【第8話】相棒の告白
「……っ」
しばらく、走っていた。目的地もなく、ただ、走った。
が、疲れたので足を止める。
「くそ……っ」
いつもなら、このくらいじゃ疲れたりなんてしないのに。
……精神的な問題か。
木々がざわめく。それが、俺を責めているように聞こえて。
……やっぱ、俺が謝んなきゃ……いけないよなあ……。
「でも……今更戻りにくい……」
あれだけ喚き散らかしたのに。
いやでも、ちゃんと謝んないと、とか考えていると、遠くから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「リスター……」
……ルージスだな。
「リス……あ」
目が合った。と同時にルージスが来た道を戻ろうと方向転換した。
「待て!俺を探しに来たんじゃなかったのかよ!?」
「いや、そうだけど……」
もごもごと何か言う。それから、意を決したように顔を上げて、今度はハッキリと言った。
「ごめんね。リスタのコト、信頼してないわけじゃないんだよ……」
また俯く。
「あー……いいって。俺が悪かった。そんな無理しなくていいから……」
「違うの!ぼくがリスタに言えなかったのは、リスタに迷惑かけたくないと思って……。結局かけちゃったけど……」
本当にごめんね、と泣きそうな顔で言う。そんな顔で言われたら、こっちまで泣きたくなってくる……。
ルージスは俺の上着をきゅっと掴んだ。
「ぼく、実はラルティアの生き残りなんだ」
さらっと、本当に何でもないことのようにさらりと言った。
ラルティアの……何だって?
「親とか親族の人達は、襲撃事件の時にみんな死んじゃったんだけど……ぼくだけ生き残ったんだ」
「……は?」
生き残り。
唯一神の石を所有することが許される、神の使い。
その生き残りが……ルージス?
「じゃあ……ラルティエシェインは、お前が持ってんのか?」
「うん。今はぼくの体内にある」
「たい……?」
さっきから、爆弾発言ばかりだ。そろそろ頭がついていけなくなってきたぞ。
体内っつーのは……体の中ってコトだよな?
「……何で体の中なんかに?」
「ぼくの父親が、ぼくを養父に預ける前に埋め込んだんだ。ラルティエシェインが誰にも奪われないように。……多分、襲撃されることを予想してたんだと思う。案の定、ラルティアの一族はみんな死んじゃったんだけど……ぼくだけ生き残った。ラルティエシェインもここにある。だけど……」
自分の胸の辺りに手を当てながら。
「体内のラルティエシェインを取り出す方法が解らないんだ。それを記してある本も、襲撃事件の時に奪われたらしい。だからぼくは、その本を探してるんだ」
「…………」
「そしてその本が見つかって、ラルティエシェインを取り出すコトができたら、ラルティエシェインを消そうと思っていた。だけど……ラルティエシェインはぼくだけの力では消せない。そんな時、リスタに出会った。『衛星の雫』が使える君に。だから……」
青い瞳を俺の方に向ける。
「偶然にも、ぼくとリスタの目的は一緒だったんだ」
ラルティエシェインを消すこと。それが、俺達の目的だった。
ずっと……同じモノを、探し求めていたんだ。
「今まで黙っててごめんね……」
ルージスは自分の額を、俺の肩にとん、と乗せた。……泣きそうな顔で。
「いや……こっちこそごめん……。そんな事情も知らないで色々……」
言いながら、頭の中で整理する。
ルージスはラルティアの生き残りであり、体内にラルティエシェインが埋め込まれている。そしてそれを取り出すために、本を探している。取り出したら、ラルティエシェインを……。
……いや、待てよ。ラルティエシェインは、“ぼくの力だけでは消せない”と言っていた。つまり……。
「ルージスの力も必要……なのか?」
ルージスの力だけでは消せない。ということは、俺の力だけでも消せないのだ。
「ラルティエシェインを消すには、二つの力が必要なんだ。一つは、リスタが使える『衛星の雫』。もう一つは、ぼくの『神の石の排除』。……この二つなんだ」
つまり……俺1人では、例えラルティエシェインを見つけたとしても、何もできなかったんだ。ルージスと……ラルティアの生き残りと出会わなければ……。
「だから……リスタに会えたコト、凄く感謝してる。……今では、『衛星の雫』が使えるからってだけじゃなくて、ぼくのコト、信じてくれるから……だから本当に、嬉しくて仕方ない」
「……俺だって……」
こいつに出会えて、本当に良かったと思う。例え、俺のことを信頼してくれていなくても。
「ぼくの力が強いのは、ラルティエシェインが埋め込まれてるからなんだ。……そのラルティエシェインを取り出して、力が弱くなっても、相棒でいてくれる?」
「…………お前まさか、俺がお前と相棒でいるのは、お前の力が強いからだと思ってんのか?」
「違うの?」
……やっぱり信頼されてなかった。予想はしていたが、面と向かって言われると寂しい。
「お前……馬鹿じゃねぇの?お前はお前だろ?」
ルージスは微かに笑った。
「うん……そだね……」
「お、仲直り出来たか?」
店に戻ると、ツェルノがいつもの笑顔で迎えてくれた。何事もなかったかのように。
「ああ」
今は、その笑顔が有り難かった。
「ツィアと……親父さんは、平気か?」
「あー、別に平気じゃね?様子見に行ってないけど」
おい、行ってあげろよ。
「1回くらいは……」
「お兄ちゃん!?」
寝室に繋がる扉が、物凄い音で開いた。
顔を出したのは、金髪をおろしたツィア。
「ねぇ、お父さんは!?お父さんはもう、いっちゃったの!?」
目に涙を溜めながら、ツェルノの服を掴む。
ツィアも、心配、してたんだろうな。
「大丈夫だって。隣りの部屋で寝てる」
「ほんとに?」
「当たり前じゃねぇか」
大きく、安堵のため息をついた。
「よかったあ……」
本当に、お父さんが大好きなんだな……。
まったく、こんな良い子をおいて、あのおっさんはドコほっつき歩いてたんだか。
「ねぇ、これからはお父さんも、いっしょにいられるの?」
再び心配そうな顔でツェルノに問う。
「あー……多分な。俺がどうにかするし」
「やくそくだよ?どうにかしてね?」
「ああ。どうにかする」
ドコか別の部屋で、いきなりバタンという音がした。……相当でかかったな。
「何?」「親父が寝台から落ちた音かも。寝相悪いんだよなあ……」
ぶつぶつ呟きながら、音が聞こえた部屋へ行く。
入る前にしっかり、
「誰も入ってくんなよ?」
と、言い残して。
「……まあ、そりゃあそうだよね。久々だし。親子水入らずで話したいよね」
「だよな。あいつ、何だかんだ言って、父親のコト大好きみたいだしな」
「うん。でもね」
ルージスはにっこりと笑った。
「入るなって言われたら、入りたくなっちゃうよね?」
きたー……。こいつは何でこう、意地の悪い奴なんだ……。
「いや、それはマズいだろう。責めて、盗み聞きに……」
「よし、じゃあ盗み聞きしよっか」
……ということに話はまとまり、部屋の前まで行く。
そして息を潜めて、ドアーに耳をつけた。