ネタバレ注意! あの有名プロ作家が盗作ミステリー?
警告:
このエッセーでは複数の有名ミステリー作品のネタバレに関する記述があります。読む場合は自己責任でお願いします。
まず最初にお断りしますが、ここから先はネタバレ注意、閲覧注意です。
傑作ミステリー作品の犯人やトリック、あるいはオチが、モザイクもかけずに露わになっているため、これからこれらの作品を読もうとする人は、がっかりすることになります。
しかもテーマは”盗作”です。それもミステリー界の大御所を引き回すわけですから、物議を醸し出すこと必至でしょう。
ですからこれ以降は、自己責任でお読みください。
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さて、これから有名ミステリー作家の作品の盗作について論じていきます。
盗作と言うと角が立ちますが、あらゆる芸術作品は既存の作品から影響を受けて生まれます。
何をもって”盗作”と呼び、何をもって”影響を受けた”と称するか、つきつめると曖昧ですが、私個人の独断と偏見をもって、以下の”盗作”作品を紹介します。
1.横溝正史「本陣殺人事件」は盗作?
言わずと知れた金田一耕介のデビュー作品です。
正直言いまして、私はこの作品をテレビドラマで見たわけで小説は読んでいません。と言うか本屋で立ち読みして小説の前書きだけ読みました。
するとそこには作者自ら、コナン・ドイルの「ソア橋」(シャーロック・ホームズ物)とモーリス・ルブランの「虎の牙」(アルセーヌ・ルパン物)から影響を受けたという記述があったように記憶しています。
そして私はこの二つとも読んだことがありました。
三つの小説に共通しているのは、他殺に見せかけた自殺のトリックです。
より詳しく説明すると、密室ないし疑似密室で、犯人は自殺し、その後、機械仕掛けで自殺の凶器を密室の外に移動します。そして死体発見後、凶器が密室の外にあることから自殺は不可能とされ、他殺の線で警察は捜査を始めるというものです。
「ソア橋」では、犯人が橋の上でピストル自殺をします。ピストルにはあらかじめ紐を結び付けておき、紐の先は石に結び付け、石は橋から川に投げ捨てておきます。犯人の自殺後、ピストルは石に引っ張られて自動的に川に落ちます。
死体発見後、凶器が見つからないことから、警察は他殺と判断。犯人に恨みをもつ人物を逮捕します。実は犯人は最初からこの人物を犯人に仕立てることを目的に自殺したのです。
「虎の牙」では、犯人が密室でナイフで自殺。その後、天井のシャンデリアに機械仕掛けがしてあり、ナイフを部屋の外に自動的に運びます。
「本陣殺人事件」では、結婚式の後、和室の中で初夜を迎えた新郎が新婦と無理心中します。凶器は日本刀。柄には紐を結び付け、反対側は水車に結び付けてあります。早朝、決まった時刻に村の日課で、水車を回転させます。すると紐が引っ張られ、刀は家の外に出され、庭の中央に刺さります。
その夜、雪が降り、庭には足あと一つありません。他殺だとしたら足あとが刀の周囲につくはず。犯人は人間ではなく、化け物かと読者に思わせるあたりが、この小説の魅力でしょう。
ホームズ、ルパンといったミステリーの国際的大御所キャラにはさまれて、さしもの金田一耕介も”盗作”殺人事件のほろ苦デビューを強いられた、といったところでしょうか。
しかし、この小説で秀逸なのは新郎の無理心中の動機です。
婚約後、お嫁さんが処女でないことを知り、その屈辱から、初夜のときお嫁さんを殺し、自分も自害する......。
今の日本人ならちょっと考えつきませんが、古き良き日本の武士道的貞操感が滲み出ています。密室トリックはともかく、殺人の動機では「本陣殺人事件」は傑作であり続けるかもしれません。
2.松本清張「凶器」は盗作?
さて次にご紹介するのは、松本清張の短編集「黒い画集」の中の「凶器」という作品です。
この「黒い画集」は名作「天城越え」をはじめ、傑作揃いの珠玉の短編集です。
それだけに盗作「凶器」は痛い、というのが私の感想です。
題名は忘れましたが、中島河太郎の推理小説入門書のようなものを昔読んだことがあり、その中で欧米のミステリーの凶器のトリックを多数、紹介していました。
一番印象に残ったのは、凍った肉塊を凶器にした殺人事件です。奥さんが旦那さんを凍った肉塊で撲殺します。その後、奥さんの通報で警察が死体の現場検証にやってきますが、その間、奥さんは料理を開始。凶器の肉塊を溶かしてスープの具にします。
警察の現場検証が一段落すると、奥さんは警官にスープをごちそうします。凶器が見つからず、警察は犯人を特定できません。
私はこの小説のタイトルと作者名をどうしてもネットで検索できません。ご存じの方、いらっしゃったら感想などでお知らせください。
「凶器」はこの和食バージョンです。私の記憶ですと庭に干していた乾燥した昆布で、奥さんが旦那さんを撲殺します。ただネットで調べると、昆布ではなく餅ということです。
いずれにせよ、乾燥状態ではバットのような硬い棒になる食材です。
警官が来た後は、料理の食材にして警官たちにご馳走するのです。ここからは記憶が曖昧ですが、味噌汁の中に凶器の食材を入れたのではないか、と思います。
いかがでしょうか。私はこてこての盗作だと思うのですが、洋食と和食の違いがあるので免責でしょうか。
いずれにせよ、清張ファンの名誉のために申し上げますが、「凶器」を除けば「黒い画集」は傑作ミステリー短編集です。
本格ミステリーマニアというより、大人向け中間小説が読みたい向きや、ピカレスクロマン好きにおすすめの一冊です。
3.綾辻行人「黒猫館の殺人」は盗作?
昔、中島河太郎編集のミステリーアンソロジー「殺しこそわが人生」を読んだことがあります。
複数作家の短編ミステリー集ですが、その中で一番印象に残った作品は次のようなものです。
南米に日本の自宅とそっくりの別荘を立てます。
写真を撮ると日本の自宅か、南米の別荘かわかりません。
日本が春のとき、南米は秋、日本が秋のとき、南米は春です。
これを利用してアリバイ工作をするというものです。
たとえば紅葉の木々を背景に別荘で写真を撮り、秋に自宅にいましたと偽ります。
この作品の作家名と題名はよくわからないのですが、おそらく鷲尾三郎の「文殊の罠」ではないかと思います(ちがっていたら、感想を下さい)。
ところで綾辻行人の「黒猫館の殺人」ですが、まったく同じトリックを使っています。ただし別荘は南米でなく、オーストラリアに建てます。
「館」シリーズもそろそろネタがつきてきたのかな、というのが読了後の私の感想です。
ふと思いついたのですが、日本で昼のとき、アメリカでは夜です。
これを利用してアメリカに自宅そっくりの別荘を建て、アリバイ工作するという小説はどうでしょうか?
えっ?それこそ盗作?
いずれにしましても綾辻行人は好きなミステリー作家の一人であり、別のエッセーで「霧越邸殺人事件」を紹介しました。
「館」シリーズは「水車館の殺人」がおすすめ。小説という枠を使ったトリックは、この盗作トリックより何倍もすごいです。
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さて、いろいろ言いたい放題書きましたが、異論のある方、遠慮なく感想をお書きください。
(了)
よろしければ、拙作ミステリー『空飛ぶカレー本舗』をお読みください。
これは”盗作”ではありません。
http://ncode.syosetu.com/n3310dl/