去年の夏のかくれんぼ
2年ぶりに夏ホラーに参加します!
これは去年の夏の話だ。
「かくれんぼをしようよ」
彼女は僕にそう言った。ここはいつもの公園。学校が終わった後の放課後。幼馴染の友達4人で遊ぶ最高の時間。夏なのにその日はなぜか涼しかった。
「ねぇ、あたしを見つけてくれる?」
「うん! ぼくは見つけるのが得意だからね」
「よかった。絶対にあたしを見つけてね」
「もちろんだよ」
ぼくは公園の大きな木の下でそう約束した。
彼女はツインテールの髪と黒いワンピースを揺らして走り去っていく。
「もういいかい?」
30秒後、ぼくはそう叫んだ。
「もういいよ」
「もういいよ」
「もういいよ」
「まあだだよ」
10秒待ってぼくはもう一度聞く。
「もういいかい?」
「もういいよ」
「もういいよ」
「もう、いいよ」
ぼくは走り出した。
「かんちゃん見つけた」
「りんちゃん見つけた」
1分くらいで、簡単に友達を見つけることができた。
木のうしろやすべり台の影。隠れるところなんてほとんどないもんね。
でも、彼女だけは見つけることできなかった。
「どこにいるんだろう?」
ぼくは少しだけ心配になってかんちゃんとりんちゃんに問いかける。
「ねぇ、たくみ?」
かんちゃんは、短い髪をゆらしながら頭をかしげている。
「なに、かんちゃん?」
「たくみは、だれを探しているの?」
「えっ!?」
そう聞かれるとぼくは彼女の名前すらすっかり忘れてしまっていたことに気づく。
外見の特徴しかおぼえていなかった。
「ツインテールで黒いワンピースの……」
「そんな子知らないよ?」
りんちゃんも不思議そうな顔をしている。
「うん、そうだよ。わたしたちは、3人でかくれんぼをはじめたんじゃない?」
ぼくたちはその事実を思い出すと、なぜか怖くなって震え始める。
「あのさ、かんちゃん?」
「なんだよ……」
「ぼくが、みんなを探し始める前に、なんで4回返事があったんだろう……」
「「えっ……」」
ぼくたちは手をつないで公園から走り去った。
結局、かのじょは誰だったのかわからない。ぼくはまだ彼女を見つけることができていないから。
そして、今年の夏もまた、ぼくたちはかくれんぼをはじめた。(完)