幻想世界ーアンリシアよりー
これは本編ではないです。ごめんなさい。
目が覚めた。
長い眠りから覚めたような、冷たさ。
私は棺の中にいた。
一面ガラス張りの塔。
全てがガラスの世界。
水に浸る棺に私は収められていた。
髪からぽたぽたと水滴が流れる。
誰かの涙で埋められたように
美しいその場所はそれと同等の恐怖を与えた
〝私は何故ここにいるの?〟
自分の名前すらわからない。
ここがどこかもわからない、
ただ
ただ
ここからは逃げなくてはいけない。
瞬時に本能が訴える。
私は本来、ここにいてはいけない存在。
もう既にほかの5人は行ってしまった。
最後の私は
突如現れた透明の机に
乗っかる黒い帽子とローブを
身につけた。
これでもうばれない。
彼にはもう見つからない。
ガラスの一枚を突き破って外に出た。
上から覗く森はまるでミニチュアのようで
この塔とはまるで合わない。
でも
とても綺麗だった。
私はそこに突っ込んでいく。
一人、
たとえ枝に傷を付けられようと
たとえ頭から落下してもう息することを
叶わないとしても
彼に見つからないならば
もう彼と会うことがないのならば
私は逃げよう
私は隠れよう
それが死の裏側だろうと
それが、
私の死を意味していても。
森の中、私は走る
誰も信じない
誰も信じれない
とにかく
あの大きなお城から
遠くへ 遠くへ。
城下町、ラーメン屋の女将さん
有り金で食べた一杯のラーメン
美味しくて 温かくて
いつの間にか笑ってた
女将さんと子供たち
私に優しくしてくれた
私のことを姫さんと呼んで
慕ってくれた
はじめてあえた
私を 理解してくれる人
女将さんは言った
「住む場所に困っているのなら
ここにいつまでも住めば
いいじゃないの。」
ラーメンの塩のせいなのか
とても口の中がしょっぱかった
その日から
城下町のラーメン屋 私の家
魔法で髪色を変えて
目の色も変えて
静かに静かに
暮らし始めた
安心しすぎて 忘れていた
彼の本当の怖さ、本来の執拗さに
そこに住んですぐに
一人の友達ができた
貴族のお屋敷の使用人
名前はマーブル
口は少し悪いけど
とっても優しい男の子
彼も私と一緒だった
貴族の方に
拾われた口
「今度おいでよ 俺の旦那様の屋敷
旦那様も好きなんだ
女将さんのラーメン」
今度行くって約束
あれ?
こんな約束
誰かとしたような気がする
それから少し経ってから
国の兵士がやってきた
女将さんに聞いている
行方不明の元王女
城下町をまわって
みんなに聞いているらしい
国兵が去ってから
私は女将さんに聞いた
「この国に
王女様なんていたのですか?」
すると彼女は目を丸くした
そして悲しげに答えた
一年前までこの国は
みんな仲良く暮らしてた
だけどある日全てが
真っ黒に染められた
宇宙の上の国からの攻撃
慈悲もないその剛力
国王たちは殺された
国民のみんなが涙を流し
新しい支配者に恐怖を抱いた
宇宙の上の国の王
その一人息子
この国を治める王となった
部屋に隠れていた王女様
その王子に見初められた
国民の命と引換に
彼女は彼に約束をした
「この国の永劫平和と引換に
私は貴方の妻となりましょう」
彼はそれを飲んだ
でも
家族を突如奪われたショックは
王女の精神を蝕んだ
王女は眠りにつき
目を覚まさなかった
いつか約束を叶えるため
王女を見守り続けた王子は
彼女が目覚めた事を知る
でも
彼女は約束を守らなかった
彼女は
もう城にはいなかった
誰も王女を見ていない
攫われたわけでもない
〝王女の意思だ
彼女は自ら私を避けて行ってしまった
ならば探そう 君が嫌と言おうとも
必ず君を見つけ出そう〟
王子にとって それは恋物語
国民にすれば
王女のなんて可哀想なことか
「そんな話 知らなかった」
私は女将さんに言う
女将さんは苦しい笑顔で
私を撫でた
「あなたは 知らなくてよかった
話なのかもねえ」
女将さん
私にはわからない
遠回しなんかじゃ
わからないよ
なんやかんやで時間が経ち
ラーメンの配達
マーブルの貴族のお屋敷
マーブルと一緒に届けると
そこには優しげなおじさん
それと
似つかない坊やがいた
彼は私を見ると
目を丸くした
でも
すぐに元に戻って
「ようこそ」
とだけ一言
可愛くない生意気な坊や
でもなんだかとても愛おしい
坊やも訳ありなようで
貴族さんに拾われたらしい
でも貴族さんは言う
「私なんかが
とてもおこがましいことでございます」
私ともマーブルとも
お菓子を出して
お話してくれるような人
貴族でも少し変わってるの
かもしれない
家に帰ると
女将さんも子供たちもいない
後ろから
回される手
息ができなくなる
怖い
暗い
固い
これは
そう
兵士の鎧
ああ
彼だ
彼のお迎え
私のせいで
みんな
みんな
なんだか
なんだか
とっても 眠いや
ぱちり
ここはどこだろう
冷たい
錆びた匂い
臭い
目の前の棒に
手を触れる
手が茶色い
錆びてる
狭い牢屋
立ち上がる
じゃらんと
鎖の足枷
これは新しい
向かいに女将さんたち
まだ
気絶してるみたい
彼の魔の手は
全てを飲み込む
私は誰とも
関わっては
いけなかったんだ
しゃがんで足を抱え込む
涙が零れる
悔しい
悔しい
悔しい
足音が聞こえる
下を向いている私には
誰だかなんて
わからない
「我慢出来なくて来ちゃったよ
顔を見せてはくれないか。」
聞いたことあるような
ないような
でも顔を上げちゃいけない
「焦らずともいいよ
今日は帰ろう
あの民たちが目覚めたら
強制に会いに来るだろうから」
それにまだお前が
あの娘だとは決まってないしなって
遠ざかる足音
涙と共に
やってくる睡魔
いいよ
今日くらい
私の相手になってよ
酔を操る魔なのなら
どうか
この日を夢のままに
朝
兵士に叩き起こされる
足枷を外される
かわりに
口枷と手枷
女将さんは私を見て
「なんてことを…!」
そんな悲しそうな顔をしないで
あなたは私のせいで
こんな目にあっているのだから
ずりずり
引き連れられて
大きい大きい部屋に出た
天井がすごく高くて
巨人も入れちゃう
そこの玉座に足を組む 青年
顔を下に向かせられ
跪かせられる
「そうそう畏まらせるな
俺はその茶髪の娘の顔を見たいだけだ」
そしてカタっと
音がしたと思うと
私の顔の前には靴
次の瞬間顎を手で引き寄せられる
これが
王子…
茶色の髪に赤い瞳
容姿端麗のまさに王子様
でもその奥は深くて暗い
冷めた目
その瞳は私を捉えると
少しばかり光を宿し
口角を上げた
「なあラーメン屋の女将よ
どうして私からこの娘を隠したのだ」
突然におでこに感じる柔らかさ
キス…された
「堂々の反逆者だな
この罪、どう償ってもらうべきか、ね」
ドンッと音とともに二人の影
扉を無理やりこじ開け
入ってきてくれた
可愛い坊や 友達のマーブル
「ねえ、返して
僕らの姉様を返してよ!」
ああ坊や
後ろから兵が来てる
ねえマーブル
早く逃げて
ねえ逃げて
「あれ 君たちまだ生きてたの
…ああそうだった この娘の願いで
逃がしてあげたんだっけね」
坊やとマーブルが
兵士に捕らえられる
もうやめて
私は散々だ
頭が痛い
なにか
なにか思い出しそう
思い出しそう
なにか思い出しそうって
私
なにか、忘れてたっけ
「僕らは棺から目が覚める前の記憶を
忘れてたんだ 姉様だってきっと…
僕らのことだって覚えてなかったんだ」
すると王子ははっとした表情で
振り返り私を見た
「本当に、そうなのか?
まさか私の事も覚えていないのか?」
私は顔を背ける
そしたらぎゅっと
抱きしめられた
「私は…俺はお前の家族を殺した
それすらも覚えていないのか?」
私は首を傾げた
頭痛がひどい
私の家族を、殺した?
ーー全てのピースが揃った気がした
「そうか、そういうことだったのか…」
私の家族は殺された
あの男に
あの男…?
私が最初逃げていた男だ
そう
殺されたんだ
あの男に
思い出した
やっと
思い出した
私があの場所から逃げた理由
女将さんたちが姫さんと呼ぶ理由
あの坊やが私を姉様と言った理由
そして今
王子に抱きしめられた理由
そう
私はこの国の元王女
この男の婚約者
「おかえり…アンリシア シェヘラザード。」
ああ 帰ってきてしまった
あれだけ必死に逃げていたというのに
全てこの男の驕りだったという訳か
この皮肉に苦笑しながら私は言う
「戻りたくは、なかったけれどね
リオン。」