ザマァ見ろ。
それから家の中は、文字通り地獄絵図になった。
慌てて廊下へと逃げ込んだ父親に母親は近くにあった大振りの高価な花瓶を花ごと投げつけた。
幸い?父親は花瓶に掠っただけで大きな負傷は見られない。
そして逃げ惑う父親目掛けてナイフを振り回す母親。壁にいくつもの裂け目が入った。
何度も父親から助けを求める、なんとも情けない声がかかったが…私は大嫌いで仕方がない人を命懸けで助けたいと思うような、出来た人間じゃあない。
私はただ、傍観に徹した。
まぁ、警察は呼ばせてもらったけれど。
突然、父親が母親に向かって叫んだ。
「お、おい!悪かった!悪かった!謝るから!な???だから俺にナイフを向けるのはやめてくれ!!!!!あ、あぁそうだ!ちゃんと養ってやるから!それも一生だ!約束するっっ!!!」
すると母親は、弱弱しく呟く。
「本当…?養って、くれるのね?」
「あ、あぁ。もちろんだ。」
母親は、狂気を孕んだ瞳を父親に向けながら続けた。
「私が、#この役立たず__椿__#よりも価値が無いなんて、嘘よね?ねぇ、そうよねぇ!?!?」
おぞましいほどの狂気にあてられた父親は、それに否を唱えることは出来なかったらしい。
「あぁ、嘘だ。もちろん、嘘だとも!椿のような役立たずに価値なんてないさ!」
と、娘に対して言うような台詞ではないような酷い台詞を堂々と吐いてみせた。
それで母親が正気を取り戻すと、そう思っていたのだろう。
しかし、そんなに物事は上手くは運ばれない。
母親は狂気を色濃くのせた笑みを浮かべると、こう言ったのだ。
「そう?なら、もう#この子__椿__#はいらないわよね…??」
え?と思う隙も与えられず、椿はあっという間に母親に追い詰められた。母親の手には先ほどのナイフ。
…つまり、標的が父親から椿に変わったのだ。
ーー殺される!!!!!!!!
椿は咄嗟に逃げようとして……やめた。
だって、別に死にたくないなんて思わない。
きっと私が死んだって誰も困らない。
こんな世界、もう、いらない。
それからの出来事は、まるでスローモーションのように見えた。
ゆっくり、ゆっくり、ナイフが近づいてきて。
ナイフがお腹に刺さって。
刺されたお腹が熱をもって、凄く熱く感じて。
それと同時に痛くって。
ふと、霞む視界に光に反射してキラリと光るレンズのようなものが映った。それを見て、椿は笑った。
これで#両親__こいつら__#は完璧なまでに犯罪者だ。
母親に至っては殺人犯。
「…っ、はっ!ザマァ見ろ。」
お前らなんて、一生罪人として生きていくがいい。
世間から睨まれ社会から拒まれ、身を縮ませて生きていればいい。
ーーきっと私の、浮島 椿の死が、お前らの人生最大の重い重い枷となる。
もうすぐ私は死ぬだろう。
悔いはない。
さようなら、綺麗で汚くて理不尽で大嫌いな世界。
ふっと目を閉じかけたその時、大好きな人達の声が、聞こえたような気がした。
「いやぁぁぁぁぁああああ!!!!椿っ!椿ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「おい、嘘だろ!?!?!?しっかりしろ!浮島、浮島っっ!」
これは、夢か。幻か。