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神の使い  作者: 嬉遊
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【第9話】長き夜の終わり


「気分はどうだ?」

ツェルノは予想外にも、普通のコトから切り出した。

俺達は一度目を合わせてから、会話に集中した。

「……悪くはないな」

「そっか。……ツィアが、心配してたぞ。お父さんはもう居ないのかって」

「はは……そうか。驚いたな。まだツィアが俺のコトを覚えていたなんて」

「俺もさ。もう何年も前のコトだしな……。覚えてないだろうと思った」

「そうだなぁ……」

「…………」

「…………」

しばし沈黙。中の様子はわからないが、もしかしてツェルノは、緊張してたりするのかもしれない。

「……お前、さ……」

「お父さんと呼びなさい」

「誰が呼べるか馬鹿。……この家に残る気あんの?」

「…………」

「ないって言われても、正直困るんだけどさ」

意外と、優しい口調だった。

「……それは……」

「それは?」

「……それはー……」

「タメが長ぇよ。さっさと言え」

「今からでも、父さんのコトを、許してくれるのか……?」

「…………」

沈黙。……ツェルノは、どんな表情なのだろう。

「……ツィアは、許すだろ。なら、俺も許すさ」

これを聞いて、ルージスは首を傾げた。

「ツェルノは……シスコンなの?」

「いや……普通に妹思いなんだろ?」

良い兄貴ではないか。

その兄貴は、続けて言った。

「でもよぉ、さすがに、タダでは許せねぇよな」

言い終わる前に、がっ、という鈍い音が聞こえてきた。

そしてガラスか何かが割れるような、ガシャンという音。

「だから、今のでちゃらだ」

「はは……お前も、強くなったなあ……」

「いいか、誓えよ。もう二度とツィアに心配させないと。またわけの解んねぇ組織を立ち上げたりしないと」

「あの組織を馬鹿にするな。あれはこの世を守るための組織なんだ」

「いい加減、気付けっつってんだよ。あの組織のせいで、何人もの人を傷つけたじゃねぇか。あいつら……リスタとルージスだって、被害者だろ?」

「それは、ある情報が流れてきたんだ」

「どんな?」

「……あの2人のどちらかが、ラルティエシェインを持っているという噂だ」

「……どこから」

「黒の……黒の十字集団だ」

「…………」

また、新しい団体名が出てきた。

黒の十字集団。

……この世界には、ラルティエシェインを狙う、裏の組織が数えきれないほど存在する。これも、その1つなのか。

「……じゃあ、そいつは間違いだったな。あいつらは、何も知らないらしいから」

ツェルノがどこまで知っているのか、よくわからない言葉だった。

もしかしから……全部、知っているのかもしれないが。

「もう二度と、あいつらに手ぇだすなよ。……ツィアだって、お前のコト、ずっと待ってたんだろうし」

ツェルノの足音が、近付いてきた。

……やべ、こっち来る!

「……大丈夫かお前ら」

「……え……?」

ソファーの上で息を切らしながら答える。咄嗟に全速力で戻ったから、さすがに疲れた。

「ど……どうだった……?親子水入らずの会話は……」

「まあ……何とか丸く収まったって感じだな」

後ろから、親父さんが顔をだし、俺達に向かって頭を下げた。

顔には、殴られたような跡が。

「あー……もう良いっすよ。二度とやらないって、誓ってくれたなら……」

「そうですよ。気にしないで下さい」

笑顔で、そう言うと、親父さんはもう一度、深く頭を下げた。

夜が、明けようとしていた……。




「もういっちゃうの?」

ツィアが俺の服を掴み、可愛らしく言ってきた。

朝飯も頂き、そろそろ行こうかなーと立ち上がった瞬間だった。

「ああ。いつまでも居るわけにはいかないしな」

「でも……」

「もうお父さんだって居るんだし、寂しくないだろ?」

「…………」 ツィアは小さく頷くと、その小さな手を離した。

「何か、俺も寂しいなあ。また来いよ?」

ツェルノがいつも通りの笑いで言った。

それに、自称恋人のルージスが答える。

「うん、また寄らせてもらうよ。ありがとうね」

「気にすんな」

最後に、親父さんが。

「……すまなかった」

また頭を下げてくる。……さっきも許すっつったのに。

「もう良いですから。それより……」

親父さんは顔を上げた。

「奴等……黒の十字集団?は、ドコにいるんですか?」

どうせなら、奴等と会って話をしたい。

情報を流した、張本人に。

「それは……俺もよくはわからない。ただ、人の目につくようなトコロには居ない。実際、俺も奴等に会ったのは、誰も来ないような森だった」

……当然か。そう簡単に見つかるハズもないよな。

「……探すのか?」

ツェルノが真顔で訊いてきた。

「何か……これで終わらせるわけにもいかないじゃん?」

「……そうだな」

また、いつも通りの笑みに戻る。……やっぱりこいつには、この笑みが一番似合うよな。

「じゃ……そろそろ行くよ」

「色々、ありがとうございました」

ルージスと一緒に頭を下げる。

「おう、気をつけろよ」

「またね!お兄ちゃんたち!」

手を振りながら、植物の店、ギニョールから出る。

「何か……また故郷が増えた感じ?」

「だな。また此処にも寄らせてもらうか……」

今度は、5人でゆっくり出来たら良いと思う。こんな忙しい夜じゃなくて、もっと楽しく過ごせそうだ。


朝の青い空を見上げながら、

俺達はまた旅を始めた――。

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