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※目を合わせないのが鉄則です。  作者: 五色なっとう
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囁き

そっとだぞ……起こすな…早く、早く…まだ着かないのか…もうすぐだ……


あれは試験勉強をしていた時だった。睡魔に負けて寝ていた私の耳に、こんな声がひっそりと聞こえてきた。


沢山の声、沢山の足音、しかしそれはどれもひっそりときこえてくる。


いや、待てよ。途端私はこの状況の異常性を察知した。こんな真夜中に、こんな沢山の声が聞こえるはずが無い。声は壁際の勉強机に座る私の後ろ、つまり部屋の中心から聞えてくる。


体は動かない、机に突っ伏したままの私は、馬鹿みたいな体制で体のあちこちを動かそうとしたが、どこも動かない。俗に言う金縛りって奴だ。


視界の端に、私の部屋の少しだけ開いたドアが見える。おかしい、閉めたはずだ。


その時、首がふっと軽くなった。今でもなんであそこだけ軽くなったのかは分からない。私は声の正体を確かめる為、勢いよく後ろを振り向いた。


後ろにいたのは形容し難い者達だった、身長は10cm程、全員が生き物の面を被り、平安時代の貴族の格好をしている。牛車だってあるし、箱を持ってる奴もいる。そいつらがヒソヒソと喋りながら、私の部屋の扉から、窓へと向かって縦に並んで歩いていくのだ。


あまりの光景に度肝を抜かれていると、そのうちの一人が私の方を振り向いた。

ここで悲鳴を上げ無かった私を誰か褒めてくれ。


だって彼らは、面なんか被っていなかった。本当に『顔』が『動物』だったのだ。


私の方を見たのは、鶏顔の奴だった。そいつは私の方を見ると


「見たな?」


そいつと私の距離は1m以上、なのにそいつは私の耳元でヒソヒソと喋っているような声だ、明らかに距離感が狂っている。


私は首を横に振った。いや、現にガン見してるんだが「見た」と言ってしまった後が怖かった。


私が首を横に振ったのを見た鶏顔は、私に興味を無くしたらしくそのまま行列と共に窓の向こうへ消えていった。


その途端、私の首がまた重くなり、私は机に俯かされた。今度は瞼も閉じてゆき、行列も何も見えない。


すると今度は、ズンズンズンと響くような足音が聞こえてきた。その足音もまた、扉を抜け、窓へと消えていった。




今昔物語には、幻術を使う天皇の話が出てくる。その天皇は幻術で小さな行列を作り出しては楽しんでいたらしいが、最期は狂死したらしい。


あれは天皇が作りだした行列が今も歩き続けている姿だったのではないか、鶏を見ると、私はいつもアレを思い出す。

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