第百二十二話 世界で一番愛してるよ
「どうしよう颯太、私このままだと中卒だよ…中卒ってなに、どうしたらいいのどうしたらいいのどうしたら眠れるの」
「小春、俺も中卒でいい、ずっとそばに居るから、安心しろ」
ああ、心配してくれてるのに、駄目だ、気配が、心配する声がうるさいうるさい…うるさい!!!
「あー…ごめん、うるさい…」
颯太がどうしたらいいのか分からない顔でうなだれた。
私もうダメだ…死んでしまいたい
こんな人生になるなんて思ってもみなかった。
みんな眠れる、私のことなんて忘れてしまう。
みんな頭がいいから、いい大学を出て、いい人と結婚して…私はひとりぼっちだ。
私が書いたボスの台詞。
こんな薄暗い世界でさ、生きてんのも辛い時ないか?でも俺はどこまででも生きてみたい、まだ見ぬ明日を見てみたいんだ…だから俺達と一緒に来いよ…
ここは薄暗い世界だ。頭の中がドス黒い感情に飲まれていく。やっぱり人間って眠ることが大事なんだな…。私はなんでそれをできたのか分からない。そうだ、瞳さんに会いに行こう…。
「颯太…私、瞳さんに会いたい」
「分かった、連絡入れとけ」
ラインですぐに瞳さんに連絡を入れた。
「いつでも来て」
瞳さん、なんて優しい人なんだろう…。
二人でマンションの前のインターフォンを鳴らす。
慌てた形相で瞳さんが登場。
「小春ちゃんどうしたの!?顔色真っ青だよ」
「すみません、私眠れなくなりました…助けてください」
「……そうか、小春ちゃん…私と同じ病気かもしれないね」
「病名はなんですか?」
「驚かせるから言えない…」
「私、どうしたら、いいですか…中卒なんて嫌です、嫌です…」
「小春ちゃん…」
会話を遮るように颯太が瞳さんに問う。
「症状が寛解するまで何年かかったんですか?」
「えーと…4年、かかったよ」
…………そんな、みんな大学に行く頃だよ…
私大学でも演劇するのが夢だったのにどうしてこんなことになったの!?
「わああああんっ、嫌だ、助けてください!!」
「……ごめん、助けてあげられない、でも絶対に時が解決してくれるから!これだけは信じて!!」
瞳さんの必死の説得で少しは楽になった。
眼の奥にチカチカ光が輝いてる。あ、もうこれ死ぬのかな私…
自宅に戻る前に颯太に問う。
「颯太、散歩しない?」
「そんな体で、できるわけないだろ…!いいから、家のベットで寝てろよ!」
「いいから、…星が見たいんだ」
秋の夜空は気持ちいい。
庶民の家に生まれて本当に良かった。
星がこんなにもキラキラ輝いてるから。
「月がきれいですね…」
「え…」
「愛してるって意味だよ、私の前世はもしかして夏目漱石だと思うんだ。キーラキーラ光るーよぞらーの星よー」
「…小春」
あ、駄目だもう歩けない。地面にそのまましゃがみこんでしまう。
寝転んで星を見上げる。星はこんなに綺麗だ。もしかして私の前世は夏目漱石だったりする、とか。
なんて、ね。
「颯太」
「小春…!」
「颯太、世界で一番愛してるよ」
その日から私は学校に行かなくなった。
病名不明。




