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聖なる歌姫は嘘がつけない。  作者: 水瀬 こゆき
前世編
3/22

なんだよ、これ……。


一度だけ、椿から放課後遊びに行かないかと誘われたことがある。その時椿は、何か欲しいものがあって、それを買いに行くのだと言っていた。

椿が欲しいものが何かなんて深くは考えずに、私は二つ返事でその誘いに乗った。

椿が買いたいものは小型の全自動型小型カメラだった。大学生の私達には本来手が出るような価格ではないのだが、何せ椿はお金持ち。私なら半年かかっても払えないであろう金額を支払うと、何食わぬ顔でそれを購入した。

でも、全自動型小型カメラなんて普通の学生が欲しがるものじゃあない。これも、椿の大好きな家族絡みの理由があるのかと思って聞いてみた。

「ねぇ、それ。お母さんとお父さんのために買ったの?」

私は椿が当然肯定すると思っていたので、椿の返答に驚いたのを覚えている。

「違うよ。これは、私の為に買ったの。」

その時の椿の微笑みが、いつもと違って凄く冷たく感じたのはどうしてだろうか。

それに、自分で望んで買ったのなら一体椿は何のためにそんな物を買ったのだろう。

私はバカだから、そんな事はわからない。

けど椿には、いつも私に向けてくれているような幸せそうな笑顔でいて欲しい。

だって、私は椿が大好きなんだもの。

そう思うのは当然でしょ??


◇ ◆ ◇


「はぁ、はぁ、なあ御上。もしかしなくても、ここか?その、浮島の家って言うのは。」

「あんた、標札の漢字も読めないわけ?はぁ、はぁ」

大学を出てから約10分。空と鈴堂は、椿の家に到着した。本来なら大学から5分程度で着くはずなのだが、「ついてきて!」と自信たっぷりに言っていた空が道に迷ったために5分もロスしてしまったのだ。

因みに、大学からここまでは真っ直ぐな一本道である。鈴堂からしてみれば、正直どこに迷子になる要素があったのか理解できない。

そんな訳で10分間全力疾走をしていた二人は荒い息を吐いている。決して変態ではない。

どうにか息を整えた二人は門のインターホンを押した。ピーーンポーーン…と機械音が響く。

しかし、一向に誰かがインターホンに応える気配はない。そう言えば椿は今日、DVDを見ると言っていた。

DVDに夢中になって気が付いていないのかもしれない。ならば仕方ない。少々近所迷惑かもしれないが、ここから大声でも出して気が付いてもらおう。で、もしそれを怒られたら…鈴堂に謝ってもらおう。うん、そうしよう。


そう、思考にふけっていた時だった。


ガッシャーーーーーーーーン!!!!!!!!!


という何かが割れるような大きな音が、椿の家から聞こえてきた。


驚いた私達は互いに顔を見合わせると直ぐに家の中にあがった。誰の許可も得ていない。でも門も玄関も、不用心なことに鍵が開いていた。だから私達は家の中へと急いだ。もしかしたら家に強盗でも押し寄せたのかもしれない、と思って。

何故だろう。胸騒ぎが止まらなかった。

そして、家の中に入った私達は………声を、失った。


「な……」「なんだよ、これ……。」


声が震える。

脚が笑ってる。

胸騒ぎが止まらない。

ドクン、ドクンと心音が耳に響く。


廊下には割れた花瓶がそのままになっていて、中に入っていたのだろう水が赤のカーペットを濡らしている。同じくそれに飾られていたのであろう美しい花々は無惨にも床にバラバラになって吸い付いていた。

そして、綺麗なデザインの壁紙には刃物で斬りつけたような跡がいくつもある。

そして、聞こえてくる怒声。その怒声は、空と鈴堂がいる廊下からは見えないが近くの部屋から聞こえてきた。誰が、何を叫んでいるのかは聞き取れないが異常事態だという事は明らかだった。


普通なら、ここで警察か何かに助けを求めるのが最善の行為だろう。だが、二人はそうはしなかった。

だって、警察が来るのを待っていて、その間に椿の身に何かが起きるかもしれないのだから。

いや、もう既に起きているかもしれない。

だから彼らは、迷うことなくその怒声のする部屋へと向かった。


大切な、大好きな人大好きな人(椿)を守るために。


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