第百六十話 働かねえ二人
扉を開くと小春の部屋はちっとも散らかっていなかった。
ただ枕元や床に漫画が散乱している。
「そ、颯太、久しぶり…」
「小春お前大丈夫なのか…?」
小春は以前と同じような笑顔ではっきり言い放った。
「私働かなくていいって分かっちゃたから」
「どういう意味だよ…?」
「働かねえふたり読んで見て!!」
そう言ってずずいっと働かねえ二人33巻を見せられて動揺する。
俺はとりあえず読み進める。
パラパラと読み進みて大体内容は理解した。
兄貴も妹もいい性格だからいろんな繋がり合いを持てている話だ。
まあ二人は絶対に働かないけれど。
「颯太!!分かった?早く34巻読みたいし画集欲しいしアニメ化もしてほしいよー!!」
「落ち着け小春…作者も忙しいんだから…な?」
「サイン会いつか行けるかなあ、作者さんにファンレターだそうかなあ…」
「いや作者先生は忙しいだろうから、今は行けないと思うぞ…」
「それとね…」
「今度は何だよ」
「宝くじ買ったの」
「は…?」
「一枚だけ」
「当たった?」
「……はずれ」
詳しく話を聞くと小春は母親に宝くじを一枚だけ買ってきて欲しいとお願いしたらしい。
「あ、颯太笑ってる…」
「いや、小春、お前本当落ち着けよ…」
情報過多で頭がおかしくなりそうだ。小春は今双極性障害でいうところのハイな状態なんだろうか。
「それとさ、トヨタみのる神知ってる…?」
「ああ、これ書いて死ね!!!!の作者だろ?」
「なんと、今日小学館漫画賞を受賞してるんだよ」
俺は慌ててXで調べてみた。
「すごいな…小春」
「へへん、どやあ」
良かった。小春が元気そうで本当に良かった。
俺は小春の部屋にある椅子にどかっと腰を掛けた。
「ねえ颯太はさ、アンチって知ってる?」
「ああ、分かるよ」
「ネットで調べてたら働かねえ二人が気持ち悪いとかいう記事が出てきて…」
「そんな奴頭の悪い健常者だろ?そんな三下の意見なんて調べなくていいんだよ」
「でもさ、村田ネ有菜も海の地下さんもアンチが多いんだよね」
「アンチって結局、強烈な信者なんだよ」
「……?」
「しつこくしつこく調べてる気持ち悪い集団だよ、小春は見なくていいから」
「分かった……」
小春が布団から出て俺と向き合うように座る。
「瞳さんが業の多い姫っていうライトノベル貸してくれたんだけど…」
「なんだよそれ?」
「男主人公が颯音なんだよ…」
「………」
「俺の名前だな…」
「待って私、中学の時ドはまりしてたのにKのために売ったんだわ、なんで売ったのか分からない、この作品を…」
小春がぶつぶつ業の多い姫を読んでると、ふとラインが鳴った。
謎のjungleのグルチャだった。
村田夏樹先輩からで、内容はこうだった。
「ごめん、颯太君、退部したのに悪いんだけど照明操作してほしいんだ」




