洗濯物
汚れ物を出したのは……?
お久しぶりです、遅くなりました……。
「最近、暑くなってきたなぁ……」
縁側に洗濯物の入ったカゴを置き、竿にタオルなどを干しながら、十川夕介は雲の隙間から顔を覗かせた太陽を見て呟いた。
「まあ、早く乾くからいいんだけども……」
そう言いながらも、テキパキと洗濯物をさばいていく。
「……よし、終わり。あれ……?」
全て干してからカゴを片そうと中を見ると、まだ残っていた。それも汚れている。
「……影くんか?」
夕介は首を傾げて、サンダルを脱ぐとカゴを持って洗濯機に向かった。
とりあえずカゴの中の物を洗濯機に容れ、スイッチを押す。
グワングワングワングワン……と洗濯機が動き始めた。
「とりあえず、また干さなきゃだなぁ……。影くんに文句言ってやろ」
夕介は洗濯機から離れ、部屋に戻る。
すると、ちょうど影くんがススス……と動いているのを見つけた。
影くんとは、夕介が引っ越してくる前から居た人の影のようなモノのことで、夕介が名付けた。
「ちょっと影くん──」
夕介の声に反応して、影くんはぴたりと動きを止め、それから夕介に近づいてくる。
夕介も影くんに近づいて、正面で立ち止まった。
「一つ訊きたいことがあるんだけど、影くん汚れ物出した?」
影くんは、出してないというように、首を振る。
「だよね……、じゃあ誰だろ」
夕介は「うーん……」と唸りながら、縁側に向かった。
縁側に座って、ぼんやりと洗濯物を眺める。
竿に干されているタオルなどが、風に吹かれてゆらゆらと揺れた。
「……はぁ〜」
ばたんと後ろに倒れて、目を閉じる。
「ま、いつかわかるかぁ……」
夕介はそう言うと、一つ欠伸をしてから眠った。
*
「……ん──あ」
寝過ごした……と顔を覗いていた夕陽に、夕介は目を瞬く。
それから洗濯物を部屋に入れて、畳んだ。
それからタンスにしまいに行くと、洗濯機とは別の音が聞こえて、夕介は首を傾げた。
「……乾燥機?」
タンスにしまってから、夕介は洗面所に向かう。
洗濯機は止まっていて、中を確認すると空だった。
──ピー、ピー、ピー、ピー
と洗濯機の上に設置された乾燥機から、停止音がした。
夕介はそっと、乾燥機を開ける。
中には、乾いた水色の洋服と緑色のズボンが入っていた。
「上下だったんだ──」
夕介はそれらを取り出し、叩いてからきれいに畳む。
それから縁側に向かって、二つ重ねて置いた。
「……俺が干せなかったから、乾燥機に容れたの?」
何もない空間に、夕介は声を掛ける。
もちろん返事はない。
「でも、勝手に使うのは、やめてほしいなぁ……」
そう苦笑いで言うと、庭の草陰からコロコロコロ、と何かの木の実が転がってきた。謝罪とお礼のつもりなのだろう。
「はは、何の木の実? うーん、まあいいや。今回はそれで許してあげる」
夕介が笑うと、ソレは草陰から姿を現した。
金色の体毛に、ふっさりとしていて、先が白くなっている尻尾。四つの脚でしっかりと立ち、切れ長の目で夕介を見ていた。
「……キツネ?」
夕介がきょとんとしていると、そのキツネはヒョコヒョコとやってきて、服とズボンを咥えると、少し跳ねて、くるんと回った。
するとボンッと白い煙に包まれて、キツネは少年になった。
「わ、すごい、初めて見た。上手いね」
と夕介が手を叩くと、キツネの少年ははにかんで頭を下げる。
ありがとう、とでも言うように。
「あれ……? でもそうなる前に部屋に入ったら、部屋汚れるよな……。どうやって……?」
と首を傾げると、キツネの少年はスッと指差した。
指差した方向に顔を向けると、そこには影くんがいた。
影くんはわたわたと両手を振って、これには訳が……と言いたげだ。
「……話は後でね──とりあえず、キツネくん気をつけてね、これからどこに行くのかはわからないけど」
キツネの少年は、にこりと笑うと頷いて、手を振って庭を出ていった。
夕介はサンダルを履き、草の前に転がっている木の実を拾いにいき、縁側に腰掛ける。
「……赤い実だよ、影くん。半分あげる」
影くんは、おずおずと夕介の隣に座り、木の実を受け取った。
それから影くんは、乾燥機を使ったことについて話し始めた──。
影くんによると、キツネは干してもらうのを待っていて、乾いたら木の実を置いて帰ろうと思っていた。だが、夕介が寝てしまったので、いっこうに干されない……。
そこに影くんがやってきて、乾燥機なら使い方見たことあるからわかるぞ、ということで、使ったとのことだった。
「……なら、仕方ないか」
と夕介が言うと、影くんはよかったよかった、というふうに夕介の手をとって、ぶんぶんと縦に振った。
「でも、次からは一言声掛けてね」
手を離して大きく頷く影くんを見ながら、キツネくんは無事帰れたかな……と思う夕介だった──
夕介「生で見られるって、凄いわー」
これから不定期更新です。