第百三十三話 地獄合宿②
冬期講習も終えたころだったから、外はすっかり雪景色だった。2年陣は全員不参加。1年の野田も今回は参加。一体これから何が始まるかは分かる。座禅と滝行だ。
宿泊地はやはり軽井沢、体育着に着替えて体育館的なところへ集合させられる。
「じゃあみんな揃ったな、座禅をするぞ」
俺はもちろん微動だにしない。ヨッシーと呼ばれている義久も座禅は得意みたいだ。
そして滝行を強いられたのは一聖と野田のみ。一聖は顔はモデルのような整った顔立ちなのにどうやら残念キャラらしい。野田は最初からお粗末だが。
『悪役令嬢に転生したが誰からも愛されなかった件について』は読み合わせをしなかった。その代わり著作権フリーの脚本を配られてひたすらそれの練習の繰り返しだ。
「これは柳沢と谷口だー」
配られた脚本、タイトルは「俺の妹がハチャメチャにオタクな件について」
京子「ねえお兄ー」
一聖「なんだ」
京子「私さあ、漫画もゲームもアニメもラノベも小説も音楽もライブもKもBLゲもエロゲもpixvi徘徊、ツイッターランド徘徊、なろう小説徘徊、TRPG、人狼ゲーム、同人誌、ソシャゲぜーんぶ
やりたい!」
一聖「あのな妹よ…そんなこと全部できる時間はない。時間は有限なんだ。友達・恋人と旅行へ行ったり、デニーズィランドに行ったり、ご飯だって行きたいだろ?」
京子「もちのろんだよ!!でも私全部制覇してみせる!!こちとら亀有200巻を読破して海の王、名探偵●●●もね!漫画もアニメも映画も全部見てやるって決めてるんだから!!」
一聖「妹よ…その夢応援するぞ、お金さえあれば本屋の本を全部買い取ってやりたいよ…」
京子「お兄ー!!私の夢応援して!そして社会人になったら、私に投資して…!」
一聖「投資…?」
京子「つまり私は滅茶苦茶頭がいいのよ!だから私に投資して損はないってこと!」
一聖「……そのためならなんでもなってやるさ!しかし妹よ…今は高校生だから勉強に集中しろ」
京子「確かにという蟹」
パンパンと山中が手を叩く。
「いいぞ、谷口、柳沢、俺の妹が可愛いの世界観を熟知している」
「「ありがとうございます」」
「これは田辺と大野だー」
配られた脚本、タイトルは「小説スランプマン」
義久「ああー小説を書きたいような書きたくないような…スランプに突入しはじめたぞ…」
和幸「その気持ち分かるってばよ…」
義久「どっから湧いて出てきたんだ、お前は!?」
和幸「俺もさDrスランプ状態でどうしたらいいか分かんねえんだってばよ…俺には小説しかないってのに」
義久「そんなことはねえんじゃねえの?」
和幸「…?」
義久「お前重度のK患者だろ、俺はまだまだ履修中の身だから見れば一目で分かる。小説はほどほどにKを一緒に履修しよう、そうすればスランプなんてぶち敗れるさ、俺は無理だったけど、お前なら…」
和幸「そうか…俺には…Kがある…!」
義久「そうだよ…!!」
和幸「分かったまずは一期からDVD見るぜ…ありがとな、名前はえーっと…」
義久「数学の山中でいいぞ」
パンパンと山中が手を叩く。
「田辺、大野、お前らはKについてまだまだ知る必要があるな…もっとKになれ」
「「すみませんでした」」
「これは田畑と長谷川だー」
配られた脚本、タイトルは「忍者の漫画が終わって途方に暮れる俺」
楓 「ああ、忍者の漫画終わってしまった…これから何を生きがいにすればいいのか…」
颯太「何言ってんだお前!?」
楓 「だ、誰だよお前!?」
颯太「この世のエンターテインメントの数を見ろ!情報過多で何をしていいか分からなくなるほどエンタメに満ちているぞ」
楓 「例えば…俺は何から始めれば…」
颯太「お前はまずは大人気アニメKをみることからだな」
楓 「Kってなんだよ!?」
颯太「ググって調べて見ろ!滅とチャアアジ万件が出てくるがKは総員抜刀するんだよ!!」
楓 「そうか…Kって確かにすげーアルファベットだな健康、幸福、勝つ、絆…俺は早くKにならないと駄目だ…」
パンパンと山中が手を叩く。
「いいぞ、田畑はKについて熟知しているな、長谷川はまだまだKについて知らないな、まずはKを見ろ」
「「ありがとうございます」」
Kを観ていて良かった。小春だったらどんなふうに読むんだろうか、そんなことばかり考えていた。
*
一通り基礎練習を終えた後、弁当が配られて一段落。パリピの三科幸助が俺達1年組の初期メンバーの演技を絶賛する。
「先輩方の演技マジ半端ねーっす、俺ついていけるか不安っす」
三科の一言に京子さんが呟く。
「確かに、私達、合宿を終えるたびどんどんプロの道へ進んでる気がするね…!」
「まさに世界プロジェクト、プロ世カってところだな」
最近人気のソシャゲのプロ世カ…義久のギャグに皆がどっと笑う。
夕食のお弁当を食べ終わったら次の段階があるらしい。一体何が待ち受けているんだろうか。
「あー皆弁当は食べ終わったかーこれからかまくらを作って今日はそこで寝るぞ」
かまくらは…演劇と何が関係あるんだよ、それ…
山中は演劇のプロだが大分頭がおかしい。
「先生ーなんでかまくらで寝る必要があるんですか?」
上田の一言に山中は喝を入れた。
「バカ野郎!演劇は体力を使うんだ、寒さにも耐えきれる強靭な肉体づくりにはかまくらの中で寝る必要性がある…!」
いや、ないだろ。
*
1時間ほどかけてなんとかかまくらが出来上がった。
かまくらの中で一緒に寝るメンバーは、一聖と和幸と義久と野田だった。
「暇だから、トランプでもしない?」
一聖の一言にみんなが笑ってやろうぜやろうぜと笑う。
ババ抜きを始めるとやはり一聖はジョーカーを引いてしまう。
「…一聖本当に雑魚だな」
思わずそうこぼしてしまった。
和幸と義久がびっくりした形相でこちらを見た。
「いつの間に一聖だけ呼び捨てに…」
和幸が心底驚いた表情を見せた後、笑ってこう言った。
「俺も和幸って呼んでくれ!その代わり颯太呼びさせてくれよー俺ら同期の仲間だろ?」
「…そうなのか」
「俺は義久…ヨッシーでいいぞぉ」
「俺は粗相でも野田でもなんでも良いぞ田畑氏」
「そうか、じゃあ適当に呼ぶな…」
「やったー嬉しいですぞ田畑氏!!」
野田が距離を詰めてくるから、慌てて避けた。
「颯太でいいよめんどくさい」」
その時山中の声が響いてきた。
「あーそろそろ消灯するぞ、トイレに行きたい奴はいまのうちに行っとけ」
…しかしこのかまくらで寝るのは女性陣は大丈夫なのか。




