君は僕にとってなに?①
「なんの文句があるって言うんです?これまで通り、いえ、これからは堂々と色んな女性と楽しい時間を過ごせるではありませんか」
先日の婚約破棄騒動について友人であり側近でもあるロドリーに愚痴るとそんな答えが帰ってきた。
「そもそもアル殿下はリリー様に恋愛感情としての好意をお持ちなんですか?」
「それは……どうなんだ?」
「どうなんだ?って私に聞かれても困ります」
はっきりしない態度のアルに、ロドリーはこれ見よがしに溜め息をつきサラリと滑らかな濃紺色の髪に指を通した。
「じゃあよいではないですか。即答できないのであればその程度の気持ちだったということです。リリー様とはこれからはよき友人として付き合い、今まで通りアル殿下は素敵なご令嬢たちとの逢瀬を楽しむ、これでみんなハッピーではないですか!!」
「それは、そうなんだが……」
なんだかリリーの婚約者でなくなるのは、ほんの少し、嫌……かもしれない。
アルはもやもやとするこの気持ちが何なのか分からなかった。
リリーとの婚約は幼い頃から決められていたことで、子供のころから大人になったらリリーと結婚するのだと漠然と思っていたし、その思いは学園に入学してリリー以外の女性と関係を持つようになっても変わることはなかった。
そうか、婚約を破棄したと言うことはリリーとは結婚しないと言うことなのか。
そんな当然の事が突然ストンと頭に浮かんできて、そんな未来を想像して、違和感を覚える。
「それは、嫌だな……」
「なにがです?」
ポツリと溢れた言葉にロドリーが眉を寄せたのを視界にとらえ、アルはなんでもないと慌てて取り繕った。
「まあ、そもそもアル殿下にリリー様はまっったく釣り合っていませんでしたから、これで良かったのです。
公爵家のご令嬢で、才色兼備で、人柄も良く人望もあり国王陛下の覚えも目出度いリリー様と、方や国王陛下に見放された見掛け倒しの色欲魔神の放蕩王子アル様じゃ月とスッポン、いや、ダイアモンドと石ころのようなものです!!」
ロドリーの側近としての立場を忘れた遠慮のないまるで氷の刃のような言葉が、次々とアルの胸を遠慮なく突き刺さしてくる。
「そ、そんなに言わなくても……」
「いいえ、折角の機会ですから言わせていただきます!!
アル殿下はご自分の立場をわかっていないのです。さんっざん好き勝手しておいて、いざ婚約破棄されたら『別れたくないよー!!』って貴方は馬鹿なのですか?」
「そ、それは(ゴニョゴニョ)」
「貴方は一体何度リリー様に迷惑をかけましたか?一体何度恥をかかせましたか?こうなったのは必然で、アル殿下の行いが招いた当然の結果です!!
そもそも婚約破棄について悩んでいるようですが、貴方に婚約を継続するか破棄するか選択する権利はありませんから!!」
貴方はただ黙ってリリー様の言う通りすればいい、それが貴方に出来る最後の罪滅ぼしなのです。
そうキッパリと言い放ったロドリーは、それはそれは冷たい視線をアルに向けた。
「うぅ、そんなぁ~」
親しい友人であるロドリーにも冷たく突き放され、アルは情けない声をあげて机に突っ伏する。
その後もロドリーの説教は続き、いかにアルが王子として男として一人の人間として情けないか愚かであるかネチネチといって聞かせた。
それは日がくれてアルが涙目でごめんなさいと何度も謝るまで続いたのだった。




