体育祭 第1種目 幻の第四
悪は去った。どちからといえば去勢した。
まだ準備運動が白熱しているチームも点在するが、心身ともに弛緩した頃。しかし、一弾指のわずかな隙をついて爪弾き者が再び動きだした。
「なんと!まだ息があるというのか!?構えろ、泥シーどの!」
そもそも死んでないよ。
「急に馴れ馴れしいなっしゅももっち。てめぇらも気張れよっ」
「つぎこそはっ」
「そぎおとすっ」
「くっ。斯くなる上は、封印されしこの銀目金目の力を…」
更に盛るのかポニテ巫女サラシサムライオッドアイ。
地面から大量の泡と触手が沸きだし、もはや莞爾ちゃんがその一部、末端組織、神の端末へと成り果て、ほとんど神様自身が言葉を紡ぐ。言祝ぐ。
"おめぇが言ったんだぜ?最後に愛は勝つってな"
多分、人間だった頃のメチャクチャカッコ良いシーンのセリフなんだけど、触手の塊みたいな化物の姿で言われると何か虚しくなるな。
それでも同胞のために死に物狂いで、死も生も無い物狂いの成れの果てになってもこうしてここに御坐しましてくれてるのだ。手厚く保護してやらねば。神様は絶滅危惧種。…虐殺危惧種?
神と人の無謀で希望な開戦にお歴々が息を呑み爛々とする中、泥水ちゃんは虎の子のオークロードさん製拳鍔シミターを取り出し、朱腿ちゃんは日輪に焼身浄化しかねん高度に上がり、鏡面対称2Pカラーズは陰陽を和合しようとし、鬼盛り巫女サムライは世界観を壊し始めた。あいつなんなんだよ。
焼身浄化高度のしゅももちゃんが高熱を発し刹那、天頂よりズドンと莞爾feat.触手塊に一撃入り、朱髀コールに会場が湧くが、しかし、す…しゅももちゃん、爆心地にいたはずなのに何時の間にか我の前に降り立ち、場内を睨み付けている。え?ワープした?
「いえ、聖母どの。あの一撃は私ではない。厄介なのが来た」
土煙が晴れた場内には莞爾ちゃんと解散してバラバラになった触手たち。そして独り佇む漆黒の龍を模した全身鎧。
冒険者学園帝国生徒会長ドラキュラ☆キララ。もちのろんぶっちぎりの成績首位。職業は《王》。
この《王》という職業、どうやら我らの文化圏のそれと異なり、我らが母国にして母校、試練の塔を作成した当時の仙人ないし道士の属していた時代、文明のそれであるらしく、王が神権の代行者でもあった、つまり祭り事を治めていた頃の、本当に昔々の王様が由来のものらしく、つまりつまりこの生徒会長キララは神の化身たる《神官》の最上級職であり、軍権の最高位たる《将帥》のアッパーバージョンであり、学園帝国内にも数多いる《君主》系職のなかでも最古の、力ある言葉に守られた職業なのである。
一撃の下に顕現した従属神を下した最高神の眷属は、堂々仁王立ち、我を力強く指差し、そして手を戻し今度は親指で自身を指し示した。
「あらあらまあ」
「ジャリガキが」
「………」
あからさまな汎人類組への牽制と挑発と受け取ったお歴々達とその筆頭三人、つまりは鮫肌淑女、膝上幼女、絶壁少女は三者三様にぶちギレ、鮫肌は裏表無いのでまんま殺意が密度を増し、膝上は悪魔的な本質がマスク越しに見え隠れ、絶壁に至ってはいつもの凡俗ムーブの擬態も出来ずに昆虫のような無表情になっている。こういう場面でしかし本来ならば機械的に機能するはずの本能が、理性的な怒りによって塗り潰されている様は却って人間的であり、やはり耳長が人類の仲間入りしたことを確信させられて興味深い。
まあでも聖母と呼ばれ崇め奉られている我である。このお歴々の怒りが的外れであることは勿論把握している。
そも、自身の末端たる神官の不甲斐なさに怒り狂ったように見えた触手の神であるが、こいつ先祖なだけあって莞爾ちゃんと同じ趣味なので、「あ、端末気絶してるー!いぇーいちょっと体乗っ取って私もご無体しちゃお☆」って感じで干渉してきて、それを最高神として監督する立場の龍帝が「やめてそういうの。僕らの威厳なくなるからほんとにやめて」って感じで半ば泣きつく様に末裔たるキララに頼んで止めさせ、キララに至ってはあの指差しは挑発でなく「僕、こんなに強いよ!臥土くんのパーティーにどうですか!?」という乙女の可憐な自己PRなので、龍帝の「どいつもこいつも!」って嘶きが高次の層から聞こえてきた、とてもほのぼのしたいつも通りのじゃれあいなのである。
しかし悲しいかな下々には神々を計り知ることは出来ず、王と民の、神と人との溝は深まるばかりである。あと、自分とこの宗主国の皇太子をパーティーに加えて顎で使えるわけねえだろふざけんなキララ。
そうこうして、言い感じに尾長がその他大勢のヘイトを溜めつつ王者として君臨する、興行だったらばどんなにか楽しいイベントをこなしつつ第一種目、準備体操が終わった。
全員で気炎上げてないで次の種目の準備して。泣き声が止まないから龍帝の。




