嘘ついててごめんね。ありがとう。
大好きな声が、聞こえる。
死に際に聞こえる都合のいい夢かもしれない。
それでもやっぱり、夢でもいいから、伝えたくて。
椿は吐息に交えながら、途切れ途切れに言った。
「う、…そ、つい……て、ごめ……、ね。あり、が………と、……ぅ。」
嘘ついててごめんね。ありがとう。
そう、伝えたかった。
何年も泣いていなかった自分の頰に、冷たいものが流れた気がした。
これは、夢だろうか。夢なら、それでいい。
現実なら…私の思いが、伝わっていることを祈ろう。
途切れ途切れになっちゃったけど、私の気持ちは変わらない。
私のことを友達って言って笑いかけてくれたあなたに、大好きって言ってくれたあなたに、同じ学部に受かって嬉しがってくれたあなたに。
私は感謝しても、仕切れない。
遠くから誰かの泣き声が聞こえた。
もう、耳も遠くなって聞こえない。けど、泣かないで?ねぇ、笑ってよ。
大好きな貴方達に、私は何かを返せたかな。
ーーどうか、幸せで。
私は、浮島 椿としての生涯を19歳で終えた。
◇ ◆ ◇
“嘘ついててごめんね。ありがとう。”
それが、彼女の最期の言葉だった。
急いで呼んだ救急車が到着する前に、彼女は亡くなってしまった。
いくら泣いたって、椿は帰ってこない。
だからせめて、私達は出来ることをしよう。
そう決心した私達は、警察の事件捜査に全面協力した。そのお陰か、事件はあっという間に解決した。
警察の人が教えてくれたことなのだが、椿が刺される前に笑いながら見ていた観賞用植物。
あれには、全自動小型カメラが葉と葉の間に隠すように設置されていたと言う。
そのカメラが、全てを物語っていた、とも。
そのカメラには、毎日のように椿に暴力を振るい暴言を吐く両親の姿が映っていたそうだ。
ねぇ、椿。
どうして嘘をついたの?
なんでずっと、黙っていたの?
なんで相談してくれなかったの?
そんなに私達は頼りなかった?
椿のバカ。嘘つき。
ーー大好きだったよ。