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神の使い  作者: 嬉遊
7/12

【第7話】少年の本音

「ツァイス様が……!?」

「ということは……ツァイス様のご子息のツェルノ様が長に……!?」

団員達がざわめく。それほど、衝撃的だったのかもしれない。

だが、ツェルノはしばらく動かなかった。肩で呼吸しているのがわかる。

その荒い呼吸を調えてから、ツェルノは立ち上がった。

「……聞けよ、お前等」

団員が姿勢を正す。

「今から俺がお前等の長だ。……だから、今から俺の命令に従え。いいな?逆らうつもりなら、今ここで自害してもらう」

異議はないらしい。どこからも声は上がらなかった。

「……逆らうつもりではないのなら、本日をもって、この聖騎士団は……」

少しためて。

「解散する」

団員の表情が曇った。辛うじて、声は出さないことが出来たらしい。

「……いい加減、気付けよ。この組織はこの世に必要ないんだよ。ラルティエシェインを使うコトしか考えてないんだろ?そんな危険な組織が居ちゃあマズいってコトくらいわかるだろ?」

「ですが……」

「逆らうのか?」

反論しようとした兵に、ツェルノは静かに言った。瞳はひんやりと光り、兵を見ている。

「今は俺が団長だ。逆らえばどうなるかぐらい、わかるだろ?」

今のツェルノなら、そいつらを殺すだろう。 兵達は、何も言う事が出来なかった。

「もう二度と、ラルティエシェインを利用する事を考えるな。あの石は、貴様等の手には負えない。神の使い(ラルティア)だけが所有することを許される。あの石は……俺達が使う事は許されないんだよ」

遠い昔、神がこの世に残した聖なる石。人間はそれから、その石のために争いを続けてきた。

それは許されないと知っていた、賢者でさえも。

「もう二度と、ラルティエシェインを使うことなんて考えるな。いいな?」

兵達は動かなかった。長の命令は絶対だと知っていても、躊躇いがあるのかもしれない。

ツェルノは小さくため息を吐き、俺の方を見てきた。

「リスタ」

おそらく、心の中を引っかき回せということだろう。こいつ等だけでもどうにかしておけば、残りの兵達はこいつ等がどうにかしてくれるだろう。

人差し指を兵達に向ける。

精神(こころ)の門番』




銀色の月が輝いている。

夜が明ける気配は、まだ無い。

「2人とも、もう普通に眠ってるよ」

足音を殺してリビングに戻ってきたルージスが言った。

ツェルノの親父……ツァイスというらしい……を治療していたのだ。

「悪い、2人とも。手ぇ出すなとか言っておいて……」

珍しく、力の無いツェルノの声だった。

「結局、最後まで2人に助けられっぱなしだったな……」

「いいよ、そんなこと。ぼく達に全く関係ないコトだったら、その場で逃げるもん」

それもどうかと思うが……。

「まあ、そうだな。確かにお前に関係あるコトだったけど、俺達にも関係あったからな。むしろ、少し手ぇ出せて良かったよ」

さすがに、ツェルノ1人にやらせてたんじゃ、俺達の気もおさまらない。

「……ああ」

ツェルノは、これも珍しく、穏やかに笑った。

何か……こいつ、意外と笑った顔、綺麗だな。

「あ、ダメだよ、リスタ。ツェルノはぼくの恋人だから」

「いや、恋人ってなんだよ!?つーか何で今俺が考えてるコトが解ったんだ!?」

俺の突っ込みも空しく、ルージスはツェルノの金色の頭を撫でた。

「……よく頑張ったね。あれ、本音でしょ?」

「…………」

あれ、と言うのは、『癒しの救済者』を使う前に言っていた、あれだろう。

どれだけ心配かけたと思ってんだよ、とか、そんな感じのやつだ。

「あれ、ツィアちゃんの名前出してたけど、実は自分が思ってたコトでしょ?本当は、ツェルノが一番心配してたんでしょ?」 ツェルノはしばらく黙っていたが、ゆっくり口を開いた。

「ツィアには……両親は死んだって言い聞かせてた。いや、母親の方は本当に病気で死んだんだけど……。で、ちょうどその頃、親父も聖騎士団とかいうのを作って、どっかへ行っちまった。まあ、ツィアもまだ2歳だか3歳の頃だったし、覚えてないだろうと思ってたんだけど……」

「ツィアちゃんは覚えてたんだ」

俺なんか、10歳の時にいなくなった両親の顔もうっすらとしか覚えて無いって言うのに……。やっぱり、執着心みたいなモノが違うのだろうか。

「これから……どうするの?」

小さく首を傾げて、ルージスは問うた。茶色の髪がさらりと流れる。

「さあな……。これだけやっても、神の石を探すとか言って、ツィアを残して出ていったりするようなら……その前に俺がこの手で殺してやる」

それだけの罪を犯したから。

そう言いたげだった。

「それにしても……」

ツェルノはふと、顔を上げた。

「お前等、何でそんなに追いかけられてたんだ?ラルティエシェイン持ってんのか?」

冗談で言っているようにも聞こえたし、本気のようにも聞こえた。

そうだ。俺達は、ラルティエシェインの秘密を知っていると思われていたのだ。

「持ってない。そんなもの俺が持ってたら、すでにこの世から消えてる」

俺は、そのために旅を始めたのだから。

「でもよぉ、それじゃあおかしくねぇか?何でお前等みたいな一般人が、奴等に狙われてたんだ?」

「……それは……」

確かにおかしい。ラルティエシェインに繋がりのある人は、もっと他に居るハズだ。俺達なんかは、全く関係無いと言っても良いくらいなのに。

「ルージスが、秘密を握ってるとか、無いわけ?」

「…………」

ルージスの表情は変わらなかった。けれど、言葉を探しているようにも見えた。

「……どうしてぼくが?ラルティエシェインとは、全く関係ないのに?」

俺の中で、何かが切れた。

今、こいつが、本当のことを言っているようには見えなかったから。

「……何でそうやって」

2人に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言った。が、ちゃんと聞こえたらしい。こちらを見てきた。

「……そうやって、俺を騙そうとするんだよ。嘘ばっかつきやがって……」

「嘘なんて……」

「ついてんだろ!?見りゃあわかるよ!俺がそんなに信用出来ないのか!?」

自分勝手なコト言ってるのはわかってる。ルージスにだって言えないようなことはあるし、俺に言わなきゃいけないというコトもない。

だけど……。

「俺だけが……お前のコト信頼してて……馬鹿みたいじゃねぇか!」

「違う!ぼくだってリスタのコト……!」

「だったら!何で騙そうとしたりするんだよ!信じられなくなるだろ!?」

……最初から、こいつは謎の多い奴だった。

だけど、俺がいくら無茶しようとも、止めずに、ついてきてくれた。

俺のことを、一番理解してくれた。そして、俺もルージスのことを理解していると思っていた。

だけど、それは間違いだったのかもしれない。

「……結局、俺はお前のことを、何も解ってなかったんだな。解ったつもりでいただけなんだ」

「そんなこと……」

「うるせぇ!」

ドアーを開けて、店から飛び出した。

我儘だと知っていても、あいつの近くに居たいと、心底願っていたから。


それが、俺の本音だったから――。

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