第百八十三話 まんPのGすぽッ…奴
次の日、俺は化学の勉強に取り組んでいた。
一定温度において、気体の体積Vは圧力Pに反比例する。この関係をボイルの法則という。
PV=Kは一定、PとVが反比例するということは、Pが大きくなればその分Vは小さくなるということであり、P×Vは常に”一定”となる。ここまでは分かったが応用問題まで手がつかない。思わず大きなため息をついていたら、前の席の三科が振り返って話しかけてきた。
「なになに颯太君!化学ジーマ―でヤバい感じ?」
「…ああ、ちょっとよく分からない…」
三科にプリントを渡すと、三科はふむふむと問題を読み込んで笑う。
「これは温度一定のとき、ボイルの法則が成り立つかんじかなあー問題式に当てはめると答えは1.0Lが正解だと思うけどどうー?」
俺は慌てて回答ページをめくる。答えはあっていた。
「三科…お前本当に化学できたんだな」
「あっひっっでー!俺にも得意な科目ぐらいあるぜ、それよりさあ颯太君相談乗ってくれよ」
「なんだよ」
「俺さあ…順子のこと忘れられないんだよ…」
その言葉にふと最近フラれていたのを思い出した。
「それはお前が他の女に目移りしてたからだろ、自業自得だ」
「ちっげーよ!俺は順子と付き合ってるときは、順子一筋だったつもりだよ!でもある日、いきなり彼氏できたから別れようって言われて…え?俺今の彼氏だろ?みたいな…唖然としたよね」
ああ、そうか。こいつは別れようとも言われないまま別の男を作られたんだな、と気の毒な気持ちになってしまった。
「お前順子のどこがそんなに良かったんだよ?」
「えー?順子可愛いし意外としっかり者だからさあ…忘れられないんだよ、初恋だったから、他のどんな女抱いても順子の事思い出しちゃうしさあ…順子とのファーストキスの味、忘れられないぜ、ハンバーガーの味だったな」
これはひどい。俺は一体何を聞かされてるのか。
「そうか…よく分からないけど辛かったな」
「ああ、颯太君は小春ちゃんとはもうヤッたの?」
またこの質問かとげんなりする。
「ヤッてない、というか元気になるまでヤラないつもりだから」
その言葉に三科がひえええと驚いた声を出す。
「颯太君、我慢強すぎるわ…俺だったら即ヤリだわ…」
これはひどい。こいつはセックスのことしか考えていないのか。
「よかったらさ、この曲聞いてみない?俺の一押し!」
そう言って無理やりイヤホンをはめられた。流れてきたのはサザンのようだったが…これは何かがおかしい。一通り聞き終えて俺はため息をつくしかなかった。
「おい、この曲やばすぎだろ…」
「俺の一押し!サザンALLSTARS☆の『マンPのGスポット』!今度カラオケで熱唱してあげるよ!」
「それはいらない…」
「そうか…俺だけ颯太君とカラオケ行ったことないから今度行こうぜ!」
「いや、…俺は歌わないタイプだから」
「えええ…そうなのか…じゃ今度聞き役だけでもいいから俺のマンPのGスポット聞いてくれよな!」
そう言って三科はまた前を向き勉強を始めた。
俺はとりあえずもう一度ドクターストームを読み返さないといけないなと考えていた。




