第一話 あいつに愛されたい(女主人公目線)
7月3日。今日も暑い日だ。
教室の戸を開けるとクーラーはすでにかかっていて気持ちがいい。
「みんなおっはよー!」
私の一声にみんながワッと出迎えてくれる。
「こはるちゃんおはよー!!」
「はるちゃん、おはっ!」
「今日ちょっと遅かったねえ」
私、立花小春は幼稚園から中学に至るまで順風満帆の人生を送っていると自負している。
ただ体が弱くて親には散々迷惑はかけてるけど、親と友達に恵まれてるからすごく幸せなんだ。
一番前の席で座っている早智子ちゃんはやや大人しめな子で机と睨めっこしながら挨拶も聞こえてなかったみたいだ。
そっとみんなの輪から抜けて声をかけてみる。
「早智子ちゃん、今日の数学大丈夫そう?手伝えることあればなんでも言って」
「ありがとう…小春ちゃん…私数学だけは鬼門なの…」
そんなこと言いながら彼女は国語の天才なのだ。いつだって私より一つ上の成績。
私の周りの友達は自然とすごい人に囲まれている。
もうすぐでHRが始まる。
ガラガラとドアが開く音が聞こえる。
先生が入室する寸前で後ろ側のドアから奴は現れた。
みんながざっと引いていく。
頭はぼさぼさ、フレームの切れた眼鏡に包帯を巻き付けて今日も学校に来た。
学ランのポケットにいつも手を突っ込んで、履いてる靴は履きつぶしてボロボロ。
田畑颯太。
みんなの嫌われ者。ただ一つだけ不思議なのは絶対に私より成績が上なことだ。
いつだってクラスでは田畑君が1位。私が2位。
「小春ちゃん、あんまり見ちゃ駄目だよ」
前の席の彩ちゃんが言う。
だけど私はあいつがどうしてもどうしても気になって仕方がなかった。
社会の担任の先生が言う。
「HRを始めます、日直の人は号令を」
そうだ!私日直だった!
慌てて立ち上がろうとすると後ろの席の田畑君が椅子の後ろを蹴飛ばしてきた。
周りに異様な雰囲気が流れる。
「き、きりつ!!きょうつけえ、礼!!」
なんとか絞り出した声。
先生が苦笑しながら「おはようございます、出欠をとりますので…」
先生の声が聞こえない。
あまりの衝撃に頭がついていかない…。
「立花さん」
「は、はいい」
また空気が重くなる。
そして先生は次々に名前を呼び、次は「田畑君」と先生が言う。
「はい」
キレイな返事。
どうして椅子の後ろを蹴飛ばされたのか全然分からなかった…。
先生の授業がまるで耳に入ってこない。
なんで私こんなに田畑君に嫌われてるの…。
分からない。
1限目が終わった。休み時間にみんながわっと押し寄せてきて小春ちゃん大丈夫だった?どうしたの?と騒ぐ声が遠い。
後ろを振り返ると田畑君はいない。
トイレにでもいったのかな…。
なんの因果かさっぱり分からないんだけど私は席替えのたびに田畑君が後ろに座っている。
先生が決めたんなら仕方ないよね…。
この日の授業はまったく頭に入らないまま家に帰ることになった。
*
家の扉をガラガラ開ける。
「ただいまお母さん…」
「小春ちゃん!!!どうしたの!!?そんな暗い顔して」
お母さんは異常なまでの過保護だから私の心配ばかりしている。
「あのね、今日日直だったの、それで」
「あー…田畑君?」
さすがお母さんだ鋭い反応。
「たばたくんが、……私の椅子蹴っ飛ばしたの!もうやだああ」
お母さんに甘えた顔で泣きつく、すごく安心する。
田畑君にされた仕打ちは他にも多々ある。頭に消しゴムを投げられたり、プリントを回すといつもひったくるように奪われたりetc…
「ねえ小春、お母さん、先生に席替えは田畑君の前にしないでくださいって言おうか」
「いいの!もう耐えきれないから直接明日、田畑に自分で言う、もうあったまきた!」
こういう頑固なところは父親譲りなのかな。
母も心配しながら小春がそういうならと、ため息をついた。
明日田畑君になんて言おう…
昼休みは友達とワイワイ席を囲んで給食を食べる楽しい時間だ。
田畑君は自分の席でただ一人で美味しくもなさそうな顔で給食を食べてる。
「小春ちゃん、どこ行くの!?」
栞ちゃんの言葉を無視して私は田畑君に向かっていく。
「田畑君、……昨日なんで私の席の後ろ蹴っ飛ばしたの!?」
田畑君は舌打ちしてこう言った。
「あんた、トロいから」
ただ一言で終わらせられた。
もう意味が分からなかった。
私は栞ちゃんのほうへまっすぐ引き返した。
「ごめん栞ちゃん、なんか意味が分からなかった」
「小春ちゃん、あいつのことなんて気にしなくていいから」
座ってと栞ちゃんが席を引いてくれた。
栞ちゃん、私どうしたらいいのかな…
*
今日は田畑君は学校に来なかった。
風邪でも引いてるのかな、すこしほっとした。
やっと放課後になったところで私の一番の親友、内山美奈穂、通称『みな』が田畑君の座っていた席に座った。
みなの髪は軽くウェーブがかっているロングヘア―。笑顔がとても可愛い。
振り向くとほっとしてあったかい気持ちになる。
「よかったねー田畑今日休みで、春ちゃん」
みなと喋っているとほっとする。安堵感に足の力が抜ける。
「本当後ろのオーラが怖くてさあー今日は安心したよ、みなー」
みなと今日の授業や部活のことについて雑談する。みなは本当に私の事心配してくれる親友だ。
田畑君はなに考えてるか全然分からないから嫌だ。
でも心の中でもやもやする。
あいつももしかして私と一緒で体弱いんじゃないかなって…
心配でなんだかたまらなくなった。
スクバを持って勢いよく立ち上がる。
「ごめん、みな!!ちょっと職員室行ってくる!!」
「えっ春ちゃん!?」
職員室のドアを勢いよく開けると、先生たちが驚いた形相でこちらを見つめた。
私は真っ先に担任の先生の場所に行く。
「田畑君の家を教えて下さい」
先生は苦い顔をして、「田畑君の家はね、…その、行かなくていいんだよ、立花さん」
それでも私はあいつが心配だった。
あいつがたびたび学校に来ないのは体が弱いからなんじゃないかって。
「嫌です、私田畑君が心配です、先生お願いします、田畑君の家を教えてください」
先生が首を深くかしげて言った。
「分かった、一緒に行こうか、立花さん」
そして私にだけ聞こえるように耳打ちしてくれた。
「もしかしたら、立花さんは後悔するかもしれないけど…いい?」
「いいです」
即答だった。
先生と一緒に廊下を走りながら田畑君の家へ向かう。
先生はゆっくり車を走らせてくれて、私もいろんな感情に振り回されて少し眠たくなってきた…。
「着いたよ、立花さん」
先生の声ではっと目が覚めた。
見えたのはごく普通のマンションだった。
車を降りて、景色を眺める。
「先生、田畑君はここに住んでるんですか?」
「そうだよ」
「田畑くんのお母さんとお父さんってどんな人なんだろ…緊張してきた、せんせい」
先生は苦しそうな顔をした。…私なにか間違ったこと言ったかな?
先生どうしたの!?
「立花さん、落ち着いて聞いてくれるかな…」
「田畑君のお母さんは田畑くんを産んでから亡くなられたんだよ…お父さんはね、どこにいるか分からないんだ」
「……」
「立花さん、意味、分かるかな?」
「分かりません…先生、中学生が、どうやったら一人で暮らすことができるんですか…」
とりあえず中に入ってみたい、と私が先走って先生はマンションの前のインターフォンを押す。
ガタガタと音を立てて田畑君が現れた。
おでこに熱さまシートを張ってる、やっぱり熱だ。
「田畑君、調子はどうですか?」
「へーきです」
平坦な声。全然平気そうに見えないよ…。
「たば、」
「なんであんたが居んの」
え、
「だって…心配だったから」
「帰って」
「…どうして?」
「あんたが世界で一番嫌いだから」
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