親と子
お久しぶりです。
小さい頃、夕介は図書室で親と子に会う──。
※途中、夕介の語り?が入ります。
とある休日。十川夕介の家に、夕介の近所に住んでいる高校生、龍野涼とその友だちの鈴木遣、佐藤縁がお邪魔していた──。
「皆、夏休みの宿題とかちゃんとやってる?」
お茶を持ってきた夕介が訊くと、佐藤があちゃ~という顔をして口を開いた。
「それは言わないでくださいよ、まだ夏休みだって始まったばっかりなのに……」
「そんなこと言ってるとすぐ夏休み終わっちゃうよ」
とお茶を置きながら夕介は笑う。
「十川さんは学生の時、宿題とか早めに終わらせてました?」
「うーん、おれは計画立ててやってたかな。でも、休みが終わる一週間前には終わらせてた」
と夕介が鈴木の質問に答えると、佐藤はすごいと手を合わせた。
「私だったら絶対終わらない……」
「佐藤はすぐ横道に逸れるからな」
「だって、夏は心霊特番とかいっぱいやるから、リアルタイムで見たいじゃん!」
と佐藤は涼に言う。
夕介はそんな佐藤に一つ提案した。
「じゃあ、今日現代文の課題全部終わらせたら、おれが一つ話してあげるよ。実体験」
「え! ほんとですか!?」
「うん」
「やったあ!! じゃあ頑張ります!!」
俄然やる気が出てきた佐藤に微笑む夕介に、鈴木が窺うように訊く。
「いいんですか、そんなこと言って……思い出したくない事とか、あったりしないんですか?」
「ん?うーん、そうだな……。おれはほんとに小さい頃からそういうことに関わってきたから、思い出したくないとかはないんだ」
「まぁ、悲しいとか寂しい思い出はあるけど」と夕介は付け足した。
夕介は、小さい頃からよく視たり聞いたりしてきたため、そういうことやモノに怖いと思うことはあまりないのだ──。
「そうですか、ならいいんですけど……」
「うん。心配してくれてありがとう。大丈夫だよ──」
「……いわれてみれば、十川さんの小さい頃ってちょっと気になりますね。なんか、今の十川さんがそのまま小さくなった感じなんすかね?」
と鈴木と夕介の話を聞いていた涼が不思議に思う。
「んー、どうだろう。そうかもしれない──まあ、その話は皆の課題が終わってからゆっくり話すよ。はい、頑張ってね」
上手く話を切り上げ、夕介は軽く手を叩いた。
そして三人は夕介の話を聞くため、持ってきていた課題に取り掛かり始めるのだった──。
*
三人が課題を始めて二時間経つか経たないかくらいで、三人は課題を終わらせた。
「十川さん、終わりましたよ!」
と佐藤が期待を込めた眼差しを夕介に向ける。
夕介はそんなに期待されても困るんだけどな……と思いつつ、口を開いた。
「じゃあ、そうだな……。おれが小学生の時の話でもしようか──」
*
それはおれが小学二年の時の話なんだけどね。
「本が好きなの?」って、図書室で本読んでたら、綺麗な女の人が声掛けてきたんだ。
その時図書室にはおれしかいなくて、昼休みだったから皆外行ってたりして、図書室使う人いなかったんだよね。
で、訊かれたら答えなきゃいけないなと思って、はいって答えたんだ。
そしたらその女の人がおれの横に座って来てさ、笑顔で言うんだ。
「じゃあ私が読んであげる」って。
その時ちょうど読んでたのが絵本だったからさ、読み聞かせしてくれるんだなって思ってたんだけど、その女の人が話し始めたの、絵本の内容じゃなかったんだよね。
「……私にもね、あなたぐらいの息子がいたのよ。ほんとに可愛くてね、目に入れても痛くないくらい──」って、女の人、息子の話を始めてさ。
おれは絵本の続きが読みたかったから、ちゃんと女の人の話聞いてなくて、少しぼーっとしちゃったんだ。
そしたら「聞いてる?」って顔覗いてきて、その時まで気付かなかったんだけど、女の人の顔が痣だらけだったんだよ。それはもう、痛々しいくらいに……。
おれは女の人の話とかより、そっちの方が気になっちゃって、女の人に「顔痛くない?大丈夫?」って訊いたら、女の人が一瞬驚いてから、自分の顔を覆ったんだ。
それで弱々しい声で、女の人は「……うぅ、私の息子も、優しい子だった……ほんとに、優しい子だったのに……っ」って泣き出して、何度も何度も謝ってて、おれどうしたらいいかわからなくてさ……。昼休みも終わっちゃうし、どうしようって思ってたら、図書室におれと同じくらいの男の子が入ってきて、女の人の横に立って「お母さん、僕はここにいるから、行こう?」って、女の人の手を取ったんだ。
女の人は男の子に引かれるように歩いて行ってね。
で、図書室から出る所で男の子が振り向いて、苦笑いで小さく頭下げたんだ。
なんか、ごめんねって言われたみたいだったよ──。
*
「……まぁ、二人とももう亡くなってて、女の人が先生で、帰りによく男の子に図書室で読み聞かせしてたらしいって、結構経ってから知ったんだけど」
と夕介が話を締めると、佐藤と鈴木は小さく息を呑んだ。
「なんか……何とも言えない話ですね……」
と鈴木は苦笑いする。
佐藤は腕を組むと、少し考えるようにして言った。
「なんで女の人は十川さんに声を掛けたんだろう、男の子と似てたのかな」
「かもな。それか歳が近かったら誰でも良かったとか?」
「わからないけど──」と涼が付け足す。
「……でも、男の子が来てくれてよかったよ。授業に遅れるところだったからさ」
「間に合ってよかった」と夕介がのほほんと言うので、三人はそこ?と不思議に思うのだった──
夕介「ほんとに、痛そうだったんだ……」




