表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

瓶の中

空の瓶のはずなのに……

 夏というには暑くなく、梅雨にはなっていない、そんな頃。

 佐藤(さとう)(えん)鈴木(すずき)(けん)は、生物担当の教師に頼まれ、生物室の掃除を行っていた。


「めんどくさい……」


 と佐藤がほうきで床を掃きながら呟く。


「早く終わらせて帰ろう」


 と鈴木も掃きながら、ちりとりを取りに掃除用具入れに向かった。

 すると、後ろから佐藤が「こんなのあるんだ」と少しテンションの上がった声を出した。


「鈴木、ホルマリン漬けじゃない? これ」

「え? あぁ、そうだね。解剖用のカエルだ──」


 瓶を見せてきた佐藤にそう言って、集めたゴミをちりとりに乗せると、ゴミ箱に捨てにいく。


「……佐藤、ほうき」

「あ、ありがとー」


 佐藤はほうきを鈴木に渡して、色んな瓶を見ていく。


「はー……色々あるんだなぁ」

「佐藤、終わったから帰ろう」


 と鈴木が片して来ると、佐藤は少し悩んでから言った。


「んー……もうちょっと見てから」

「はぁ──ん?」


 少し離れた所を見ると、空の瓶があった。

 鈴木はそれを手にとって、じっと見つめる。 


「…………」


 空というには透明感がなく、でも瓶の色ではない。


「……何だろ」


 少し傾けてみたり、振ってみる。

 空の瓶の中で、見えない何かが確かにゆっくりと動いている。


「鈴木?」

「え?」

「何してるの? それ空じゃない?」

「え、あ、うん……でも何か……」


 「入ってる」と言おうとしてから、鈴木は瓶の底に貼られているラベルを見て、そっと口を閉じた。


「そ、そうだね、空だ。帰ろう帰ろう──」


 と鈴木はなるべくその瓶が人の目に触れないよう、棚の奥にしまう。

 それから佐藤の背中をぐいぐい押して、生物室を出た。


「ちょっとちょっと、そんな押さなくてもいいじゃん」

「まあまあ──」


 あんなの見たら、絶対開けるとか言いそうだもんな……、と鈴木はラベルの文字を思い出し、少し身震いした。


         *


「すいません、急に来て……」

「あぁ、大丈夫大丈夫。気にしないで──」


 ラベルのことについて、どうしても気になってしまった鈴木は、十川(とおかわ)夕介(ゆうすけ)の家に来ていた。

 縁側で並んで座りながら、出してくれた麦茶を一口飲んでから夕介に言う。


「生物室に、空の瓶があったんです」

「ああ、ホルマリン漬けとかのやつ?」

「はい。それで、その空の瓶を見てみたら、何か入ってるんです。よくわからないけど、確かに入ってるんです」

「へぇ……」


 と夕介も麦茶を口に運びながら聞く。


「瓶の底にラベルが貼られてて、そこに『霊』って書いてあったんです。少し薄れてたけど」

「霊?」

「はい」

「……開けた?」


 と夕介は少し考えてから訊いた。

 鈴木は首を横に振ってから答える。


「いや、開けませんでした」

「なんで?」

「なんでって……悪いものだったら大変だし」

「そっか──」


 と夕介はまた麦茶を飲む。

 鈴木は気になったことを夕介に訊いた。


「十川さんだったら、開けましたか?」

「俺? そうだなぁ……、窓を開けてから開けるかな」


 と夕介は小さく笑う。


「悪いものじゃなく、閉じ込められてるだけなら可哀想でしょ? だから、開けてみるんじゃないかなぁ、俺だったら──鈴木くんだって、話を聞いてあげられたんじゃない?」

「え?」

「だって、自分で開けられないくらい弱ってるんでしょ、その『霊』って。話を聞く限りだと、封印されてるわけでもなさそうだし……。まあ、俺の憶測でしかないけど」


 そう言われて、それもそうか……と鈴木は思った。


「明日、もう一回よく見てみます。それで、聞けたら話を聞いてみようと思います」

「そっか」

「はい──すっきりしました。ありがとうございます」

「いえいえ」


 と夕介は微笑んで、麦茶を飲み干した。

 鈴木も残りの麦茶を飲んでから、ふぅ……と息を吐いた。



 次の日、鈴木は生物室に行って空の瓶を探した。だが、見つからなかった。

 棚の奥をよく見ても、空の瓶など一つもなかった。

 もし昨日、話を聞いていたら……。

 そんな事が頭をよぎり、少しだけ胸がもやもやした鈴木だった──





鈴木「……どこいったんだろ──」



お久しぶりです。更新再開します。

これからまた、よろしくお願いします(^^)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ