プロローグ
「先輩、就活の攻略本ください!」
「は?」
目の前の後輩が、いきなり訳の分からないことを言い出す。
「意味がわからないんだが……」
「ですから、就職活動、就活の攻略本が売ってないんです! 先輩なら持ってるかもと思って……」
久しぶりに会いたいと言われて行ったらこれだ。
まぁ、こいつの異常行動は昔からだったから、いつも通りと言えばそれまでだが。
「就活の本だったらそこいらの書店に行けば売ってるじゃないか」
「あれは最初から優秀な人たちのための本じゃないですか! 我々は優秀じゃない人間なんですよ!? 私だって最初は参考にしようと買いましたけど、『バイトリーダーで店舗の売り上げ30%アップ』とか『研究内容が学会で賞を取った』とか参考になるわけないでしょうが!」
「いや、俺に言われたって知らんがな」
半泣きで詰め寄る後輩をなだめる。
「たしかにそうですね……それで、我々庶民が就職活動をするための攻略本がどこかにあるはずと本屋で探したものの、見つからなかったのでやむを得ず先輩を呼びました」
うん、言葉につながりが無い。
「だからなぜ俺を呼ぶ?」
「だって、先輩なんの取柄も無いのにそこそこの企業に就職したから……」
こいつは俺を怒らせに来たのだろうか。
「バカにしてんのか?」
「い、いえ! そそそ、そんなことはございませんにょ!」
やはり俺を怒らせに来たようだ。語尾で更に煽ってくるとは。
……まぁ、弄るのはこれくらいにしようか。
「残念だがな、後輩よ。就職活動に攻略本は無い」
「そ、そんなぁ~」
へたり込む後輩。
それを見て、俺はニヤリを口角を上げる。
「だがな、攻略法ならあるぞ」
「ほ、本当ですか!」
「まぁ、お前みたいな就活素人が就活初心者になれる程度だがな」
「それで十分です! 教えてください!」
「授業料は高いぞ」
「覚悟しています! 牛丼の二杯くらいまでなら……」
「安いな、おい」
さぁて、厄介ごとに巻き込まれてしまったが仕方ない。
折角なので、ほどほどに役立つ就活講座を開くとしますか。