エントリーシートの書き方、初めに
「これより、エントリーシートの書き方について説明する」
「お願いします」
こほん、と息を整えて俺は後輩に説明を始める。
後輩はノートとシャーペンを持って構えている。真面目だな。
「一般的なエントリーシートの話をするので、マスコミとかみたいな特殊なヤツは入ってないからな。あれはどうやったら受かるか俺も知らん」
「ですよね、全部落ちてましたもんね」
「うるせぇ」
チョークがあったら確実に投げつけてたぜ、よく我慢したぜ俺。
「んで、エントリーシートの項目は、100%入ってるのが『志望動機』だな。んで、『学生時代に頑張ったこと』『自己PR』のどちらかもしくは両者が入ってる。それよりマイナーなもので、『長所・短所』『失敗談』『趣味・特技について詳しく』なんてものもある」
「そうですね、だいたい志望動機と頑張ったことと自己PRな気がします」
「順番に説明していくから寝るなよ」
「あいあいさー!」
ビシッと後輩が敬礼する。敬礼は要らん。
「そんで、まず最初に一番重要なことから」
「はい」
「嘘は絶対につくな」
ズバっと敬礼したままの後輩に指を突きつけながら断言する。
豆食ってた鳩が豆鉄砲食らって豆を吐き出したみたいな顔になって、後輩がこちらを見る。
「……嘘つくと不味いんですか? でも、他の優秀な人たちに勝とうと思ったら私の人生じゃ太刀打ちできないですよ」
「それでもつくな。話を膨らますのは良い。1のことを10にして話すのは、まぁ場合によっちゃありだ。だがな、0のことを1にするのは駄目だ、すぐにバレる。そして、嘘をつくような人間は絶対に会社は取ろうとは思わない」
ごくり、と後輩が唾を飲み込むのが分かる。目線も泳いでいる。
明らかに様子がおかしい。
「お前、嘘ついたこと無いよな……?」
「じ、実は、サークルの副部長してました、って嘘をエントリーシートに書いてます……」
「出た! 就活名物、大量発生する副部長だ!」
「なんですか、それ」
「就活してると集団面接とかに必ず副部長経験者が居るんだよ。学校に登録されているわけでもないし、なんとなくアピールできるっぽいから、って理由で名乗るんだろうけど」
「そんなことする人がいるんですね」
「いや、お前のことだよお前」
「ぎくり」
後輩が冷や汗を流し始める。ぎくりとか声に出した奴を人生で初めて見た。
「大事なのはどんな肩書だったかじゃなく、何をしたかだ。詳しくは後で話すが、副部長なんて嘘をアピールして馬脚を現すより自分の功績をもっと誇ってやれ」
「でも、私なんにも自信もてること無いんですけど」
「いいや、お前は素晴らしい人間だ。世界一素敵だ。俺が保証する」
「せ、先輩、いきなり何を言い出すんですか!」
後輩が急に慌て始める。なんか可哀想になったのでネタ晴らしをするか。
「ごめん、今のは嘘だ」
「え?」
「だけど、百回も言えば本当に素晴らしい人間になることもあるから、自己暗示してみたらどうだ?」
「……はい、頑張ります」
「自己分析については詳しくは長所・短所の紹介で説明するからな」
「……むぅ~」
「……うん、ふざけてすみませんでした」
「わかればいいです」