第百三十二話 シンプルイズベスト
一通り読み合わせが終わって、久保先輩がみんなを絶賛する。
「いいね、みんな!このまま立稽古行ってみよう!
その一声で早速稽古が始まった。
*
ジョイジョイジョイフルで今日の稽古感想会。そういえば初めて出席したな。メンバーは京子さんと楓さん、佐紀さん、一聖と大野だった。
「それにしても颯太君なんで戻ってくる気になったん?」
一聖が笑いながら漏らす。
「…別に、演劇したら、小春に会えるかもと、思っただけだよ…」
「…え、会えないの?小春に?」
京子さんが驚いた声を出す。
「もう家に来ないで欲しいと言われました」
周りの空気がしんと静まり返る。
「大丈夫よ、あいつなら」
京子さんが断言した。
「きっとすぐ元気になる、それまでいろんな劇やってあいつをびっくりさせてやろう!」
「そうだよ!田畑君!小春なら大丈夫!私達信じてるから!」
楓さんも佐紀さんも小春の事信じてるんだな。
「春ちゃんなら大丈夫やで!田畑君元気だしや」
大野和幸も笑う。
「…そうだな」
自然と笑みがこぼれる。すっと気持ちが楽になる。他人と関わるのってこういう感情なのか。
知らなかった。
小春に演劇部に入った、観に来て欲しいと伝えてみよう。
*
その夜、俺はラインを入れた。
「また演劇部入った」
「え!?どうしたの颯太!?」
「小春に観に来てほしい、俺頑張るから」
「分かった!絶対観に行くね!」
会話終了。良かった、演劇をやればやるほど小春に会える。それならなんでもいい、何作品でもこなしてみせる。
*
「それにしてもマチさんさんはどーして、このタイトルにしたんですか?」
京子さんがマチさんに問う。
「んー最近異世界転生もの多いじゃん、タイトルはシンプルイズベストな方が注目引くかなって!」
「なるほどーですよね!」
京子さんが笑って納得したみたいだ。
「じゃあ立稽古してみようか!」
久保先輩指導の下、立稽古が一通り終わり、ダメ出しの時間だ。
「田畑君、もう少しフランソワに対して情熱的になってみて!」
「はい、久保田先輩」
「マチさんでいいよ★」
「フランソワちゃんは文句なしにいい出来になってる!このまま進んで!」
「ありがとうございます、マチさん!」
「ミカエルは瞳★ロゼリエッタの総長になってるよ!あんまり洗脳されないように!」
「了解です、マチさん」
「カエサルは…大分たつのぶになってる…でももっとたつのぶになってみよう!本田君なら出来るよ!」
「了解です!マチさん!!また瞳★ロゼリエッタのたつのぶのシーンを熟読します!」
「カフェオレ君は元の性格と合致していていい感じ…!もっとチャラくてもいいよ★」
「ありがとうございます!パリピは得意です!」
「リュミネ、マリア、リリス、ミラージュは完璧だった…でももう少し婚約者への愛情を感じさせるようにして」
「「「了解です、先輩!!!」」」
ガラッと後ろから誰か入ってきたと思ったら数学の山中とジョンとぬーと呼ばれていた謎の二人組だった。
「あー先生に一度見せて見ろ」
山中が笑って言う。
「見せて見せて…!」
「うん…見せてほしい…」
一体このジョンとぬーは何者なのか…
そして立稽古を終えて、山中の駄目だしが始まる。
「ジョージア、お前はフランソワを溺愛できていない…まだ愛せるはずだろう…」
「はい、先生、家に帰ったら脚本を熟読します」
「あと、フランソワ、お前は演技は完璧だがどこか固い印象があるな、もっと気負わず演技して見ろ、プロの演劇じゃなくてアマチュアなんだ、安心して自分をさらけ出せ」
「ありがとうございます、先生」
「それからミカエル、カエサル、カフェオレはフランソワに対して最初はつっけんどんな態度を見せるが実は愛してたというギャップができていない…!もっとフランソワに向き合って見ろ」
「「「はい、先生…!」」」
「リリス、マリア、ミラージュも同様だ、婚約者にべったりだった二人だが、実はジョージアガチ勢だったということを周囲に知らしめろ」
「「「はい、先生」」」
「先生役はもっと怒っていい、貴族としてフランソワを叱るんだ」
「了解です、先生…!」
ジョンが口を開く。
「演劇はいい感じだけどさあ、また合宿に行く必要があるんじゃないかなあ」
「そうだねー」
ぬーも賛成していた。
「確かに、このところ忙しくて演劇に関して仕込みが甘かったな、反省する」
草薙先輩が二人に謝った。
「マチさん、また合宿やるんですか?」
俺は思わず隣にいたマチさんに問う。
マチさんは笑う。
「そうだよーここ神秀学園は演劇に関しては、ガチで手厚いからね!冬期講習が終わったらすぐに合宿行くことなるのかも…!まあここさえ乗り切ればプロの道に行けるかもしれない登竜門だね」
山中が大きな声で言った。
「あー…メンバーは2年以外の1年全員だ、2年はそろそろ受験に真剣に取り組む時期だからな、1年だけで行くぞ」




