第2話
まだ日も高い頃、巨大な神殿のこれまた巨大な祭壇に青白い光のつぼみが舞い降りた。
青白い光が霧散すると中から出てきたのは黒い髪の中肉中背で特にこれといって特徴のない男だった。
キョロキョロあたりを見回している。
視線の先には神殿の中にはたくさんのプレイヤーが集まり談笑していた。
男は興味を失ったのか、神殿の外に出ようとする。
すると、彼の背後から愉快そうな青年の声がかかった。
「おにいさーん、これからどこ行くのー?」
男は止まって、青年を見た。
「特に行くあてもないが、とりあえず歩き回ってみるだけだ」
「あれれ? ひょっとして、おにいさん初心者?」
こくりと男が頷くと青年の目がキラキラ輝いた。
「そうなんだ! 俺も今回のアップデートで始めたからまだ数日しかやってねえんだ。よかったら、ちょっと付き合ってくれないか? うまい酒場知ってるぜ。俺もニュービーだけどちょっとばかしこの世界のこと教えてやんよー」
「まぁ、特にやることないからいいよ」
そう男は無愛想に答え、丘の上にある神殿から眼下の街へとベンを追って下った。
歩くこと20分、2人は2階建ての<モール>という酒場に着いた。
中に入り、テーブル席に座り、ベンがエールを2杯と頼んだ。
それからエールが届くとベンが2人を巡り会わせた神様に乾杯と掛け声をかけ仕方なしに男もそれに従った。
ベンがまず最初に切り出す。
「まだ、おにいさんの名前聞いてなかったな?」
「俺の名前はDTDだ」
「DTDさんね。魔法族は何かな?」
「魔法族とは?」
「はぁー!? DTDさん、魔法族ってのは他のゲームの種族みたいなもので、この世界で使える魔法の種類を表してるものだぜ。ここじゃ常識よ常識。ステータスから確認してみな」
「分かった」
「一応、魔法族について概要を説明するが、魔法族は全部で40以上ある。全て光、闇、水、火、土、風、雷、酸、肉体、星、竜、特殊、回復、毒、呪いという15の属性に分類されるんだぜ」
「ニュクスだった」
「はぁ!?」
思わずベンはテーブルを叩いて驚き、周りの客から注目を集めた。
「おっと、すまない取り乱して。ニュクスってのはな闇属性のレベル3だぞ! 闇属性で1番いいやつ!」
「ほぉ。それはいいのを引き当てたようだ」
「人ごとみたいな反応だな。実際、レベル3って初期種族でまずならない種族だぞ」
実際、多くのプレイヤーの初期種族はレベル1である。
光、闇、水、土、風、特殊、肉体のレベル2
は理論上人口の0.5パーセント、つまりサバイバーオンライン100万人中5000人が最初に引くというレア仕様だ。
光、闇、水、火、土、風、特殊のレベル3、レベル4、そして星、竜、超特殊は人口の0.001パーセント、つまり100人しか最初に引けない激レアなのだ。
「ニュクスっていう魔法族はどんな効果があるんだい?」
ベンの驚きを意に介さず話を続けるDTD。
「ニュクスは俺も主な効果しか知らねえけど、夜になるとステータスが全部10倍になるんだぜ」
「10倍か。なかなか強いな」
「なかなかのレベルじゃねえって。魔法族ってレベル上げるの無茶苦茶つらいからな。お前はもう持っててほんとラッキーだったな」
「それでお前たちは何の用だ?」
ベンとDTDの周りには先ほどまでの酒場の客が群がっていた。
「君、ニュクスだって本当?」
デブメガネの男が顔を寄せた。
「だったらうちのコロニーにこない?」
「おい、ずりいぞ。あんた、俺のコロニーにきてみぃ。優遇するで」
「うちのコロニーきてくれたら嬉しいなぁ」
「年金貨100枚デアナタヲ雇イマスヨ」
「まずいぞ、DTDさん! 一旦にげよう!」
ベンはDTDの手を引き、群衆から抜け出し、酒場を去った。
それから30分ほど逃げ回り、ある裏路地でベンが肩で息をしながら止まった。
「どこだー!」
「さがせー!」
「チッ、しつこい奴らだ。DTDさん俺が表通りに出て囮になります。その間にこの裏路地を進んで別の通りから逃げてください! あとで見つけます!」
DTDがこくりと頷き、ベンに背を向け裏路地を進もうとしたその時。
DTDの首筋に斬撃が走った。