婚約破棄は突然に⑦
(何ということだ!!まさかリリーのみならず国中に知られていたなんて!!)
アルはまたまた引き続き驚愕した。そして驚愕しているアルにリリーは驚愕した。
「なぜ、驚いているのです?まさかあんっっなに節操なく下半身を大暴れさせておいて誰にも知られていないとでも思っていたのですか!?」
「だ、だって僕が女性達と戯れるのは秘密のバラ園だけで……」
もごもごと言い訳をするアルに、リリーは頭を押さえ、手元の本に栞がわりに挟んであった四つ折りのメモをスッとテーブルの上に差し出した。
「これは……?」
「中を見てください。」
首を傾げるアルにメモを開いてみるようにリリーは促す。
不思議に思いながらもメモを開いたアルは目を見開いた。
「あ、あああ……」
「お分かり頂けましたか?」
リリーはブルブルと震え今にもこぼれ落ちそうなほど目を見開きメモを握りしめるアルに、呆れを通り越して哀れみを感じた。
無理もないだろう。リリーの渡したメモには
"第二王子の秘密のバラ園、王宮正面より徒歩25分"と記されており、その下にはご丁寧にもバラ園への地図が詳しく描かれていたのだから。
「ご親切なご令嬢が先日くださいました。」
「えっ!?」
「あとそれはコピーです。何方が書かれたのかは知りませんが、年頃の貴族令嬢はもちろん学園の生徒や王宮で働くメイド、果ては城に出入りする商家の年若い娘達にまで広まってます。」
「はっ!?!?」
「もちろん私の両親もアルのご両親、国王陛下ご夫婦もご存知です。」
「ちょっ!?!?!?」
アルは衝撃的すぎて言葉が出てこない。頭はぐるぐると回っているし、手と足は情けなく震えてるし、呼吸は不規則で荒く、まるで興奮した犬のようだ。
満身創痍、今にも倒れてしまいそうなアルがなんとか言葉を絞りだそうとしたその時、リリーがポツリと止めの一言を放った。
「可哀想……。」
カッ
リリーの嫉妬でも怒りでもない、心底可哀想な者を憐れむ視線に一気にアルの頬が真っ赤に染まった。
「……あの、こんなこと言ったらアルのプライドを傷つけてしまうかもしれないけれど……誰かが言わないといけないと思うから、婚約者としての最後の責任だと思うので私がお伝えしますね。」
リリーは申し訳なさそうに眉を下げ、決意したように口を開いた。
「"僕に逢いたいときは秘密の花園においで〈キリッ〉"」
「ちょっ……」
「そう言ってこの地図をご令嬢達に渡していらっしゃるらしいですね……」
「まっ……」
「そして、関係をもった女性達には"シーッ。ここは僕と君の秘密の場所、神様が造り出した地上のオアシスだ"」
「リリー!!」
「"可愛い子猫ちゃん、君はイヴで僕はアダム。この楽園のことは神様にも秘密さ〈ヒダリメウインク〉"」
「頼むから……」
「男性にはこう言うの、カッコいいと思うお年頃があるのかもしれませんが……はっきり言って」
「もう本当に……」
「気持ち悪いですよ。」
「やめてくれーーーーーー!!!!!」
アルは絶叫すると顔をこれでもかと真っ赤に染め、目尻には大粒の涙を浮かべ、両手で耳を塞ぎしゃがみこんでしまった。