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第百七十二話 超絶錬金術師大輔様①

俺と小春は瞳さんに言われるまま、小春のお母様と同伴で大輔様のご尊顔を拝みに行くことになった。

小春のお母様が家の裏口から大輔様の母親を呼ぶ。

「あんたー小春と一緒に来たよー!」

俺と小春はおそるおそる玄関口からお邪魔させていただく。

「おばちゃん久しぶりー!」

「あらー春ちゃん元気にしとったがけ?」

気さくに笑う小春の親戚の叔母様はとても人柄のいい印象だった。こういう環境で育ってきたから小春もきっと人柄のいい性格になっていったのだろう。

小春のお母様の姉に当たる叔母様は大変仲がよろしいようで、爆笑しながら今の近況などを話して盛り上がっていた。

「颯太ー大ちゃんはねー公務員で働いてて最近シャドウボクシングしてるんだよ!乗ってる車はクラウン!かっこいいっしょ!」

「そうなんだな…」

「でも結婚してないんだよねーなんでかなあ」

確かにクラウンに乗った公務員で頭がいいなんて超優良物件の方が結婚してないのは少し謎だ。だが、下手に頭の悪いお金目当ての汚い女のATMになるよりは一人でストイックに生きるほうがいいのかもしれないとも思った。

「大輔ー!あんた春ちゃん来たよ!降りてこらっしゃいま!!」

叔母さまが大きな声で2階にいるであろう大輔様を一喝する。

ガラリと扉が開く。そこにいたのは眼鏡をかけて体格はすこし大き目で頭の大きな、いかにも頭のよさそうなご尊顔が現れた。

「大ちゃん久しぶりー!元気してた?」

「お、おう…小春は体調どうなんだ…?」

「まだちょっと学校は行けてないけど本は読んでるよーあのねハルヒ憂鬱に出てきた本貸してほしいんだけど、あっ!この読み飽きたジャンプあげるよ」

「お、おう…なにが知りたいんや、小春」

「んーとりあえず村上春木貸してくれ大ちゃん」

小春が言うと、大輔様は一階の本棚スペースから1Q★84を3冊抜き取って小春に渡した。

「ありがとうー大ちゃん!私村上春木未履修でさあ」

「ああ、読み飽きたからやるよ、その本」

「ほんまありがとー大ちゃん」

小春はさっそく1Q★84を読んでしばらく経ってから噴き出した。

「ね、ねえ颯太、この小説変態すぎる、空豆と天五がセックルしまくりで話に集中できないよー」

大輔様は苦笑しながら「小春にはまだ早い小説家もな」と呟いた。

「ねえ大ちゃん、ハルヒ憂鬱のキーパーソンは谷口ってどういう意味なんかな、気になるー」

「いや、俺はハルヒ憂鬱には興味を見出してないから自分で勉強しろよ小春」

大輔様の言葉は至って正論だ。しかし小春は今瞳さん同様ハルヒ憂鬱の考察に頭がいっぱいらしい。

しかしハルヒ憂鬱のキーパーソンは谷口頼りとは興味深い。一聖の苗字は谷口だからだ。

「今の小春にぴったりの本貸してやるよ」

そう言って大輔様は以下の小説を取り出した。

死ぬまでに一度は読んでおきたい聖書入門

大論争!哲学入門

カラマーゾフの兄弟

宇宙消失

史記全巻

2050年の世界

ザ★ゴール 企業の究極の目的とはなにか

足軽仁義

史記全巻

セイラ―教授の行動経済学入門

殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?

ヒトは食べられて進化した

俺達は宇宙の事全然分からない

極楽征夷大将軍

……

「大輔、春ちゃん混乱するやろ!その辺にしられはん!」

おばちゃんの一喝で大輔様の手が止まる。

1階の狭い本棚のスペースでこれだけの良作が出てくるなんて、今大輔様の本棚一体どうなってるのだろうか…とりあえず小春には1Q★84だけ渡して後の本は瞳さんに渡そう。

「大ちゃん、うち大ちゃんがゴールデンカム捨てた事まだ許してないからね」

「…いやあ、あれ読み飽きたし捨てるしかなかったんや、勘弁してくれ小春」

ゴールデンカムはいまだに熱狂信者を囲っている神漫画だ。それをブックエンドオフに売ればそこそこの値段になるはずなのに捨ててしまうとはよほどお金に余裕があると見受けられる。

「それじゃあ、そろそろお暇するよ、春ちゃん、颯太君」

小春のお母様が叔母様との談話を終えて立ち上がった。小春はたくさんの本を抱えてニコニコだ。実質小春が渡した本は読み飽きたジャンプ一冊だけでこれだけの本を手に入れてしまうなんて等価交換の錬金術の原理から逸脱している…。

「ねえ大ちゃん、次はエバアンゲリオン用語集に出てくる参考文献の本持ってたら貸してね!」

小春の一言に大輔様はもはや宇宙猫のような顔で「分かったぞ…」と呟いた。

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