表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の使い  作者: 嬉遊
4/12

【第4話】リヴィア家の兄妹

「なんか……日が暮れてきてるよな……」

オレンジに染まりかかっている空を見上げて呟く。

「ぼく、野宿だけは嫌だなあ……」

俺の相棒、ルージスは言った。

「俺だって嫌だよ」

そりゃあ真冬よりはマシだけど。

俺達が持っている地図によれば、次の町まではそんなに距離がないハズだった。

すぐに着くだろうと思っていたのだが……。

「全然着かねぇじゃん」

この地図が間違っていたのか、あまりにも古すぎるのか……。恐らく前者だな。

「どこか泊まるトコロとか無いのかな?」

「どう見たってそんなトコロ……」

ないじゃん、と言うハズだったのだが、口を閉ざさざるを得なかった。

この道の先に、小さな家らしきモノがある。

「あそこ、人いるんじゃね?」

「あ、本当だ。行ってみよっか」

自然と足が速くなる。

絶対野宿なんてするか!という強い思いが、疲れた足を動かすのだ。

……最近は、神の石(ラルティエシェイン)の聖騎士団とかいう団体に追われ、肉体的にも精神的にも疲れていた。勿論、睡眠とかはちゃんととっているが、どうも疲れが取れた気がしない。

「ここは……なんかのお店なのかな?」

茶色いドアーの前で、ルージスが呟いた。

そのドアーには、『ギニョール』と書かれている看板が掛けてある。

「表札……じゃないよな」

「多分、お店の名前だよね」

指人形のお店だろうか。

とりあえず、ノックしてみる。

「ごめーんくださーい」

しばらく返事はなかった。微かに灯が見えるから、誰か居るハズだが……。

「留守か?」

だとしたら不用心だな。灯つけっぱなしだなんて。

こりゃあ本格的に野宿だな、と思い始めたところで、小さくドアーが開いた。

「…………」

顔を出したのは、小さな女の子だった。

クセのある金髪に飴色の瞳。4、5歳くらいだろうか。

その女の子が、じっとこちらを見つめてくる。

「あっとー、お兄ちゃん達をちょっとここに泊めてもらえないかなー?」

自分のことをお兄ちゃんと言うなんて……自分でも気色が悪い。

女の子も同じ様な事を思ったのか、二つに結った金髪をふわりと舞わせ、家の中へ入っていった。

「ほらー、リスタが変なコト言うからー」

「俺のせいかよ!?子供(ガキ)は苦手なんだって!」

必死で訴えるが、ルージスは相変わらず責めるような目で見てくる。

「リスタのせいで、今日は野宿かも……」

「うわ……それだけは勘弁……」

ちょうどその時、今度は男が出てきた。

さっきの女の子と同じ様な金髪に、同じ様な飴色の瞳。

口元はにやにやと笑っている。

そしてそいつは、ルージスを見ながら、

「悪いけど、男連れはお断りしてるんだよねー」

「……は?」

男連れ……って、普通女に言うもんじゃないか?

「君1人だったら泊めても良いよ。……なんてな」

……多分、ルージスを女だと思ってるな。まあ、見てくれは女にしか見えないけど……。

当の本人は特に気を害したりもせず、にっこりと笑って言った。

「ぼくも男だけど……。泊まらせてくれるんですか?」

これを聞いた男の顔は見物だった。

瞳が見開かれる。

「うっそぉ……それで男?マジ?」

「随分失礼な事を言うね。なんなら脱ごうか?」

こいつ、本気で言ってるな。

男が笑った。

「いや……流石に男の裸は見たくねぇよ。いいよ、今日は泊めてやる。入りな」

良かったね、と目で言ってくるルージス。お前は本当にそれで良かったのか……?




家の中は、予想に反して植物が沢山置いてあった。てっきり指人形が置いてあるのかと思ったのだが……。

「指人形のお店じゃなかったね」

ルージスも同じことを考えていたらしい。

「ツィア!4人分の食事を出してくれー」

台所らしきところに、それだけ叫ぶと、男は俺達を席に着かせてから言った。

「まだ名前言ってなかったよな。俺はツェルノ・リヴィア。18だ」

俺らより2つ上か。

「あー、俺はリスタ・ローカス。16歳」

「ぼくはルージス・ライ・スティン。リスタと同い年で、男です」

にっこりと笑うのが、また恐ろしい。

「そういえば、さっきの女の子は?」

ルージスが問うた。あの、最初に出てきたコのことだろう。

「ああ、あいつはツィア・リヴィア。俺の妹。5歳だったかな」

確かに、そう言われてみると、似ている。

ぴょんぴょん跳ねた金髪とか、顔立ちとか。

「5歳で食事の準備なんて、大変だな。剣術ならとっくに出来る年だけど」

そんな俺の言葉に、ツェルノは呆れたように笑った。

「お前、それじゃあ順番が逆だ。まず身の周りの事を出来るようにならなきゃなんねぇ」

「身を守るのが先じゃないか?」

ここで、ルージスがぼそりと、

「バレないように人を殺す方法を習うのが先じゃないかなあ」

いや……それは違うだろう。

ツェルノも同じようなコトを思ったらしい。

「それこそ順番が違うだろ。……つーか何?バレないように殺れんの?」

「多分ね。昔はよくやってたから、まだ出来るんじゃないかな」

今、さらりと爆弾発言しやがった。というか、一体何のためにそんなことを!?

……何のためにそんなことを、と言えば。

「ツェルノ、お前、何やってんだ?」

「ん?」

さっきからツェルノは、ルージスの肩に腕を回している。そして茶色い髪を、くるくるといじったりも。

「ツェルノって、そーゆー趣味なのか!?」

本人は気分を害することもなく、思いっきり吹き出した。

「ちげーよ!流石の俺でも、それはねぇって!たださあ、こいつ、すっげぇ美人じゃん?だから男でも問題ねぇだろ」

「あるだろ!」

肩に腕を置かれたまま、ルージスはくすくすと笑った。

確かに、美人だが……。

「お前も嫌がれよな!流されてても良いのかよ!?」

「うん、別に嫌じゃないしね」

「おい!」

こいつらと居ると、何だか俺が変な様な気がしてくる。……実際、変なのだろうか。

ちょうどそこへ、パンを持ってツィアがやってきた。いきなり来た客に馴々しくしている兄を見ても、何とも思わないらしい。

「ツィア、手伝おうか?」

客人だからって、何もしないのもどうかと思ったので、きいてみた。

ツィアは飴色の瞳を伏せる。

「いいの。おきゃくさんには、手伝ってもらっちゃいけないの。だから、ツィア1人でやる」

早口でそれだけ言うと、走って台所へ戻っていった。

緊張、してるのかもな。

「あー、悪い、あいつ人見知りするんだよ。すぐ慣れると思うけど」

「兄のツェルノ(おまえ)とは、大違いみたいだな」

こいつみたいな性格の方が、へらへらと生きる事ができて良いかもしれない。

……そういえば、この2人には両親が居ないのだろうか。さっきから話すら出ないし。

だからツェルノはあんな性格で、ツィアはあーゆー性格なのかも。

「…………」

俺は少し悩んでから、立ち上がった。

「ツィア!やっぱ俺も手伝うよ!」

同情ではない。何となく、他人事のような気がしなかったからだ。

「これ持ってけばいいんだよな。お、美味そうじゃん」

「だめっ!ツィア1人でやるの!」

必死で止めさせようとしているツィアを無視して、テーブルに運んでいく。


こうして、

俺達の長い夜が始まったのだ――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ