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第百七十七話 邪を振り払う

小春の家に着いた瞬間見えたのが、耳の欠けた大きい猫とじゃれ合ってる小春だった。

「小春…その猫」

「ああ、颯太ー最近うちの家野良猫よく来るんだよ!うちもうクッキー飼ってるのに浮気しちゃいそうだよ~」

そう言ってケラケラ笑って野良猫をカメラで連射している。

「名前はねーミミに決めた!飼いたいよーお金ないけど」

お金ならいくらでも俺が出すと言いかけて思いとどまった。

小春の親が人様に迷惑をかけては絶対いけないときちんと教育されている家だからだ。

「ああ、ミミと遊んでろよ、じゃ俺Kの写経に疲れたからそろそろ帰るわ…」

「Kの写経ってなに!?」

俺もよく分からない。なんだよKの写経って…


*


次の日、鏡の前に経ちそろそろ髪が伸びてきたと鏡をながめていた。

予約は済ませてあるので俺はタクシーで美容院まで向かった。

サロン名は『DOandNEXT K』

そこで俺は最初髪を切った時、無言でやり過ごしていた。しかしその美容師はかなり腕が良くて俺が話したくない雰囲気を察してくれたのか無言で最高にカッコいい髪型にしてくれた。だから髪が伸びてはその都度無言で切っていた。俺が手持無沙汰なのは暇なのかもしれないと察してくれたのか漫画雑誌を置いてもくれる最高の美容院だ。

俺は指定された席に座る。いつもの美容師が俺に問いかける。

「いつもの髪型でよろしいですか?」

「はい」

美容師は黙々と作業を進める。俺はなぜか分からないけど、その美容師と話してみたいという気持ちになって声をかけた。

「山口さん…最近面白かった漫画とかあります?」

「え!?田畑さん!漫画読まれてるんですね!おすすめなら山ほどありますよー!」

「例えば…」

「まずはヤニ吸うやつですね!これは冴えないリーマンがなぜかあるスーパーの店員の超絶美少女に溺愛されるお話ですよ!」

「はあ…」

「あと僕の心のヤベー奴ですかね…いつこいつらセッするのかハラハラドキドキですよ」

「なるほど…」

とりあえず小春に会った時勧める参考にしよう。

「突然どうしたんですかー?漫画お好きなんですね、なんとなくそんな気はしてたんですが」

それどころかエロゲまで履修済みだと言ったらこの美容師はドン引きするだろう。

「彼女が…」

「え?」

「彼女が骨の髄までオタクなんで、おすすめ漫画どんどん知りたいんですよ…」

「えー!やっぱり彼女さん居たんですね!うらやましいなあ…私育児に仕事に疲れ果てて自由時間1時間ぐらいしかないですよ」

「自由時間はなにされてるんですか?」

「なろう小説読んでますよ!無料だし!チートものとかかなりすっきりします!」

「なるほど…あの、俺の知り合いの女性が書いてる小説も応援してくれませんか?」

「なんていう人が書いてるんですか?」

「瞳さんって言う人なんですが…」

「え!?瞳さんってもしかして黒井瞳さんですか!?私その方の髪の毛いつもカットしてますよ!?」

俺はびっくりして声が出なかった。運命か必然か…

「そうだったんですか…あの『あいつに会いたい』で検索したらすぐ出てくると思うので応援してあげてくれませんか?」

話してる間も、黙々と作業は進められていく。うねった髪は縮毛矯正剤をつけられて正直不快だが終ったらすっきりするので我慢している。

「あいつに会いたいですね、分かりました、すぐ検索してブクマします」

そう言って山口さんは席を外して、携帯を片手に戻ってきた。

「ああ、これは面白そうですね…ゆっくり読みます」

「ありがとうございます、山口さん」

「やっと田畑さんとお話できて嬉しいです」

「いや、俺も…髪型綺麗にしてもらって…」

「いや今だから言いますけど最初田畑さんが髪を切りにうちまで来店された時何事かと思いましたよ!髪は適度に綺麗にしてあげないと邪がつくんですよ」

「邪…?」

「そうです!髪の毛を切るという行為は邪悪なものを振り払うという行為でもあるんですよ!じゃ、シャンプー台に来てもらっていいですか?」

俺はのそのそとシャンプー台まで足を運ぶ。シャンプー台から戻ったあとは髪を乾かして、終わりだ。

「田畑さんは最近なに読まれてるんですかー?」

「いや、俺読む時間全然なくてKの写経したり勉強したり彼女の家に行ったり忙しいんです」

「そうなんですね…そんなときはギャグマンガな日々とかたまに読んで笑うのもいいと思いますよ!はい!終わりました、鏡お渡しするので、確認してもらってよろしいですか」

そう言って椅子を反転されて自分の後ろの毛までしっかり確認させられる。いつも通り、非の打ちどころがない技量だ。

「これでいいです、ありがとうございます」

「お疲れさまでしたー!」

金額は29800円。普通の高校生ならとてもじゃないが親にせびらないと払えない金額だ。

「また髪の毛伸びてきたらきてくださいね、瞳さんにもどうぞよろしくお願いします」

「はいありがとうございました」

カランコロンと音が鳴って美容室から出る。

美容室のすぐ横に歩いて三歩の場所に田宮書店がある。俺はそこでギャグマンガな日々とヤニ吸うと僕の心のヤベー奴を大人買いしてタクシーで家に帰った。

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