【第11話】意外な特技
「へー、それじゃあ2人は、親友ってコト!?」
目を輝かせてエルシア。俺達のコトを色々話している時だった。
「いや……親友ではないんじゃね?」
「うん……ちょっと違う気がする」
そもそも親友って、そんなに軽いもんじゃないんじゃねぇの……?
「そうなのー?あたし等は親友よ。ね、パティエっ!」
「もちろん!」
「…………」
呆れて言葉が出ない。そうやって言葉で確認しあった“親友”ほど、怪しい親友はいない。
おそらく、ルージスも同じコトを思っているのだろう。
確かに、親友とは少し違うけど、相棒だって似たようなものだ。そう簡単に言葉にするようなものではない。
……いや、たまに言っちゃったりするけど。
隣りで、ルージスはぼそりと呟いた。
「その“親友ごっこ”も、いつまで続くかね……」
「おい、聞こえるぞ……」
幸い、聞こえていなかったようだ。
「ほら、見て。これもお揃いなの」
そう言って、首にかけてあるネックレスを見せてきた。 真っ黒な十字架のものだ。
「へぇ……」
「あ、何ー?その疑うような目は」
エルシアは酔っ払ったようにケタケタ笑った。それに比べ、パティエの笑い方は上品だなぁ……。
……それにしても、黒の十字架か……。
「やっぱり、こんなトコロに居ても会えないみたいだね」
ルージスが小声で言った。おそらく、十字集団のコトだろう。
「だな……。明日にはここから出て、また情報収集しなきゃいけないよな……」
ラルティエシェインを狙う集団。そしてそのラルティエシェインは、ルージスが持っている。
だから、俺達は待つだけではなく、こちらからも攻めていかなければならない。
「食後に、珈琲なんていかが?」
突然、パティエが訊いてきた。
「……珈琲?」
「ええ。そんなに良いやつではないけれど……。要らないかしら……」
上目遣い気味に言う。……それ、反則じゃね!?
「要る。頂きます」
パティエの顔が明るくなった。
「ちょっと待ってて。すぐいれるわ」
嬉しそうに、硝子で出来たコップに珈琲を入れる。……何でそんな物を持ってるんだとか、訊いちゃいけない雰囲気だよな……。
「どうぞ」
俺とルージスの前に、コップを置いた。
珈琲の良い香りがする。
「…………」
だが……俺の勘がコレを飲むことを許さない。
普通の人だったら、気のせいだと言い聞かせて飲むだろうが、俺の場合、そうはいかない。
「わあ、美味しそうー。いただきます」
ルージスがカップを口に持っていく。
「……ルージス、待った」
ギリギリのところで手を止める。
「……何?」
「それ、飲むなよ」
俺はルージスのカップを取り上げ、臭いを嗅いでみる。もちろん、珈琲の香りしかしないのだが……。
「……違うな」
「だから何が」
「俺のとは違う」
「はあ?」
素頓狂な声を出すルージス。エルシアとパティエは驚いたようにこちらを見ている。
「……何よ。パティエが入れた珈琲に、変なものでも入ってた?」
「変どころじゃないだろう」
俺はカップを2人に見せるようにして言った。
「ルージスの珈琲に、睡眠薬とか、そこらへんの薬をいれただろう。しかも俺の方には致死量の毒を入れたな?」
2人はしばらく黙っていた。
驚いているような、こちらを睨んでいるような、複雑な表情で。
「何言ってるの?何も入ってないわ。ただの珈琲なんだけど?」
急に笑顔に戻りエルシア。続いてパティエも。
「そうよ。私は何も入れてないわ。しかも致死量って……」
「そうなんだよ」
俺はもう一度カップを見つめて言った。
「俺の方は、飲んだら絶対死んでた。でもルージスの方は死ぬまではいかないだろう。……この差はなんだ?もしかして、俺を殺して、ルージスを手込めにするつもりだったか?」
「うわあ、最悪。ぼく、君達みたいな娘には興味ないよ」
そんなコトあっさり言うお前が最悪だ。
2人が明らかに表情を変えた。俺達を睨んでいる。
「……どうしてわかったの?」
「そうよ。両方とも無味無臭なのに……」
俺は2つのカップを、エルシアとパティエの前に置いた。
「ある意味、俺の特技だ。昔、毒味の仕事しててさ……。毒味する前に気付けば、俺が死ぬコトもないだろ?」
ルージスが驚いたように目を見開いた。
「初めて聞いた、そんな話。てか毒味の仕事ってどんな仕事なのさ」
「そのまんまだって。毒味するんだよ。で、毒味して死んだらあんまりだろ?だから、自然と勘でわかるようになったんだよ」
「……すごいね」
自分の身を守るためには必要だったのだ。……まさかこんなトコロでも役に立つなんて、思ってもみなかったが。
「……で?お前らの目的はなんだ?まさか本当にルージスをどうにかするつもりだったんじゃ……」
「馬鹿なコト言わないでよ」
「そうよ。私だって貴方みたいな人には興味ないわ。私、もっと背の高い人が好みなの」
いや、パティエ、そーゆーコトじゃないだろ。
「だったら何なんだよ。おかしいだろ」
「そうだよね。ぼく的には睡眠薬で良かったと思うけど」
「……俺は下手したら死んでたんだぞ」
時々、ルージスはどこまで本気なのかわからなくなるな……。
「……本当に、想定外だったわ。貴方さえいなければ、計画は成功していたのに……」
「だからなんなんだって」
エルシアはすうっと目を細め、静かに言った。
「ルージスの体に埋め込まれているラルティエシェインを奪うためよ」
「…………」
今日は恐ろしいくらい、音の無い夜だった――。