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第百八十話 もう戻れない場所にいる

翌日、学校が休みだったのでこの間買った漫画を持って小春の家に行くことにした。

チャイムを鳴らすと、小春のお母様がなにやら深刻そうな面持ちで玄関まで俺を迎え入れた。

「ごめん、颯太君、今の小春に会わないほうがいいのか会わせたほうがいいのか私はもう分からなくて…」

そう言って小春のお母様がぼろぼろと涙を流す。

「なにが…あったんですか?」

「あの子…リストカットやってしまったの、それからビニール紐で首を絞めて目が真っ赤になって、灯油飲んだら死ねるか醤油一本飲みすれば死ねるか本気で悩みだしたみたいで…私もう…」

「俺小春に…会っていいですか」

小春のお母様が頷いた。俺は慎重に二階まで足を運ぶ。

「小春…」

部屋は乱雑になっていた。小春は振り返らない。

「どうしたんだよ、小春…?」

「颯太…やっぱり私死にたい…」

「どうして…」

小春の顔をつかんで無理やりこちらを向かせる。顔は涙でぼろぼろに汚れていた。

「私ずっと寝れなくてもう辛いの…Kのイベントにも高校にもいけないし、炭酸リチウムっていう気持ち悪い薬ずっと飲んでるの…一人でいる時世界がぐにゃぐにゃに歪んで見える…だからもう消えたい…」

「小春…」

腕には痛々しいリストカットの跡があった。でもそれはささやかで少しすれば消えるもののようでほっとした。

「……颯太、やっぱり消えて、ここから出てって…こんな自分誰にも見せたくな」

い、と言い終わる前に俺は小春の唇を自分の唇で塞ぐ。

唇が離れると小春が嫌々と首を振る。

「触らないで、こんな私嫌でしょ、面倒くさいでしょ、…だからもうしばらく会いたくないよ…」

「俺はいつも会いたいと思ってるよ…」

「颯太…」

ぐったりとした体を抱えながら俺は途方に暮れそうになる。

「俺がなんで東大行くか知ってる…?」

「え…?」

「小春の病気を俺が治したいと思ったからだよ…だから死ぬのだけは本当に勘弁してほしい」

「颯太…ごめんね…ごめん、なさい…」

ひたすら謝り続ける彼女に俺は、どうしたらいいか分からずひたすら背中をさすってやる。

双極性障害ってなんですか、教えてください、瞳さん…

神って奴は本当にいるのか…だったら俺がそいつをとっくに殺している。


彼女がいない世界なら俺はいらないのに…どうして彼女を連れてってしまおうとするのか。


漫画だけが乱雑に散らばるちっぽけな世界の中で俺はひたすら彼女の背をさすっていた。

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― 新着の感想 ―
 え? 鬱ってここまで酷いの⁈  ちょっとヤバ過ぎじゃないですか?  鬱って文字通り鬱ぎ込むものだと思っていたのに、これじゃ本当に精神疾患じゃないですか!  世界が歪んで見えるとか、これはもう悩み云々…
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