婚約破棄は突然に③
恥ずかしながら、思い当たる出来事は多々あった。
なので、どれがリリーの逆鱗に触れたのか検討する必要があった。
先程リリーの言った「先月のお茶会」と「裏庭のバラ園」と言う言葉。冷静に分析すると、これに関わる出来事がリリーの逆鱗に触れ現在僕は婚約破棄を突きつけられているのだろう。
ここまで絞り込まれれば「あれか!!」と見当がつきそうなものだが、先程言った通り僕には思い当たる出来事が多々あるのだ。恥ずかしながら……
だが流石に此処で「どの令嬢との密会のことを言っているんだい?」なんて口が裂けても言えない。
言ってしまえば、ただでさえ冷たいリリーの視線が氷点下を超えることは容易に想像できたからだ。
アルは頭をフル回転させ、先月のお茶会での自分の行動を振り返ってみることにした。
確かあの日はリリーの家にいつも通り馬車で迎えに行き、母上主宰のお茶会へと向かった。
いつもより幾分洒落たドレスに身を包んだリリーと、車内ではおよそ普通の令嬢達とは話題にのぼることなどあり得ない政治や領地経営、景気について大いに盛り上がったものだ。
普段アルを取り巻く貴族令嬢は勿論、将来国の中枢を担うであろうアルの学友であり、貴族子息達でさえついていけない様な話もリリーは当然のように理解し有意義な討論を行う事が出来た。
リリーは聞き上手で、絶妙な頃合いで相づちを入れてくれる。そして僕が言わんとしていることを十言わずとも理解し、時には目から鱗が落ちるような画期的なアイデアや助言をくれることも多々あった。
だから僕は年の近い貴族子息達の誰よりも、五つも年下の女の子のリリーと話す時間が好きだった。そしてここまで気の置けない関係の友人はリリー以外にはいなかった。
(うん。ここまでは何も問題ないはずだ)
アルは一人楽しかった時間を振り返り確認する様に頷いた。
(と、いうことはこの後の僕の行動がリリーの逆鱗に触れたのか)
アルはこの後のある意味日常茶飯事的に行っていた悪行の数々に頭を抱え、しぶしぶと記憶を辿った。