表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第2章 前編

第2章 前編


ブラックリム前線基地に、ようやく“呼吸”が戻ってきた。

奪還作戦の成功は大きい。だが、奪われた地はまだ“死んでいない”。

地中に潜む残存兵器、汚染されたデータノード、敵性AIの断片。

どれも民間人を受け入れるには危険すぎる。


だからこそ、今いるのは軍関係者だけ。

調査員、研究員、補給部隊、後方支援の面々。

そして、アキラ・レイ・ミオの三人も、久々に肩の力を抜いていた。


その静けさを破ったのは――

**《オルタ・フレーム機関》の到着**だった。


---


◆ 静かに、しかし“異質”な気配をまとって


基地のゲートが開いたとき、誰もが一瞬だけ息を呑んだ。


黒と銀を基調とした無標識の車列。

軍の規格とは微妙に違う装甲。

そして、降り立つ者たちの“無音の動き”。


彼らは軍人ではない。

研究者でもない。

だが、どちらの気配も持っている。


**《オルタ・フレーム機関》――

既存のどの勢力にも属さない、第三の研究組織。**


彼らは、奪還されたばかりの地に眠る“何か”を調べに来た。

それは軍上層部すら詳細を知らない、極秘の案件。


アキラは眉をひそめ、レイは警戒し、ミオは興味深そうに目を細める。


> 「……なんで、あいつらがここに?」

> 「知らない。けど、嫌な予感しかしない」

> 「でも、動きが綺麗。軍人じゃないのに、軍人以上の訓練を受けてる」


そんな会話をしていた、そのとき。


---


◆ いつのまにか“そこにいる”男


「……あ、コーヒーあるんだ。もらうね」


三人は同時に振り返った。


そこにいたのは――

**誰も呼んでいないのに、いつのまにか椅子に座っている男。**


例の“トリックスター”。


軍服でもない、民間でもない、妙にラフな格好。

だが、背中のラインは戦場帰りのパイロットそのもの。

そして、手には湯気の立つコーヒー。


> 「……お前、いつ来た」

> 「さっき。ゲート開いてたし」

> 「許可証は?」

> 「ああ、どっかに落とした。まあ、いいでしょ?」


レイが頭を抱え、アキラは呆れ、ミオは吹き出しそうになる。


彼は本当に、どこにでも現れる。

そして、誰も止められない。


---


◆ 《オルタ・フレーム機関》とトリックスターの“妙な関係”


そのとき、黒いコートの研究員が彼に目を向けた。


一瞬だけ、空気が張り詰める。


研究員は彼を“知っている”ようだった。

だが、声をかけない。

ただ、観察するように視線を滑らせる。


トリックスターは気づいているのかいないのか、

コーヒーをすすりながら、ぽつりと言った。


> 「ああ、来たんだ。やっぱり、あの“穴”を調べに来たんだね」


アキラたちは凍りつく。


“穴”――

奪還した地域の地下で見つかった、**正体不明の空洞**。

軍はまだ情報を伏せているはずだ。


なのに、彼は知っている。


研究員たちの視線が、わずかに鋭くなる。


> 「……君は、どこでその情報を?」

> 「え、見たから。昨日」

> 「昨日?」

> 「うん。ちょっと潜ってきた。面白かったよ」


アキラたちの背筋に冷たいものが走る。


昨日――

その空洞は、まだ封鎖されていたはずだ。


---


◆ ここから物語は“裏側”へ動き出す


《オルタ・フレーム機関》が何を求めているのか。

トリックスターが何を知っているのか。

そして、奪還地の地下にある“穴”とは何なのか。


三人の主人公は、まだ知らない。


だが、この瞬間から――

**表の戦争と裏の真実が、静かに噛み合い始める。**


---


◆ ブラックリム前線基地・休憩スペース

湯気の立つマグを片手に、トリックスターは本当に“くつろいで”いた。

奪還直後の緊張感がまだ残る基地の空気とは、まるで別世界のように。


アキラ・レイ・ミオの三人は、彼を囲むように立ったまま固まっている。


---


トリックスター

「ここは、いいコーヒーを淹れてくれるね。豆が違うのかな?」


まるで観光地のカフェにでも来たかのような口調。

その無防備さが逆に不気味だ。


レイ

「……ふざけているのか?」


レイの声は低く、警戒と苛立ちが混じっていた。

この男が“何者なのか”誰も説明できない。

それがレイの神経を逆撫でする。


トリックスター

「いいや? いたって“大真面目”、さ」


彼は肩をすくめ、マグを軽く揺らす。

その仕草すら、妙に自然で、妙に不自然。


---


◆ 三人の反応


アキラ

「……お前、昨日どこにいたんだ?

 奪還地の地下に潜ったって言ってたが」


アキラは冷静に問いかける。

だが、その目は鋭い。

“嘘をついているかどうか”を見極めようとしている。


トリックスター

「昨日? ああ、あの“穴”ね。

 気になったから、ちょっと覗いただけだよ」


まるで散歩の延長のように言う。


ミオ

「……封鎖されてたはずなんだけど。

 どうやって入ったの?」


ミオは興味と不安が半々。

彼女は“異常”に敏感だ。


トリックスター

「どうやって? んー……

 **開いてたから、入っただけ**」


三人の表情が同時に固まる。


---


◆ さらに続く、彼の“ズレた”会話


トリックスターは、三人の反応など気にも留めず、

コーヒーをもう一口飲んでから、ぽつりと呟く。


トリックスター

「それにしても、あの穴……

 **呼吸してたね。**

 ああいうの、久しぶりに見たよ」


レイ

「呼吸……? 何を言ってる」


トリックスター

「うん。

 生き物みたいに、ゆっくり膨らんだり縮んだりしてた。

 あれ、たぶん“まだ起きてない”」


アキラとミオの背筋に、冷たいものが走る。


アキラ

「……お前、本当に何者なんだ?」


トリックスターは、にこりと笑った。


トリックスター

「ただの通りすがりのパイロットだよ。

 **ちょっとだけ、普通じゃないだけで。**」


---




トリックスターの言葉に三人が困惑していると、

背後から低く抑えた声が落ちてきた。


研究員(黒いコートの男)

「――それくらいにしておけ」


アキラたちが振り返ると、

《オルタ・フレーム機関》の研究員が静かに立っていた。

足音も気配もなく近づいていたことに、レイが眉をひそめる。


研究員はトリックスターを見下ろすようにしながら、

淡々と、しかし刺すような口調で続けた。


研究員

「お前の言葉は“わかりにくい”。

 特に面識のない相手には伝わるはずもないだろう」


その声音には、叱責というより“管理”の匂いがあった。

まるで、扱いづらい実験体に注意を促すような。


トリックスターは、コーヒーをくるりと回しながら笑う。


トリックスター

「まあ、面識のある相手にもう一度会うほうがめずらしいけどな、俺の場合」


その言葉に、研究員の表情が一瞬だけ揺れた。

怒りでも困惑でもない。

もっと別の、説明しづらい感情――

“諦め”に近いもの。


アキラたちは、その微妙な空気の変化を見逃さなかった。


---


◆ 三人の反応


レイ

「……どういう意味だ、それ」


レイが問い詰めようと一歩踏み出すが、

研究員が手を軽く上げて制した。


研究員

「気にする必要はない。

 彼の言葉は、我々でも解釈に苦労する」


その言い方は、まるで“慣れている”かのようだった。


ミオ

「あなたたち、《オルタ・フレーム機関》は……

 彼と知り合いなの?」


研究員は少しだけ視線を落とし、

答えるべきかどうか迷うように沈黙した。


そして――


研究員

「……知り合い、という表現は不正確だ。

 だが、**関わりがないとは言えない**」


曖昧で、しかし意味深な返答。


アキラは、トリックスターと研究員の間に流れる

“普通ではない関係”を直感した。


---


◆ トリックスターは飄々と


研究員の言葉を聞いても、

トリックスターはまったく気にした様子がない。


むしろ、楽しんでいるようにさえ見える。


トリックスター

「まあまあ、そんな怖い顔しないで。

 俺はただ、コーヒーが美味しいって言っただけだよ」


その軽さが、逆に不気味だった。


研究員は深く息を吐き、

アキラたちに向き直る。


研究員

「……彼の言動に惑わされるな。

 我々は、地下の“異常空洞”について調査を行う。

 あなたたち三名にも、後ほど協力を依頼するかもしれない」


そう告げると、研究員は仲間のもとへ戻っていった。


残されたのは、三人と――

まだコーヒーを飲んでいるトリックスター。


---


◆ 休憩スペースの空気が、じわじわと濁っていく


アキラ・レイ・ミオの三人は、

《オルタ・フレーム機関》の研究員が去ったあと、

すぐさまトリックスターへ向き直った。


彼は――相変わらず、椅子に深く腰掛けてコーヒーを飲んでいる。


まるで、ここが自分の家のリビングであるかのように。


---


アキラ

「……お前、本当に昨日“穴”に入ったのか。

 どうやって封鎖を突破した?」


トリックスター

「ん? ああ、あれね。

 突破ってほどじゃないよ。

 **気づいたら中にいた**って感じ」


アキラの眉がぴくりと動く。


---


レイ

「気づいたら、だと?

 ふざけてる場合じゃない。

 あそこは軍でも立ち入り禁止だぞ」


トリックスター

「だから、ふざけてないって。

 俺はいつだって真面目だよ。

 **方向音痴なだけで**」


レイのこめかみがぴくりと跳ねる。


---


ミオ

「方向音痴で封鎖区域に迷い込む人、初めて見たけど……

 で、中で何を見たの?」


ミオは半ば呆れ、半ば興味津々。


---


トリックスターは、ミオの問いに答える前に、

空になったマグを軽く持ち上げた。


トリックスター

「あ、コーヒーお替り、いい?」


レイ

「こいつ……」


レイは本気で頭を抱えた。


---


◆ それでも、三人は食い下がる


アキラ

「お替りは後だ。

 “穴”の中で何を見た?」


トリックスター

「んー……暗かったね」


レイ

「当たり前だ!」


トリックスター

「でも、暗いだけじゃなかった。

 **音がしたよ。呼吸みたいな**」


三人は一瞬だけ黙り込む。


---


ミオ

「呼吸……やっぱり、あなたが言ってた“生きてるみたい”ってやつ?」


トリックスター

「そうそう。

 あれ、たぶん“起きたら”もっと面白いことになるよ」


アキラ

「面白い……?

 お前の“面白い”は信用できない」


トリックスター

「えー、ひどいなあ。

 俺はいつだって、世界を楽しくしてるだけなのに」


---


◆ そして、また話が逸れる


トリックスターは、急に立ち上がった。


トリックスター

「よし、コーヒーのお替りもらってくる。

 ついでに、あの研究員たちの様子も見てくるよ。

 なんか、変な匂いがするし」


レイ

「待て、まだ話は――」


だが、彼はもう歩き出していた。

止める隙も、止める意味も見いだせないほど自然に。


まるで、最初から“そうなることが決まっていた”かのように。


---


◆ 三人だけが残される


ミオ

「……ねえ、あの人、本当に人間?」


アキラ

「分からない。

 でも、あの《オルタ・フレーム機関》が関わってる以上……

 普通じゃないのは確かだ」


レイ

「次に会うときは、もう少しまともに話を聞かせる。

 あいつ、絶対何か知ってる」


三人の視線の先で、

トリックスターは本当にコーヒーをお替りしていた。


研究員たちの真横で、

まるで“そこにいるのが当然”のように。


---



◆ 《オルタ・フレーム機関》・研究員側視点

休憩スペースの片隅。

黒いコートの研究員たちは、トリックスターがコーヒーをお替りしている姿を遠巻きに見つめていた。


彼らの表情は、警戒・疲労・諦念が絶妙に混ざったものだった。


---


研究員A(低くため息)

「全く……何を考えているのか、さっぱりわからん」


彼はタブレットを胸に抱えたまま、視線を逸らす。

まるで、あの男を見るだけで頭痛がするかのように。


研究員B(肩をすくめながら)

「考えるだけ無駄……とは職務上言えんが……

 **“嘘”をついていない、というのが余計にたちが悪い**」


その言葉に、周囲の研究員たちが静かに頷く。


嘘をついていない。

だが、真実を語っているわけでもない。

その“中間”にいる存在ほど厄介なものはない。


---


研究員C(声を潜めて)

「さらに、**“全て”を話してるわけでもない**、んだよなあ……」


彼は腕を組み、トリックスターの背中を睨むように見つめた。


「断片だけを落としていく。

 こちらが知りたい核心には触れない。

 なのに、核心の“周辺”だけは正確に突いてくる」


研究員A

「まるで……こちらの反応を観察しているみたいだ」


研究員B

「観察してるさ。あいつはいつもそうだ。

 “知っていること”と“知らないふり”を自在に切り替える。

 あれは……人間のやり方じゃない」


研究員たちの間に、重い沈黙が落ちる。


---


◆ 彼らが抱える“恐れ”


研究員C

「……正直に言うと、私は怖いよ。

 あの男が何を知っていて、何を知らないのか。

 そして、**どこまでが意図的なのか**」


研究員A

「だが、排除も拘束もできない。

 あいつは“どこにも所属していない”のに、

 どの勢力よりも自由に動く」


研究員B

「そして、どの勢力よりも“深部”に触れている。

 ……まったく、厄介な存在だ」


---


◆ そのとき、トリックスターが振り返る


まるで彼らの会話が聞こえていたかのように、

トリックスターがふいにこちらを振り返った。


マグを片手に、にこりと笑う。


トリックスター

「ねえ、君たち。

 そんな怖い顔しないでさ。

 **俺は味方だよ? たぶん。**」


研究員たちの背筋が一斉に強張った。


“たぶん”――

その一言が、何よりも不気味だった。


---


◆ 《オルタ・フレーム機関》・研究員たちの“踏み込み”


トリックスターがにこにこと笑いながらマグを揺らす。

その軽薄さに、研究員たちの緊張は逆に増していく。


研究員Aが、一歩前へ出た。

声は低いが、明らかに“尋問”の温度だ。


---


研究員A

「……では、率直に聞こう。

 **君は、あの“空洞”の内部構造をどこまで把握している?**」


トリックスターは、マグを口元に運びながら答える。


トリックスター

「どこまで、って言われてもね。

 見たものを見たまま、ってだけだよ」


研究員Bがすかさず畳みかける。


研究員B

「では、内部で“何か”と遭遇したのか?

 生体反応、機械反応、あるいは……**異常波形**でも」


トリックスターは、少しだけ目を細めた。

その表情は、冗談を言う前の“間”にも見えるし、

本気で思い出しているようにも見える。


トリックスター

「遭遇……したと言えばしたし、

 してないと言えばしてない、かな」


研究員Cが苛立ちを隠さずに前へ出る。


研究員C

「曖昧な返答は不要だ。

 **具体的に何を見た?**

 “呼吸していた”というのは比喩か?」


トリックスターは、マグを置き、指でテーブルを軽く叩いた。


トリックスター

「比喩じゃないよ。

 本当に、呼吸してた。

 ゆっくり、深く……まるで、

 **誰かが寝ている胸の上に立ってるみたいだった。**」


研究員たちの顔色が変わる。


---


◆ さらに深く、さらに危険な質問へ


研究員Aは、声を潜めて問いかけた。


研究員A

「……君は、あの空洞が“人工物”か“自然物”か、

 どちらだと判断した?」


トリックスターは、少し考えるふりをして――

あっさりと答えた。


トリックスター

「どっちでもないよ。

 **あれは“作られた”けど、“生まれた”んだ。**

 その両方が正しいし、どちらも間違ってる」


研究員Bが息を呑む。


研究員B

「……それは、どういう――」


トリックスター

「説明しても理解できないと思うよ。

 だって、君たち、まだ“見てない”でしょ?」


研究員Cが、思わず声を荒げる。


研究員C

「では君は、何を“見た”と言うんだ!」


トリックスターは、にこりと笑った。


トリックスター

「**目じゃなくて、耳で聞いたんだ。

 “まだ起きないで”って。**」


研究員たちの背筋が一斉に凍りつく。


---


◆ 研究員たちの動揺


研究員Aは、震える声で呟いた。


研究員A

「……そんな“声”は、我々の記録にはない。

 空洞内部に音声反応は――」


トリックスター

「だから言ったじゃない。

 **俺は嘘はつかない。

 でも、全部は話さない。**」


研究員Bは、額に手を当てた。


研究員B

「……本当に、たちが悪い……」


研究員Cは、苦々しく吐き捨てる。


研究員C

「“全部を話さない”のは、

 我々を試しているつもりか?」


トリックスターは、首を傾げた。


トリックスター

「試してる?

 そんなつもりはないよ。

 ただ――

 **君たちが“どこまで知ってるか”を知りたいだけ。**」


研究員たちは、言葉を失った。


---



◆ トリックスター、まさかの“逆質問”


研究員たちが緊張と苛立ちを滲ませながら核心へ迫ろうとした、その瞬間。


トリックスターは、まるで空気を読まないどころか、

“わざと外す”ように、軽い声で口を開いた。


トリックスター

「ねえ、君たち。

 **コーヒーは好きかい?**」


研究員たちの思考が一瞬止まる。


さっきまで“空洞の正体”や“異常波形”の話をしていたはずなのに、

突然の飲み物トーク。


---


◆ 研究員たちの反応


研究員A(呆然)

「……は?」


研究員B(眉をひそめる)

「今、我々は君に質問を――」


トリックスター

「うん、だからさ。

 コーヒーは好きなのかって聞いてるんだよ。

 **味覚って、その人の“考え方”が出るからね。**」


研究員Cが、思わず声を荒げる。


#研究員C

「そんなことを聞いてどうする!」


トリックスターは、肩をすくめて笑った。


トリックスター

「どうもしないよ。

 ただ、君たちが“どんな味”を好むのか、

 ちょっと興味があっただけ」


---


◆ 研究員たちの“困惑と警戒”


研究員Aは、深く息を吐きながら言った。


研究員A

「……我々は、任務中に嗜好の話をするつもりはない」


トリックスター

「へえ。

 じゃあ、任務が終わったら話してくれる?」


研究員Bが、苛立ちを抑えながら返す。


研究員B

「なぜそこまでコーヒーにこだわる?」


トリックスターは、マグを軽く掲げて答えた。


トリックスター

「だって――

 **“何を飲むか”って、“何を恐れてるか”と同じくらい大事だろ?**

 人間って、そういうもんだよ」


研究員Cが、思わず息を呑む。


---


◆ 研究員たちの内心(視点)


- 「まただ……話を逸らしているのか、それとも本気なのか」

- 「この男は、我々の反応を観察している……」

- 「質問に答えないくせに、こちらの情報は引き出そうとする」

- 「やはり“普通の人間”ではない……」


研究員Aは、静かに結論を出した。


#研究員A

「……やはり、扱いづらいにも程がある」


トリックスターは、にこりと笑った。


トリックスター

「そう?

 でも、君たちのコーヒーの好みは、

 **そのうち分かる気がするよ。**

 だって、また会うだろうし」


研究員Bが小声で呟く。


研究員B

「……“また会う”と言われると、逆に不安になるな」


---


◆ トリックスター、まるで散歩帰りのように


研究員たちの鋭い視線を背中に受けながら、

トリックスターはひらひらと手を振ってその場を離れた。


その歩き方は、緊張感の欠片もない。

むしろ――

「ちょっと自販機まで行ってくる」

そんな軽さすら漂っていた。


そして、“約束通り”という言葉が似合わないほど自然に、

アキラ・レイ・ミオの三人のもとへ戻ってきた。


---

◆ 三人の反応


トリックスターが戻ってくるや否や、

レイが呆れたように腕を組む。


レイ

「……お前、よくあの研究員たちの前で平然としていられるな」


トリックスターは、にこりと笑って肩をすくめた。


トリックスター

「だって、怖い顔してるけど悪い人たちじゃないよ。

 ちょっとだけ、**真面目すぎる**だけで」


ミオが小声でアキラに囁く。


ミオ

「……真面目すぎるのは、あなたもじゃない?」


アキラは苦笑しつつ、トリックスターに向き直る。


アキラ

「で? 何を話してきたんだ。

 あいつら、相当ピリピリしてたぞ」


---


◆ トリックスターの“軽すぎる”報告


トリックスターは、まるで天気の話でもするように言った。


トリックスター

「んー、別に大したことは。

 ちょっと質問されて、ちょっと答えて、

 ちょっとコーヒーの話をしただけ」


レイが思わず声を荒げる。


レイ

「なんでそこでコーヒーの話になるんだ!」


トリックスター

「だって、気になるじゃない?

 **人の好みって、その人の“深層”が出るんだよ。**

 君たちもそうでしょ?」


ミオが目を細める。


ミオ

「……あなた、研究員たちを“調べてた”の?」


トリックスターは、悪戯っぽく片目をつむった。


トリックスター

「さあ、どうだろうね。

 でも、約束は守ったよ。

 ちゃんと戻ってきた」


---


◆ 三人の胸に残る“違和感”


アキラは、彼の言葉を聞きながら、

胸の奥に小さな棘のような違和感を覚えていた。


“戻ってきた”

その言い方が、妙に引っかかる。


まるで――

**戻らない選択肢もあった**

と言っているように。


レイは腕を組んだまま、じっとトリックスターを見つめる。


ミオは、彼の笑顔の裏にある“何か”を探ろうとしていた。


---


◆ トリックスターは、あくまで自然体


そんな三人の視線を受けても、

トリックスターは気にした様子もなく言った。


トリックスター

「さて、次はどうする?

 君たち、暇そうだったから戻ってきたんだけど」


レイが呆れたようにため息をつく。


レイ

「……お前が戻ってくると、逆に落ち着かないんだが」


トリックスターは楽しそうに笑った。


トリックスター

「それは光栄だね」


---



◆ ミオの問いは、“核心”に触れた


三人がさらに踏み込んで質問を続ける中、

ミオはふと、別の角度から切り込んだ。


それは戦術でも情報でもなく――

**彼の“人間性”そのものに触れる問い。**


ミオ

「あなた、コーヒーが随分と好きみたいだけど……

 あなたにとって、コーヒーは“どんな意味”をもつのかしら?」


その瞬間、トリックスターの動きがわずかに止まった。


ほんの一瞬。

だが、三人は気づいた。


彼が“考えた”のだと。


---


◆ トリックスターの答えは、軽くて重い


トリックスターはマグを見つめ、

ゆっくりと、しかしどこか遠くを見るように言った。


トリックスター

「意味、ね……

 そうだなあ……」


彼はマグを指先でくるりと回しながら続ける。


トリックスター

「**コーヒーは、“戻ってこられる場所”みたいなものかな。**」


アキラが眉をひそめる。


アキラ

「戻ってこられる場所……?」


トリックスターは笑うでもなく、真顔でもなく、

どこか“懐かしむ”ような表情を浮かべた。


トリックスター

「戦場ってさ、いろんなものが“流れていく”だろ。

 時間も、仲間も、場所も、名前も。

 でも、コーヒーの香りだけは……

 **どこにいても同じなんだ。**

 それが、ちょっと安心する」


ミオは息を呑んだ。


その言葉は、彼の“異常さ”とは真逆の、

妙に人間らしい響きを持っていた。


---


◆ しかし、次の一言でまた“掴めなくなる”


トリックスターは続ける。


トリックスター

「それにね、コーヒーって面白いんだよ。

 **苦いのに、飲むと落ち着く。

 熱いのに、心は冷静になる。

 矛盾してるのに、ちゃんと成立してる。**

 ……俺、そういうの好きなんだ」


レイが呆れたように言う。


レイ

「お前自身みたいだな」


トリックスターは嬉しそうに笑った。


トリックスター

「そう?

 じゃあ、俺は“飲みすぎ注意”ってやつかな」


---


◆ ミオは、さらに深く探ろうとする


ミオは、彼の言葉の裏にある“影”を感じ取っていた。


ミオ

「……あなた、どこにいても同じ香りがするって言ったわね。

 それって……あなたが“どこにでもいた”ってこと?」


トリックスターは、マグを口元に運びながら答えた。


トリックスター

「さあ、どうだろう。

 でも――

 **どこにいても、コーヒーは裏切らないよ。

 人より、組織より、戦場よりね。**」


アキラとレイが、同時に息を呑む。


その言葉は、軽いようでいて、

あまりにも重かった。


---


◆ そして、また“いつもの調子”に戻る


トリックスターは急に明るい声で言った。


トリックスター

「さて、質問はこんなもん?

 次は俺の番かな。

 君たちの“好きな味”も、そのうち教えてよ」


レイ

「……お前の質問は、ろくなことにならない気がする」


トリックスター

「えー、失礼だなあ。

 俺はいつだって、世界をちょっとだけ面白くしてるだけなのに」


ミオは、彼の笑顔を見つめながら思った。


――この男は、

**本当に“人間”なのだろうか。**


---


◆ トリックスターの“逆質問”は、まるで煙のように


三人の問いに対して、トリックスターは軽く頷いた。


トリックスター

「ふうん、そうなんだ」


納得したようにも、感心したようにも、

あるいは――本当に何も考えていないようにも聞こえる声。


その曖昧さが、彼の“本質”をさらに掴みにくくしていた。


ミオは、情報分析官としての直感がざわつくのを感じていた。


**何かがある。

何かが隠れている。

だが、掴もうとすると霧のように指の間から抜け落ちる。**


まるで、彼自身が“情報の空白”でできているかのように。


---


◆ ミオの苛立ちが限界に近づく


ミオは、彼の表情を読み取ろうとする。

言葉の裏、仕草の癖、視線の動き――

どれもが“意味ありげ”なのに、どれも“意味を結ばない”。


その矛盾が、彼女の分析能力を逆撫でする。


ミオ

「……あ”あ”、もう!!」


思わず声が漏れた。

アキラとレイが驚いて振り向く。


レイ

「お、おいミオ?」


ミオ

「この人、何なのよ……!

 分かりそうで分からない……

 分からないようで、分かってる気もする……

 でもやっぱり分からない……!」


トリックスターは、そんなミオを見て楽しそうに笑った。


トリックスター

「いいねえ、その感じ。

 **分からないものを分かろうとするのって、楽しいでしょ?**」


ミオ

「楽しくないわよ!!」


アキラ

「……お前、わざとやってるだろ」


トリックスター

「さあ、どうだろうね」


---


◆ そのとき――空気が変わる


ミオの声が響いた直後、

休憩スペースの入り口に黒い影が差した。


《オルタ・フレーム機関》の研究員たちだ。


先ほどよりも人数が多い。

そして、明らかに“仕事の顔”をしている。


研究員Aが三人に向かって歩み寄り、

淡々とした声で告げた。


研究員A

「アキラ・レイ・ミオの三名。

 これより、正式な依頼を伝達する」


レイが眉をひそめる。


レイ

「正式な依頼……?」


研究員Bがタブレットを開きながら続ける。


研究員B

「奪還地地下に存在する“異常空洞”の調査に、

 あなたたち三名の同行が必要だ。

 軍上層部より承認済みだ」


アキラ

「……やっぱり、そう来たか」


ミオ

「私たちが、あの“呼吸する穴”に……?」


研究員C

「詳細は移動しながら説明する。

 準備を整え、すぐに出発してほしい」


---


◆ トリックスターは――


三人が依頼内容に驚く中、

トリックスターはマグを片手に、ひょいと立ち上がった。


トリックスター

「へえ、行くんだ。

 じゃあ――

 **俺も行こうかな。**」


研究員たちが一斉に振り返る。


研究員A

「……君は呼んでいない」


トリックスターは、にこりと笑った。


トリックスター

「呼ばれてないけど、行くよ。

 だって――

 **あれ、起きそうだし。**」


研究員たちの顔色が一瞬で変わった。


アキラ・レイ・ミオの三人も、

背筋に冷たいものが走る。


---




◆ “雑談”の皮をかぶった、あまりにも鋭い一言


ブリーフィングの緊張感がまだ空気に残る中、

トリックスターはまるでそれを無視するように、

軽い調子で口を開いた。


トリックスター

「かっこいいよね、この機体たちの名前。

 俺の機体の名前も、次から“こういう名前の付け方”をするのもおもしろいかもね」


アキラが肩をすくめる。


アキラ

「名前?

 まあ、自分の乗る機体なんだから好きに付けたらいいんじゃないか?」


トリックスターは、にこりと笑った。

その笑顔は軽い。

だが、言葉は妙に重かった。


トリックスター

「そうだね。

 **“当事者”が決めるべきだよね。**」


その瞬間、

ミオの背筋に冷たいものが走った。


---


◆ ミオの直感が“警鐘”を鳴らす


ミオは情報分析官として、

“言葉の裏”を読むことに慣れている。


そして今の一言は――

**ただの雑談ではない。**


- 「当事者」

- 「名前を付ける」

- 「こういう名前の付け方」


どれも普通の会話に見える。

だが、彼の声色、間、視線の動き……

そのすべてが“何かを隠している”と告げていた。


**まるで、TYPE I と TYPE A の“名前”に、

何か重大な意味があると知っているかのように。**


ミオは、掴みかけた“違和感”を必死に形にしようとする。


だが――


掴もうとすればするほど、

その感覚は霧のように指の間からすり抜けていく。


「当事者が決めるべき」

その言葉が、頭の中で何度も反響する。


**当事者とは誰のこと?

パイロット?

設計者?

それとも――機体自身?**


考えれば考えるほど、

答えは遠ざかっていく。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ