第五話
ユーカリの爽やかな香りがするシャンプーを左手に適量つけて少しお湯を垂らし手で泡立てる。
ポツポツと小さな気泡が沢山できて泡の表面にはサランラップのような光を反射させる膜がはってある。
一瞬でしぼんでしまうその儚さに少し寂しさを覚えた。
炭酸水のような音を奏でているが迫力がなく遠慮がちのような気もする。
納豆をかき混ぜた時にできるふわふわのようで
銀色のような白色のような何とも言えないグラデーションが印象に残るシャンプーを
お湯で濡らして毛の色が少しわかるようになった
頭・背中・お尻につけた。
マー君は目をまん丸にして潤った大きい目で私を
ジーッと見つめている。
まるで「今から何をするつもり!?」とでも言うように……
「マー君は今から清潔になります!覚悟を!!」
まずは地肌から洗おうと頭の毛の奥に指を滑らせた。指の感覚点から身体中に伝わってくる頭の温もりや皮膚の柔らかさ、次は背骨をなぞるように泡立てていく。
大人しく、じっとしているのでとても洗いやすいが、シャンプーの泡が汚れてきたので、一度お湯で小さい体を流した。
白くて美しいポニーのしっぽのような毛から滴り落ちる水は、湧き水がちょろちょろと流れ出るすがたを連想させる。
「もう一度シャンプーするからじっとして……」
そのときにマー君が大きく身震いをした。
小さい水滴が一気に空中に舞い上がり、私の肌に霧のように触れる。
「マー君わかったよ、リンスしてからお風呂に浸かろっか」
マー君に近ずいた私は少量のリンスを全体的にワシャワシャつけた。粗忽者だと思われてしまっただろうか、
大人がちょうど二人入れるか入れないかくらいの狭い浴室はヘッドが古くて止めててもポタポタとタイルの上を静かにずっと叩きつけて、
レトロなピンク色のサイコロの形をした浴槽は体育座りをすると肩からつま先まで浸かることができる。
外に繋がる隙間の空いた磨りガラスの小窓からは湯気がそとに漏れ出て外からはタバコの煙のように見えることだろう。
シャワーから弱く流れるお湯でリンスを流した。
マー君は多分マルチーズだろう。
小さくてかわいらしく、縮毛矯正した後のようにサラサラな雪のような毛はたれた両耳のてっぺんから流れるように生えていて美しかった。
「そんなに睨まないでよ……もう洗わないからさ」
怒っているのか低い声でフガフガと文句を言ってるように聴こえた。
私はそっと黄色のプラスチック製の桶にそっと浴槽からお湯を七割くらい拾い上げるとマー君をひよこちゃんと一緒に入れた。
目の前に自分と一緒に浸かってる物を確認しようと鼻をピクピクさせてひよこちゃんを嗅いでいる。
嗅ぎ終わると落ち着いたようにフーっとため息をつきホットしたらしい。
気持ち良さそうに目をぱちぱちしているが、寝てしまいそうだ。なかなか起きたまま入るのは難しそう。
七瀬はつま先からゆっくり水面張力を破って薄水色の別世界に入っていった。