第2章 前編
第2章 前編
ブラックリム前線基地に、ようやく“呼吸”が戻ってきた。
奪還作戦の成功は大きい。だが、奪われた地はまだ“死んでいない”。
地中に潜む残存兵器、汚染されたデータノード、敵性AIの断片。
どれも民間人を受け入れるには危険すぎる。
だからこそ、今いるのは軍関係者だけ。
調査員、研究員、補給部隊、後方支援の面々。
そして、アキラ・レイ・ミオの三人も、久々に肩の力を抜いていた。
その静けさを破ったのは――
**《オルタ・フレーム機関》の到着**だった。
---
◆ 静かに、しかし“異質”な気配をまとって
基地のゲートが開いたとき、誰もが一瞬だけ息を呑んだ。
黒と銀を基調とした無標識の車列。
軍の規格とは微妙に違う装甲。
そして、降り立つ者たちの“無音の動き”。
彼らは軍人ではない。
研究者でもない。
だが、どちらの気配も持っている。
**《オルタ・フレーム機関》――
既存のどの勢力にも属さない、第三の研究組織。**
彼らは、奪還されたばかりの地に眠る“何か”を調べに来た。
それは軍上層部すら詳細を知らない、極秘の案件。
アキラは眉をひそめ、レイは警戒し、ミオは興味深そうに目を細める。
> 「……なんで、あいつらがここに?」
> 「知らない。けど、嫌な予感しかしない」
> 「でも、動きが綺麗。軍人じゃないのに、軍人以上の訓練を受けてる」
そんな会話をしていた、そのとき。
---
◆ いつのまにか“そこにいる”男
「……あ、コーヒーあるんだ。もらうね」
三人は同時に振り返った。
そこにいたのは――
**誰も呼んでいないのに、いつのまにか椅子に座っている男。**
例の“トリックスター”。
軍服でもない、民間でもない、妙にラフな格好。
だが、背中のラインは戦場帰りのパイロットそのもの。
そして、手には湯気の立つコーヒー。
> 「……お前、いつ来た」
> 「さっき。ゲート開いてたし」
> 「許可証は?」
> 「ああ、どっかに落とした。まあ、いいでしょ?」
レイが頭を抱え、アキラは呆れ、ミオは吹き出しそうになる。
彼は本当に、どこにでも現れる。
そして、誰も止められない。
---
◆ 《オルタ・フレーム機関》とトリックスターの“妙な関係”
そのとき、黒いコートの研究員が彼に目を向けた。
一瞬だけ、空気が張り詰める。
研究員は彼を“知っている”ようだった。
だが、声をかけない。
ただ、観察するように視線を滑らせる。
トリックスターは気づいているのかいないのか、
コーヒーをすすりながら、ぽつりと言った。
> 「ああ、来たんだ。やっぱり、あの“穴”を調べに来たんだね」
アキラたちは凍りつく。
“穴”――
奪還した地域の地下で見つかった、**正体不明の空洞**。
軍はまだ情報を伏せているはずだ。
なのに、彼は知っている。
研究員たちの視線が、わずかに鋭くなる。
> 「……君は、どこでその情報を?」
> 「え、見たから。昨日」
> 「昨日?」
> 「うん。ちょっと潜ってきた。面白かったよ」
アキラたちの背筋に冷たいものが走る。
昨日――
その空洞は、まだ封鎖されていたはずだ。
---
◆ ここから物語は“裏側”へ動き出す
《オルタ・フレーム機関》が何を求めているのか。
トリックスターが何を知っているのか。
そして、奪還地の地下にある“穴”とは何なのか。
三人の主人公は、まだ知らない。
だが、この瞬間から――
**表の戦争と裏の真実が、静かに噛み合い始める。**
---
◆ ブラックリム前線基地・休憩スペース
湯気の立つマグを片手に、トリックスターは本当に“くつろいで”いた。
奪還直後の緊張感がまだ残る基地の空気とは、まるで別世界のように。
アキラ・レイ・ミオの三人は、彼を囲むように立ったまま固まっている。
---
トリックスター
「ここは、いいコーヒーを淹れてくれるね。豆が違うのかな?」
まるで観光地のカフェにでも来たかのような口調。
その無防備さが逆に不気味だ。
レイ
「……ふざけているのか?」
レイの声は低く、警戒と苛立ちが混じっていた。
この男が“何者なのか”誰も説明できない。
それがレイの神経を逆撫でする。
トリックスター
「いいや? いたって“大真面目”、さ」
彼は肩をすくめ、マグを軽く揺らす。
その仕草すら、妙に自然で、妙に不自然。
---
◆ 三人の反応
アキラ
「……お前、昨日どこにいたんだ?
奪還地の地下に潜ったって言ってたが」
アキラは冷静に問いかける。
だが、その目は鋭い。
“嘘をついているかどうか”を見極めようとしている。
トリックスター
「昨日? ああ、あの“穴”ね。
気になったから、ちょっと覗いただけだよ」
まるで散歩の延長のように言う。
ミオ
「……封鎖されてたはずなんだけど。
どうやって入ったの?」
ミオは興味と不安が半々。
彼女は“異常”に敏感だ。
トリックスター
「どうやって? んー……
**開いてたから、入っただけ**」
三人の表情が同時に固まる。
---
◆ さらに続く、彼の“ズレた”会話
トリックスターは、三人の反応など気にも留めず、
コーヒーをもう一口飲んでから、ぽつりと呟く。
トリックスター
「それにしても、あの穴……
**呼吸してたね。**
ああいうの、久しぶりに見たよ」
レイ
「呼吸……? 何を言ってる」
トリックスター
「うん。
生き物みたいに、ゆっくり膨らんだり縮んだりしてた。
あれ、たぶん“まだ起きてない”」
アキラとミオの背筋に、冷たいものが走る。
アキラ
「……お前、本当に何者なんだ?」
トリックスターは、にこりと笑った。
トリックスター
「ただの通りすがりのパイロットだよ。
**ちょっとだけ、普通じゃないだけで。**」
---
トリックスターの言葉に三人が困惑していると、
背後から低く抑えた声が落ちてきた。
研究員(黒いコートの男)
「――それくらいにしておけ」
アキラたちが振り返ると、
《オルタ・フレーム機関》の研究員が静かに立っていた。
足音も気配もなく近づいていたことに、レイが眉をひそめる。
研究員はトリックスターを見下ろすようにしながら、
淡々と、しかし刺すような口調で続けた。
研究員
「お前の言葉は“わかりにくい”。
特に面識のない相手には伝わるはずもないだろう」
その声音には、叱責というより“管理”の匂いがあった。
まるで、扱いづらい実験体に注意を促すような。
トリックスターは、コーヒーをくるりと回しながら笑う。
トリックスター
「まあ、面識のある相手にもう一度会うほうがめずらしいけどな、俺の場合」
その言葉に、研究員の表情が一瞬だけ揺れた。
怒りでも困惑でもない。
もっと別の、説明しづらい感情――
“諦め”に近いもの。
アキラたちは、その微妙な空気の変化を見逃さなかった。
---
◆ 三人の反応
レイ
「……どういう意味だ、それ」
レイが問い詰めようと一歩踏み出すが、
研究員が手を軽く上げて制した。
研究員
「気にする必要はない。
彼の言葉は、我々でも解釈に苦労する」
その言い方は、まるで“慣れている”かのようだった。
ミオ
「あなたたち、《オルタ・フレーム機関》は……
彼と知り合いなの?」
研究員は少しだけ視線を落とし、
答えるべきかどうか迷うように沈黙した。
そして――
研究員
「……知り合い、という表現は不正確だ。
だが、**関わりがないとは言えない**」
曖昧で、しかし意味深な返答。
アキラは、トリックスターと研究員の間に流れる
“普通ではない関係”を直感した。
---
◆ トリックスターは飄々と
研究員の言葉を聞いても、
トリックスターはまったく気にした様子がない。
むしろ、楽しんでいるようにさえ見える。
トリックスター
「まあまあ、そんな怖い顔しないで。
俺はただ、コーヒーが美味しいって言っただけだよ」
その軽さが、逆に不気味だった。
研究員は深く息を吐き、
アキラたちに向き直る。
研究員
「……彼の言動に惑わされるな。
我々は、地下の“異常空洞”について調査を行う。
あなたたち三名にも、後ほど協力を依頼するかもしれない」
そう告げると、研究員は仲間のもとへ戻っていった。
残されたのは、三人と――
まだコーヒーを飲んでいるトリックスター。
---
◆ 休憩スペースの空気が、じわじわと濁っていく
アキラ・レイ・ミオの三人は、
《オルタ・フレーム機関》の研究員が去ったあと、
すぐさまトリックスターへ向き直った。
彼は――相変わらず、椅子に深く腰掛けてコーヒーを飲んでいる。
まるで、ここが自分の家のリビングであるかのように。
---
アキラ
「……お前、本当に昨日“穴”に入ったのか。
どうやって封鎖を突破した?」
トリックスター
「ん? ああ、あれね。
突破ってほどじゃないよ。
**気づいたら中にいた**って感じ」
アキラの眉がぴくりと動く。
---
レイ
「気づいたら、だと?
ふざけてる場合じゃない。
あそこは軍でも立ち入り禁止だぞ」
トリックスター
「だから、ふざけてないって。
俺はいつだって真面目だよ。
**方向音痴なだけで**」
レイのこめかみがぴくりと跳ねる。
---
ミオ
「方向音痴で封鎖区域に迷い込む人、初めて見たけど……
で、中で何を見たの?」
ミオは半ば呆れ、半ば興味津々。
---
トリックスターは、ミオの問いに答える前に、
空になったマグを軽く持ち上げた。
トリックスター
「あ、コーヒーお替り、いい?」
レイ
「こいつ……」
レイは本気で頭を抱えた。
---
◆ それでも、三人は食い下がる
アキラ
「お替りは後だ。
“穴”の中で何を見た?」
トリックスター
「んー……暗かったね」
レイ
「当たり前だ!」
トリックスター
「でも、暗いだけじゃなかった。
**音がしたよ。呼吸みたいな**」
三人は一瞬だけ黙り込む。
---
ミオ
「呼吸……やっぱり、あなたが言ってた“生きてるみたい”ってやつ?」
トリックスター
「そうそう。
あれ、たぶん“起きたら”もっと面白いことになるよ」
アキラ
「面白い……?
お前の“面白い”は信用できない」
トリックスター
「えー、ひどいなあ。
俺はいつだって、世界を楽しくしてるだけなのに」
---
◆ そして、また話が逸れる
トリックスターは、急に立ち上がった。
トリックスター
「よし、コーヒーのお替りもらってくる。
ついでに、あの研究員たちの様子も見てくるよ。
なんか、変な匂いがするし」
レイ
「待て、まだ話は――」
だが、彼はもう歩き出していた。
止める隙も、止める意味も見いだせないほど自然に。
まるで、最初から“そうなることが決まっていた”かのように。
---
◆ 三人だけが残される
ミオ
「……ねえ、あの人、本当に人間?」
アキラ
「分からない。
でも、あの《オルタ・フレーム機関》が関わってる以上……
普通じゃないのは確かだ」
レイ
「次に会うときは、もう少しまともに話を聞かせる。
あいつ、絶対何か知ってる」
三人の視線の先で、
トリックスターは本当にコーヒーをお替りしていた。
研究員たちの真横で、
まるで“そこにいるのが当然”のように。
---
◆ 《オルタ・フレーム機関》・研究員側視点
休憩スペースの片隅。
黒いコートの研究員たちは、トリックスターがコーヒーをお替りしている姿を遠巻きに見つめていた。
彼らの表情は、警戒・疲労・諦念が絶妙に混ざったものだった。
---
研究員A(低くため息)
「全く……何を考えているのか、さっぱりわからん」
彼はタブレットを胸に抱えたまま、視線を逸らす。
まるで、あの男を見るだけで頭痛がするかのように。
研究員B(肩をすくめながら)
「考えるだけ無駄……とは職務上言えんが……
**“嘘”をついていない、というのが余計にたちが悪い**」
その言葉に、周囲の研究員たちが静かに頷く。
嘘をついていない。
だが、真実を語っているわけでもない。
その“中間”にいる存在ほど厄介なものはない。
---
研究員C(声を潜めて)
「さらに、**“全て”を話してるわけでもない**、んだよなあ……」
彼は腕を組み、トリックスターの背中を睨むように見つめた。
「断片だけを落としていく。
こちらが知りたい核心には触れない。
なのに、核心の“周辺”だけは正確に突いてくる」
研究員A
「まるで……こちらの反応を観察しているみたいだ」
研究員B
「観察してるさ。あいつはいつもそうだ。
“知っていること”と“知らないふり”を自在に切り替える。
あれは……人間のやり方じゃない」
研究員たちの間に、重い沈黙が落ちる。
---
◆ 彼らが抱える“恐れ”
研究員C
「……正直に言うと、私は怖いよ。
あの男が何を知っていて、何を知らないのか。
そして、**どこまでが意図的なのか**」
研究員A
「だが、排除も拘束もできない。
あいつは“どこにも所属していない”のに、
どの勢力よりも自由に動く」
研究員B
「そして、どの勢力よりも“深部”に触れている。
……まったく、厄介な存在だ」
---
◆ そのとき、トリックスターが振り返る
まるで彼らの会話が聞こえていたかのように、
トリックスターがふいにこちらを振り返った。
マグを片手に、にこりと笑う。
トリックスター
「ねえ、君たち。
そんな怖い顔しないでさ。
**俺は味方だよ? たぶん。**」
研究員たちの背筋が一斉に強張った。
“たぶん”――
その一言が、何よりも不気味だった。
---
◆ 《オルタ・フレーム機関》・研究員たちの“踏み込み”
トリックスターがにこにこと笑いながらマグを揺らす。
その軽薄さに、研究員たちの緊張は逆に増していく。
研究員Aが、一歩前へ出た。
声は低いが、明らかに“尋問”の温度だ。
---
研究員A
「……では、率直に聞こう。
**君は、あの“空洞”の内部構造をどこまで把握している?**」
トリックスターは、マグを口元に運びながら答える。
トリックスター
「どこまで、って言われてもね。
見たものを見たまま、ってだけだよ」
研究員Bがすかさず畳みかける。
研究員B
「では、内部で“何か”と遭遇したのか?
生体反応、機械反応、あるいは……**異常波形**でも」
トリックスターは、少しだけ目を細めた。
その表情は、冗談を言う前の“間”にも見えるし、
本気で思い出しているようにも見える。
トリックスター
「遭遇……したと言えばしたし、
してないと言えばしてない、かな」
研究員Cが苛立ちを隠さずに前へ出る。
研究員C
「曖昧な返答は不要だ。
**具体的に何を見た?**
“呼吸していた”というのは比喩か?」
トリックスターは、マグを置き、指でテーブルを軽く叩いた。
トリックスター
「比喩じゃないよ。
本当に、呼吸してた。
ゆっくり、深く……まるで、
**誰かが寝ている胸の上に立ってるみたいだった。**」
研究員たちの顔色が変わる。
---
◆ さらに深く、さらに危険な質問へ
研究員Aは、声を潜めて問いかけた。
研究員A
「……君は、あの空洞が“人工物”か“自然物”か、
どちらだと判断した?」
トリックスターは、少し考えるふりをして――
あっさりと答えた。
トリックスター
「どっちでもないよ。
**あれは“作られた”けど、“生まれた”んだ。**
その両方が正しいし、どちらも間違ってる」
研究員Bが息を呑む。
研究員B
「……それは、どういう――」
トリックスター
「説明しても理解できないと思うよ。
だって、君たち、まだ“見てない”でしょ?」
研究員Cが、思わず声を荒げる。
研究員C
「では君は、何を“見た”と言うんだ!」
トリックスターは、にこりと笑った。
トリックスター
「**目じゃなくて、耳で聞いたんだ。
“まだ起きないで”って。**」
研究員たちの背筋が一斉に凍りつく。
---
◆ 研究員たちの動揺
研究員Aは、震える声で呟いた。
研究員A
「……そんな“声”は、我々の記録にはない。
空洞内部に音声反応は――」
トリックスター
「だから言ったじゃない。
**俺は嘘はつかない。
でも、全部は話さない。**」
研究員Bは、額に手を当てた。
研究員B
「……本当に、たちが悪い……」
研究員Cは、苦々しく吐き捨てる。
研究員C
「“全部を話さない”のは、
我々を試しているつもりか?」
トリックスターは、首を傾げた。
トリックスター
「試してる?
そんなつもりはないよ。
ただ――
**君たちが“どこまで知ってるか”を知りたいだけ。**」
研究員たちは、言葉を失った。
---
◆ トリックスター、まさかの“逆質問”
研究員たちが緊張と苛立ちを滲ませながら核心へ迫ろうとした、その瞬間。
トリックスターは、まるで空気を読まないどころか、
“わざと外す”ように、軽い声で口を開いた。
トリックスター
「ねえ、君たち。
**コーヒーは好きかい?**」
研究員たちの思考が一瞬止まる。
さっきまで“空洞の正体”や“異常波形”の話をしていたはずなのに、
突然の飲み物トーク。
---
◆ 研究員たちの反応
研究員A(呆然)
「……は?」
研究員B(眉をひそめる)
「今、我々は君に質問を――」
トリックスター
「うん、だからさ。
コーヒーは好きなのかって聞いてるんだよ。
**味覚って、その人の“考え方”が出るからね。**」
研究員Cが、思わず声を荒げる。
#研究員C
「そんなことを聞いてどうする!」
トリックスターは、肩をすくめて笑った。
トリックスター
「どうもしないよ。
ただ、君たちが“どんな味”を好むのか、
ちょっと興味があっただけ」
---
◆ 研究員たちの“困惑と警戒”
研究員Aは、深く息を吐きながら言った。
研究員A
「……我々は、任務中に嗜好の話をするつもりはない」
トリックスター
「へえ。
じゃあ、任務が終わったら話してくれる?」
研究員Bが、苛立ちを抑えながら返す。
研究員B
「なぜそこまでコーヒーにこだわる?」
トリックスターは、マグを軽く掲げて答えた。
トリックスター
「だって――
**“何を飲むか”って、“何を恐れてるか”と同じくらい大事だろ?**
人間って、そういうもんだよ」
研究員Cが、思わず息を呑む。
---
◆ 研究員たちの内心(視点)
- 「まただ……話を逸らしているのか、それとも本気なのか」
- 「この男は、我々の反応を観察している……」
- 「質問に答えないくせに、こちらの情報は引き出そうとする」
- 「やはり“普通の人間”ではない……」
研究員Aは、静かに結論を出した。
#研究員A
「……やはり、扱いづらいにも程がある」
トリックスターは、にこりと笑った。
トリックスター
「そう?
でも、君たちのコーヒーの好みは、
**そのうち分かる気がするよ。**
だって、また会うだろうし」
研究員Bが小声で呟く。
研究員B
「……“また会う”と言われると、逆に不安になるな」
---
◆ トリックスター、まるで散歩帰りのように
研究員たちの鋭い視線を背中に受けながら、
トリックスターはひらひらと手を振ってその場を離れた。
その歩き方は、緊張感の欠片もない。
むしろ――
「ちょっと自販機まで行ってくる」
そんな軽さすら漂っていた。
そして、“約束通り”という言葉が似合わないほど自然に、
アキラ・レイ・ミオの三人のもとへ戻ってきた。
---
◆ 三人の反応
トリックスターが戻ってくるや否や、
レイが呆れたように腕を組む。
レイ
「……お前、よくあの研究員たちの前で平然としていられるな」
トリックスターは、にこりと笑って肩をすくめた。
トリックスター
「だって、怖い顔してるけど悪い人たちじゃないよ。
ちょっとだけ、**真面目すぎる**だけで」
ミオが小声でアキラに囁く。
ミオ
「……真面目すぎるのは、あなたもじゃない?」
アキラは苦笑しつつ、トリックスターに向き直る。
アキラ
「で? 何を話してきたんだ。
あいつら、相当ピリピリしてたぞ」
---
◆ トリックスターの“軽すぎる”報告
トリックスターは、まるで天気の話でもするように言った。
トリックスター
「んー、別に大したことは。
ちょっと質問されて、ちょっと答えて、
ちょっとコーヒーの話をしただけ」
レイが思わず声を荒げる。
レイ
「なんでそこでコーヒーの話になるんだ!」
トリックスター
「だって、気になるじゃない?
**人の好みって、その人の“深層”が出るんだよ。**
君たちもそうでしょ?」
ミオが目を細める。
ミオ
「……あなた、研究員たちを“調べてた”の?」
トリックスターは、悪戯っぽく片目をつむった。
トリックスター
「さあ、どうだろうね。
でも、約束は守ったよ。
ちゃんと戻ってきた」
---
◆ 三人の胸に残る“違和感”
アキラは、彼の言葉を聞きながら、
胸の奥に小さな棘のような違和感を覚えていた。
“戻ってきた”
その言い方が、妙に引っかかる。
まるで――
**戻らない選択肢もあった**
と言っているように。
レイは腕を組んだまま、じっとトリックスターを見つめる。
ミオは、彼の笑顔の裏にある“何か”を探ろうとしていた。
---
◆ トリックスターは、あくまで自然体
そんな三人の視線を受けても、
トリックスターは気にした様子もなく言った。
トリックスター
「さて、次はどうする?
君たち、暇そうだったから戻ってきたんだけど」
レイが呆れたようにため息をつく。
レイ
「……お前が戻ってくると、逆に落ち着かないんだが」
トリックスターは楽しそうに笑った。
トリックスター
「それは光栄だね」
---
◆ ミオの問いは、“核心”に触れた
三人がさらに踏み込んで質問を続ける中、
ミオはふと、別の角度から切り込んだ。
それは戦術でも情報でもなく――
**彼の“人間性”そのものに触れる問い。**
ミオ
「あなた、コーヒーが随分と好きみたいだけど……
あなたにとって、コーヒーは“どんな意味”をもつのかしら?」
その瞬間、トリックスターの動きがわずかに止まった。
ほんの一瞬。
だが、三人は気づいた。
彼が“考えた”のだと。
---
◆ トリックスターの答えは、軽くて重い
トリックスターはマグを見つめ、
ゆっくりと、しかしどこか遠くを見るように言った。
トリックスター
「意味、ね……
そうだなあ……」
彼はマグを指先でくるりと回しながら続ける。
トリックスター
「**コーヒーは、“戻ってこられる場所”みたいなものかな。**」
アキラが眉をひそめる。
アキラ
「戻ってこられる場所……?」
トリックスターは笑うでもなく、真顔でもなく、
どこか“懐かしむ”ような表情を浮かべた。
トリックスター
「戦場ってさ、いろんなものが“流れていく”だろ。
時間も、仲間も、場所も、名前も。
でも、コーヒーの香りだけは……
**どこにいても同じなんだ。**
それが、ちょっと安心する」
ミオは息を呑んだ。
その言葉は、彼の“異常さ”とは真逆の、
妙に人間らしい響きを持っていた。
---
◆ しかし、次の一言でまた“掴めなくなる”
トリックスターは続ける。
トリックスター
「それにね、コーヒーって面白いんだよ。
**苦いのに、飲むと落ち着く。
熱いのに、心は冷静になる。
矛盾してるのに、ちゃんと成立してる。**
……俺、そういうの好きなんだ」
レイが呆れたように言う。
レイ
「お前自身みたいだな」
トリックスターは嬉しそうに笑った。
トリックスター
「そう?
じゃあ、俺は“飲みすぎ注意”ってやつかな」
---
◆ ミオは、さらに深く探ろうとする
ミオは、彼の言葉の裏にある“影”を感じ取っていた。
ミオ
「……あなた、どこにいても同じ香りがするって言ったわね。
それって……あなたが“どこにでもいた”ってこと?」
トリックスターは、マグを口元に運びながら答えた。
トリックスター
「さあ、どうだろう。
でも――
**どこにいても、コーヒーは裏切らないよ。
人より、組織より、戦場よりね。**」
アキラとレイが、同時に息を呑む。
その言葉は、軽いようでいて、
あまりにも重かった。
---
◆ そして、また“いつもの調子”に戻る
トリックスターは急に明るい声で言った。
トリックスター
「さて、質問はこんなもん?
次は俺の番かな。
君たちの“好きな味”も、そのうち教えてよ」
レイ
「……お前の質問は、ろくなことにならない気がする」
トリックスター
「えー、失礼だなあ。
俺はいつだって、世界をちょっとだけ面白くしてるだけなのに」
ミオは、彼の笑顔を見つめながら思った。
――この男は、
**本当に“人間”なのだろうか。**
---
◆ トリックスターの“逆質問”は、まるで煙のように
三人の問いに対して、トリックスターは軽く頷いた。
トリックスター
「ふうん、そうなんだ」
納得したようにも、感心したようにも、
あるいは――本当に何も考えていないようにも聞こえる声。
その曖昧さが、彼の“本質”をさらに掴みにくくしていた。
ミオは、情報分析官としての直感がざわつくのを感じていた。
**何かがある。
何かが隠れている。
だが、掴もうとすると霧のように指の間から抜け落ちる。**
まるで、彼自身が“情報の空白”でできているかのように。
---
◆ ミオの苛立ちが限界に近づく
ミオは、彼の表情を読み取ろうとする。
言葉の裏、仕草の癖、視線の動き――
どれもが“意味ありげ”なのに、どれも“意味を結ばない”。
その矛盾が、彼女の分析能力を逆撫でする。
ミオ
「……あ”あ”、もう!!」
思わず声が漏れた。
アキラとレイが驚いて振り向く。
レイ
「お、おいミオ?」
ミオ
「この人、何なのよ……!
分かりそうで分からない……
分からないようで、分かってる気もする……
でもやっぱり分からない……!」
トリックスターは、そんなミオを見て楽しそうに笑った。
トリックスター
「いいねえ、その感じ。
**分からないものを分かろうとするのって、楽しいでしょ?**」
ミオ
「楽しくないわよ!!」
アキラ
「……お前、わざとやってるだろ」
トリックスター
「さあ、どうだろうね」
---
◆ そのとき――空気が変わる
ミオの声が響いた直後、
休憩スペースの入り口に黒い影が差した。
《オルタ・フレーム機関》の研究員たちだ。
先ほどよりも人数が多い。
そして、明らかに“仕事の顔”をしている。
研究員Aが三人に向かって歩み寄り、
淡々とした声で告げた。
研究員A
「アキラ・レイ・ミオの三名。
これより、正式な依頼を伝達する」
レイが眉をひそめる。
レイ
「正式な依頼……?」
研究員Bがタブレットを開きながら続ける。
研究員B
「奪還地地下に存在する“異常空洞”の調査に、
あなたたち三名の同行が必要だ。
軍上層部より承認済みだ」
アキラ
「……やっぱり、そう来たか」
ミオ
「私たちが、あの“呼吸する穴”に……?」
研究員C
「詳細は移動しながら説明する。
準備を整え、すぐに出発してほしい」
---
◆ トリックスターは――
三人が依頼内容に驚く中、
トリックスターはマグを片手に、ひょいと立ち上がった。
トリックスター
「へえ、行くんだ。
じゃあ――
**俺も行こうかな。**」
研究員たちが一斉に振り返る。
研究員A
「……君は呼んでいない」
トリックスターは、にこりと笑った。
トリックスター
「呼ばれてないけど、行くよ。
だって――
**あれ、起きそうだし。**」
研究員たちの顔色が一瞬で変わった。
アキラ・レイ・ミオの三人も、
背筋に冷たいものが走る。
---
◆ “雑談”の皮をかぶった、あまりにも鋭い一言
ブリーフィングの緊張感がまだ空気に残る中、
トリックスターはまるでそれを無視するように、
軽い調子で口を開いた。
トリックスター
「かっこいいよね、この機体たちの名前。
俺の機体の名前も、次から“こういう名前の付け方”をするのもおもしろいかもね」
アキラが肩をすくめる。
アキラ
「名前?
まあ、自分の乗る機体なんだから好きに付けたらいいんじゃないか?」
トリックスターは、にこりと笑った。
その笑顔は軽い。
だが、言葉は妙に重かった。
トリックスター
「そうだね。
**“当事者”が決めるべきだよね。**」
その瞬間、
ミオの背筋に冷たいものが走った。
---
◆ ミオの直感が“警鐘”を鳴らす
ミオは情報分析官として、
“言葉の裏”を読むことに慣れている。
そして今の一言は――
**ただの雑談ではない。**
- 「当事者」
- 「名前を付ける」
- 「こういう名前の付け方」
どれも普通の会話に見える。
だが、彼の声色、間、視線の動き……
そのすべてが“何かを隠している”と告げていた。
**まるで、TYPE I と TYPE A の“名前”に、
何か重大な意味があると知っているかのように。**
ミオは、掴みかけた“違和感”を必死に形にしようとする。
だが――
掴もうとすればするほど、
その感覚は霧のように指の間からすり抜けていく。
「当事者が決めるべき」
その言葉が、頭の中で何度も反響する。
**当事者とは誰のこと?
パイロット?
設計者?
それとも――機体自身?**
考えれば考えるほど、
答えは遠ざかっていく。
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