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第百五十三話 本当の妹

次の日は土曜日で、部活も休みだったので俺は小春を自分の家に呼んだ。

家に着いてから俺は小春に問いかけた。

「小春、今日は遊んでも大丈夫そうか?」

「うん!颯太、ありがとうね、この間の再来でみんなに久々に会えて楽しかったよ」

「いや、それは京子さんの提案だよ」

「京子ちゃんだったんだね!みんな部活楽しそうでいいなー」

いそいそと小春がロフトベッドのうえに登っていく。俺は続けて登っていった。

「早く部活出れるようになるといいな」

「うん!でも私勉強したくないな…一体どれぐらい遅れてるのかさえよく分からなくなってきたよ…」

「俺が教えてやるから大丈夫だよ、それより今日は何する?アニメでも観るか?」

「うん…何見たいか分からないから颯太決めて」

「じゃあこれにするか」

入れたのはこちとら亀有だ。

「もうー颯太!どんだけりょうさん好きなの!?」

小春がケラケラ笑ったあと、真剣そうな面持ちで口を開いた。

「そういえばさ…」

「うん」

「この間すごく久しぶりにうちの溜まり場でみなとゆうちゃんとさきちゃんと遊んだんだ、そしたら…」

「どうしたんだよ」

「なんと、みなとゆうちゃんがもう処女じゃなくなってて…」

気まずい雰囲気が流れる。

「あとは小春だけだねって言われてしまって…どうしたらいいのかな?高校生でヤるのって早くない?」

俺は早いとは思わなかった。俺は中学で済ませているから。ただ小春のことはどうしたらいいのかどうしたいのか自分でも分からなくなってきている。

「颯太…私とセックスしたい?」

「それは…まだいいよ、小春の体調が整ってからにしよう、友達につられて焦らなくていいよ」

「そっか…じゃあ今はとりあえず、りょうさん観ようか」

りょうさんまた借金背負っちゃったよーと小春がケラケラ笑っている。

俺は黙り込んで考え込んでいた。

「颯太…どうしたの?」

「いや…、なんでもないよ」

昔達也に言われた言葉がリフレインする。

【ヤリたいですって言えばいい、そしたら鬱もよくなるかもしれないだろ】

テレビを見ていた小春にこちらを向かせて顔を近づけて、キスしそうなぐらい距離を詰める。詰めたところで俺はバッと体を離した。キスしたら多分ヤバい、止まらなくなりそうだ。

「颯太…?」

「本当になんでも、ないから…」

「そうなの?」

「そうだよ…」

小春は首をかしげていた、意味がよく分からなかったのだろう。

こちとら亀有の神回を一通り観たあと、次は名探偵●●●を観ることになった。

「颯太これも好きだよねー毎回同じ展開なのに!」

「いや、これは何周しても飽きない、殺人事件のギミックがよく考えられてる」

「私パラパラ踊ってるOP大好きなんだ、何回観ても腹筋崩壊するよー」

「ああ、あれな…あとターボあゆみちゃんもヤバいよな」

「あれもヤバい!颯太に出会うまで知らなかったよー」

テレビを観ている小春を後ろから抱きしめながら名探偵●●●の話題について喋りつづける。俺が●●●の知識について教えるたび、小春はゲラゲラ笑う。

「そういえばさ、私最近魔王城でZZZの悪魔が好きなんだよ」

魔王城でZZZ?前に小春が話してた漫画のことか、と思いあたる。

「なんでそれ好きなの?」

「ヤンデレだから」

悪魔がスヤスヤ姫に夢中で面白いんだよーと小春が付け足した。

「小春ってヤンデレ好きなの?」

「うん!犬の血のワンコとかあんさんぶるのちょ~ウザイ!とか、一番はKの眼鏡だけどね!」

「そうか…よく分からないけど推しがたくさんあっていいな」

「うん!颯太だってルーナ様だけじゃないでしょ?」

「そうだな…ネムに名探偵●●●の愛ちゃんに日暮の無く頃のレーナも好きだな」

「へえ…たくさんいるね」

「ああ、名探偵は俺愛ちゃん推しだからヒロインは交代してほしい」

「そんなの無理だよー!」

小春とアニメやオタク談義をしているとふと達也からラインが入ってきているのに気づいた。

そういえばこの間遊んだ時、連絡先を交換したんだったな。

内容を確認する。


「エロゲの月に来いしっちゃった乙女作法やった、そのうえで颯太に話したいことがある。明日は空いてるか?」

俺は少し考えたあと返信をする。

「分かった午後1時ぐらいでいいか?」

「いいぞ、じゃ明日颯太の家まで行くから」


内容はそれだけだった。何の用事だろうか、達也もルーナ様のすばらしさに感動したのだろうか。


「どうしたの?颯太ー?」

しばらくラインを見て沈黙していたら、小春が振り向いて首をかしげた。

「ああ、なんでもないよ」


本当に感想を言いたいだけなんだろうか。


なんとなくだけれど、違う気がした。


*


翌日。1時ちょうどにチャイムが鳴った。

「…よう、何か用だったか?」

「いや、すぐ終わる…なんとなくお前と話したくなっただけだ」

達也があがっていいか?と問いかけてきて、俺は達也を部屋に迎え入れた。

「お前の推しのルーナ様良かった…本当にお優しい人なんだなこの人は」

やっぱり感想を言いに来ただけなのか。それなら深く語れる自信がある、俺はこのエロゲのルーナ様ルートを何周したか分からないぐらいやっている。

「ああ、…ルーナ様はお優しいんだ、そのうえ」

「この額縁はいつから飾っているんだ?」

俺の言葉を遮って、達也が指さした先にはルーナ様の神々しい額縁があった。

「…これは、中一から飾ってあるけど」

「小春にはこれいつ見せた?」

「…中三だったな」

「あいつ多分引いてるぞ、お前の趣味」

そんなはずはない。初めて小春が額縁を見た時、そんな感じは全く感じられなかった。ルーナ様は美しすぎる飾ろう、見守られようと確かに言っていた。

「…引いてるのか、本当に」

「いや普通引くだろ、エロゲの女の壁画部屋に飾ってなんになるんだよ」

「これは、偶像崇拝みたいなもんだよ、こんな女居ないことは分かってる」

「小春は嘘をつくのが上手い」

「え?」

「多少引いても、少しでも嫌だなと思う事でも明るくふるまって我慢するんだあいつは」

「なんで分かるんだ…?」

「保育園からずっと見てたあいつのこと、…なぜかあいつとは保育園の組も小学、中学もクラスの組がずっと同じなんだよ」

前々から感じ取っていた小さな違和感が大きくなっていく、達也ももしかして恋愛的な意味で小春のことが好きなんじゃないかという疑念だ。

「待て、安心しろ。断じて小春のことは恋愛的な意味で好きではない、安心しろ」

その顔をやめてくれ、と苦笑される。俺は一体どんな表情を浮かべていたのだろうか。

「達也はいつから、小春と話すようになったんだ?」

「中二の春あたりか…席が隣同士になった時、好きな音楽がたまたま似ていたんだよ」

「それで…?」

「それから意気投合して友達になった、二人でTATSUYA行ってCD借りに行った事もある、それだけなんだけどあいつは…」

「あいつは?」

「たまたま同じ空間に居たから分かるんだけど、小春は周りの奴らとは何かが違うんだよ」

「…どう違うんだ?」

「自分のことは二の次にして、他人に尽くしてるところとか…見てるとこいつ大丈夫なのかって何度も心配になった」

そういえば小春はいつもそうだ。自分も勉強したいだろうに、クラスメイトが勉強に困っているときはすかさず助けていた。

「知らず知らずストレスため込んでるんじゃないか、こいつって心配になった、だからお前はとりあえずそのルーナ様の額縁を外せ」

「やっぱり…外した方がいいのか?」

中一の夏からずっとこの額縁に見守られて過ごしてきた。これは俺の宗教だ、小春のKと同様に。

「ああ外せ、部屋がすっきりする」

「そう、なのか」

言い淀む俺に達也はきっぱり言い放った。

「お前小春の彼氏だろ、いつまでルーナのケツの穴追っかけ続ける気だよ」

とんでもない表現に思わず呆然としてしまう。

「なんて、な。これがルーナルートやった俺の感想だ、額縁を外すか外さないかはお前が決めろ」

「………」

「小春って前世で俺の妹だったのかもな」

「……は?」

「冗談だよ、俺の妹はみなだ、変なこと言ったな俺」

じゃあ、そんだけだからと達也は立ち上がって玄関のドアへと向かう。

「達也!」

「…ん、どうした?」

「外す!俺にはもう必要がないことが分かった…!」

達也は振り向いて目を見開いた後、フッと笑ってドアを閉めた。

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