表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

黒い手・縁側の下

鈴木、佐藤、史葉に会う。

 龍野(たつの)(すず)鈴木(すずき)(けん)の様子がおかしいことに気づいた。

 何やら、足取りが重たそうに見える。


「鈴木、どうした?」

「え……?」

「なんか、だるそう」

「あぁ……うん、ちょっと肩が──」


 と鈴木は右肩を触って、苦笑いする。

 涼には視えていないが、鈴木の肩には黒い手が掴まっている。


十川(とおかわ)さんとこ、行く?」

「あぁ、うん──そのつもり……迷惑じゃないかな」

「大丈夫大丈夫、十川さん優しいし──」


 十川(とおかわ)夕介(ゆうすけ)。涼の近所に住んでいる。視える人だ。

 前に涼の勧めで会ったのだ。


「じゃあじゃあ、私も行っていい?」


 と佐藤(さとう)(えん)が目を輝かせてやってきた。

 鈴木は苦笑いで、まあ……と頷く。

 

「じゃあ決定ね! 楽しみ〜」


 佐藤は怪談話など好きなので、この手の話には目がない。


「じゃ、放課後。十川さんちに──」


 苦笑いの鈴木とノリノリな佐藤に、涼は言った。


         *


「お前なあ! 何だコレは!」


 涼たちが夕介の家に行くと、黒岩(くろいわ)史葉(しよう)が庭で怒鳴っていた。


「え? 誰あの人……」

「ちょっと怖い……」


 佐藤と鈴木がひそひそと涼に言う。


「十川さんの友だち。黒岩さん──」


 涼たちに気づいたのか、史葉が顔を横に向けた。


「あ? 誰だ?」

「どうも、黒岩さん──こちら、友だちの鈴木と佐藤です」

「──黒岩だ」


 と史葉は機嫌が悪いのか、腕を組んだまま言う。


「……何かあったんすか?」

「あ──? こいつがな、俺のスーツ汚したんだよ──」


 縁側には、軽く土で汚れているスーツが置かれていた。


「おれじゃないんだよ、でも史葉に言っても信じてもらえないし──」


 と夕介が困った顔で涼たちを見る。


「それって、もしかしなくてもそうですよね?」


 と佐藤が目を輝かせる。


「ははは……佐藤さん、史葉の前でそれは……」


 と夕介は苦い顔をする。

 佐藤がちらりと史葉を見ると、笑っていた。だが、目は笑っていない。


「あはははは……冗談ですよ、冗談──」

  

 佐藤は(ひたい)に汗を浮かべる。

 今日初めて史葉に会ったにも関わらず、この手の話はだめだと佐藤は感じた。


「じゃあネコすか?」

「いや……違うんだよね……」


 土で汚れている所をよく見ると、何やら手のような形をしている。


「だからお前かって聞いてんだろ」

「だから違うって──鈴木くん……?」


 ふと鈴木の肩に目をやって、夕介は声をかけた。

 鈴木は困った顔で「わかりますか?」と右肩を触る。


「肩、重いでしょ」

「……はい」


 「なになに?」「佐藤は静かに」と涼が佐藤に言う。

 史葉は眉をひそめて鈴木を見る。


「なに、君も視えるの?」

「え……あ、はい──」

「ほう。そうかそうか」


 と史葉は鈴木の前に立つ。

 若干、鈴木は後ずさる。


「──右肩か?」

「はい……」


 夕介は面白いなぁ──と鈴木の右肩を視ている。

 鈴木の右肩に掴まっている黒い手は、ススス……と肩の裏に移動した。


「はは。史葉、右肩の裏辺りに居るよ」

「ああ? 視えねえつってんだろ──!」


 スーツを汚されて怒っている史葉は、鈴木の右肩を叩いていく。


「痛っ」

「史葉、ちょい裏──」

「ここか──っ」

「ちょ、痛っ」


 鈴木が背中を向けて逃げようとすると、最後に背中を叩いた。


「痛っ──」

「あ、消えた」


 黒い手は、ぶわっと空気に散るように消えた。

 史葉はざまあみろというような顔をする。


「鈴木くんどう?」

「……ぁ、はい──軽いです!」


 と鈴木は肩を回して笑う。


「良かったね──やっぱり史葉強い」

「あ? はぁ……もういい。クリーニング代寄越せ」


 史葉はスーツを手にすると、ぱんぱんと叩いて夕介に手を差し出す。


「ええ……?」

「お前んちのがやったんだろ。出す義務がある──それか教育しとけ」


 と史葉は溜め息を吐くと、庭を出て行く。

 佐藤は出て行った史葉を見て、涼に言った。


「意外と、良い人なんだね」

「良い人だよ。ちょっと言葉遣いが怖かったりするけど、慣れれば普通」

「へぇ──」

「十川さん、ありがとうございました。あの、黒岩さんにもありがとうございましたって伝えてください」


 と鈴木が嬉しそうに言う。


「もちろん、伝えとくよ──」


 と夕介は笑った。



 三人が帰った後、夕介は史葉の言ったことを真に受け、少しだけ縁側の下に居るモノたちに説教をした。

 だが、夕介の家の前を通った人たちには『不審者』から『独り言の多い不審者』と、より悪い印象になるだけなのだった──





夕介「『ありがとうございました』だって」

史葉「それよりクリーニング代寄越せや」

夕介「……洗濯物しまわないと──(はぐらかす)」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ