例のおばあちゃんの福袋開封の儀式。
ファッションショーが始まるからな…
「私小学校の頃見てた、天才なテレビくんの、どっきどっきのち晴れが好き」
「それはお母さんよく分からんわ…」
「天才なテレビくんの、あとフルなハウスが始まるんよ」
「それもお母さんよく分からんわ…」
「フルなハウスは、続編もでてるんだよ!神作品だよ!お金さえあればDVDBOX買いたいレベルだよ」
「いや、分からんわ…」
わからなかったか…
諦めよう。
*
私の家ではよく親戚の家に遊びにいく。
大輔くん、通称『大ちゃん』は私のオタ友だ。
ちなみに仕事は公務員。
お兄ちゃんみたいに優しくて、お兄ちゃんがいない私にいろんな知識を教えてくれる。
「大ちゃん、アダムとイブの骨とかよく分からんよー」
「じゃあこの哲学の本やるよ」
大ちゃんは優しい…。
私にいつも知らない知識を授けてくれる。
私が来ると大ちゃんのおばちゃんがばたばたと降りてきて「春ちゃん混乱するやろ!大輔、あんたお黙りっ!!」
と説教を受けている。
親戚や家族に友達、それから仲間との絆を大切に生きて行けば、いろんな幸せがもらえる。
…颯太はそういうのないんだよね。
今度、うちの親戚の家にご招待しようかなあ。
*
翌朝。夕方。
そろそろ体育祭かー面倒くさいなあ…
机でボーっと窓を眺めていると颯太が話しかけてきた。
「マーチング楽しみだな」
「…いや全然楽しみじゃないんだけど」
「小春のもたついてるマーチング見るの楽しみだよ俺は」
…最低野郎。やっぱり田畑君だなこいつ。
「じゃ、私帰るから、じゃあね田畑君」
「いやいや一緒に帰ろうぜ小春」
もう何がしたいのか…
チャリを漕ぎながら、田畑君と談話する。
「体育祭面倒くさいよー田畑」
「颯太だろ小春」
あ、やば…颯太がうるさい。
うるさい…チャリを止める。
「……うるっさい!!!!!もたついてるだのトロいだのいわないで!!!男の速さに女はついていけない!!」
「ごめん…俺、そういうつもりはなかった、マジでごめん」
一応謝ってくれた。
ふう、ヘイトをぶちまけたら、すっきりした。
「颯太、私のこと大事にして」
「大事に…?」
「…じゃないと、私颯太のこと嫌いになっちゃうから」
「ごめん、それだけは…許してほしい」
「ならよろしい」
「今日も颯太の家行っていい?」
「いいよ、何見たい?」
「うーん…海の王か忍者かなあエロいゲームも捨てがたし」
「じゃあ、世にも奇妙な奴見る?」
何それ!!??見たい見たい!!
*
颯太の家、到着。
スクバをドサドサ落として早速、颯太一押しの恐怖映像を見よう。
「これマジで神作品やぞ」
「……え」
画面に熱中する。颯太が解説してくれる。
私は極度のビビり症だから、こういう類の話は見ない。
「…秒間の軌跡はまじで神作」
「え…、どういうこと」
「いいから、画面集中してみ?」
え、なにこれ洗脳動画!?
子供達の集まる教室があった。若い先生がやって来る。ふむふむ、時刻はちょうど9時。最初は新しい先生にブーブー文句垂れてた子供たちも、歌やゲームを通じて先生と打ち解けていく。
いい話だなあ~え、先生は子供に「忠誠」を理解させたいの!?怖い。さらに先生は、愛国心?国旗は不要?であることを子供たちに教え、国旗をはさみで切り刻んで子供たちに配る。さらに国旗を、子供たちに学校の窓から投げ捨てさせた。
ええええ…?
先生に反感を抱いていたジョニーが不満をぶちまけると、先生はジョニーは頑張って学校へ行っている」と教える。「間違った考え」を直すことは良いことだ、という先生の意見に反論できず、ジョニーは釈然としないながらも引き下がる…
次に先生は「キャンディーが欲しい」と子供たちに試させる…?
分からないよ先生ー…
ジョニーはみんなが目を閉じている隙に教師がキャンディーを配ったことに気付き、先生はは逆にジョニーの褒めて、キャンディーをくれるのは神ではない誰かであり、神に祈っても結局は無意味であることを子供たちに教える。お、おう。
うーんなんか分からんなんこれジョニーデッ?
自分の教えた思想を子供たちがほぼ受け入れたことに満足した女教師が時計を見ると、時刻は9時23分であった。
ええええええええええええええ!!??
思わずロフトでひっくり返りそうになった。
「き、今日で一番面白い話だったわ、颯太」
「そうだろう?また俺の家来いよ、…さっきは本当にごめん」
「全然いいよっありがと、颯太っ」
良かった…やっぱり颯太は颯太だった。
翌日。
体育祭に向けて、楽器の大移動をしていた。
私は野田さんに聞きたいことがあって駆け付けた。
「野田さん、どうやったらいい男を見極められますか?」
「小春氏、俺もそこらへんは分からんぞ」
「私颯太が好きだなって思う時とクソ野郎って思う時あるんですよ…」
「なるほど、ね…では小春氏にいい男の見極め方を伝授する!」
え…野田さん…
「いい男は2タイプしかおらんぞ」
「?」
「一つは誰にでも優しい男」
「ほう」
「もう一つは好きな相手にだけ優しい男や!」
「なるほどー分かりました」
「いや、分かってないだろ小春氏」
「いやみなの兄貴の達也君がモテる理由が分かりました」
「ああ、小春氏と同じクラスの子か、さすが美奈穂氏」
颯太は誰にでも優しい男ではないし私にも優しい時と優しくない時があって怖いな。
やっぱり関わらないほうがいいのかな…
「ちなみにな、いい男の見極めの話は「自分が相手のいい男の面を引き出す」という信頼関係が必要なんだ」
「どういうこと…ですか?」
「つまり、自分が頑張って相手のいい男ぶりを引き出すという努力が必要なんだ、その点で言えば小春氏は颯太氏のいい面を引き出してると言える」
「そう、なんですか」
「やっぱり男性はかわいいとか美人とかルックスに最初関心をもつからな」
「わかりました、野田さんは小林さんのルックスが好みなんですね」
「違う、もうこの話は終わろう」
野田さんは勉強はからっきしなのにこういうことはすごく頭がいい。私のポンコツ頭ではここまでが限界だった…。
*
いよいよ今日ですべて終わらせられる。
学校のグラウンドにみんなが集結して、マーチング開始。
タタっとLet's Grooveの歌に合わせて、マーチングを始める。
この歌は割と軽快なテンポで悪くない。
ヤバい、今バリトンの野田さんにぶつかりそうになった。
早智子ちゃんはやっぱりピッコロのプロだなあ。
私も弾かないはずだったけど、頑張って吹いてる。
ああ…颯太がどこかで見てるかと思うと、悔しい、恥ずかしい…
音楽が終了。
盛大な拍手が送られるけど、これそんないいものでもなかった気がする…
みんながグラウンドからノロノロと撤収して、音楽室で飲み物を飲んだりして休憩する。
このあと、は…
二人三脚
ムカデ競走
後ろ向きリレー
キャタピラーレース
おたまレース
しなきゃいけないんだっけ…もう無理…。
フラフラとグラウンドに戻ろうとしたら、颯太と鉢合わせしてしまった。
何なんだろう…もう…
「いいから、こっち来いよ」
手を握られ連れていかれたのは理科の教室。
「ここで、…終わるまでサボろうぜ」
え…そんなこと、してもいいのかな。
確かにお母さんは仕事忙しくていないけど……まあ、いいか…!
「サボろう颯太!!」
一応グラウンドから見えるから、横向きになりながら、今日見たアニメや漫画の話をする。
「ねえ、昨日はどんなアニメ見てたの?」
「ん?最古パスだよ」
「それってどんなアニメ?」
「犯罪に関しての数値は計算されて、罪を犯していない奴でも、規定値を超えていたら裁かれる話だよ…」
「ええ?なにそれ?罪を犯してないのにひどい世界観だね…」
「いやこれは神作だよ、今度一緒に観よう」
「うん」
「小春は…昨日はどうせ同人誌読んでたんだろ?」
「そうだよ…眼鏡とスケボーのことで頭がいっぱいなんだよ私」
私は腐女子なことをからかわれて、悔しい。
颯太はエロいゲームが好きなくせに。
でも、楽しい。
疲れたから、もうここで寝たい。




