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第10話+ちょびっと設定


 DTDはクエスト依頼所を出てから、フワフワガラスと明日そこで集合することにして、まだ人通りのある道を歩いて受付嬢に勧められた宿へとメニュー画面から地図を見ながら向かった。



 三階建ての木造の建物、彼女の言っていた名前の看板もついてある、どうやらここのようだ。



 DTDがそのまま明かりの漏れる入り口へと規則的な歩調で入っていこうとすると、背後から彼を呼び止める声が聞こえた。



 彼が首を回すと、そこには先ほどの武器屋の店主、鉄平が息を切らしながらこちらをじっと見つめている。



「後をつけるような真似をしてすまねぇ。どうしても言いたいことがあるんだ」


「なんだ」



 都市のはずれの通りは春のうすら寒い風を吹かせながら月光のもとで沈黙している。



「さっきのクエスト依頼所の一件、見てたよ。あんたぁ、レベルの割にはなかなか凄い動きするじゃねぇか」


「中級者におほめに預かり光栄だ」


 純粋にDTDは賛辞と受け取る。


「そこでだ。これは頼みなんだがぁ、えーと、言葉じゃうまく説明できねぇなぁ。1度、俺の家にまで来てもらってもいいか? なに、怪しいことじゃない」


「そういうことなら、いいぞ。その前に宿をとらせてくれ。部屋が満室になったら困るからな」


「わかった。ここで待ってる」


 数分して戻ってきたDTDに鉄平はついてくるよう言って、彼らは街灯がうっすらと照らす夜の空気の中へ溶け込むようにその場を立ち去った。



 案内された場所は鉄平の店前だった。午後11時になるものの大通りはまだ人通りがあるようでいくつかの露店からは黄色の明かりがぼんやりとでている。



店にはシャッターが下ろされており、裏口へまわって入ろうとしたその時、


「すっ、すいません!」


 一瞬、誰の声かと彼らが驚いてしまうような甲高いぴんと張った声が漂った。



 大通りに振り向いた先にはクエスト依頼所でDTDが偶然助ける結果になった少女のアバターのプレイヤーがいた。



 ピンク色のカールされた髪、くりくりと輝く綺麗な瞳、身長はまあ、普通といったところか、癒し系のような印象を受ける。


「さっきの女か、どうした?」


「み、ミナミっていいます! その、先ほどは本当にありがとうございました! ワタシ、トワイライトに来たのは初めてで数日前からあの人たちにずっと追い回されてて本当に怖かったんです。お礼を言おうと思ってついてきちゃったんですが、なかなか切り出せずにここまで来ちゃいました……」


「それで? 本当に言いたいことはなんだ?」


 図星を突かれてミナミは驚いた。DTDには長年の戦闘の経験を活かして、人の表情や仕草から次にとりそうな行動を見透かすような能力を持っているのだ。


「えっとぉ、ワタシ今1人でこのゲームをプレイしてて、もしよかったら、えーと」


「DTDだ」


「ごめんなさいっ! DTDさんのパーティーに入れてほしいなぁ、なんて……」


「お前もか、いいだろう」


「ありがとうご、ございます!」


 緊張のためか声が途切れ途切れになるものの、ミナミは深々とお辞儀をした。



 そんな中、それまで沈黙を保っていた鉄平が口をはさむ。



「それでぇ、お嬢ちゃんもあんたぁのパーティーに入ったんなら、これから話す内容は聞いてもらうでぇ?」


 DTDはミナミのほうへ顔を向け無言で了承を求めると、彼女は快くうなずいた。



 それから一行は裏口から入り、そのまま薄暗い地下室へと階段を下りて行った。



 様々な武器や材料がところかしこと綺麗に掃除されている部屋の中に並ぶなか、冷ややかな暗闇に美しく輝く青白い光がある。



 その光源へ近づいていくと、彼らが目にしたものは巨大な2メートル程の半透明の水色をしたクリスタルだった。



 クリスタルはサバイバーオンラインでは主に魔法重視のプレイヤーが杖などに装着して魔法の威力や発射速度を上げるのが一般的だが、ここにあるクリスタルはだいぶ違う用途で使用されていた。



 クリスタルの中に人が入っているのである。



 いや、中身は女性だが、人と言えるのかは定かではない。



 長い耳に目に染みるばかりの鮮やかな緑色の髪、すらっとした体型、純白のドレス、見るものの意識をとりこんで自然と一体にさせてくれるような魅惑的で超常的な上品さの漂う美。



 これらと神秘的なクリスタル、そしてそれが放つ幻想的なゆったりと波打つ青白い光によって、この女性をこの世にあらざる何かにまで昇華しているようだった。



 ミナミがうっとりと彼女を見入る。



「なんて……綺麗なの……」


「この女は一体何者だ?」


 どこか悲しげな表情を浮かべる鉄平に人形のような表情のDTDは尋ねる。


「彼女は精霊だ」


 驚愕の事実に目を剥くミナミと素知らぬ顔のDTD。


 鉄平は彼女と自分について語りだした。


鉄平は生粋のソロプレイヤーでいつも孤独だった。


今から約20年前、第2期末にバーレイ森林のはずれで、偶然仲間の精霊とはぐれてしまったティアという精霊と森林探索を1人でしていた鉄平は出会った。


精霊というのはドロップアイテムでも生け捕りにしてもとてつもなく高価だったので、このまま放っておくと他のプレイヤーに目をつけられ大変な目に遭うだろうと気の毒に思った鉄平は彼女を一時、保護することにした。


ティアと自宅で暮らしていくうちに鉄平は彼女に自分が惚れているということに気が付き、また彼女も同様のことを思い、徐々に2人の距離は近づいていく。


そして、2人は結ばれ密かに結婚式を式場で真夜中に上げることに成功。


するとどうだろうか、誓いのキスをした後、彼女は突然泣き始める。


何が起こったのか鉄平には理解できず、説明を彼女に求めるも深く謝罪されるだけだった。


彼女は最後にごめんなさいと告げた後、突如としてその体をクリスタルが無慈悲にも覆い、その涙さえもクリスタルへと変えた。


それから、鉄平は絶望した。彼はティアにぬくもりを貰い、そしてわけもわからず奪われ虚無感にさいなまれることになったのだ。


これがティアと鉄平の短い物語であった。


 一通り話が終わると、鉄平の心の中に深い悲しみがのしかかり、重圧に耐えきれないかのようにその場に崩れ落ちた。


「彼女がクリスタルになってから、なんとか色々情報は得られたけどなぁ……このクリスタルは、どうやらプライム・クリスタルっつうらしい……」


「プライム・クリスタルぅ!? 確か、どんな攻撃を受けても傷がつかないとされている加工不可能なアイテムじゃないですか!」


 ミナミが驚きの声を上げる。


「おうよ。でも、まだ1つティアを助ける方法は残ってる。それは、精霊の聖水だ。いかなる状態異常をも解除する聖水があればこのクリスタルも溶けるかもしれないし、精霊たちに会えば解除方法を知っているかもしれない! 望みは薄いが、それでも賭けたいんだ! だから、どうか、俺をイベントクエストの精霊の憩い場まで連れて行ってくれ!」


 鉄平は床に頭をこすりつけるようにして土下座した。ミナミはどう対応すべきか困っているようで、DTDが長い間の沈黙を破った。


「お前を連れて行って俺にどんなメリットがある?」


「報酬ならいくらでも!」


「いらんな」


「そ、そんなぁ……」


「質問を変えよう、そのバーレイ森林のモンスターは強いか?」


「え? あぁ、森の入り口はレベル60~150、ある程度進むとレベル200を超えて、奥にいくと上級者でも1人で立ち向かえば瞬殺されるレベルにまでになる」


「な、何を言ってるんですか! ワタシたちもろとも鉄平さんと心中させるつもりですか!?」


 ミナミが青ざめた顔で訴える。当然だろう、レベル200ともなれば上級者が相手どるモンスターだ。



 それを上級者が1人もいないパーティーでそんなモンスターがわんさか出る森を攻略しようと言っているのだ。無謀にもほどがある。


「クッ、いくらお前さんの技量が凄いからってレベル62のプレイヤーにこれを頼むのはお門違いだろう。だがなぁ、お前たちしか頼れるツテもいないんだ! だから、頼むっ!」


すると


「いいだろう」


と確言して、鉄平とミナミにパーティー招待状を送った。


「あ、ありがとうぅ!」


「な、何考えてるんですか! DTDさん! というかレベル62だったんですか!?」


「明日午前7時にクエスト依頼所の前まで装備をそろえて来い。イベントに向けて特訓するぞ」


 DTDは感謝と非難の言葉に目もくれず、それらを背にして手を振りながら薄暗い地下室を出て、自分の宿へと帰って行った。


名前 ミナミ


プレイヤーレベル 95


プレイヤーポイント 621万5911


魔法族 パウシポノ(※回復系魔法族レベル1)


体力 3190/3190


攻撃力 2574


防御力 2611


器用 3649


素早さ 3505


知力 3718


魔力 3906


<装備>

ブルークリスタルのつえ


次の魔法を発動するまでの時間をやや短縮。


マーブルローブ


モンスターから発見されにくくなる。


守護レベル1の指輪


レッサー・デフェンス・シールドを10秒間展開


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて、ここでは今まで扱ってきた独特な用語と世界観について解説を入れておく。

どうでもいいという方はスルー推奨。


プレイヤーレベル、NPCレベル:その人物の持つ実力を端的に表したもの。一概には言えないが、レベルが高い方が強い。


以下、レベル100分を1階層とした全11階層のプレイヤーレベル分布表(人口約100万人)


レベル1000~    10人   0.001%


超越者の壁


レベル900~999 約30人   0.003%

レベル800~899 約50人   0.005%

レベル700~799 約110人  0.011%

レベル600~699 約600人  0.060%

レベル500~599 約4200人 0.420%


超上級者の壁


レベル400~499 約2万人   2.000%

レベル300~399 約6.5万人 6.500%

レベル200~299 約15万人 15.000%


上級者の壁


レベル100~199 約31万人 31.000%


中級者の壁


レベル1~99    約45万人 45.000%


レベル100分を上げるごとに死闘をしなければ次の階層にはレベルアップできない。


これによって、初級者から中級者、中級者から上級者になるのは多くのプレイヤーたちにとっての難関となっている。


初級者:初級者は人口の半分を占めている。いわゆるどのゲームにも生えてくる雑草。


主に最初の都市アーノエルとか中小コロニー構成員に多い。


中級者:中級者はまあ初級者ほどではないが多い。


最初の階層越えという難関を通り抜けたという自負と圧倒的戦闘力を持った上級者への劣等感に挟まれたサンドイッチマン。


中小コロニーでは威張れるが、大コロニーでは1構成員的存在。


上級者:ここらへんにもなるとプレイ時間100、200年はザラ。中小コロニーでは頼れる兄貴分。


最初の都市アーノエルでは全く見かけないレベルの存在。大コロニーだとまだ1構成員的扱い。


上級者でも上の方にいけばそれなりに名の知られたプレイヤーにはなれる。


超上級者:ムチャクチャ強いが、レベル500分にまたがる巨大な区切りなのでピンからキリといえる。


有名なプレイヤーが多く全プレイヤーのスター的存在。


何百年もプレイしており、大コロニーの幹部を務めている人物が多いが、たまに超上級者ということで様々なプレイヤーから色眼鏡で見られることに嫌気がさした人物が、無自覚な既得権益者の箱庭から脱出し<世捨て人>となることがある。


荒涼とした大地にある切り立った断崖で石柱のサークルを立てて生活している者がいたら、「あなたはどうしてここに住んでるんですか?」と聞いてみよう。


「風がよく吹くから」と、非物質的な人智を超えた世界を動かす力を観測しているかのような答えが返ってきたら、十中八九、超上級者。いろんな意味で。



超越者:超越者について語ることは少ない。戦えばクレーターができる、説明はこれで十分だろう。


魔法族:この世界のプレイヤーやNPCが使える魔法の種類を表したもの。


たとえば、あるプレイヤーが土系魔法族なら土に関する魔法を使えるといったようなもの。


魔法族レベル:同じ属性の魔法族の中にもレベルが存在する。


ある属性の魔法族レベルが上がるとその属性の魔法の範囲や威力などが強化され、レパートリーも増える。


レベル100分上げて次の階層へ到達するたびに、所有している魔法族のレベルを上げるか新たな魔法族を解禁するか選べる。


レベル3とか4がその魔法族の最大レベルだったりする。


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