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第百四十六話 日常

小春が居なくても日常は淡々と続いていく。次は中間テストだ。3限目の休み時間野田が俺に泣きついてきた。今日は部活も休みの日だ。

「颯太氏…俺何も分からない…全教科教えてクレメンス」

野田…今まで何をやってきたのか。

「分かったよ…放課後教えてやる」

「やったー!これで中間試験は勝つる!」

そう言って自分の席へと戻っていった。

そこへパリピの三科とギャルの順子も恐る恐る俺に声をかけてくる。

「なあ颯太君…俺達にもぜひご慈悲をば…」

「お願い颯太君…」

この二人も今まで何をやってきたのか。

「分かったよ、野田と教えてやるから放課後俺の家来いよ」

「やったー!颯太君マジイケメン!幸助お前マジ見習えよ!」

「うるせえ!順子こそ教えてもらう身の上で生意気だぞ!」

二人がギャーギャー騒いでるのを横目に俺は、昔小春に勉強を教えていたのを思い出した。

学年2位のくせにフィーリングで勉強していた小春。小春はきっとめちゃくちゃ頭がいい。なんでも父親が無線の趣味を持っているらしいから、頭がいいのも納得できる。

そろそろ季節も6月を迎えて、雨模様な日が多い。授業中も小春は今頃何をしているのかとぼんやり考えていた。


*


「……で、何から教えてほしいんだよ」

「まずは数学からお願い申す…!」

「私も!」

「俺も!!」

やはり数学は鬼門な奴が多いと思う。はっきり言って数学は簡単だ。公式を覚えてそれに当てはめて解けばいいだけの話だ。

「まず公式を覚えろ、応用問題で分からないところあったら言え」

「公式量が多すぎて覚えられねえよー」

「俺ももう頭がパンクしかけてるでござる…」

「いいから、覚えろ…問題を解けないと話にならねえだろ…」

3人がぶつぶつと公式を覚えている。なんのためにここに居るのかさっぱり分からない。

「あーやっぱり今日は帰れ、三人とも…公式も覚えてないなら話にならない」

「そ、そんなあ…」

野田と三科と順子の泣きそうな声を聞きながら、呟いた。

「覚えてからちゃんと教えてやるから勉強しろ」

野田が身を乗り出して歓喜の声をあげる。

「颯太氏!!嬉しいでござるよ!!」

「颯太君マジのマジでイケメン!幸助お前…」

「見習えって言うんだろ、どうせ…」

「その通りだよ!アホ!」

「順子に言われたくねえ!」

ギャーギャーと騒ぐ二人。痴話げんかはよそでやってほしい。

3人を家から強制的に追い出したとき、ちょうど小春からラインが届いた。


「颯太、どうしよう…新しい薬吐いちゃう…」


俺は急いで小春の家まで行った。

チャイムを鳴らすと真っ青な顔の小春が居た。

「颯太…どうしよう…うつの薬吐いちゃう…」

「新しい薬になったのか?」

「うん…うつを改善する薬みたいなんだけど、気持ち悪くて駄目みたい」

ふらつく体を玄関の靴置き場に手を当ててなんとか立っている状態だ。

「そうか…薬変えてもらわないと駄目だな」

「うん、新しい薬にしても治るか分からないけどね」

「………」

「辛いことばっかり言ってごめんね…」

「大丈夫だよ、吐き気は収まったのか?俺の家今から来ないか?」

「う、ん…吐いたから吐き気は収まったし行こうかな…」

手を繋いで一緒に俺の家へと向かった。

「こちとら亀有でも観るか」

「うん…りょうさん観たいな、元気でるかも」

俺の家に入るなり、小春はボロボロと涙を流していた。

「……辛いのか?」

「うん、辛い…」

「大丈夫だよ、俺が居る、ずっと小春の傍にいるから」

「ありがとう…颯太」

ロフトの上でこちとら亀有を流す。小春は笑わない、ただただ画面をボーっと観ているだけだ。ゲラゲラ笑っていた彼女はもう戻ってこないのだろうか。

「こちとら亀有以外にするか?」

「ううん、いい…これ以外見ても多分笑えないから…」

「そうか…」

小春の親が帰ってくるまで、こちとら亀有をずっと観ていた。小春は一度も笑わなかった。


*


家に帰って俺はうつのことについて調べまくった。

確かに副作用で吐く事例もあるみたいだ。もしかしてうつ以外の病気なのか。分からない。

俺は瞳さんにラインをした。

「瞳さん、小春がうつの薬で吐きました、どうしたらいいですか?」

こんなこと、送っても迷惑だろうか。

返信はすぐ返ってきた。

「私もね、うつの薬飲んで吐いたことあるよ…小春ちゃん大丈夫そう?」

「いや、…元気がないです…俺は本当にどうしたらいいのか分かりません」

しばらく返信が返ってこなかった。

「颯太君は大丈夫だよって言って傍にいてあげたらいいんじゃないかな。無理して元気になる必要ないんだよー小春ちゃんも私と一緒で完璧主義なのかもね…前の自分に戻りたい戻りたいってそればっかり考えちゃってさ…」

「俺前の状態じゃなくてもいいです、一生うつでも傍に居てあげたいんです」

「…颯太君本当にいい男だね」

「どういう意味ですか?」

「いや、元婚約者は一人暮らしして自立して治す気はないの?とか訳の分からないこと言ってたからさあ…」

「瞳さん、元婚約者のことは忘れましょう」

「あ、ごめんごめん…つい癖ででそいつが出てきてしまって聞き流して!とりあえず、颯太君はあんまり小春ちゃんのことばかり考えすぎないほうがいいよ」

「…どういう意味ですか?」

「うーん…学校生活を楽しめばいいよってこと」

「難しいです…どうしても小春の事が頭に浮かんでしまいます」

「うわー颯太君…私、颯太君と結婚したかったなあ」

瞳さんがそんなことを送ってくるから思わず言葉を失ってしまった。

「…いや俺なんて…瞳さんにはもう素敵な旦那さんとお子さんが居ますし」

「まあね…今の旦那には本当に支えてもらってありがたいよ…」

「そうですね、俺も学校生活を楽しめるか分かりませんが頑張ります」

「そうだよ!その意気だよ!また困ったことあったらラインして!」

そこでラインは終了。瞳さんが居てくれて本当に良かった。小春も時間が必ず解決してくれる。解決しなくても、大人になっても俺が傍にいるから大丈夫なんだ。


*


次の日フラフラになった状態で野田が教室に入ってきた。

「おい、野田…大丈夫か」

俺が思わす声をかけると、野田はピースサインを送ってくる。

「拙者徹夜で数学の公式を半分は履修したでござるよ…また半分覚えられたら勉強を教えてほしいでござる」

「野田…お前頑張ったな…」

そこへ一聖も向かってきた。

「俺も!俺も!颯太君に勉強教えてほしい!多分部活の同期はみんな教えてほしいと思ってると思う!今度さ、空き教室でみんなで勉強会しないか!」

勉強会か…一度に教えられていいかもしれないな。

そこへギャルの順子とパリピ三科も会話に加わってきた。

「俺達にもご慈悲をば…颯太師匠…」

「師匠呼びはやめろ…いいよ、まとめて教えてやるよ」

颯太氏!颯太君!と皆が騒ぎ立てる。

みんなアホばかりかよ…。げんなりしたまま、今日の放課後に勉強会を始めることになった。


「じゃあ、分からない問題あったら手を挙げろ」

俺が教壇に立って分からない問題を教えることになった。

メンバーはとりあえず、野田と一聖と三科と順子だ。

「はいはい!俺全部分かりません!」

「全部教えられるわけねーだろ…一つに絞れ」

パリピ三科の言動に心底げんなりする。

「はいはい!俺45ページのグラフの問題がよく分からないでござる!」

次に手を挙げたのが野田だ。45ページか…開いてみると三角関数のグラフの書き方だ。

「それは、答えのページを熟読してみれば分かる。次の質問は?」

「えええ!?颯太氏教えてくれるんじゃないのか?」

「甘ったれるな、そんな基礎中の基礎問題教えてる余裕はない」

「…小春氏だったらもっとじっくり教えてやるんじゃろ?」

「なにか言ったか?」

「いえ…なんでもないでおじゃる」

小春が学校に来ていたなら多分分からない問題も放置してるだろう。0点でも追試でどうにかごまかしてるだろうから。

「はいはい!じゃあ俺!85ページの問題が分からないです!」

一聖が手を挙げた。これは不等式の証明でなかなか難しい問題だ。

黒板に板書きをしながら説明をしていくと一聖は真剣にノートに俺の言葉をを書きなぐっていた。

「颯太君の教え方すっごく上手だね!解き方分かってきたよー」

確か小春に教えた時も、教え方上手だねと褒められたことあったな。かといって教師になる予定はさらさらないけれど。今まで自分は家で一人きりで金を稼ぐことしか考えていなかったけれどもしかしたら、外の世界でなにかしらの職に就くこともありなのかもしれない。

そして質問に答えてはげんなりしながら勉強会は終わった。

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