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第百二十話 助けて

それから、台本を片手に立稽古が行われた。

「こうたの龍君、もっとたつのぶになって!瞳★ロゼリエッタを熟読して!!」

「はい!小春さん、また家に帰って瞳★ロゼリエッタを熟読します、長くて挫折しそうですが、がんばります…!」


「かなめの大貝ちゃんは、もっと看守と出会ったとき、怖がってみて!」

「わ、分かりました…!」


「八田ちゃんはもっと謎の女の雰囲気だしてこ!大胆になって、こうたを愛してみて!」

「分かりました!!龍君を溺愛します!!」


「看守役の日高ちゃんは…完璧だった、このまま進んで…」

「分かりました」

凛とした声、この人は本当に瞳★ロゼリエッタの十束ひなた…


「看守の京子ちゃんはもっと畏怖い雰囲気出してほしい…!」

「分かったよ、小春」


「ボス役の颯太は…完璧だった、このまま進んで…」

「やっぱりな」


颯太がこんなに演劇が上手だとは思ってもなかった。

私なんかより、ずっと舞台俳優の才能がある…

私も舞台俳優になってみたかったけど、本番前日眠れないから、悔しい…!



*


帰りの電車の中、颯太と帰路に向かう。

「颯太、将来舞台俳優になれば?」

「嫌だよ、面倒くさい」

「だって演技もなにもかも完璧じゃん、羨ましいよ、その才能分けてほしいぐらいだよ…」

「小春の脚本なかなか、面白かったよ。面倒くさがりの小春が必死こいて書いたんだな、って伝わってきた」

「まあね、基本面倒くさがりだからね、草薙先輩と佐紀ちゃんがあんな長い脚本書けるなんて羨ましいよ…才能分けてほしいよ…」

やっぱりそうだ、お母さんの言うとおりだ、私は舞台俳優にも看護師にも小説家にもなれない…勉強して適当な会社に入らないとなあ…面倒くさい…


「今日、家来る?」

「いや、いいよ…由紀子ちゃんから借りたリボームの同人誌と時折ロシア人がデレデレと図書館で戦争する話読まないと、駄目だから…」

「忙しいな、小春」

「忙しいよー勉強にアニメに薄い本にKに演劇に…何からしたらいいか分からないよー」

「…とりあえず、リボームの同人誌読めばいいと思う」

そっか…颯太の言ったことは案外間違ってないことはない…

勉強サボって、オラ、リボームの同人誌読むだ!


リボームの同人誌は衝撃的だった。

推しの二人がなんと銀河鉄道に乗って行ってしまう内容だった。

生きてる間に評価されないまま終わってしまう宮沢賢治…

なんてひどい時代に生まれたんだろう…

没年も早すぎる…

ゆとり世代に生まれて本当に良かった。

漫画やアニメやゲームetcやりたい放題、なにからやっていいか分からないレベル。


リボームの同人誌を閉じる。

駄目だ、勉強から逃げるわけにはいけない…!

数Ⅰと理科と保健体育と外国語の概念すべてが消えてほしい。

そう思いながら、数学の教科書を開く。

なんか疲れたな…睡眠薬なしで学校に行きたいな…

その日の夜はまたよく眠れなかった。


*


挨拶する元気がない…

佐紀ちゃんが真っ先に駈け寄ってきてくれた。

「どうしたん、春ちゃん、顔色悪いよ…疲れてるの?ちゃんと寝なきゃ駄目だよ…!」

違うんだよ、佐紀ちゃん寝たくても寝れないんだよ私…

「小春、マジで疲れてる、学校早退した方がいいって」

楓、ありがとう、でも学校早退したら親に迷惑かけるから、行くしかないんだよ…


ギャルの輪から抜け出して颯太が近づいてくる。

「小春…!早退しろよ、顔色がヤバい…」

颯太、ありがとう…助けて…

もうすぐHRだ。数学の勉強しないと…

あ、駄目だ、声がうるさい、うるさい…

帰ろう。

「先生、…具合、悪いんで、帰っていいですか?」

「わ、分かったぞ、ご両親に連絡入れるか?」

「あ、お願いします、お母さんに連絡します…」

携帯で連絡を入れるとお母さんが慌てて、教室に迎えに来てくれた。

ほっとした。帰ろう。

その日1時間かけて、心療内科に向かった。

頭のいい主治医に急いで告げた。


「お願いします…!薬を増やしてください…寝たいです…!」

「これ以上増やすのは難しいですね…学校は暫くおやすみしてください」

「嫌です…!私の夢だった脚本が上演してもらえるんです…学校行きたいです」

涙がこぼれる、どうして、私だけ寝れないの…辛い辛い辛い。


病院の帰り道、車の中でお母さんにお願いする。

「お母さん、お願い…!学校へ行かせて…!!」

「ダメに決まってるやろ!!お母さんはあんたのこと世界で一番心配しとるんよ!!」

「でも、でも私の脚本やっと上演してもらえるのに…!」

「駄目だって言ったら駄目!!なんでお母さんのいうこと聞いてくれんのあんたは!」

やばい、お母さんも泣きそうだ。でもヤバいよ、私の学歴が中卒になってしまう。嫌だ、嫌だ、嫌だ…!

ラインを入れる。


「颯太、助けて」

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