第4話
4話連続投稿します
DTDは殺害現場から離れ、そこから腹ごしらえも兼ねて情報収集をしようと街中の1つのこじんまりとした食堂に目をつけた。
サバイバーオンラインでは排泄行為は一切無いのだが、空腹を感じるシステムになっている。
また、極度の空腹におちいるとステータスが一時的にダウンするペナルティーも存在しているのだ。
<ミスズ食堂>と書かれた看板のついた二階建てのレンガ造りの建物に入る。
扉を開けると、女将さんと思わしき人物が、いらっしゃい、という言葉とともに優しく出迎えた。
夜というには早すぎる時間だったため客はまだ5人と少ない。
カウンター席に座り、テーブルの上にあったメニューに目を通し、牛丼 並を頼んでおいた。
待つこと数分にして注文したものが届き、箸で米をかき集め口に乱雑に放り込む。
「あんた、装備から察するに最近この世界に来たばっかだね」
人の良さそうな中年の女将が太った腹を揺らした。
「そうだ。今日きた」
相変わらず無愛想な表現で答えるDTD。
「はぁ、だとしたら運が悪いね。最近、初心者狩りが流行ってんのさ。実際、今日2件立て続けに殺人事件が起きて、警ら隊が警備を増強してるんだよ。あんたも夜は危ないからあまり出歩かない方がいいかもね」
DTDは初心者狩りのことについて何か思い出した。
ベンと名乗った男も初心者狩りという発言をしていたのだ。
ひょっとしてこの女将の話の初心者狩りはベンなのかと考えを巡らせていると、ドス、ドスと表通りで複数の足が地面を規則正しくふみならすのが聞こえた。
カウンターからDTDが振り返ると、彼らの正体が警ら隊であることがわかった。
10人ほどだろうか。
彼はその中の2人を強いと直感的に感じた。
ガッシリとした中年の男と細身の青年。
恐らく、レベルもDTDよりかなり上なのだろう。
彼ははここに来る道中も警ら隊とやらを数人見かけているが、念のために隠れながら移動したのだ。
警ら隊の行列の音が遠くへ過ぎ去っていく。
「警ら隊は何人いるんだ?」
彼が厨房へ声をかけた。
「警ら隊? 一応、1番隊から10番隊まであるけど人数までは分からないかな」
女将がごめんねぇ、と謝る。
「なんだい、にいちゃん警ら隊に喧嘩でもふっかけんのか?」
カウンターで間を空けた場所から声がかかった。
声主はヒゲの生えっぱなしのただのおじさんのようだ。
「だったらやめといた方がいいぜ。今日やり始めたばかりの新人じゃレベル20の10番隊隊長にすら勝てやしねえ」
DTDのレベルはすでに21だったが、そこは指摘せずにおじさんの方を向いた。
「いや、違うな。俺はこの世界に来て1日足らずで頼るツテもないから情報がとにかく欲しいだけだ」
彼はありのままの本心を打ち明ける。
「なんだ、そういうことか。なら親切心から多少の情報をにいちゃんに授けてやろうじゃねえか」
「頼む。じゃあ、プレイヤーポイントとやらについて教えてくれ」
「プレイヤーポイントってのはな、要は経験値のことで色々な事をすれば貯まるんだが、例えば農業をやってればクワで耕せば貯まるし、政治家なら政治家として働いてれば貯まる。もちろん、モンスターを倒しても貯まるし、人をキルしても貯まる」
いい事ではないがな、と念を押して続ける。
「他にもコロニーポイントっていうのもある。これはコロニーに所属するNPCとプレイヤーのポイントの総和で表されるな。これを見ろ、コロニーポイントのランキングだ」
おじさんがDTDの目前に画面を送った。
コロニーポイントランキング(第3期1年2月時点)
1位 ロンギヌスの預言 約3兆9840億ポイント(サバイバーオンライン最高記録)
2位 東方連合 約3兆1200億ポイント
3位 ディムロス議会 約2兆8640億ポイント
4位 光翼エクシア 約1兆9020億ポイント
5位 不死者の夢 約1兆2410億ポイント
6位 A5000 約1兆2350億ポイント
以下略
「1兆ポイントを超えてるコロニーは今のところ6個だな。どのコロニーも数万人のプレイヤーを抱えてる。俺らプレイヤーの間では1位から3位までを3大巨頭、今のランキングに載ってたコロニーをまとめて6強なんて呼んだりしてるがな」
「あんた、プレイヤーだったのか」
「あったりめーよ、今は貯めた金で呑んだくれだが、これでも昔は東方連合に入ってたんだぜ」
「それは驚いた」
「あぁ、全くだ。400年前、東方連合の前身のコロニーにいたんだが、いくつかのコロニーがまとまって東方連合になって、方針が肌に合わなくてやめたよ」
「そんな昔からいたのか?」
「このゲームを始めたのは450年くらい前だったな。サバイバーオンラインには過去に2回だけアップデートがあった。1回目はサービス開始から300年後、この300年間を第1期と呼んで、いくつものコロニーが興され滅んでいった混沌の時代だったらしい。今、第1期からのコロニーは2つだけしかない。次が去年あった2回目のアップデートまでの700年間で、第2期、そして今は第3期ってわけだ」
「なるほどな……この先俺はどうしたらいい。職業は戦闘系にするつもりだが」
「神殿とは反対側にある市役所の近くにクエスト依頼所があるから、しばらくそこで稼いで生計を立てたらどうだ。まぁ、1人広大なワールドを旅するってのもオツだがな」
「ありがとう。そろそろ行く」
「おう、きぃつけろよ。サバイバーオンラインを楽しめ」
DTDは女将さんに銀貨1枚を支払い、夕陽が照らす薄ら寒い表通りへと繰り出した。
数時間後、オズウェル率いる警ら隊10名は都市はずれの廃墟と化した館の前まで来ていた。館は森林に囲まれており、虫のささやきが聞こえるだけの閑静な場所だった。
暗い夜が重い幕のように垂れ下がり、薄っすらと夜空に輝く満月を強調しているようだ。
「例の犯人がここに潜伏しているとの情報が入っている。先ほども確認したように館には2組に分かれて突入する。それでは行くぞ」
「「「了解」」」
彼らは道ばたに生えた雑草を蹴散らしながら錆びた門をくぐって館の広場へと進んだ。