第十八話 最優先事項
「小春氏ー」
廊下でフルートの練習をしてると野田さんが声を掛けてきた。
「何ですか野田さん」
「TRPGって知ってる?」
「いや分かりませんよ、百合なら…なんとなく分かりますが」
「TRPGは①シナリオ考えて話す司会進行訳と②シナリオの登場人物なりきって行動するプレイヤーで③ゲームマスターの用意した事件やトラブルをプレイヤーたちが解決していくエチュード!」
いや、ちょっと意味が分かりません…
「先輩、分かりやすいように、教えてくれませんか?」
「わかりやすいように言うとだなあ…クトゥルフ神話はもともとホラー小説なの」
え、どういうこと…?
「もともとはボードゲームなんだけどニヤニヤ動画とかで遊んでる内容を紙芝居にしたのがヒットしたんだよなあ」
…???
「Vちゅーばーとか見るー??ならカロボ動画がいいかな?」
カロボって何…?カルボナーラのこと…?分からないよ、野田さん…
「分かりました、とりあえずニヤニヤ動画見ます…!」
「じゃそういうことでー!」
と野田さんは失踪した。彼の人生の行く先は神のみぞ知る…
翌朝。
結局私は野田さんの言うTPRG?は調べなかった。
最優先はKと勉強!
早く体育祭が終わればいいのに…
「小春、…はよ」
早智子ちゃん具合悪かったから、一人で自転車通学しようとしてる最中偶然颯太に遭遇した。
これは何という行幸?
駄目だ、先生から三国志を教えてもらい、いや、駄目駄目…自分でネットでググれググれコックリさん。
自転車を漕ぎながら団欒する。
「颯太おはよっ、秋になったらなんか涼しくなってきたね」
「確かに夏は不愉快だったな」
「夏は夏で気持ちいいんだけどね、私ね春が一番好きなんだっ」
「…なんで?」
「だってあったかいじゃん、空を見上げると気持ちいいし、桜も好き」
「そう、…俺は花粉症だから春はいらない」
そうか、…花粉症だったか。ごめん。
「秋は秋でね、気持ちいいんだ、金木犀の匂い嗅ぎながら空を見上げると気持ちいいよ」
「そう、なんだ」
「そうだよ、今は秋だから~?」
「気持ちいい…」
颯太、正解、満点。
下駄箱からスニーカーを取り出そうとすると、下の段にたくさんのCDがいっぱい入っていた。
TO 達也より
「達也君、またCDくれたよーウケる」
すかさず颯太が確認してくる。
タイトルを見て颯太がフッと笑う。
「ふーん…達也君やんじゃん」
「これ家で一緒に聞かない?」
「いいぜ」
「ヘッドフォンで聞く?」
「いや、イヤフォンうちにあるから、うちで聞ける」
「え…?」
「itunesに入れてipodで聞ける」
え…どういうこと?
「小春がRで俺がL」
イヤフォンか確かにその手があったわ…!
*
自転車をぶっ飛ばして早速颯太の家到着。
「颯太!早くCD聞こう!!」
カラオケで暴れちぎっているパンクを歌っていた達也君だからすごい歌を隠し持っているに違いない。
「颯太怖いから先に聞いてみて」
「…ん」
「…あーこれ、旧世代の歌だから駄目だわ」
旧世代ってどういうこと…?
パンクにもいろんな種類がある。
携帯でパンクをwikる。
すごい…でも情報過多だわ…私はバンアパかテナーがいい。
とりあえずこの日は颯太とバンアパとテナーの神曲を聴いて家に帰った。
家に着くとお母さんが料理を作って待っていてくれた。
「お父さん、お母さん、みなの兄貴の…達也君って天才だったんだね」
「そりゃそうよーあんたは凡才、看護師にもお笑い芸人も漫画家にも小説家にもなれないんだから勉強しなさい」と怒られてしまった。
「なんでお兄ちゃんいないのー妹か弟が欲しいー」
駄々をこねても親は許してくれなかった。
ま、いいか。世話するのも面倒くさいし。
しかし颯太とあんなに音楽の趣味があうなんて知らなかったな…
テナーのダークシテイィとバンアパのアウツサイダーと…
達也くん一押しのすぺしゃるあざーすも悪くない
もうすぐ体育祭が迫ってくる。
マーチングなんてどうでもいいよ…
翌日。学校が休みだったのでさきちゃんの家に遊びに行った。
さきちゃんはテトラポッドに上る曲が好きらしい、分かる。
でもわたしはどちらかというと、マスターオブミーっかなあ。
あとゆきもいい!!
ゆきの暴れちぎった曲が好きなんだけど、さきちゃんはトワーイライが好きらしい。
他の友達は何だったかなあ…ぱみゅる可愛いやつが智美ちゃんで、真衣ちゃんはデニーズィランドだったかな。
私はぽふゅーみんぐ、カプセルリングガチ勢。
どの曲も神曲すぎてライブに行ったらぶっ倒れる危険性あり。
あとは劇団三季とか歌ってる子も他クラスにいるらしい。
好きな歌ってその人の個性を表してる気がするなあ。
「春ちゃん、ホットケーキ焦げるよ」
おっと危ない。
私には夢想癖があり、人の話を聞いてないことが多くて叱られる。
今もそうだ。
さきちゃんに助けられた。
「で、颯太君とはしないの?」
「し、しないしない怖いこと言わんといてー!!」
さきちゃんはもう大人になってしまった…。
翌日。
今日は吹奏楽部のマーチング最終練習だ…疲れた。
みんなで死んだ目をしながら
私はバリトンを担ぐ野田さんのところませ駈け寄って伝えた。
「野田さん、すみません…TRPGはちょっとよくわかりませんでしたぁ…」
「あるある!俺もよく分からないままやってるからさ」
そんな、適当すぎる…
体育館でみんなで汗水たらしながらやってようやく荻田先生の許可が下りた。
やっとこれで高校受験の勉強ができる…!
あれ…なんか上のほうに人影が見える…
あいつ…颯太!!??
マーチングが終わり楽器の撤収作業が終わったあと、颯太が体育館の階段を使ってひらりと下へと降り立ってきた。
やっぱりこいつKの眼鏡のやつ…いやうちはの一族の者か
「小春今の動きはいいよ、満点」
このストーカー野郎…




