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第百三十話 デニーズィランド②

翌日。学校へ行くと周りは騒然としていた。なんと達也と由紀子さんが付き合うことになったらしい。中学の頃、吹奏楽部の早智子さんが好きだったくせに切り替えの早い奴だ。俺は思わず達也の席の前まで行き詳細を聞いてしまった。

「なあ、内山、なんで由紀子さんと付き合うことにしたんだ?」

「え、…由紀子頭いいし可愛いから?それだけの理由だよ」と返された。いつだってそうだ。周りの連中は次々と付き合う連中を乗り換えまくって、最終的に結婚するんだ。俺には小春しかいない。あいつと結婚するのは絶対に俺だと決めている。物はいくらでも乗り換えるけど、これだけは絶対誰にも譲らない。演劇部は今どうなっているんだろうか。そこでもそのうち、韓流ドラマのような恋愛関係が出来上がってるのかもしれない。面倒くさい。


俺はとっとと家に帰って久々にエロゲでもするかと考えていた。俺のエロゲの2番目の推し、ネムは素晴らしい。独裁者として学園に君臨していたネムは実は主人公の幼馴染だ。心から大切な幼馴染。星を見上げて飴を舐めるシーンは小春ともしたな、そういえば。そして主人公を助けるためにネムに課せられたのは「主人公に死ぬほど恨まれる」ことだ。もし俺がペットを飼っていたとしたらペットの名前は間違いなくネムと名付け可愛がってただろう。そして最推しのルーナ様。とてもとてもお優しいルーナ様。この壁画が出ると聞いて俺はすぐに20万使ってゲットしていた。小春に因縁の果てをやるまで押し入れに隠していたけど小春はルーナ様は綺麗すぎるから飾っておこうと言ってくれた小春。壁画に引かずに対応してくれた小春はルーナ様より綺麗だと思った。エロゲは全てパソコンの中に収納し、暇なときはずっとエロゲばかりしていた。それすら引かずに楽しそうにキラキラした目で神エッチゲームすごいねと褒めてくれた。あんな女はどこを探してもいないだろう。


ラインを開き、小春の容態を聞く。

「小春、元気か?」

「うん!実はねジムに寝ていけるようになったんだよ!」

「本当か!よかったな」

「それでね、お母さんが気晴らしに颯太とデニーズィランドでもいけばどう?って言ってくれたんだ」

「…大丈夫なのか?」

「うん、なんかね、今なら行けそうな気がするんだよ!」

「そうか、チケットはあるのか?」

「お母さんとお父さんが出してくれるって!新幹線代も!これで少し羽でものばしてくるといいよ!ってさ」

「…そうだな、小春が大丈夫なら行くよ」

「やった!次の土曜に行こう!日帰りだからパレードは観れないけど!」

俺は不安を感じていた。8番なラーメンで、うるさいと言っていた彼女が駅の雑踏なんて乗り切れるのだろうか。


土曜日。小春は寒かったのか大きなジャンパーと花柄のスカートを着ていた。俺もさすがに寒いのでジャケットを着こんでいた。

「…昨日は寝れたか?」

おそるおそる聞くと小春は大丈夫だよ、と笑う。

「じゃあさっそく行こうー!!」

そして小春の親に駅まで送ってもらった。

「それじゃ、行ってきます」

「気を付けて行かれねー」

小春の親に手を振って、デニーズィランドに向かって歩き出す。

「小春、うるさくないか?」

「大丈夫だよ、あ、駅弁あるよ!買ってくるね!」

よかった。小春は元気になってきたみたいだ。そして駅弁と飲み物を新幹線の机の上に置いて、新幹線は出発する。

新幹線内はあまり混雑しておらず快適だった。

「この駅弁美味しいねー颯太」

「ああ、美味しいな」

「ますのお寿司、私大好きなんだよー」

「ああ、ますの寿司はおいしいよな…」

ぽつぽつと雑談していくうちに新幹線は東京へとたどり着く。新幹線は降りた瞬間人混みがワッと押し寄せてきた。小春の体がビクンと動く。

「…大丈夫か?小春」

「ううん、全然大丈夫!!行こう行こうー!!」

東京駅は土曜日なこともあって人がごった返していた。

「……あ、ごめん、ちょっと手を繋いでもらってもいいかな」

小春の顔色は真っ青だった。俺はすかさず手を繋いだ。足が震えている。人ごみに恐怖を抱いているみたいだ。

「あー…駄目かも…うるさい!!」

「小春、俺、耳栓買ってくるからちょっと待ってろ」

そう言って慌てて耳栓を買ってきた。待ってる間小春は柱の傍に座って震えながら耳をふさいでいた。

「小春、…ッ大丈夫か!?もう帰るか?」

「だ、駄目だよ、せっかくお父さんとお母さんが働いたお金でデニーズィランド行けるのにこんな所で帰れない…!」

「…分かった、行こう」

手を繋いでゆっくりと舞浜駅へと向かう。舞浜駅へとたどりつくと小春は少し落ち着いた。

「ふう…颯太、どうなるかと思ったよ」

「ここまで着いてよかったな」

「とりあえず早くデニーズィランドランド行こうー!!」

長いエスカレーターにも彼女は少しびくびくしていた。こんな調子でアトラクションなんて乗れるのだろうか、不安ばかりが募った。


デニーズィランドに向かうバスの中でも小春はうるさいなあ、とぼやいていた。どうしたらいいのだろう。俺にはこんな音うるさくもなんともない。彼女は一体どうなってしまったんだろうか。もうすぐデニーズィランドが開園する時間だ。

「それでは間もなく開園しまーす」

キャストの言われるがままにデニーズィランドに入場した。小春はずっと耳栓を付けている。俯いたまま喋らない。

「…ジャングル的クルーズでも行くか?」

「うん、並ばなくてもいい所に行きたい」

キャストが大きな声でジャングル的クルーズへようこそ!と叫ぶ。小春の体がさらに震える。

「やだやだやだやだうるさい!!怖い颯太!!」

彼女が大きな声で叫ぶ、途方に暮れそうだ。

「大丈夫だから、乗ってみよう、な?」

「う、うん」

ゆっくり船が動き出す。小春がびくびくしながら寄り添ってくる。

「嫌だあ!!怖い颯太、もう帰りたい…」

「…そっか…これ終わったらすぐ帰ろう、な」

小春がすすり泣いている。

「ごめん、こんなことになるなんて思ってもなかった…ごめんね、ごめんね…」

「大丈夫だから、泣かなくていいから」

ジャングルクルーズを降りてから小春がぽつりと漏らす。

「私ね、好きな人にぬいぐるみ買ってもらうの夢だったんだ」

「なんのぬいぐるみがいい?買ってくるからそこで待ってろ」

「えーとね、ぷううさん」

「分かった」

俺は人混みをかき分けてぷううさんの抱き枕のようなぬいぐるみを一つ買った。

「嬉しい!颯太!これ毎日抱いて寝るね!」

「それより帰ろう、小春、これ以上ここにいたら駄目だ!!」

「やだやだ、まだ一つしかアトラクション乗ってないのに」

「小春…頼むから、もう帰ろう…」

「颯太、ごめんね…せっかくきたのに…一つしか乗れないなんて」

「気にしなくていい、俺は小春にプレゼント贈れて満足してるから」

俺達は手を繋ぎながら、ゆっくりと帰路についた。


どうしたらいいのか、分からない。


それからますます小春の容態は悪くなった。またジムに行けなくなったらしい。やっぱりデニーズィランドは彼女には早かったらしい。人は眠れなくなるとあんなふうになるのだろうか。病名が不明でいつ治るのか分からないなんて…。

途方に暮れていた。そこへ一聖が前の席に座って話しかけてきた。


「田畑君、元気ないな、どうしたん?」

「実は土曜日に小春とデニーズィランドに行ったんだけど小春の具合が悪くなって途中で引き返して帰ってきた。


一聖はしばらく考え込むような仕草を見せて、呟いた。


「そっか…春ちゃん、まだまだ休まないと駄目なんだな、俺の事は一聖でいいからさ、颯太君って呼んでもいいか?これからちょくちょく詳細を聞かせてほしい」

びっくりした。同性から下の名前で呼んでいいかなんて、聞かれたことなんて初めてだったから。

「いいよ、好きなように呼んで」

「ありがとな、ところで颯太君は演劇部辞めてたけど、別の部に入るつもりはないのか?」

「いや…特に面倒くさくて」

「そうかそうかーでもさ、何か好きな部活に入ったら楽しいと思うよ」


そう言って一聖は去っていった。好きな部活が何か分からない。


教室が騒がしかったので、教室から少し離れた部室の前の階段でパンを食べていると、数学の山中に見つかってしまった。隣に腰かけきて山中は呟く。

「立花の様子、分かるか?田畑」

「相変わらずですよ…寝たきりです」

「そうなのか…厄介な病気になってしまったな…」


いつもは厳しい山中の優し気な声を聞いているとなんだか涙腺が緩みそうになる。誰か、誰でもいいから彼女を助けてほしい。


「時間ってのはさ…流れてるんだよ」

「はい?」

「時間が解決することもあるって話だ、まだお前は若いから分からないだろうけどな」


ハハっと笑いながら山中は去っていく。

「時間が…解決」

そんな日は本当に訪れるのだろうか。

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